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第二章 王国動乱
彼女の名は
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「あぁ、あれはルーカスちゃん達の部隊じゃない?ほらあの旗とか、見た事あるもの」
ティカロンの街を襲撃している謎の兵士達、シャロンは彼らを指差しながらそれをルーカス達の部隊の兵士だと口にする。
確かに彼らが身に纏っている装備や、掲げている旗などは見覚えがあり、彼らがつい最近まで戦っていた部隊のものであると思われた。
「でも、だとしたら何で?」
「さぁ?でも、あたし達みたいに食うに困って・・・というのではなさそうね」
街を襲撃している部隊の身形は良く、顔色や体調も明らかに良さそうだ。
それはユーリ達のように、昨日から何も食べていないという状態ではない事をはっきりと示していた。
「日和見を決め込む、オーリス伯爵!!奴めは、ルーカス様からの再三に渡る協力の要請を断った!!よろしいならば奴らに教えてやるのだ、ルーカス様の申し出を断るとどうなるかという事を!!」
お互いに顔を見合わせ首を捻っているユーリとシャロンの前に、馬に乗り立派な兜を被った指揮官らしき男が、手にした剣を振り回しながら何やら喚いていた。
「だ、そうよ」
それはその兵士達がなぜ街を襲っているか的確に説明しており、シャロンは説明の手間が省けたと肩を竦めて見せている。
「何が何だか分からねぇが・・・俺達が先に見つけた獲物だ、横取りは許さねぇ!!手前ら、行くぞ!!」
謎の兵士達の正体が、協力を拒んだ領主への腹いせと脅しのための襲撃だと分かり、一応の納得がいき落ち着いたユーリ達、しかしそんな彼らに今度は別の所から騒動の種が沸き上がる。
それは自分達よりも先に街を襲っていた者達の姿に戸惑っていた、彼ら懲罰部隊の面々の声であった。
「え、ちょっと・・・駄目だって!!あぁもう・・・シャロンさん、俺達も行きましょう!!」
「えぇ!皆も聞いてたわね、あたし達も参戦するわよ!」
目の前で街を襲っているルーカス達の部隊へと突っ込んでいく、懲罰部隊の面々。
その光景に頭を抱えたユーリは、もはや見ていられないと自分達も参戦することを表明する。
それにシャロン達はや仲間達も頷き、彼らは再び馬へと跨ると戦いの最中へと突っ込んでいくのだった。
◇◆◇◆◇◆
「いやぁ、助かりました。まさか実力行使に出てくるとは思ってもいなくて・・・あのままでは街に被害も出ていたでしょう!どこの誰かは存じませんが、本当に感謝しています!!」
激闘の末、ユーリ達は何とか勝利した。
すると不思議な事に、彼らは街を襲撃から救ったヒーローとして歓迎されることになっていたのだ。
彼らはついさっきまで街を襲おうとしていたのだから、皮肉な事もあるものだ。
「は、はぁ・・・その、感謝されるほどの事では」
「いやいや、ご謙遜を!このご時世、見ず知らずの誰かを身を張って助けるなど中々出来る事ではないですよ!!ささっ、どうぞ街の中へ。簡単ではありますが、歓迎の席を用意してありますので」
彼らを出迎えたのは、意外にもユーリと同年代かそれよりも若い青年で、彼はダニエルと名乗っていた。
何でも最近領地を継いだばかりだというダニエルは、如何にも人が好さそうな笑顔を浮かべながら、ユーリ達に心からの歓迎の態度を示していた。
「あたし達がここにいると、この人達にまで迷惑が掛かるかもしれないわ。それに今の部隊の子達だと街で何を起こすか・・・ここはお礼だけ受け取って退散しましょう」
ユーリが領主の青年に対して何とも言えない表情を浮かべていると、シャロンがその耳元で囁く。
彼が言っていることは尤もに思え、ユーリは頷くとその意見を取り入れることにした。
「いえ、先を急ぎますので。ここで失礼させていただこうと思います」
「そうですか?無理に引き留める訳にはいきませんが・・・でしたらせめてお礼の品だけでも受け取っていってください」
ユーリが招待の辞退を告げると、ダニエルは残念そうな表情を浮かべ、せめてお礼の品だけでも受け取ってもらおうと部下に合図を送る。
部下達が大慌てで引いてきた荷車の上にはカバーが敷かれており、それを彼らが取り払うとそこには大量の食糧が満載されていたのだった。
「何か特産品でもあれば良かったのですが・・・生憎そういったものに縁がなくて、皆様ならばこういったものの方が喜ばれると思ったのですがどうでしょうか?」
