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第二章 王国動乱
ルーカスは怒鳴り散らす
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「何故だ・・・何故こうも一方的に我が軍が負け続けるのだ!?話が違うではないか!!?」
王都クイーンズガーデンから西方、カンパーベック砦から数日ほど西南に足を進めた地点には、現王政から「反乱軍」と呼称されている軍隊の野営地が存在していた。
勿論それは現国王であるリリーナ女王率いる一派が呼称している名称であり、彼ら自身は「正当王権派」や「王弟派」等と自らを呼んでいた。
尤もそういった彼ら事情など関係なく、一般の王国民からはリリーナ女王率いる一派をオブライエン家の本拠である古都バーバリーから「東軍」、ルーカス達の一派をその下に集まった貴族達の領地から「西軍」とそれぞれに呼称していたのだった。
そんな「西軍」の野営地の中、一際大きな幕舎からその怒鳴り声は響いていた。
「ルーカス様、お控えを・・・」
その野営地に集まった軍の数は、一部隊のものというには大きすぎる規模であった。
それはその野営地に、西軍へと参加する貴族達が一堂に会していることを意味していた。
それらの貴族は野営地でも一番大きな幕舎、つまりここに集まっており、今まさに怒鳴り声を上げたルーカスの発言にざわざわと騒いでいるのであった。
「それどころではないわ!!これは一体どういう事だ、説明しろパトリック!!」
「ここでは・・・諸侯の目もあります」
ルーカスの背後に控え、周りの目を気にしてはその耳元で諫めるように囁いたパトリック。
しかし想定外の敗北の連続に気が立っているルーカスが、その程度で収まるはずもなかった。
「私も気になりますね、それは。説明いただいても、ボールドウィン卿?」
再び、周りの目を気にするような素振りを見せ、ルーカスの耳元で囁くパトリック。
そんな彼の言葉を咎めるようにわざとらしく声を上げたのは、その金髪をぺったりと舐めつけ洒落た衣装で身を包んだ若い貴族であった。
「・・・オルトン卿」
オルトンと呼ばれた若い貴族の服装は、そのまま王族が主催する舞踏会に参列しても不自然では程お洒落なものであった。
しかしそれを戦場であるこの場で身に纏ってくるのは不自然であり、現に彼の恰好は周りから完全に浮いている。
そんな周りから浮き白い目で見られる状況も、彼からすれば目立っているものと解釈されているようで、そんな彼を繁殖期にその派手な尾羽を広げて求愛するある鳥に見立て「孔雀公」と周りは呼んでいた。
「そうだパトリック!!お前には説明する義務がある!!」
「・・・皆様方がそこまで言われるならば」
孔雀公アントン・オルトンの援護を受けたルーカスはさらに声を高くしてパトリックに迫る、その声には周りからも賛同の声が上がる。
彼らの勢いに押されたパトリックは諦めたように静かに首を横に振ると、一歩前へと進みルーカスの横に並んでいた。
「それでは不肖ながらこの私、パトリック・ボールドウィンが説明させていただきます。皆様は我々共の部隊が何故敗北を重ねているか、それを知りたいのでございますね?」
そこで一拍置き、周りへと視線を向けたパトリックに列席した貴族達がうんうんと頷く。
「それは敵方の二つの部隊、その存在が大きく関わっているのでございます」
再び一拍置き、周りからの注目を待つパトリック。
「二つの部隊だと?一体どんな部隊だ!さっさと説明しろパトリック!!」
十分な間を置き、もったいぶることでその印象を強めようとしたパトリックの戦略、しかしそんな彼の考えなどルーカスには関係なかった。
早く説明しろと急かす彼の声に、パトリックは口の中だけで嘆息を漏らす。
「それはマーカス・オブライエン率いる王都防衛部隊と、ボロア・ボロリア率いる遊撃部隊です。この二つの部隊がちょうど盾と矛の役割を担い、こちらの部隊を散々に打ちのめした・・・皆様も覚えがおありなのではないでしょうか?」
パトリックが口にした二つの名前、それを耳にした貴族達の間に再びざわざわと動揺が広がっていく。
