【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

文字の大きさ
上 下
209 / 210
第二章 王国動乱

終わりの始まり

しおりを挟む
「始めに、このような事態になってしまった事を皆様にお詫び致します」

 おこもりの塔での最後の戦いから数日、リリーナはかつて自らが王位の即位を宣言したバルコニーに再び立つと、開口一番そう口にしていた。
 彼女の口から終戦宣言と、勝利の喜びが告げられると考えていた民衆はそれに戸惑ったが、誠心誠意を込めて頭を下げるリリーナの姿に不満が口に上ることはなかった。

「今回の内乱がこうして終結することが出来たのは、多くの人の尽力があったからです。まずはそれに深く感謝を。しかしそれは、私一人の力ではこの事態を解決も出来なかったという事実を示してもいます。それはつまり、私の下から離反し反旗を翻した多くの貴族達、彼らの存在も私の不甲斐なさが招いた結果ともいえるです」

 この場に詰めかけた民衆達のざわめきが収まるのを待って続きを口にし始めたリリーナは、最初にこの内乱を収めるのに尽力した者達へと感謝を告げる。
 それに彼女の背後の主に右側に集まった貴族達から、沸き上がるように歓声が漏れ聞こえてくる。
 そしてそれが反旗を翻した者達への言及へと及ぶと、今度は逆側の左側に集まった貴族達から息を呑むような悲鳴に似た声が響いて来ていた。

「よって、私は彼らの罪は問わないことに決めました。彼らにはこれまでと変わらぬ、忠節と働きを求めます」

 反旗を翻したものに罪は問わない、そう宣言したリリーナに彼女の背後の左側から歓声が沸き起こる。
 それはやがて嗚咽に変わり、右側の貴族達からも彼らに同情する声や安堵を喜ぶ声が聞こえてきていた。

「一つ、私から皆様に問い掛けたいことがあります」

 リリーナに協力し、勝ち組として見られていた貴族達からも多くの者が、反旗を翻した者達の方へと歩み寄っていた。
 お互いに結婚し合う貴族同士において血縁関係は珍しくもない、彼らの中には親戚同士で敵味方に分かれ戦った者達も少なくはないだろう。
 そんな彼らにとって、リリーナの宣言はまさに福音であった。
 彼らはそれを喜び合い、再びリリーナが口が開いたことで今度はそちらへと視線を向けていた。

「ジーク・オブライエンは逆賊なのでしょうか?確かに彼は、私がこの手で大逆人として処刑いたしました。しかし彼がこれまで、この国の重鎮として国家に対し身を粉にして仕えてきたのもまた、事実なのです。彼が国境に身を置き、オスティアの魔の手からこの国を守り続けてきたからこそ、今日のリグリアの姿がある・・・それもまた、紛れもない事実なのです」

 リリーナが民衆に、そしてその背後の貴族達に問い掛けたかったこと、それはジーク・オブライエンについてだった。

「彼は忠臣でした。そして最後に反旗を翻し、私の手によって処刑された。彼が犯した罪は、既に私の手によって裁かれているのです。これ以上の汚名を彼に被せる事を、私は望みません。彼が忠臣であったのか、逆賊であったのか・・・その評価は、後世の者の手に委ねようではありませんか?」

 ジークが為したことが悪だったのか、それとも正しい行いであったのか。
 それは全て後世の人々によって判断されることだと、リリーナは語る。
 その言葉に彼女の背後から疎らな拍手が上がり、それはやがて周囲を巻き込んだ万雷の拍手へと変わっていた。

「・・・立派じゃない、あの女王様」
「そうですかい?あっしはもっと悪し様に言った方が、色々と都合がいいと思うんですがねぇ」
「そんな事ないわよ・・・ほら、あれ」

 ユーリは救国の英雄の一人として、リリーナの背後の貴族達の列に加わることが許されていた。
 そしてシャロン達もその仲間として、その背後にひっそりとではあるが席が用意されていたのだった。

「お父様・・・うわぁぁぁぁん!!!」
「大丈夫、大丈夫だから・・・父上の代わりは、僕がきっと・・・務めて見せるから」

 リリーナの発言は甘いと首を捻るエディにシャロンが視線を向けたのは、兄の胸の中で泣きじゃくるエスメラルダと、彼女を抱きかかえながら悲壮な覚悟を滲ませるマーカスの姿であった。
 そこには余りに深すぎる悲しみがあった、彼らのそれを少しでも軽く出来るならリリーナの言葉にも意味はあっただろう、ユーリはそう感じながらどこか遠い目で二人の姿を見守っていたのだった。

「・・・やっぱり、変ですわ」
「オリビア、何か言ったか?」
「う、うぅん、何でもありませんの!」

 ユーリのすぐ隣には、彼の主筋にあたるオリビアの姿があった。
 彼女は怪我で参加出来ないヘイニーの代理としてこの場にいるのであったが、リリーナへと顔を向けてはどこか真剣な表情を見せていた。

「最後に、皆様にお話ししなければならない話があります。この世界について・・・いえ正確に言うならば、この世界の外について」

 リリーナが最後にと前置きして話し出した言葉に、あの場でジークからそれについて聞かされたユーリだけが激しく反応し立ち上がる。
 そんな彼に対して、周りは不思議そうな表情を向けていた。
 しかしそれも僅かな間だけだ、何故ならそんな些細な騒動など問題にならない出来事が飛び込んできたのだから。

「た、大変です!!グレートウォールが・・・グレートウォールが崩壊し、そこから謎の軍勢が攻めてきた模様です!!!」

 転がり込むように飛び込んできた兵士が告げたその事実に、その場は騒然となる。
 特に彼が口にした地名に関りが深いユーリの一行は、パニック状態となっていた。

「・・・そう、彼らが」

 一人、リリーナだけがその報告を耳にしても動揺することなく、まるで初めからそれが分かっていたかのように冷静に頷くのだった。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

その無能、実は世界最強の魔法使い 〜無能と蔑まれ、貴族家から追い出されたが、ギフト《転生者》が覚醒して前世の能力が蘇った〜

蒼乃白兎
ファンタジー
15歳になると、人々は女神様からギフトを授かる。  しかし、アルマはギフトを何も授かることは出来ず、実家の伯爵家から無能と蔑まれ、追い出されてしまう。  だが実はアルマはギフトを授からなかった訳では無かった。  アルマは既にギフト《転生者》を所持していたのだ──。  実家から追い出された直後にギフト《転生者》が発動し、アルマは前世の能力を取り戻す。  その能力はあまりにも大きく、アルマは一瞬にして世界最強の魔法使いになってしまった。  なにせアルマはギフト《転生者》の能力を最大限に発揮するために、一度目の人生を全て魔法の探究に捧げていたのだから。  無能と蔑まれた男の大逆転が今、始まる。  アルマは前世で極めた魔法を利用し、実家を超える大貴族へと成り上がっていくのだった。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...