お礼として贈る品が何の変哲もないものでしかない事を、ダニエルは恥ずかしそうにはにかんだ。
しかし知らなかったのだ、彼は。
ユーリ達がそのお礼の品を目にした沈黙が、余りの喜びに思わず言葉を失ってしまっているのだという事を。
「い、いいんですかこんなに!?ありがとうございます、ありがとうございます!!」
「は、ははは・・・こんなにも喜んでもらえるなんて。えっと、どれも普通のものですよ?どこででも手に入る・・・」
上がった歓声に、ユーリがダニエルに飛び掛かるようにして手を握っては感謝を告げる。
その猛烈な感謝の表現に、ダニエルは戸惑っては顔を引きつらせてしまっていた。
「それでいいんです!それがいいんです!!あ、駄目だぞ皆!ここで手をつけちゃ!!ちゃんと運んでからだ、いいな!」
荷車に積み上げられた食料の中には、そのまま手をつけられるものもあった。
それへとむしゃぶりついていた懲罰部隊の面々はユーリの声に非難の声を上げ、彼の背後ではエディがその手にした食べ物をこっそりと懐に仕舞っているところであった。
「それじゃあダニエルさん、またいつか機会がありましたら」
「えぇ、是非。皆様ならばいつでも歓迎ですので」
大勢の人々に見送られながらユーリ達は、ティカロンの街の後にしていく。
彼らの背後にはダニエルから寄贈された荷車を押しながら、その上の食料をニヤニヤと眺めている懲罰部隊の面々の姿があった。
「こらっ!ユーリが言ってたことを聞いてなかったのかい?食べるのは後にしな、後に!次やったら酷いよ!」
「へへっ、姉さん勘弁してくださいよ」
今もまた、その食料へと手を出そうとしている懲罰部隊の面々に鋭い声が飛ぶ。
それは新しい愛馬を器用に操り、小さな円を描きながら荷車の周りをぐるぐると回っているケイティのものであった。
「あの赤い髪・・・そ、そこの方!お待ちください!!」
ユーリ達の姿が見えなくなるまで街の入り口で手を振っていたダニエルが、その姿に何かに気がついたかのように声を上げる。
そして彼は慌てた様子で、ケイティへと駆け寄ってくるのだった。
「な、何だい?あ、あたいは別に悪い事は何も・・・」
近づいてきたダニエルに、何故だかケイティはいつもの歯切れの良さを失っていた。
彼女はまるで彼から目を背けるように、しどろもどろといった様子で視線を彷徨わせてしまっている。
「貴方のお名前は、ケイティ・・・ケイティ・オーリスではありませんか!?」
ダニエルはそんな彼女の様子などお構いなしに、走って乱れた息を整えると顔を上げ、その質問を必死な表情で叫んでいた。
「な、何いってるんだい。あたいはそんな大層な名前じゃ・・・」
「あら、貴方の名前はケイティで間違いないじゃない?それに・・・確かどこかでオーリスとも呼ばれていたのを聞いたわよ?えぇと、あれはどこだったかしら・・・」
「っ!ち、違っ!あ、あたいは―――」
ケイティは明後日の方向を向いたまま、自分はそんな名前じゃないと惚けて見せる。
しかしそれを横から出てきたシャロンが否定していた、しかも彼はご丁寧に彼女がオーリスと呼ばれていたという情報まで口にしていたのだった。
「あぁ、やっぱり・・・生きて、生きていたんだね姉さん!!!」
シャロンの言葉を耳にした瞬間、その目から涙を溢れさせプルプルと震えるダニエルは、地面へと崩れ落ちる。
そしてその下の土を幾らか濡らした後に彼は顔を上げると、その衝撃の事実を口走るのだった。
「「え、えぇーーー!!!?」」
驚きの声が、周囲から一斉に上がる。
その中で一人、ケイティだけが痛恨の極みといった表情で顔を顰めているのだった。
「あ、だよねだよね。そうだと思ってたんだ!いやー、良かった良かった勘違いじゃなくて」
いやもう一人、ここに周囲とは違った反応を示す者がいた。
その一人であるユーリは、どこか答え合わせが済んで安心したというように納得の表情を浮かべていたのだった。
「ユーリちゃん、もしかして貴方知ってたの?」
「え、そうですよ?あぁ、皆には見せてませんでしたっけ。前にケイティと決闘した時に、彼女のプロフィールを書き出したんですけど、そこにオーリスって名前があって・・・ほらここ、ちゃんとオーリス伯爵家の生まれって書いてあるでしょ?」
ユーリの発言に驚くシャロンが尋ねると、彼は荷物をごそごそと弄ってそれが書かれている一枚の紙片を取り出していた。
そこには確かに、ケイティがダニエルの家であるオーリス伯爵家の出身であると記されていた。
