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少年編 第1章
14-主人の友人
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エリアスは高等部の教室の端で、外を眺めていた。
いつもブレイクタイムになるとエリアスの席に来るレナードは最近教室の中にさえとどまらない。
それは僕がレナードに命じた事だった。ブレイクタイムも、ランチも、全部一人にしておくように言ってある。
執事は命令を絶対守る。
あの夜から僕はレナードを避けている。
朝の着替えも一人で行い、おかげで服がどこかたるんでる。登校の車の中も沈黙を続けていた。
僕は怒っているんだ。多分、レナードが恋人を作っていたのに話してくれなかったのを。
彼を見てると嫉妬に駆られて仕方がない。でも本当はどうなのかは分からなかった。
女性経験のない僕は、女性経験が豊富なレナードに男として嫉妬しているのか、いつも傍に居るはずのレナードが誰かと恋仲なのが嫌なのか、それさえも判断しかねていた。
どうやって彼に話しかけたらいいのか、あの夜の事を話してもいいのか、それは触れてはいけない事なのか…。
沈黙を続けるしか方法を知らない。だって今までずっとレナードに何でも聞いていたのに、彼には聞けない。葉山にも息子のあんな話なんて相談できない。僕はどうしていいのか分からなかった。
ボーっと考えていると不意にクラスメイトが話しかけてきた。
「ねぇ、最近レナードと喋らないんだね。」
気後れせずに声を掛けてくるのは、僕の友人 ノア・ルーク・メルバーンだ。
僕の前の席の椅子を反対に跨いで僕の前に座る。
「うん、ちょっと喧嘩してるんだ。僕の我儘でね。」
「ふーん、どんな事で喧嘩したの?」
「言わない。」
「珍しいねぇ、エリアスが執事と喧嘩するなんて、雨が降りそう~。あの忠実な犬がねぇ~」
可愛らしい顔つきの少し背の低いノアはクラスの中でも特に仲がいい。
そこに背の高い・いかにもスポーツが出来そうな体格のライリーがやってきた。
「何だ何だ、エリアスがレナードと喧嘩?本当かよ?アイツ執事だろう?喧嘩になりえない。」
ライリー・ジェイデン・クリフォードは男爵だ。男爵は貴族の中でも一番階級が低いが、ライリーの態度はノアや僕よりも断然でかい。
階級はあるが、仲のいい3人の間では、誰も気にしてなかった。
僕の家系よりも階級が下の子爵の息子ノア、さらにその下の階級の男爵のライリー。
階級が違えどファーストネームで呼び合う気のおけない友人たちだ。
友人がいてくれることは何よりも心強い。特にレナードに何も頼れない今は…。
レナードは彼らのほうが階級が下だから、僕の事を様付けにしろとけちをつけた事もあったが、混血の僕にはそんな事どうでもよかった。寧ろ混血で親に捨てられた僕なんかよりも、彼らのほうがよっぽど品位のある人間に感じる。僕はこの事に関すると少し卑屈になるようだ。
友人たちは僕と執事の喧嘩に興味津々だ。
ノア「どうやったら喧嘩になるの?あのレナードが優しいエリアスを怒らせるなんて。」
ライリー「そうだぞ、伯爵様は絶対なんだから、どうやったら喧嘩になるんだ?」
エリアス「喧嘩って言うか…、レナードに僕が勝手に怒ってて、それをどうやって僕が処理したら良いか分からなくなってるんだ。」
ノア「何に怒ってるの?」
エリアス「…レナードに…」
ノア「うんうん、」
エリアス「…レナードに恋人が居たんだ。」
ノア「ぶはっ」
ライリー「なんだそりゃ!」
エリアス「笑わないでよ!僕、真剣に悩んでるんだから!」
ノア「そんな綺麗な顔して、執事に恋人が出来て悩んでるって言われたら笑っちゃうよ。」
ライリー「そうだぜ、執事にも執事の生活があるんだから、そんなに締め付けてやったら行き場がなくなるぞ?」
エリアス「そう…だよね…。」
ノア「まぁエリアスとレナードには僕と僕の執事の間にはない絆みたいなものがあるもんね。」
