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第二章 王国動乱
三番手の男
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「はぁ~・・・何とか間に合ったぁ」
その声は、後の世にオールドキープの戦い、もしくは単に王都争奪戦と記される戦いを見下ろせる小高い丘の上から発さられていた。
その声を発した青年はまだ戦いが終わっていないのを目にすると、その場に崩れ落ちるように膝をつく。
「ふむ、安心するのはちと早いかの・・・」
彼の横に立ち、腕を組んだ老いた武人といった風体の老人は、戦場を見下ろすとそう呟いた。
彼の見立てからすればその戦いは今にも決着がつきそうな状態であり、青年のように安心するのはまだ早いと思っていたのだ。
「それで、どっちにつくのかな婿殿?」
老人は青年を婿殿と呼ぶと、どちらに味方するのかと尋ねていた。
「え?そんなの、リリーナ陛下の方に決まってるじゃないですか?」
それに青年は心底不思議そうに首を傾げると、当然リリーナに味方するのだと口にしていた。
「・・・確かに、勝勢の方に味方しても実入りは少ないか。いやはや、婿殿もなかなか強かであられる。こんな時にもこの後の政治を考えておられるとは」
既に勝ちつつあるフェルデナンド達に今更味方しても、彼らの功績は少ないだろう。
しかし今まさに負けつつあるリリーナ側に加勢すれば、その功績は絶大だ。
老人はそうした計算を青年したものと考え、感心した様子を見せている。
「何の話ですか?僕はただ、オブライエン卿から陛下に味方するように頼まれたからそうするだけですよ?」
しかしそんな老人の言葉に、青年はポカンとした表情で彼を見上げるばかりであった。
「かはははっ!!頼まれたから味方すると申すか、婿殿!その頼んできたジーク・オブライエンが敵方にあっても?」
「えぇ、そうですよ?だってそれが普通じゃないですか。僕は平凡なだけが取り柄な男なんで、普通がいいんです普通が。何をやっても一番どころか二番にもなれなくて、いつも三番手止まり・・・そんな僕の性質が領地にまで移っちゃうんだから、もうこれはそういう運命なんですよ」
青年の言葉に快活に笑う老人は、獣のような凶暴な表情を浮かべては彼を試すように尋ねる。
しかしそんな老人の表情にも青年は怯えることなく、ただただ凡庸なぼんやりとした表情を浮かべては、どこか恥ずかしそうにそんな言葉を口にしていた。
「三番手か、確かに一つの分野でそうであるならば目立たない存在であろうが・・・それがもし、全ての分野でそうあるなら?くはははっ、それはもう侮れる存在ではなかろうよ」
照れくさそうに頭を掻き自らの平凡さを恥じる青年に、老人はニヤリと笑うとそう一人呟いた。
「ましてや、自らの治める領地までも『三番手』にしてしまうのであればな」
そして、彼は振り返る。
そこには青年が領地から引き連れてきた、大軍の兵士の姿があった。
「さぁ行きましょうぞ、婿殿!!指揮は不肖ながらこの私、アーヴィング・ヘイルが執らせていただく!!」
「えぇ、お任せします!他はともかく、軍の指揮はさっぱりで」
そして老人、前任の軍務卿である老将アーヴィング・ヘイルは飛び出していく。
「三番手」の男、ラルフ・スタンリーの兵を率いて。
◇◆◇◆◇◆
「・・・何だあれは?」
王都へと迫る自らの軍勢の姿を眺めながら勝利の美酒に酔っていたフェルデナンドは、そう呟くと戦場であるため当然ただの水であったそれを零していた。
「アーヴィング・ヘイル、並びにラルフ・スタンリー!義によってお味方致す!!」
彼はそう叫びながら、王都に迫る自らの軍勢へと土煙を上げながら突っ込んでいく謎の軍勢を目にしていたのだ。
「アーヴィング・ヘイルだと!?ラルフ・スタンリーという名前に聞き覚えはないが・・・あの老骨が今更出しゃばってきたというのか!?くっ、不味い!救援の部隊を送れ!!」
謎の軍勢の先頭を行く白髪の偉丈夫、その姿にはフェルデナンドも見覚えがあった。
それは間違いなく前軍務卿のアーヴィング・ヘイルであり、彼も何度も参戦の要請を出していた人物であった。
「救援が必要でしょうか?あの程度の数でしたら・・・」
「馬鹿な!あのアーヴィング・ヘイルだぞ!?彼ならばあの数でも―――」
無防備な王都が急襲されるという緊急事態に、アーヴィングは足の速い騎兵だけを率いて突撃している。
その数は少なく、その程度ならば救援は必要ないだろうと口にする側近の貴族に、フェルデナンドは彼を侮るなと叫んでいた。
「フェルデナンド様、あ、あれをご覧ください!!」
「・・・間に合わなかったか」
フェルデナンドはその貴族とは違い、アーヴィングの事を侮ってはいなかった。
しかしその彼の予想すらも、アーヴィングは上回って見せる。
何かに驚くように声を上げたまた別の貴族にフェルデナンドが顔を上げれば、そこには王都へと向かった軍勢がアーヴィングによって蹂躙されている姿が映っていた。
「まぁいいさ、まだ別の手がある」
王都の急襲に向かわせた兵は、足の速さを重視したためにそれほど多くはなかった。
それでも少なくない兵を壊滅させられたフェルデナンドの顔には、まだ余裕の色があった。
「何せ、それもまた陽動に過ぎないのだからな」
