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第二章 王国動乱

誰が代表となるのか

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 一方その頃、領主の館の奥、その建物でも一番大きな部屋で地元の有力者を招いた催し物などを行う大ホールにはこの街の主だった面々が集まり、顔を突き合わせては激しく議論を交わしていた。
 彼らは誰がここを代表して使者に対応するのかという、重要な問題を話し合っていたのだ。

「ここは当然、エマスン卿に我らの代表として出ていただくべきでしょう!!」

 その中でも最も優勢なのは、トム・エマスンを推す一派であった。
 トムは四大貴族の一つであるエマスン家の当主であり、ここに集まった貴族の中では一番の有力者である。
 その上、ここに集まった貴族のほとんどは彼を頼ってやってきたのだ。
 そんな彼らが彼を推すのは、当然の結論といえた。

「いえ、ここはオーリス卿が対応されるべきです!この地の領主は彼でありますれば、そこにやって来た使者に対応するのは彼であるのが自然の成り行きでしょう。知っていますか、世間の連中が我らの事を何と呼んでいるか?『ティカロン同盟』と呼んでいるのですよ?であれば、この街ティカロンの領主であるオーリス卿が我らを代表するのが道理というもの!」

 次に優勢なのは、彼らが拠点としているこの街、ティカロンの領主である若きダニエル・オーリスを推す声であった。
 彼らは主に元々ダニエルの下に身を寄せていた周辺の小領主達であり、それに後からやって来たためにトムの派閥に加わり辛い貴族達がそこに加わっているという恰好であった。

「えぇー!?変だよ、それー!おとーさんに任せれば全部うまくいくのにー!!」
「そ、そうですよ皆さん!おとーさんは凄いんです!だからその・・・えっと、とにかく凄いんです!!」

 そして最後の一つは、我らがユーリ・ハリントンを推す可愛らしい二人組の登場だ。
 彼女達、ネロとプティの二人はその獣耳と尻尾をピコピコと揺らしながら、短い手足を精一杯に大きく使っては自分達のおとーさんは凄いのだと必死にアピールしている。
 いつものようにここで過ごす間にすっかりこの街のアイドルとなった二人には、その場で給仕係をしている女性達も味方に付いていた。
 さらにシャロンやケイティ、それにエスメラルダの女性陣も彼を推していたが、その数は少数であり圧倒的に旗色は悪かった。
 それにはエスメラルダが今だ野菜泥棒の件を気にしており、余り目立つようなことをする訳にもいかなかった事も無関係ではないだろう。

「はははっ、可愛らしいお嬢さん達ですなぁ。こんな可愛らしいお嬢さんのお願いなら聞いてやりたくなるのが人情ですが・・・これは大人の問題ですので。どうです、もう議論も出尽くした頃でしょう、ここは公平に多数決で決めるというのは?」

 ネロとプティの可愛らしい主張に思わず笑みを浮かべた貴族の男も、これは大人の問題だと感情に流されることはなかった。
 彼は周囲に多数決で代表を決めることを提案し、周りもそれに反対することはない。
 勿論ごく一部の者達だけが、ぷりぷりと烈火の如く反対してはいたが。

「・・・ふむ、当然の結果ですな。では、エマスン卿に我々を代表して対応してもらうという事で。それでよろしいですね、エマスン卿?」

 多数決の結果は、当然の如くトムを推す一派が勝利していた。
 その結果に、彼らを代表して発言していた貴族の男が得意げな笑みを浮かべる。
 外から来た使者に対して、今後の行く末を決定づける決断を下す役割を演じる、それはその者がこの集団の代表、統率者となる事を意味していた。
 自分が所属する派閥が今後、この集団の主導的立場になる事が確定し勝ち誇っている貴族の男は、そのままの表情で勝利の盃を捧げる相手、トムへと声を掛ける。

「んん~?おら、そんな面倒臭そうなのはやりたくないぞぉ」
「・・・は?で、ですがっ!」

 しかしその勝利の盃はあっさりとひび割れ、中から美酒が零れ落ちてしまうのだった。

「そういうのはぁ、ユーリがやればいいんじゃないかなぁ」

 信じられないトムの返答に、面食らう貴族の男。
 彼がさらに食い掛ってくるのをトムはのんびりといなしながら、何やら周りの女性陣の手によって威厳ある格好とやらに改造されつつあるユーリの方へと視線を向けるのだった。

「「えぇー!!?」」

 トムの信じられない発言に、周囲からは一斉に驚きの声が上がる。
 そんな中にあってネロとプティ、そして彼女達の周辺だけがそれが当然とばかりに胸を張るのであった。

「え、俺がですか?いやいや、まさかぁ」

 当の本人であるユーリはというと、彼はトムの発言にポカンとした表情を浮かべ、冗談でしょうと朗らかに笑いながら頭を掻くばかりであった。

「え、本当に?」

 しかしそれを冗談だと否定するものは、ついぞ現れる事はない。
 何故ならいくらせっつかれても首を縦に振らないトムに、彼の周りの者は諦めの表情を浮かべており、今がチャンスだと名乗り出るように促されているダニエルも自分には無理だと首を激しく横に振るばかりであるからだ。
 結果として、この場でこの集団、ティカロン同盟の代表となれる者はユーリしか残されていなかったのだ。
 そのため彼らは、黙ってユーリへと視線を向ける。
 無論、ごく一部の者だけは期待にキラキラと輝く瞳を彼へと向けていたが。

「し、使者の方をお連れ致しました!!」

 そこに、使者の到着と告げる声が響く。

「何だと!?誰だ勝手に呼びにいったのは!!まだ会議中だというのに!」
「しかし、ここで使者を追い返す訳にも」
「となると・・・」

 使者に対応する者を決める会議の真っ最中であるのだ、そんな状況でその使者を呼ぶ訳がない。
 つまり今、ここに使者が通されたのは、一部の者の暴走の結果であった。
 しかし急に膨らんだ大所帯に指揮系統も滅茶苦茶になっているこの場所では、そうした事も珍しくはない。
 それ以上に問題なのは、こうなった以上すぐにでもその使者に対応しなければならない訳で、そうなれば当然ある一人の人物へと再び視線が集中することになる。

「え、え、え?ちょ・・・ほ、本当に俺がやるんですか?」

 混乱し切った表情のその人物、ユーリがそう呟く。
 その言葉に返事をする者は、この場には一人もいなかった。
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