ライリー「俺の執事なんてもう40歳のおっさんだからな、恋人が出来ました、結婚できました、離婚しましたなんて報告してきても、そうかで終わりだ。」
ノア「エリアスはレナードと兄弟みたいに育ったって言ってたもんね。兄弟だと思うと悩んじゃうかぁー。」
エリアス「うん…。僕には両親も居ないし、レナードは僕のお兄ちゃんみたいな存在っていうか、執事だけど、執事だけじゃないって言うか…。執事になったのも中等部からだし、何か寂しく感じているというか…。」
ノア「そっか、そっかお兄ちゃんに恋人が出来てやきもちかぁ~。」
エリアス「そ、そういうわけでは…。」
ライリー「あの年齢で執事やってるのも珍しいぜ?やりたい盛りの年頃なのに働いてさ。恋人が出来るなんてうらやましいよ!喜んでやれ!俺はこのむさ苦しい男女別館制度が恨めしい!俺の今の癒しはノアと麗しのエリアスだけだ~!!」
ノアの肩を引き寄せたライリーをノアは少し冷めた目で見つめて、ふんっと鼻であしらった。
エリアス「そうだよね…喜ぶ…べきだよね…。お兄ちゃんに恋人が出来て良かった、ぐらいに思えば」
ノア「まぁそう簡単に割り切れる程大人にならなくてもいいけどね…。エリアス、余り気を落とさずに、ねっ?そうだ!今度の土曜日僕と遊ぼうか?」
エリアス「え?うん!いいよ!レナードとのこと、もう少し相談したいし」
ライリー「それまでに解決しろよ!仲直りは早い方がいいぜ!」
ノア「え?ライリーも来るの?」
ライリー「え?駄目なのかよ!?」
ノア「エリアスと二人が良い。」
ライリー「いや、俺、絶対行く!」
エリアス「僕もノアだけがいいんだけど」
ノア「だよね~!」
ライリー「ウソ!!つれねぇなエリアス!絶対俺も行くからな!」
ノア「駄目~。残念でした。」
二人のやり取りは見ていて楽しい。僕とレナードも彼が執事になるまではこんな風に軽口を叩けるもっと近い存在だったのに…。
ライリーの居ないところで時間を決めて、エリアスはその週レナードと距離を取り続け、土曜日を迎える事になった。
いつもブレイクタイムになるとエリアスの席に来るレナードは最近教室の中にさえとどまらない。
それは僕がレナードに命じた事だった。ブレイクタイムも、ランチも、全部一人にしておくように言ってある。
執事は命令を絶対守る。
あの夜から僕はレナードを避けている。
朝の着替えも一人で行い、おかげで服がどこかたるんでる。登校の車の中も沈黙を続けていた。
僕は怒っているんだ。多分、レナードが恋人を作っていたのに話してくれなかったのを。
彼を見てると嫉妬に駆られて仕方がない。でも本当はどうなのかは分からなかった。
女性経験のない僕は、女性経験が豊富なレナードに男として嫉妬しているのか、いつも傍に居るはずのレナードが誰かと恋仲なのが嫌なのか、それさえも判断しかねていた。
どうやって彼に話しかけたらいいのか、あの夜の事を話してもいいのか、それは触れてはいけない事なのか…。
沈黙を続けるしか方法を知らない。だって今までずっとレナードに何でも聞いていたのに、彼には聞けない。葉山にも息子のあんな話なんて相談できない。僕はどうしていいのか分からなかった。
ボーっと考えていると不意にクラスメイトが話しかけてきた。
「ねぇ、最近レナードと喋らないんだね。」
気後れせずに声を掛けてくるのは、僕の友人 ノア・ルーク・メルバーンだ。
僕の前の席の椅子を反対に跨いで僕の前に座る。
「うん、ちょっと喧嘩してるんだ。僕の我儘でね。」
「ふーん、どんな事で喧嘩したの?」
「言わない。」
「珍しいねぇ、エリアスが執事と喧嘩するなんて、雨が降りそう~。あの忠実な犬がねぇ~」
可愛らしい顔つきの少し背の低いノアはクラスの中でも特に仲がいい。
そこに背の高い・いかにもスポーツが出来そうな体格のライリーがやってきた。
「何だ何だ、エリアスがレナードと喧嘩?本当かよ?アイツ執事だろう?喧嘩になりえない。」