中には戦いの中で彼らの家紋を掲げた旗を目にしたと口にする貴族もあり、パトリックが口にした事が出任せではないと裏付けていた。
「・・・おかしいではないか、パトリック」
「何が・・・でしょうか、ルーカス様?」
広がりつつあった納得の輪、それにルーカスがむんずと腕を組んでは疑問を呈する。
「そうであろう?マーカスの方はまだ分かる。オブライエンの秘蔵っ子、その噂もあながち間違いではなかったという事であるだけなのだからな・・・忌々しい話ではあるが。しかしあのボロリア家の落ち零れに我らが翻弄されるだと?納得がいかんな!」
ルーカスが納得がいかなかったのは、敵方の有力な部隊としてボロアの名前が上がったからだった。
彼がボロリア家を継いでから実はまだ一年も経っていない、しかしその短い期間で彼の悪名は響き渡っており、そんな人間が率いる部隊に自分達が翻弄されたのかとルーカスは信じられなかったのだ。
「あぁ、それでしたら問題ないのです。優秀なのは彼ではなく、その下に編成された懲罰部隊ですので」
ルーカスが納得いかないと腕を組んだ問題、しかしそれを聞いたパトリックは逆に合点がいったという表情を浮かべていた。
何故なら彼は知っていたからだ、凄いのはボロアではなくその下にいる懲罰部隊であるという事を。
「懲罰部隊だと?まさか犯罪者だけで構成される、あの懲罰部隊か?そんな下賤な者達に我が軍がやられるだと?そんなもの信じられるか!!」
しかしその存在が、さらにルーカスの怒りを買う。
彼からすれば無能とはいえ同じ貴族であるボロアにやられるよりも、下賤の者の集まりである懲罰部隊にやられたという事実の方が耐え難かったのだ。
「バスカス平原の戦い」
「・・・何?」
そんなルーカスに、パトリックはある言葉をぽつりと呟く。
「バスカス平原の戦い。これはその懲罰部隊が救援に現れ、途端に優勢だった戦況が覆された戦いです。他にもリシュリー川を巡る争いや、オールヴィル城の包囲を破られた一件、それらにも全てその部隊が関わっています。他にもまだまだありますが・・・そうそうカンパーベック砦を取り返したのもその部隊のようですよ。何でもたったの四人でそれをやったという噂もあるそうですが・・・これでも信じられないと仰いますか?」
「ぐぬぬ・・・」
パトリックがぽつりと呟いた言葉は、懲罰部隊が華々しい活躍をした戦いの一つであった。
彼はその後も懲罰部隊の活躍の数々を口にしていき、これでもその実力を信じられないのかとルーカスに問いかける。
下賤の者達の活躍が気に食わないルーカスも、それには思わず押し黙り唸り声を上げるのが精一杯となってしまっていた。
「いやいや、それはおかしいでしょうボールドウィン卿?あのカンパーベック砦をたった四人で落としたなぞ、それこそ信じられない話・・・つまりその部隊の活躍そのものが作り話だという証左ではありませんか!」
「いや、それは嘘では。そこに証人もおられますし、そうでしょうガウンスト将軍・・・ガウンスト将軍?」
パトリックが止めとして語ったカンパーベック砦での逸話、しかしそのエピソードは余りに凄すぎたために嘘臭いとオルトンに指摘されてしまう。
当然、パトリックもそれは自覚しており証人も用意していたが、彼が発言を求めたガウンスト将軍はだんまりを決め込んでしまっていた。
何故なら彼にはカンパーベック砦失墜という失態に加え、そこで捕虜としていた子供に打ち倒されてしまうという大失態を演じてしまっているのだ、出来ればその話にはもう触れて欲しくないと思うのが当然だろう。
「はははっ、やはり作り話ではないですか!我々、高貴な血統の貴族がそんな下賤の者達に負ける訳がないのです!!今までの戦果も、たまたま向こうに良い目が続いたというだけ・・・どうですルーカス様、ここいらで一度決戦を仕掛けては?賭け事でも言うではありませんか、良い目ばかり続く訳がないと。向こうもそろそろ悪い目を引く頃です、それも特大の悪い目を、ね」
自らの犯した失態を恥じ押し黙ってしまったガウンスト将軍に、オルトンは勢いづく。
そして彼はその勢いのまま、ルーカスに決戦を迫ってしまうのだった。