「「えぇー!?」」
再び、驚きの声が周囲から上がる。
しかしその声は、先ほどのものとは少しばかり性質が違うものであった。
ティカロンの街を襲撃している謎の兵士達、シャロンは彼らを指差しながらそれをルーカス達の部隊の兵士だと口にする。
確かに彼らが身に纏っている装備や、掲げている旗などは見覚えがあり、彼らがつい最近まで戦っていた部隊のものであると思われた。
「でも、だとしたら何で?」
「さぁ?でも、あたし達みたいに食うに困って・・・というのではなさそうね」
街を襲撃している部隊の身形は良く、顔色や体調も明らかに良さそうだ。
それはユーリ達のように、昨日から何も食べていないという状態ではない事をはっきりと示していた。
「日和見を決め込む、オーリス伯爵!!奴めは、ルーカス様からの再三に渡る協力の要請を断った!!よろしいならば奴らに教えてやるのだ、ルーカス様の申し出を断るとどうなるかという事を!!」
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「だ、そうよ」
それはその兵士達がなぜ街を襲っているか的確に説明しており、シャロンは説明の手間が省けたと肩を竦めて見せている。
「何が何だか分からねぇが・・・俺達が先に見つけた獲物だ、横取りは許さねぇ!!手前ら、行くぞ!!」
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それは自分達よりも先に街を襲っていた者達の姿に戸惑っていた、彼ら懲罰部隊の面々の声であった。
「え、ちょっと・・・駄目だって!!あぁもう・・・シャロンさん、俺達も行きましょう!!」
「えぇ!皆も聞いてたわね、あたし達も参戦するわよ!」
目の前で街を襲っているルーカス達の部隊へと突っ込んでいく、懲罰部隊の面々。
その光景に頭を抱えたユーリは、もはや見ていられないと自分達も参戦することを表明する。
それにシャロン達はや仲間達も頷き、彼らは再び馬へと跨ると戦いの最中へと突っ込んでいくのだった。
◇◆◇◆◇◆
「いやぁ、助かりました。まさか実力行使に出てくるとは思ってもいなくて・・・あのままでは街に被害も出ていたでしょう!どこの誰かは存じませんが、本当に感謝しています!!」
激闘の末、ユーリ達は何とか勝利した。
すると不思議な事に、彼らは街を襲撃から救ったヒーローとして歓迎されることになっていたのだ。
彼らはついさっきまで街を襲おうとしていたのだから、皮肉な事もあるものだ。
「は、はぁ・・・その、感謝されるほどの事では」
「いやいや、ご謙遜を!このご時世、見ず知らずの誰かを身を張って助けるなど中々出来る事ではないですよ!!ささっ、どうぞ街の中へ。簡単ではありますが、歓迎の席を用意してありますので」
彼らを出迎えたのは、意外にもユーリと同年代かそれよりも若い青年で、彼はダニエルと名乗っていた。
何でも最近領地を継いだばかりだというダニエルは、如何にも人が好さそうな笑顔を浮かべながら、ユーリ達に心からの歓迎の態度を示していた。
「あたし達がここにいると、この人達にまで迷惑が掛かるかもしれないわ。それに今の部隊の子達だと街で何を起こすか・・・ここはお礼だけ受け取って退散しましょう」
ユーリが領主の青年に対して何とも言えない表情を浮かべていると、シャロンがその耳元で囁く。
彼が言っていることは尤もに思え、ユーリは頷くとその意見を取り入れることにした。
「いえ、先を急ぎますので。ここで失礼させていただこうと思います」
「そうですか?無理に引き留める訳にはいきませんが・・・でしたらせめてお礼の品だけでも受け取っていってください」
ユーリが招待の辞退を告げると、ダニエルは残念そうな表情を浮かべ、せめてお礼の品だけでも受け取ってもらおうと部下に合図を送る。
部下達が大慌てで引いてきた荷車の上にはカバーが敷かれており、それを彼らが取り払うとそこには大量の食糧が満載されていたのだった。
「何か特産品でもあれば良かったのですが・・・生憎そういったものに縁がなくて、皆様ならばこういったものの方が喜ばれると思ったのですがどうでしょうか?」
お礼として贈る品が何の変哲もないものでしかない事を、ダニエルは恥ずかしそうにはにかんだ。
しかし知らなかったのだ、彼は。
ユーリ達がそのお礼の品を目にした沈黙が、余りの喜びに思わず言葉を失ってしまっているのだという事を。