そう口にしたフェルデナンドは、王都へと目線を向ける。
その向こう、こちらからでは窺えない王都の背面へと。
その声は、後の世にオールドキープの戦い、もしくは単に王都争奪戦と記される戦いを見下ろせる小高い丘の上から発さられていた。
その声を発した青年はまだ戦いが終わっていないのを目にすると、その場に崩れ落ちるように膝をつく。
「ふむ、安心するのはちと早いかの・・・」
彼の横に立ち、腕を組んだ老いた武人といった風体の老人は、戦場を見下ろすとそう呟いた。
彼の見立てからすればその戦いは今にも決着がつきそうな状態であり、青年のように安心するのはまだ早いと思っていたのだ。
「それで、どっちにつくのかな婿殿?」
老人は青年を婿殿と呼ぶと、どちらに味方するのかと尋ねていた。
「え?そんなの、リリーナ陛下の方に決まってるじゃないですか?」
それに青年は心底不思議そうに首を傾げると、当然リリーナに味方するのだと口にしていた。
「・・・確かに、勝勢の方に味方しても実入りは少ないか。いやはや、婿殿もなかなか強かであられる。こんな時にもこの後の政治を考えておられるとは」
既に勝ちつつあるフェルデナンド達に今更味方しても、彼らの功績は少ないだろう。
しかし今まさに負けつつあるリリーナ側に加勢すれば、その功績は絶大だ。
老人はそうした計算を青年したものと考え、感心した様子を見せている。
「何の話ですか?僕はただ、オブライエン卿から陛下に味方するように頼まれたからそうするだけですよ?」
しかしそんな老人の言葉に、青年はポカンとした表情で彼を見上げるばかりであった。
「かはははっ!!頼まれたから味方すると申すか、婿殿!その頼んできたジーク・オブライエンが敵方にあっても?」
「えぇ、そうですよ?だってそれが普通じゃないですか。僕は平凡なだけが取り柄な男なんで、普通がいいんです普通が。何をやっても一番どころか二番にもなれなくて、いつも三番手止まり・・・そんな僕の性質が領地にまで移っちゃうんだから、もうこれはそういう運命なんですよ」
青年の言葉に快活に笑う老人は、獣のような凶暴な表情を浮かべては彼を試すように尋ねる。
しかしそんな老人の表情にも青年は怯えることなく、ただただ凡庸なぼんやりとした表情を浮かべては、どこか恥ずかしそうにそんな言葉を口にしていた。
「三番手か、確かに一つの分野でそうであるならば目立たない存在であろうが・・・それがもし、全ての分野でそうあるなら?くはははっ、それはもう侮れる存在ではなかろうよ」
照れくさそうに頭を掻き自らの平凡さを恥じる青年に、老人はニヤリと笑うとそう一人呟いた。
「ましてや、自らの治める領地までも『三番手』にしてしまうのであればな」
そして、彼は振り返る。
そこには青年が領地から引き連れてきた、大軍の兵士の姿があった。
「さぁ行きましょうぞ、婿殿!!指揮は不肖ながらこの私、アーヴィング・ヘイルが執らせていただく!!」
「えぇ、お任せします!他はともかく、軍の指揮はさっぱりで」
そして老人、前任の軍務卿である老将アーヴィング・ヘイルは飛び出していく。
「三番手」の男、ラルフ・スタンリーの兵を率いて。
◇◆◇◆◇◆
「・・・何だあれは?」
王都へと迫る自らの軍勢の姿を眺めながら勝利の美酒に酔っていたフェルデナンドは、そう呟くと戦場であるため当然ただの水であったそれを零していた。
「アーヴィング・ヘイル、並びにラルフ・スタンリー!義によってお味方致す!!」
彼はそう叫びながら、王都に迫る自らの軍勢へと土煙を上げながら突っ込んでいく謎の軍勢を目にしていたのだ。
「アーヴィング・ヘイルだと!?ラルフ・スタンリーという名前に聞き覚えはないが・・・あの老骨が今更出しゃばってきたというのか!?くっ、不味い!救援の部隊を送れ!!」
謎の軍勢の先頭を行く白髪の偉丈夫、その姿にはフェルデナンドも見覚えがあった。
それは間違いなく前軍務卿のアーヴィング・ヘイルであり、彼も何度も参戦の要請を出していた人物であった。
「救援が必要でしょうか?あの程度の数でしたら・・・」
「馬鹿な!あのアーヴィング・ヘイルだぞ!?彼ならばあの数でも―――」
無防備な王都が急襲されるという緊急事態に、アーヴィングは足の速い騎兵だけを率いて突撃している。
その数は少なく、その程度ならば救援は必要ないだろうと口にする側近の貴族に、フェルデナンドは彼を侮るなと叫んでいた。
「フェルデナンド様、あ、あれをご覧ください!!」
「・・・間に合わなかったか」
フェルデナンドはその貴族とは違い、アーヴィングの事を侮ってはいなかった。
しかしその彼の予想すらも、アーヴィングは上回って見せる。
何かに驚くように声を上げたまた別の貴族にフェルデナンドが顔を上げれば、そこには王都へと向かった軍勢がアーヴィングによって蹂躙されている姿が映っていた。
「まぁいいさ、まだ別の手がある」
王都の急襲に向かわせた兵は、足の速さを重視したためにそれほど多くはなかった。
それでも少なくない兵を壊滅させられたフェルデナンドの顔には、まだ余裕の色があった。
「何せ、それもまた陽動に過ぎないのだからな」
そう口にしたフェルデナンドは、王都へと目線を向ける。
その向こう、こちらからでは窺えない王都の背面へと。
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