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第二章 王国動乱

使者

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「こ、こちらでお待ちください!」
「うむ」

 緊張した面持ちで、ダニエルの部下の一人は訪れた使者を待合室へと案内する。
 彼の言葉に使者は鷹揚に頷くと、案内された部屋へと足を踏み入れていた。

「・・・ふふふ、ふっふっふっふ、ふははははは!!遂に、遂にこのボロア・ボロリアの時代がやって来たぁ!!!」

 その使者、ボロア・ボロリアは案内した男が退室し、遠ざかるのを待ってから声を上げる。

「聞けば!この勢力を味方にした方がこの戦争に勝利するとか!!であればだ!!今まさに、その勢力と交渉し味方につけようとしている者こそが戦争の行方を左右する重責を担っているとは言えまいか!?そう、まさしくこの僕、ボロア・ボロリアこそが戦争の行方を決定づける英雄に他ならないのだ!!はぁーっはっはっはっ!!!」

 ボロアも知っていたのだ、この街に集まる勢力、彼らを味方にした方がこの戦争の勝利者になると。
 そして彼は確信していたのだ、それをするのはこの自分、ボロア・ボロリアであると。
 そのため彼は胸を張っては高笑いを響かせる、勝利を導いた英雄として歴史に刻まれる輝かしい未来を思い描いて。

「ふふふ、この役目を得るために一体僕がどれだけ苦労したものか・・・しかしそれも、今日で報われるのだ!!」

 用意されていた上等な椅子に足を掛けて、ボロアはこぶしを握り締めてはこれまでの苦労を思って涙を流す。

「・・・単に人材がいないうえに、他にやりたがる人がいなかったからでは?」

 そんな彼に、ちゃっかりついて来ていたセバスが身も蓋もない突っ込みを入れる。

「ば、馬鹿っ!!そういう事は言わない方が恰好がいいではないか!?大体、こんな大事な役目なのだぞ、何故誰もやりたがらないのだ!?確かに僕が立候補した時、他に誰もやりたがらなかったが・・・」
「それは―――」

 折角いい気分に浸っていた所を台無しにされたボロアは、顔を真っ赤にしては自らの執事へと食って掛かっている。
 その執事であるセバスは彼の頭へと手をやって軽くいなしながら、何故彼以外の誰もこの仕事をやりたがらなかったのかという事を説明しようとしていた。

「おっと、どうやら向こうも到着したようですね。隣の部屋に通すとは・・・ここも余裕がないようで」

 丁度その時、彼らのすぐ横の部屋に誰がやって来た物音が響いていた。
「向こう?一体何の話をしているのだ、セバス?」

「あぁ、丁度良い所に。これで説明の手間が省けました。坊ちゃま、気になるのでしたら覗いてみればよろしいのでは?今ならば、中に入るのが見えるかもしれませんよ」

 何やら訳知り顔でそちらへと顔を向けるセバスに、ボロアは何が何だか分からないという顔をしている。
 そんなボロアに、セバスはこの部屋の扉を少し開いてそちらの様子を窺ってみればいいと勧める。

「何が何だか分からないが・・・まぁ、百聞は一見に如かずとも言うしな。どれどれ・・・」

 セバスの勧めにあっさりと納得し、早速とばかりに扉を少し押し開くボロア。
 そしてその隙間に顔を押し付け、そっと目を細めた彼が目にしたのは―――。

「あ、あれは!?」

 ボロアと同じように使者としてここにやって来た、フェルデナンドとルーカスの姿であった。
 その余りの驚きに驚愕の声を上げ、思わず尻もちをついてしまうボロア。

「これで、他の皆様方がこの仕事をやりたがらなかった訳が理解出来たでございましょう」

 そうボロアの言う通り、この交渉はまさしく戦争の行方を決定づける出来事なのだ。
 であれば、向こうも持てる限りの最高のカードを切ってくる。
 それを予想していた他の貴族達は、だからこの仕事をやりたがらなかったのだ。

「そ、そうと分かっていたならば先に―――」

 今更ながらその事実に気づいたボロアは、涙目になりながらそれを先に言えとセバスに縋りつこうとする。

「しかし、これからが大変でございますな坊ちゃま。この仕事は坊ちゃまがおっしゃられた通り歴史を決する大仕事。それをしくじったとあれば、歴史に名を残す大戦犯となりましょうなぁ・・・おっと、坊ちゃまは英雄になるのでしたな。であれば関係のない話で・・・いやはや、向こうにはフェルデナンド様とルーカス様という王族の皆さまがいらっしゃられるというのに、それを敵にしても勝って見せるという坊ちゃまの気概、このセバスお見それいたしました」

 ボロアの手をするりと躱し、セバスは彼の耳元で囁く。
 その内容は今回の事に失敗すれば、英雄どころか大戦犯として歴史に名を遺すという残酷な事実だった。

「れ、歴史に残る大戦犯・・・」

 それを耳にしたボロアの顔からは血の気が引き、まるで死人のように真っ青になっていく。

「おや、どうやらお呼びが掛かったようですな。では坊ちゃま・・・いえ、英雄殿。どうかお達者で」

 ボロアが床へとへたり込みへなへなと力を失っていくのと同じタイミングで、扉が外からノックされ使者の接見を求める声が掛かる。
 その声に、セバスはボロアへと深々と頭を下げるとにっこりと笑って送り出していた。

「セ、セバス・・・僕は、僕は・・・セバスー!!助けてくれ、セバスーーー!!!?」

 ボロアに呼びに来た男は先ほどのものと同じ男で、どうも焦って混乱しているのか使者であるボロアを無理やり引っ張って連れていこうとしている。
 その手に引っ張られながら、ボロアはセバスへと振り返っては目に涙を浮かべ、必死に助けてくれと訴えかけていた。
 そんな彼の様子にセバスはひらひらと手を振るばかり、ふと部屋の中へと目をやった彼はそこに紅茶のセットを見つけると、優雅な手つきでそれを淹れ始めるのだった。
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