「お、おぉ!そうだな、その通りだ!!オルトン卿の言う通り、向こうにばかりいい目が続く訳がないのだ!!決戦だ、決戦を仕掛けるぞ!!何、向こうはマーカスのような若造や懲罰部隊のような下賤な者にまで頼らなければならない状況なのだ!ここしばらく優勢といっても、元々我らの方が兵は多い・・・それだけ追い込まれていることなのだろう!皆、案じることはないぞ!!我らは勝てる!」
オルトンの言葉に乗せられたルーカスは目の前の机を両手で叩いて立ち上がると、こぶしを振り上げて決戦を宣言する。
その言葉に応えるように、オルトンを始めとする周りの貴族達も雄たけびを上げていた。
「ルーカス様、早計です!」
「即断即決こそ名将の証よ!何、言うではないか拙速は巧遅に勝ると・・・まさか負け続けのこちらから決戦を仕掛けるなど、向こうも予測しておるまい?ふははっ、待っておれよジーク・オブライエン!吠え面をかかせてくれるわ!」
当然、パトリックはルーカスのそんな行動を止めようとするが彼は聞く耳を持たない。
「決戦の地はトトール平原!」
「トトール平原?おぉ、それでは!」
「そうだ!かつて平定公リバリーが王賊バスバレイを打ち倒したその地にて、女王を名乗る小娘に傅く不逞の輩どもを打倒する!そして我々が、正当なる王国を取り戻すのだ!!」
周りの熱に当てられ盛り上がる彼らは、ルーカスが口にした言葉に最高潮へと達する。
かつて国家を盗んだ不逞の輩、それを打ち倒し国を取り戻した伝説の戦い、彼らはそれに自らをなぞらせて陶酔に浸る。
「平定公リバリーは敵方の首魁であるオブライエン家の出身・・・その上、当時の国はバスバレイ派と王党派で真っ二つに割れていた。今でこそバスバレイ派は賊軍と呼ばれていますが、当時は一般的に『西軍』と呼ばれていたのをご存じではないのですか?」
ルーカス達が持ち出した逸話、それは確かに自分達の状況によく似ている。
しかしそれは自分達が「賊軍」であり、負けた方であるバスバレイ派に似ているという事であった。
それを諦めたように口にするパトリック、口々に雄たけびを上げこぶしを振り上げている貴族達に、そんな彼の言葉を聞く者は皆無であった。
王都クイーンズガーデンから西方、カンパーベック砦から数日ほど西南に足を進めた地点には、現王政から「反乱軍」と呼称されている軍隊の野営地が存在していた。
勿論それは現国王であるリリーナ女王率いる一派が呼称している名称であり、彼ら自身は「正当王権派」や「王弟派」等と自らを呼んでいた。
尤もそういった彼ら事情など関係なく、一般の王国民からはリリーナ女王率いる一派をオブライエン家の本拠である古都バーバリーから「東軍」、ルーカス達の一派をその下に集まった貴族達の領地から「西軍」とそれぞれに呼称していたのだった。
そんな「西軍」の野営地の中、一際大きな幕舎からその怒鳴り声は響いていた。
「ルーカス様、お控えを・・・」
その野営地に集まった軍の数は、一部隊のものというには大きすぎる規模であった。
それはその野営地に、西軍へと参加する貴族達が一堂に会していることを意味していた。
それらの貴族は野営地でも一番大きな幕舎、つまりここに集まっており、今まさに怒鳴り声を上げたルーカスの発言にざわざわと騒いでいるのであった。
「それどころではないわ!!これは一体どういう事だ、説明しろパトリック!!」
「ここでは・・・諸侯の目もあります」
ルーカスの背後に控え、周りの目を気にしてはその耳元で諫めるように囁いたパトリック。
しかし想定外の敗北の連続に気が立っているルーカスが、その程度で収まるはずもなかった。
「私も気になりますね、それは。説明いただいても、ボールドウィン卿?」
再び、周りの目を気にするような素振りを見せ、ルーカスの耳元で囁くパトリック。
そんな彼の言葉を咎めるようにわざとらしく声を上げたのは、その金髪をぺったりと舐めつけ洒落た衣装で身を包んだ若い貴族であった。
「・・・オルトン卿」
オルトンと呼ばれた若い貴族の服装は、そのまま王族が主催する舞踏会に参列しても不自然では程お洒落なものであった。
