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第二章 王国動乱

只人

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 おこもりの塔の天井、そこにはジークが突き破った床の成れの果てである瓦礫と土煙が立ち上っていた。
 その土煙の向こうでは塔の上の塔、リリーナが王位継承の儀式を行っている小さな塔の姿があった。

「・・・決着をつけよう、クソ親父。心配しなくても、あんたの代わりは俺が務めてやるよ」

 土煙が晴れ、その先に無傷のジークの姿が現れるとユーリはそう声を掛け、聖剣エクスカリバーを構えた。

「そうか。ならば安心だな」

 それにそう応えたジークの言葉は、本心であったのだろうか。
 それは分からない。

「この期に及んで・・・ふざけたことをっ!!」

 それを確かめる前に、おちょくられていると感じたユーリが真っ直ぐに飛び掛かってしまったからだ。

「・・・あれは、これを使うのに他人の血を用いたようだな」

 その速度は、これまでで最速であろう。
 それでもジークは焦らない。

「これは本来、こう使う」

 彼はワールドエンドを掲げ、自らの腕を切りつけるとその血を真っ黒な刀身へと垂らす。
 その瞬間、周囲が闇に包まれた。

「虚仮威しを!!」

 だが、ユーリはそれに動揺することなくジークへと向かって突き進む。
 そしてその距離はもはやなく、彼は手にした剣を振り下ろした。

◇◆◇◆◇◆

「ねぇ、あれなんだろ?」
「え?」

 ユーリ達から離れ、子供達だけで賑やかな大通りへと向かったネロ達。
 その手にはお祭りの気配に目敏く出店した、屋台の串焼きや飴細工が握られていた。
 そんな彼女達の中の一人、ネロがその獣の耳を揺らし何かに気がつくと、後ろを振り返っては手を伸ばしていた。
 その先には、球体のような真っ暗な闇に覆われたおこもりの塔の姿があった。

「おい、何だよあれ?」
「あそこって・・・不味いんじゃないか!?あそこにリリーナ陛下がいらっしゃるんだろ!?」

 ネロが気づいたのとほぼタイミングを同じくして、周りの者達もその異変に気がついていた。
 そして誰かが、そこがリリーナが籠り儀式を行っている場所だと口にすると、一気に騒動は広がっていくのだった。

「・・・お父様?」

 ざわざわと広がっていく騒ぎが、パニックのように激しくなるまでにそう時間はかからない。
 そんな中で一人、そこで起こっている事を肉親特有の不思議な直感で感じ取ったエスメラルダは、真っ青な顔でそう呟く。

「あっ、ねーさま!?」
「待ってねーさま、ボクも一緒に行くから!」

 突然駆け出していったエスメラルダ、彼女がすぐ横を通り過ぎたプティは驚きの声を上げ、ネロはその背中をすぐに追い駆け始める。
 オリビアやボロアもすぐにその後を追い、彼女達に導かれるようにその場の群衆達もおこもりの塔へと向かうのだった。

◇◆◇◆◇◆

「おやすみ、世界」

 ジークがそう口にすると、全ての時が止まった。

「・・・マスター?マスター!?どうしたのですか、マスター!?くっ・・・貴様、マスターに何をした!?」

 いや、それは誤りだ。
 この全てが静止した世界でも、変わらずに動ける者がそこにいたのだから。

「やはりお前には通用しないか、エクスカリバー」

 ジークはその存在、エクスカリバーへと視線を向ける。
 その視線は興味深い存在へと向ける観察者の目、研究者や学者が見せるそれと似たものであった。

「だが、問題はない」

 エクスカリバーは確かに動けるかもしれない、しかしその担い手であるユーリは動けないのだ。
 であれば問題はないと、ジークはワールドエンドを振るう。
 その瞬間、周囲を覆っていた闇がひび割れるように砕け散っていった。

「・・・お前の敗因は、怒りに身を任せた事だ。お前のその力、それは前に出て戦うためのものではない。その剣、エクスとやらが自らで戦い、お前がそれをサポートしていたならば恐らく・・・私は敗北しただろう」

 ジークはそう呟くと、もはや用はないと背中を見せていた。
 その先では塔の縁にまで吹き飛ばされ、その縁に引っかかるようにして倒れ伏しているユーリと、彼の下で泣き叫んでいるエクスの姿があった。
 彼は、「勇者」ユーリは敗北したのだ。
 只の人である、ジーク・オブライエンに。
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