ライリー・ジェイデン・クリフォードは男爵だ。男爵は貴族の中でも一番階級が低いが、ライリーの態度はノアや僕よりも断然でかい。
階級はあるが、仲のいい3人の間では、誰も気にしてなかった。
僕の家系よりも階級が下の子爵の息子ノア、さらにその下の階級の男爵のライリー。
階級が違えどファーストネームで呼び合う気のおけない友人たちだ。
友人がいてくれることは何よりも心強い。特にレナードに何も頼れない今は…。
レナードは彼らのほうが階級が下だから、僕の事を様付けにしろとけちをつけた事もあったが、混血の僕にはそんな事どうでもよかった。寧ろ混血で親に捨てられた僕なんかよりも、彼らのほうがよっぽど品位のある人間に感じる。僕はこの事に関すると少し卑屈になるようだ。
友人たちは僕と執事の喧嘩に興味津々だ。
ノア「どうやったら喧嘩になるの?あのレナードが優しいエリアスを怒らせるなんて。」
ライリー「そうだぞ、伯爵様は絶対なんだから、どうやったら喧嘩になるんだ?」
エリアス「喧嘩って言うか…、レナードに僕が勝手に怒ってて、それをどうやって僕が処理したら良いか分からなくなってるんだ。」
ノア「何に怒ってるの?」
エリアス「…レナードに…」
ノア「うんうん、」
エリアス「…レナードに恋人が居たんだ。」
ノア「ぶはっ」
ライリー「なんだそりゃ!」
エリアス「笑わないでよ!僕、真剣に悩んでるんだから!」
ノア「そんな綺麗な顔して、執事に恋人が出来て悩んでるって言われたら笑っちゃうよ。」
ライリー「そうだぜ、執事にも執事の生活があるんだから、そんなに締め付けてやったら行き場がなくなるぞ?」
エリアス「そう…だよね…。」
ノア「まぁエリアスとレナードには僕と僕の執事の間にはない絆みたいなものがあるもんね。」
ライリー「俺の執事なんてもう40歳のおっさんだからな、恋人が出来ました、結婚できました、離婚しましたなんて報告してきても、そうかで終わりだ。」
ノア「エリアスはレナードと兄弟みたいに育ったって言ってたもんね。兄弟だと思うと悩んじゃうかぁー。」
エリアス「うん…。僕には両親も居ないし、レナードは僕のお兄ちゃんみたいな存在っていうか、執事だけど、執事だけじゃないって言うか…。執事になったのも中等部からだし、何か寂しく感じているというか…。」
ノア「そっか、そっかお兄ちゃんに恋人が出来てやきもちかぁ~。」
エリアス「そ、そういうわけでは…。」
ライリー「あの年齢で執事やってるのも珍しいぜ?やりたい盛りの年頃なのに働いてさ。恋人が出来るなんてうらやましいよ!喜んでやれ!俺はこのむさ苦しい男女別館制度が恨めしい!俺の今の癒しはノアと麗しのエリアスだけだ~!!」
ノアの肩を引き寄せたライリーをノアは少し冷めた目で見つめて、ふんっと鼻であしらった。
エリアス「そうだよね…喜ぶ…べきだよね…。お兄ちゃんに恋人が出来て良かった、ぐらいに思えば」
ノア「まぁそう簡単に割り切れる程大人にならなくてもいいけどね…。エリアス、余り気を落とさずに、ねっ?そうだ!今度の土曜日僕と遊ぼうか?」
エリアス「え?うん!いいよ!レナードとのこと、もう少し相談したいし」
ライリー「それまでに解決しろよ!仲直りは早い方がいいぜ!」
ノア「え?ライリーも来るの?」
ライリー「え?駄目なのかよ!?」
ノア「エリアスと二人が良い。」
ライリー「いや、俺、絶対行く!」
エリアス「僕もノアだけがいいんだけど」
ノア「だよね~!」
ライリー「ウソ!!つれねぇなエリアス!絶対俺も行くからな!」
ノア「駄目~。残念でした。」
二人のやり取りは見ていて楽しい。僕とレナードも彼が執事になるまではこんな風に軽口を叩けるもっと近い存在だったのに…。
ライリーの居ないところで時間を決めて、エリアスはその週レナードと距離を取り続け、土曜日を迎える事になった。
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