しかしそれを戦場であるこの場で身に纏ってくるのは不自然であり、現に彼の恰好は周りから完全に浮いている。
そんな周りから浮き白い目で見られる状況も、彼からすれば目立っているものと解釈されているようで、そんな彼を繁殖期にその派手な尾羽を広げて求愛するある鳥に見立て「孔雀公」と周りは呼んでいた。
「そうだパトリック!!お前には説明する義務がある!!」
「・・・皆様方がそこまで言われるならば」
孔雀公アントン・オルトンの援護を受けたルーカスはさらに声を高くしてパトリックに迫る、その声には周りからも賛同の声が上がる。
彼らの勢いに押されたパトリックは諦めたように静かに首を横に振ると、一歩前へと進みルーカスの横に並んでいた。
「それでは不肖ながらこの私、パトリック・ボールドウィンが説明させていただきます。皆様は我々共の部隊が何故敗北を重ねているか、それを知りたいのでございますね?」
そこで一拍置き、周りへと視線を向けたパトリックに列席した貴族達がうんうんと頷く。
「それは敵方の二つの部隊、その存在が大きく関わっているのでございます」
再び一拍置き、周りからの注目を待つパトリック。
「二つの部隊だと?一体どんな部隊だ!さっさと説明しろパトリック!!」
十分な間を置き、もったいぶることでその印象を強めようとしたパトリックの戦略、しかしそんな彼の考えなどルーカスには関係なかった。
早く説明しろと急かす彼の声に、パトリックは口の中だけで嘆息を漏らす。
「それはマーカス・オブライエン率いる王都防衛部隊と、ボロア・ボロリア率いる遊撃部隊です。この二つの部隊がちょうど盾と矛の役割を担い、こちらの部隊を散々に打ちのめした・・・皆様も覚えがおありなのではないでしょうか?」
パトリックが口にした二つの名前、それを耳にした貴族達の間に再びざわざわと動揺が広がっていく。
中には戦いの中で彼らの家紋を掲げた旗を目にしたと口にする貴族もあり、パトリックが口にした事が出任せではないと裏付けていた。
「・・・おかしいではないか、パトリック」
「何が・・・でしょうか、ルーカス様?」
広がりつつあった納得の輪、それにルーカスがむんずと腕を組んでは疑問を呈する。
「そうであろう?マーカスの方はまだ分かる。オブライエンの秘蔵っ子、その噂もあながち間違いではなかったという事であるだけなのだからな・・・忌々しい話ではあるが。しかしあのボロリア家の落ち零れに我らが翻弄されるだと?納得がいかんな!」
ルーカスが納得がいかなかったのは、敵方の有力な部隊としてボロアの名前が上がったからだった。
彼がボロリア家を継いでから実はまだ一年も経っていない、しかしその短い期間で彼の悪名は響き渡っており、そんな人間が率いる部隊に自分達が翻弄されたのかとルーカスは信じられなかったのだ。
「あぁ、それでしたら問題ないのです。優秀なのは彼ではなく、その下に編成された懲罰部隊ですので」
ルーカスが納得いかないと腕を組んだ問題、しかしそれを聞いたパトリックは逆に合点がいったという表情を浮かべていた。
何故なら彼は知っていたからだ、凄いのはボロアではなくその下にいる懲罰部隊であるという事を。
「懲罰部隊だと?まさか犯罪者だけで構成される、あの懲罰部隊か?そんな下賤な者達に我が軍がやられるだと?そんなもの信じられるか!!」
しかしその存在が、さらにルーカスの怒りを買う。
彼からすれば無能とはいえ同じ貴族であるボロアにやられるよりも、下賤の者の集まりである懲罰部隊にやられたという事実の方が耐え難かったのだ。
「バスカス平原の戦い」
「・・・何?」
そんなルーカスに、パトリックはある言葉をぽつりと呟く。
「バスカス平原の戦い。これはその懲罰部隊が救援に現れ、途端に優勢だった戦況が覆された戦いです。他にもリシュリー川を巡る争いや、オールヴィル城の包囲を破られた一件、それらにも全てその部隊が関わっています。他にもまだまだありますが・・・そうそうカンパーベック砦を取り返したのもその部隊のようですよ。何でもたったの四人でそれをやったという噂もあるそうですが・・・これでも信じられないと仰いますか?」
「ぐぬぬ・・・」