「い、いいんですかこんなに!?ありがとうございます、ありがとうございます!!」
「は、ははは・・・こんなにも喜んでもらえるなんて。えっと、どれも普通のものですよ?どこででも手に入る・・・」
上がった歓声に、ユーリがダニエルに飛び掛かるようにして手を握っては感謝を告げる。
その猛烈な感謝の表現に、ダニエルは戸惑っては顔を引きつらせてしまっていた。
「それでいいんです!それがいいんです!!あ、駄目だぞ皆!ここで手をつけちゃ!!ちゃんと運んでからだ、いいな!」
荷車に積み上げられた食料の中には、そのまま手をつけられるものもあった。
それへとむしゃぶりついていた懲罰部隊の面々はユーリの声に非難の声を上げ、彼の背後ではエディがその手にした食べ物をこっそりと懐に仕舞っているところであった。
「それじゃあダニエルさん、またいつか機会がありましたら」
「えぇ、是非。皆様ならばいつでも歓迎ですので」
大勢の人々に見送られながらユーリ達は、ティカロンの街の後にしていく。
彼らの背後にはダニエルから寄贈された荷車を押しながら、その上の食料をニヤニヤと眺めている懲罰部隊の面々の姿があった。
「こらっ!ユーリが言ってたことを聞いてなかったのかい?食べるのは後にしな、後に!次やったら酷いよ!」
「へへっ、姉さん勘弁してくださいよ」
今もまた、その食料へと手を出そうとしている懲罰部隊の面々に鋭い声が飛ぶ。
それは新しい愛馬を器用に操り、小さな円を描きながら荷車の周りをぐるぐると回っているケイティのものであった。
「あの赤い髪・・・そ、そこの方!お待ちください!!」
ユーリ達の姿が見えなくなるまで街の入り口で手を振っていたダニエルが、その姿に何かに気がついたかのように声を上げる。
そして彼は慌てた様子で、ケイティへと駆け寄ってくるのだった。
「な、何だい?あ、あたいは別に悪い事は何も・・・」
近づいてきたダニエルに、何故だかケイティはいつもの歯切れの良さを失っていた。
彼女はまるで彼から目を背けるように、しどろもどろといった様子で視線を彷徨わせてしまっている。
「貴方のお名前は、ケイティ・・・ケイティ・オーリスではありませんか!?」
ダニエルはそんな彼女の様子などお構いなしに、走って乱れた息を整えると顔を上げ、その質問を必死な表情で叫んでいた。
「な、何いってるんだい。あたいはそんな大層な名前じゃ・・・」
「あら、貴方の名前はケイティで間違いないじゃない?それに・・・確かどこかでオーリスとも呼ばれていたのを聞いたわよ?えぇと、あれはどこだったかしら・・・」
「っ!ち、違っ!あ、あたいは―――」
ケイティは明後日の方向を向いたまま、自分はそんな名前じゃないと惚けて見せる。
しかしそれを横から出てきたシャロンが否定していた、しかも彼はご丁寧に彼女がオーリスと呼ばれていたという情報まで口にしていたのだった。
「あぁ、やっぱり・・・生きて、生きていたんだね姉さん!!!」
シャロンの言葉を耳にした瞬間、その目から涙を溢れさせプルプルと震えるダニエルは、地面へと崩れ落ちる。
そしてその下の土を幾らか濡らした後に彼は顔を上げると、その衝撃の事実を口走るのだった。
「「え、えぇーーー!!!?」」
驚きの声が、周囲から一斉に上がる。
その中で一人、ケイティだけが痛恨の極みといった表情で顔を顰めているのだった。
「あ、だよねだよね。そうだと思ってたんだ!いやー、良かった良かった勘違いじゃなくて」
いやもう一人、ここに周囲とは違った反応を示す者がいた。
その一人であるユーリは、どこか答え合わせが済んで安心したというように納得の表情を浮かべていたのだった。
「ユーリちゃん、もしかして貴方知ってたの?」
「え、そうですよ?あぁ、皆には見せてませんでしたっけ。前にケイティと決闘した時に、彼女のプロフィールを書き出したんですけど、そこにオーリスって名前があって・・・ほらここ、ちゃんとオーリス伯爵家の生まれって書いてあるでしょ?」
ユーリの発言に驚くシャロンが尋ねると、彼は荷物をごそごそと弄ってそれが書かれている一枚の紙片を取り出していた。
そこには確かに、ケイティがダニエルの家であるオーリス伯爵家の出身であると記されていた。
「「えぇー!?」」
再び、驚きの声が周囲から上がる。
しかしその声は、先ほどのものとは少しばかり性質が違うものであった。
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