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レベルアップは突然に
幼馴染
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「お嬢様!良くぞご無事でっ!!」
その大きな瞳に涙を湛えたケイシーが、自らの主に抱きついたのは、周辺の魔物が一掃されたすぐ後の出来事だった。
「本当に、本当に良かった・・・私がどれほど心配したかっ!!」
「うんうん、ごめんねケイシー。でも、ちょっと痛いかな?」
若干服装はボロボロなものの怪我一つない主の姿に、ぽろぽろと大粒の涙を流しながら彼女の事を強く抱き締めているケイシーは、自分がどれほど心配したかと必死に訴えている。
そんなケイシーの姿に、流石に今回は自分が悪いと反省したのか、セラフは彼女の後頭部を優しく撫でてやっていた。
「す、すみません、お嬢様!!」
「うぅん、大丈夫大丈夫!全然、平気だから」
主が死んでしまったかもしれないという絶望は、それが無事だったという安堵と共に激しい感情の落差を作り、彼女から力加減のコントロールを奪っている。
それは強い締め付けを生み、実際それが痛いと訴えるセラフの声は、かなり苦しそうなものであった。
そんな彼女の声に慌ててその手を離したケイシーは、今度は深々と頭を下げている。
「ふふふっ、二人は昔から変わらないね。本当に仲がいいんだ」
そんな二人の微笑ましいやり取りに、思わず笑みを漏らしてしまったのは、彼女達の事を近くから見守っていた栗色の髪の女性、アリーだった。
「アリー・・・その、助けてくれてありがとう」
「うぅん、頑張ったのは仲間の皆だよ。私は皆をここに連れて来たくらいで、後は全然何も出来なくって・・・」
柔らかい物腰で自然と、セラフ達の近くへと腰を下ろしたアリーに、セラフは今更ながら控えめにお礼の言葉を述べる。
その言葉にも、アリーは恥ずかしそうにはにかむと、自分よりも仲間が頑張ったのだとそちら方へと視線を向けていた。
「そんな事ない!!アリーだって凄かったじゃん!!こう・・・びゅーんって、矢を放ってさ、魔物をやっつけて。格好良かったよ!」
「えへへ・・・これで、少しは見返せたかな?」
「うぅん!見違えたくらいだよ!!」
仲間の成果を誇り、自らは何の役にも立っていなかったと謙遜するアリーに、セラフは身振り手振りも交えてその活躍っぷりを褒め称えている。
セラフのその一生懸命な姿を目にすれば、自然と笑みが浮かんでくるというもの。
余りにも真っ直ぐな賞賛を浴びたアリーは、顔を真っ赤に染めながらはにかむと、恥ずかしそうに後頭部を押さえて本当に嬉しそうに笑っていた。
「そうだったら、嬉しいな。そうだ!ねぇ、セラフ。セラフはどうして、こんな所に一人でいたの?ここはまだ浅い階層だけど、一人で挑むのは流石に危ないと思うな」
過去の鈍臭かった自分を少しは見返せたかと願うアリーに、セラフはすっかり見違えたと答えている。
それに嬉しそうに微笑んだアリーは両手を小さく打ち合わせると、セラフが何故こんな所で一人、魔物に囲まれていたのかと問い掛けていた。
「それは―――」
その問いに、セラフはすぐに答えようとする。
しかしそんな彼女の事を、ケイシーは肘で突っついては慌てて制止していた。
「何よ、ケイシー?痛いじゃない」
「・・・お嬢様、ここはアレクシア様にお願いするべきでは?彼女の連れは、いずれも手練れの様子。これを逃す手はないように思われますが?」
親友との会話に急に割り込まれたセラフは、それに不満そうに唇を尖らしている。
そんな彼女にケイシーは顔を寄せると、小声であるアイデアについて話していた。
それはアリーに、彼女のレベル上げを手伝ってもらうという計画だ。
「そ、そうね!えぇと、それじゃ・・・おほんっ!」
それは一人で暴走し、つい先ほどまで死に掛けていたセラフからすれば、まさに打ってつけの計画といえ、彼女もすぐにそれに賛同の態度を見せていた。
そうして、突然目の前で秘密の会議を始めた気まずさを誤魔化すように、わざとらしく咳払いをしたセラフは、恐る恐るアリーへと話しかける。
「えーっとね、アリー。実は私も、ここにレベル上げに来たんだけど・・・」
「そうなんだ!セラフは絶対、レベル上げなんてしないって思ってた!だから、意外。あ、そうだっ!だったら、一緒にパーティ組もうよ!!その方が絶対いいよ!ねぇ、皆!!」
セラフが口にした遠慮がちな提案は、アリーがその先を奪って、寧ろ積極的に話し始めていた。
彼女は唯一無二の親友とまた一緒に行動出来る事が、純粋に嬉しいのだろう。
彼女は後ろを振り返ると、女の園に遠慮して微妙に距離を取っていた仲間達へと、嬉しそうにその話を提案する。
しかしその話を受けた彼らの表情は、一様に渋いものであった。
「いいの、アリー!?ありがとう、それなら・・・きっと・・・私、でも・・・」
すっかり乗り気のアリーに気を良くしたセラフは、自らの薔薇色の未来について思い浮かべている。
しかしそれも、何故だか分からないがすぐに色褪せてしまっていた。
それどころか、まるで世界全体から色が失われるように、ゆっくりと暗転していく。
「セラフ・・・?どうしたの、セラフ?ねぇ、ねぇってば!?」
「・・・お嬢様?お嬢様ー!!?」
目の前で突然倒れ付し、気を失ってしまったセラフの姿に、アリーは激しく動揺しその身体を揺すっている。