パトリックがぽつりと呟いた言葉は、懲罰部隊が華々しい活躍をした戦いの一つであった。
彼はその後も懲罰部隊の活躍の数々を口にしていき、これでもその実力を信じられないのかとルーカスに問いかける。
下賤の者達の活躍が気に食わないルーカスも、それには思わず押し黙り唸り声を上げるのが精一杯となってしまっていた。
「いやいや、それはおかしいでしょうボールドウィン卿?あのカンパーベック砦をたった四人で落としたなぞ、それこそ信じられない話・・・つまりその部隊の活躍そのものが作り話だという証左ではありませんか!」
「いや、それは嘘では。そこに証人もおられますし、そうでしょうガウンスト将軍・・・ガウンスト将軍?」
パトリックが止めとして語ったカンパーベック砦での逸話、しかしそのエピソードは余りに凄すぎたために嘘臭いとオルトンに指摘されてしまう。
当然、パトリックもそれは自覚しており証人も用意していたが、彼が発言を求めたガウンスト将軍はだんまりを決め込んでしまっていた。
何故なら彼にはカンパーベック砦失墜という失態に加え、そこで捕虜としていた子供に打ち倒されてしまうという大失態を演じてしまっているのだ、出来ればその話にはもう触れて欲しくないと思うのが当然だろう。
「はははっ、やはり作り話ではないですか!我々、高貴な血統の貴族がそんな下賤の者達に負ける訳がないのです!!今までの戦果も、たまたま向こうに良い目が続いたというだけ・・・どうですルーカス様、ここいらで一度決戦を仕掛けては?賭け事でも言うではありませんか、良い目ばかり続く訳がないと。向こうもそろそろ悪い目を引く頃です、それも特大の悪い目を、ね」
自らの犯した失態を恥じ押し黙ってしまったガウンスト将軍に、オルトンは勢いづく。
そして彼はその勢いのまま、ルーカスに決戦を迫ってしまうのだった。
「お、おぉ!そうだな、その通りだ!!オルトン卿の言う通り、向こうにばかりいい目が続く訳がないのだ!!決戦だ、決戦を仕掛けるぞ!!何、向こうはマーカスのような若造や懲罰部隊のような下賤な者にまで頼らなければならない状況なのだ!ここしばらく優勢といっても、元々我らの方が兵は多い・・・それだけ追い込まれていることなのだろう!皆、案じることはないぞ!!我らは勝てる!」
オルトンの言葉に乗せられたルーカスは目の前の机を両手で叩いて立ち上がると、こぶしを振り上げて決戦を宣言する。
その言葉に応えるように、オルトンを始めとする周りの貴族達も雄たけびを上げていた。
「ルーカス様、早計です!」
「即断即決こそ名将の証よ!何、言うではないか拙速は巧遅に勝ると・・・まさか負け続けのこちらから決戦を仕掛けるなど、向こうも予測しておるまい?ふははっ、待っておれよジーク・オブライエン!吠え面をかかせてくれるわ!」
当然、パトリックはルーカスのそんな行動を止めようとするが彼は聞く耳を持たない。
「決戦の地はトトール平原!」
「トトール平原?おぉ、それでは!」
「そうだ!かつて平定公リバリーが王賊バスバレイを打ち倒したその地にて、女王を名乗る小娘に傅く不逞の輩どもを打倒する!そして我々が、正当なる王国を取り戻すのだ!!」
周りの熱に当てられ盛り上がる彼らは、ルーカスが口にした言葉に最高潮へと達する。
かつて国家を盗んだ不逞の輩、それを打ち倒し国を取り戻した伝説の戦い、彼らはそれに自らをなぞらせて陶酔に浸る。
「平定公リバリーは敵方の首魁であるオブライエン家の出身・・・その上、当時の国はバスバレイ派と王党派で真っ二つに割れていた。今でこそバスバレイ派は賊軍と呼ばれていますが、当時は一般的に『西軍』と呼ばれていたのをご存じではないのですか?」
ルーカス達が持ち出した逸話、それは確かに自分達の状況によく似ている。
しかしそれは自分達が「賊軍」であり、負けた方であるバスバレイ派に似ているという事であった。
それを諦めたように口にするパトリック、口々に雄たけびを上げこぶしを振り上げている貴族達に、そんな彼の言葉を聞く者は皆無であった。
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