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だから私はレベル上げをしない

魔人 5

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「ランドルフ様、お久しぶりでございます」
「ブライアン、貴方も来ていたのですか」
「えぇ、色々と事情がありまして・・・」

 貴族の中でもほとんど会った者がいない筈のランディに、ブラッドは久しぶりだと声を掛けている。
 それは彼らが、同じような境遇にあった同士であったからか。
 親しげに会話する二人の姿には、特別な絆が感じられた。

「え、何・・・あんた、王子様だったの?」
「えぇ、まぁ一応。そういう事になりますね、はい。お恥ずかしながら・・・」

 明かされたランディの正体に、一番驚き受け入れるのに時間が掛かったのは、それを知りたがっていたセラフであった。
 何故なら、ランディが王太子となったのは、彼女が旅に出ている間の話しだったからだ。
 実際にお目にかかった事はなくとも、その名前や生い立ちなどを伝え聞いていたアリー達と違い、彼女はその存在すら知らなかったのだ。
 そんな彼女が、街で出会った変な学者が、実はこの国の王太子であったと知らされて、すぐに理解出来る訳もない。

「・・・嘘でしょ?もぅ!!そういうことは、もっと早くいいなさいよね!!それを知っていたら、私だってもっとやりようが・・・!」

 受け入れがたい事実にも、自らよりもずっと位の高い貴族であるマックスとブラッドの振る舞いを見れば、それが嘘ではないと分かってしまう。
 彼女はその事実をようやく受け入れると、今度は激昂し始めていた。
 それはランディが王太子だと知っていれば、もっと違った対応と取っていたのにという、彼女の悔しさからくるものだろう。
 しかしそうした貴族の女性としての心情に疎いランディは、彼女のその振る舞いにも困ったように微笑む事しか出来なかった。

「―――茶番は、それぐらいで十分か?」

 傷ついた身体も癒え、知り合いにも再会したマックス達の雰囲気は和やかだ。
 そこが敵地の真っ只中であることなど、忘れてしまうほどに。

「っ!しまった!?あいつらはまだ・・・殿下!先ほどのポーションの予備は、まだありますか!?」

 響いた声に、そちらへと目を向ければそこには、拘束から抜け出した魔人達の姿があった。
 ランディのポーションは彼らの動きを拘束するだけであり、その命を奪うものではない。
 それを忘れてしまっていたマックスは慌てて剣を構えると、魔人達へと相対する。
 しかし一度は惨めに敗れ去ってしまった相手に、彼はランディのポーションにその活路を見出していた。

「あれは、その・・・すみません!試作品だったので、あれだけなんです!!」

 しかしランディはマックスの言葉に言い淀むと、やがて頭を下げてそれはもうないのだと白状していた。

「はぁ!?何よ、それ!もっと用意しときなさいよね!!」
「それは、そうなんですが・・・結構貴重な材料を使うんですよ、あれ。ですので効果が分からない内に量産する訳には・・・」
「それを通すのが、王子様ってもんでしょーが!!」

 折角窮地を脱したのに、再びピンチへと陥りそうな状況にセラフは声高に文句を叫んでいる。
 ランディはそんなセラフの文句にも事情があったのだと釈明するが、彼女は寧ろ声を高くしては、それをどうにかするのがあんたの仕事だと話していた。

「それぐらいにしておけ、セラフィーナ。ないものは仕方ない・・・それなら、ないなりに戦うだけだ。ウィリアム、いつまで寝ているつもりだ!!」

 先ほど敗れた相手との再戦を考えれば、セラフの言葉はもっともであるが、それをぶつけている相手を思えばマックスはそれを諌めるしかない。
 彼は失った切り札にも諦めることなく戦う姿勢を見せ、ある男へと呼びかけている。
 その男、ウィリアムはランディのポーションに治療されたにもかかわらず、今だに床に突っ伏しては眠りこけているようだった。

「ね、寝てないぜよ!!・・・?ここはどこぜよ?」

 マックスの声に上半身を擡げ跳ね起きたウィリアムは、反射的に眠ってなどいないと言い訳を口走っている。
 それは、彼の過去の経験くる習慣だろうか。
 しかし見慣れない景色にきょろきょろと辺りを窺っている彼の仕草は、とてもではないがそれを誤魔化せるものではなかった。

「魔人との戦いの最中だ!忘れたのか!?」
「そ、そうだったぜよ!!」

 そんなウィリアムの態度に、マックスは苛立つように言葉を続ける。
 それにようやく今がどのような状況を思い出したウィリアムは、慌てて跳ね起きると気まずさを誤魔化すように身体についた汚れを払っていた。

「ふん!分かればいい、分かればな。先ほどの戦いでは、真っ先にやられていたが・・・今度は大丈夫だろうな?」

 慌てて跳ね起きやる気を示したウィリアムに、その最後の不満は鼻息と共に吹き飛ばしている。
 一行の中で最大の戦力であるウィリアムには、しっかりしてもらわねば困ると、マックスは彼に視線を向ける。
 その不安の混じった視線の原因は、先ほどの戦いにあった。

「・・・さっきは油断したぜよ。今度はそんな事はないぜよ、任せて欲しいぜよ!」 

 先ほどの魔人達との戦いの折、ウィリアムは真っ先に一撃を食らってダウンしてしまっていた。
 一行の中で最大の戦力である彼があっさりと倒れて事により、彼らは一気に瓦解してしまったのだ。
 それをまた繰り返すのではないかと不安を口にするマックスに、ウィリアムは今度は油断しないと気合を滾らせている。
 それは彼が初めて、まともに手にした得物にも現れていた。
 その大柄な身体に見合う巨大な斧を手にした彼の身体は、一回りも二回りも大きく感じられた。

「ふっ・・・頼らせてもらうぞ。皆、準備はいいか?」

 余りの迫力に、もはや近寄りがたいほどになったウィリアムも、味方と思えば頼りがいもあるだろう。
 そんな彼の姿に満足気に頷いたマックスは、後ろを振り返ると仲間達へと声を掛ける。
 彼の声に、それぞれの得物を構えた仲間達も静かに頷き返していた。
 例外は、自分は戦うつもりはないと澄ました顔をしているセラフと、必死に使えそうなポーションを漁っては、荷物を掻き回しているランディぐらいか。

「おっ、もういいのか?そんじゃ・・・第二ラウンドといこうか?」

 マックス達が悠長に話し合い、準備に時間を掛けられたのは、それを魔人が待っていてくれたからだ。
 腕を組んではマックス達の様子を眺めていた彼は、ようやく終わった話し合いにその構えを解くと、ニヤリと笑みを漏らしている。
 そうして彼は、仕舞っていたその背中の翼を広げると、戦いの再開を宣言する。
 それは直後に閃いた、巨人と武人の一撃によって開始のゴングを轟かせていた。
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