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第二章 王国動乱

大逆人ジーク・オブライエン

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「後は・・・を残すのみ、か」

 ジークの手から零れ落ちたワールドエンドが、塔の天井の硬い床にぶつかって硬質な音を立てる。
 その手にはもはや、それを握る力も残されていないのか、彼はゆっくりと振り返るとそう息も絶え絶えに呟いた。
 彼の目の前には、いつの間にか煌々と紅い輝きを放ち始めている継承の祭壇の姿があった。

「・・・間に合った、のか?」

 ジークは足を引きずりながら継承の祭壇へと進み、その今の王家の紋章とは異なる古い紋章の刻まれた扉へと手を掛ける。
 彼はそこから紅い輝きを放つ塔を見上げ、消え入るようにそう呟いていた。

「ならば後は・・・ぐっ!?」

 ジークが目の前の扉へと手を掛けそれを押し開こうとしていると、彼の胸元から闇を塗り固めたかのように真っ黒な刀身が姿を現していた。

「・・・マーカス、か」

 それは後ろから、誰かがジークを刺した事を物語っていた。
 ジークがゆっくりと後ろを振り向くと、そこにはワールドエンドを手にしたマーカスが動揺しきった顔でふらふらと後ろに下がっている姿があった。

「父上、貴方が・・・貴方が陛下を、リリーナを手に掛けるというなら・・・僕は、僕は例え父上でも!!」

 銃弾を胸に受け、さらにマーカスの手によって刺し貫かれてもなお息のあるジークに、マーカスは悲壮な覚悟を決めると、ワールドエンドを振りかざす。
 その肩へと、ジークは手を伸ばしていた。

「・・・良く、励んだな」

 ジークはそう呟くと、穏やかな顔で笑う。

「あ、あぁ・・・そんな、父上・・・貴方は最初から、これを・・・」

 その言葉に、マーカスは全てを悟ると膝から崩れ落ちていた。
 その手からはワールドエンドが零れ落ち、ジークの足元へと転がっていく。

「これは・・・」

 彼らの向こう側では、継承の祭壇の扉がゆっくりと開いていた。
 それは内側からだ、つまりそこで王位継承の儀を行っていたリリーナがそれを終え、外へと姿を見せたのであった。
 彼女は周りを見渡し、その状況に戸惑う表情を浮かべていた。
 その足元にはパトリックの手から零れ落ちた銃の姿もあったが、それを目にした彼女が特別な反応を見せる事はなかった。

「大逆人ジーク・オブライエン!その罪、もはや看過することは許されぬ!!よってこの私、リリーナ・クレイ・リンドホーム=エルドリッジの名において、この場で処刑する!!」

 しかしリリーナの理解は早かった。
 彼女は目の前にまで転がって来ていたワールドエンドを手にすると、大逆人ジーク・オブライエンの処刑を告げるのであった。

「・・・ありがとうございます、陛下」

 自らの処刑の宣告に、ジークはそう呟くと首を差し出すように跪いていた。
 彼はチラリと後ろを振り返ると、そこで放心したように固まっているマーカスの姿を見ていた。

「最後に一つ聞きます、何故このような事になったのですか?」
「・・・始めは、このような事になるとは考えておりませんでした。しかし計画が狂ったのです」
「計画が狂う?貴方らしくもない・・・何か予想だにしない出来事でもあったというのですか?」

 ワールドエンドを手にしたリリーナは、それを杖にしてジークに最後の質問をする。
 それは何故、このような事態になってしまったのかという当然の疑問であった。

「えぇ・・・優秀すぎたのです、私の息子達が」

 そう口にしたジークの笑顔は、とても誇らしげであった。

「陛下、どうやら私はここまでのようです・・・お傍にお仕え出来ず、申し訳ございません」
「いいえ、貴方はこれ以上ないほどに仕えてくださいました。これは、私からのせめてもの労いです」

 ジークはリリーナに深々と頭を下げると、十分に仕えることの出来なかったことを詫びる。
 それにリリーナは静かに首を横に振ると、ゆっくりとワールドエンドを振り上げていた。

「あぁ・・・私は間違ってはいなかった」

 そのリリーナの姿に、ジークは王の器を確信する。
 彼の目から、一筋の涙が零れ落ちた。

「私はその目に適いましたか、ジーク・オブライエン・・・?」

 それが彼の目から流れ落ちた、生涯最後の涙となった。
 その涙と血が塔の溝へと流れ、継承の祭壇その塔の先端から一筋の紅い光が空へと放たれる。

「・・・大逆人ジーク・オブライエンはここに敗れました!勝どきを上げよ、我々の勝利に!!」

 その光はまるでリリーナの身体に吸い込まれるように消えてなくなると、彼女は僅かな沈黙を挟んで歩きだしていた。
 そして塔の先端まで歩みを進めた彼女は、ワールドエンドを振りかざすと今までの出来事を下から見守っていた民衆達へと勝利を宣告する。
 周囲からは、雄たけびのような歓声が沸き上がっていた。

「そんな、お父様・・・お父様、お父様ぁぁぁ!!!?」

 しかしその中に一人、リリーナの言葉に顔を真っ青に染め、その目に涙を浮かべている少女の姿があった。
 その少女、エスメラルダは父親の名を叫びながら涙を流す。
 それは勝利に沸く街の中のほんの一コマに過ぎず、彼女の声は周りから沸き上がる歓声に呑まれ、掻き消えるように姿をなくしていくのだった。
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