沈み鳥居の鬼—愛してはならない者を愛した罪—

小鷹りく

文字の大きさ
上 下
13 / 66

第13話 酒泉童子②

しおりを挟む
 雨の中で闘う二人の体力には大きな違いが生まれていた。生命童子は肩で息をしているが酒泉童子は戦い始めた時と同じ力を発揮して、息も乱れていなかった。どれ程戦っても酒泉童子の力は一向に緩まない。酒泉童子は生命童子よりも年上であり健康状態も生命童子程良好な状態ではなかった。互いに死ぬ気で戦ったことなど過去に無かったにしても、これ程までに力の違いがあったとは思えない。この力は正しく鬼のなせる技だった。そしてやはり鬼なのだと言う確信が齎されたのは酒泉童子の外見にも変化が見られ出したからだった。

 戦う間に頭頂部に二箇所大きな盛り上がりが生まれ、目が黄色く染まり始めている。腕の太さは倍ほどにもなろうとしていた。隆起していく筋肉は他の鬼達の特徴と同じもの。これが鬼になるという事なのかと、生命童子は変貌していく彼の姿に目を覆いたくなった。

「ワシを憐レに思うカ、生命ヨ」

 刀を交えながら酒泉童子は生命童子に訊いた。

「憐れになど思うものか!お主は鬼になることを選んだのだろう!」
「ソウダ、人から迫害され、住処を奪わレ、チカラを失イ、屈辱を味ワッタ。なのにまた鬼と戦えと奴ラは性懲りモナク、ワシに頼みに来た。虫唾が走ッタ。人とは鬼の様に残酷な生物ヨ。奴ラは猿鬼共に殺サレタ。ワシはそれをただ見て居た。ワシはもう既に鬼だったのだ」
「何故だ、酒泉!俺のことが信じられなかったのか?!神の力が戻ればお主の力は戻るとそう言った筈だ!」
「力は戻った、ホラこの通り!」

 酒泉童子はその剛力で薙刀を振り生命童子を再び飛きとばした。だが今度は倒れる事無く着地し、生命は次の一手に全力を掛けようと構えた。それは闘いに出かけた際、酒泉童子と共に編み出した斬殺技だった。

「せめてこの技で葬ってやろう……覚悟!」
「……来イ、生命!」

 薙刀を握り直し構えた酒泉童子の元へ生命童子は走る。宝剣を体に沿わせて前へ前へと走り、飛んでくる刃をその身一つで避けながら敵の領域に入った。何度も刃は頬を掠り血が流れるが距離を詰めれば攻撃は遅くなる。その間に一足一刀の間合いまで詰め寄り生命童子は宝剣を酒泉童子の首にあてがった。

 その瞬間、酒泉童子は攻撃の手を止め、防御をする事無く目を瞑った。

 笑みを浮かべて斬られるのを待つように――。

 

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

陸のくじら侍 -元禄の竜-

陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた…… 

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】

しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。 歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。 【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】 ※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。 ※重複投稿しています。 カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614 小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

浅葱色の桜

初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。 近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。 「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。 時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。 小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。

処理中です...