それはすぐに彼女の身体を抱き起こした、ケイシーによって取って代わられる。
しかし彼女達がどんなに呼びかけようとも、セラフがその目を開くことはなかった。
その大きな瞳に涙を湛えたケイシーが、自らの主に抱きついたのは、周辺の魔物が一掃されたすぐ後の出来事だった。
「本当に、本当に良かった・・・私がどれほど心配したかっ!!」
「うんうん、ごめんねケイシー。でも、ちょっと痛いかな?」
若干服装はボロボロなものの怪我一つない主の姿に、ぽろぽろと大粒の涙を流しながら彼女の事を強く抱き締めているケイシーは、自分がどれほど心配したかと必死に訴えている。
そんなケイシーの姿に、流石に今回は自分が悪いと反省したのか、セラフは彼女の後頭部を優しく撫でてやっていた。
「す、すみません、お嬢様!!」
「うぅん、大丈夫大丈夫!全然、平気だから」
主が死んでしまったかもしれないという絶望は、それが無事だったという安堵と共に激しい感情の落差を作り、彼女から力加減のコントロールを奪っている。
それは強い締め付けを生み、実際それが痛いと訴えるセラフの声は、かなり苦しそうなものであった。
そんな彼女の声に慌ててその手を離したケイシーは、今度は深々と頭を下げている。
「ふふふっ、二人は昔から変わらないね。本当に仲がいいんだ」
そんな二人の微笑ましいやり取りに、思わず笑みを漏らしてしまったのは、彼女達の事を近くから見守っていた栗色の髪の女性、アリーだった。
「アリー・・・その、助けてくれてありがとう」
「うぅん、頑張ったのは仲間の皆だよ。私は皆をここに連れて来たくらいで、後は全然何も出来なくって・・・」
柔らかい物腰で自然と、セラフ達の近くへと腰を下ろしたアリーに、セラフは今更ながら控えめにお礼の言葉を述べる。
その言葉にも、アリーは恥ずかしそうにはにかむと、自分よりも仲間が頑張ったのだとそちら方へと視線を向けていた。
「そんな事ない!!アリーだって凄かったじゃん!!こう・・・びゅーんって、矢を放ってさ、魔物をやっつけて。格好良かったよ!」
「えへへ・・・これで、少しは見返せたかな?」
「うぅん!見違えたくらいだよ!!」
仲間の成果を誇り、自らは何の役にも立っていなかったと謙遜するアリーに、セラフは身振り手振りも交えてその活躍っぷりを褒め称えている。
セラフのその一生懸命な姿を目にすれば、自然と笑みが浮かんでくるというもの。
余りにも真っ直ぐな賞賛を浴びたアリーは、顔を真っ赤に染めながらはにかむと、恥ずかしそうに後頭部を押さえて本当に嬉しそうに笑っていた。
「そうだったら、嬉しいな。そうだ!ねぇ、セラフ。セラフはどうして、こんな所に一人でいたの?ここはまだ浅い階層だけど、一人で挑むのは流石に危ないと思うな」
過去の鈍臭かった自分を少しは見返せたかと願うアリーに、セラフはすっかり見違えたと答えている。
それに嬉しそうに微笑んだアリーは両手を小さく打ち合わせると、セラフが何故こんな所で一人、魔物に囲まれていたのかと問い掛けていた。
「それは―――」
その問いに、セラフはすぐに答えようとする。
しかしそんな彼女の事を、ケイシーは肘で突っついては慌てて制止していた。
「何よ、ケイシー?痛いじゃない」
「・・・お嬢様、ここはアレクシア様にお願いするべきでは?彼女の連れは、いずれも手練れの様子。これを逃す手はないように思われますが?」
親友との会話に急に割り込まれたセラフは、それに不満そうに唇を尖らしている。
そんな彼女にケイシーは顔を寄せると、小声であるアイデアについて話していた。
それはアリーに、彼女のレベル上げを手伝ってもらうという計画だ。
「そ、そうね!えぇと、それじゃ・・・おほんっ!」
それは一人で暴走し、つい先ほどまで死に掛けていたセラフからすれば、まさに打ってつけの計画といえ、彼女もすぐにそれに賛同の態度を見せていた。
そうして、突然目の前で秘密の会議を始めた気まずさを誤魔化すように、わざとらしく咳払いをしたセラフは、恐る恐るアリーへと話しかける。
「えーっとね、アリー。実は私も、ここにレベル上げに来たんだけど・・・」
「そうなんだ!セラフは絶対、レベル上げなんてしないって思ってた!だから、意外。あ、そうだっ!だったら、一緒にパーティ組もうよ!!その方が絶対いいよ!ねぇ、皆!!」
セラフが口にした遠慮がちな提案は、アリーがその先を奪って、寧ろ積極的に話し始めていた。
彼女は唯一無二の親友とまた一緒に行動出来る事が、純粋に嬉しいのだろう。
彼女は後ろを振り返ると、女の園に遠慮して微妙に距離を取っていた仲間達へと、嬉しそうにその話を提案する。
しかしその話を受けた彼らの表情は、一様に渋いものであった。
「いいの、アリー!?ありがとう、それなら・・・きっと・・・私、でも・・・」
すっかり乗り気のアリーに気を良くしたセラフは、自らの薔薇色の未来について思い浮かべている。
しかしそれも、何故だか分からないがすぐに色褪せてしまっていた。
それどころか、まるで世界全体から色が失われるように、ゆっくりと暗転していく。
「セラフ・・・?どうしたの、セラフ?ねぇ、ねぇってば!?」
「・・・お嬢様?お嬢様ー!!?」
目の前で突然倒れ付し、気を失ってしまったセラフの姿に、アリーは激しく動揺しその身体を揺すっている。
それはすぐに彼女の身体を抱き起こした、ケイシーによって取って代わられる。
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