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第二章 王国動乱

懲罰部隊の栄光

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「えー・・・うちの新しい軍師、シーマス・チットウッド君です!皆、盛大に拍手!!」

 翌日、昨日の激しい戦いの後のためたっぷりと休息を取った懲罰部隊の面々が昼前になってゆっくりと起き出すと、前にユーリとケイティが決闘を行った広場に集められていた。
 そこで彼らが目にしたのは、何が何だか分からない表情で皆の前に連れ出されたシーマスの姿と、彼を送り出し自らでわーっと歓声を上げながら拍手しているユーリの姿であった。

「これからは彼が部隊に指示を出すので、その指示に従ってくださいね。あ、心配しなくても大丈夫ですよ!彼、あの国葬騎士団でも指揮の成績で一番だったんです!ほら前に言ったじゃないですか、そういうのに詳しい奴がいるって!それが彼だったんですよ、いやーこんなところで偶然再会するなんて、何てついてるんだろう!!」

 シーマスを紹介するユーリの表情は嬉しくて堪らないといった様子で、周りに口を挟ませる暇を与えない。
 そんな彼の様子に、囚人部隊の一同は呆気に取られたようにポカンとした表情で彼らを見上げていた。

「えー、紹介に上がりましたシーマス・チットウッドです。如才ながら、精一杯務めさせていただきます。皆様どうか、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

 ユーリの熱の籠った紹介と対極を位置するように、シーマスの挨拶は淡々としていた。
 そんな彼の振る舞いも嬉しくて仕方がないのか、ユーリはその拍手を一層激しく打ち鳴らしていた。

「お、おぉー・・・なぁ、国葬騎士団出身の軍師って凄いのかな?」
「さぁ?凄いんじゃないか?」
「今どき軍師って・・・普通参謀とかじゃねぇのか?」

 昨日の戦いがまだ糸を引いているのか、ぐったりとした様子の囚人部隊の面々は、もはや考えるのも面倒だといった態度で、疎らな拍手を打ち鳴らしている。
 その緩い歓迎ムードをユーリはニコニコと、シーマスはつまらなそうに受け取っていた。

「ふんっ!そんな簡単に行くもんかい!!」

 そんなもはや緩いを通り越してぐだぐだな雰囲気へとなってきたシーマスの歓迎会、その会場の隅っこで一人イライラと頻りに足を踏み鳴らしている女性の姿があった。
 その女性、ケイティは腕を組んでは不機嫌そうな表情で鼻を鳴らすと、吐き捨てるようにそう呟く。

「ね、知ってるエディちゃん?黒葬騎士団って一時期、団員同士の恋愛が問題になって、それに重い罰則が定められたことがあったんですって。あの二人ももしかして・・・何て、きゃー!!どうしましょう!?ね、エディちゃんはどう思う!?」
「姉さん・・・あっしは身内にそういうことを考えるのはよくねぇと思いやすよ」
「あら?恋愛に身内も何もないわよ!!あぁ、気になるわぁ」

 やたらとシーマスに優しいユーリと、それを冷たくあしらうシーマス。
 そんな二人の姿に妄想を爆発させて騒いでいるシャロンに、エディとデズモンドは冷たい視線を向けていた。

「どこの誰とも知らない男をいきなり軍師に抜擢ですかい。へへっ、こいつはあの人の言う通りかもしれないですな!頭ぁ、頭もそう思うでやしょ?」

 彼らの頭であるケイティがシーマスの存在を気に入っていない、それを素早く察した彼女の部下はそのご機嫌を伺おうとそんなことを口走っていた。
 それを察した彼の鼻は悪くはない、しかし惜しむらくは乙女心の理解に欠いた事であった。

「うるさい!!!」

 そのため、彼はケイティから拳骨を食らい、涙目を浮かべることになる。

「ふんっ!どうせうまくいく訳ないんだ、あんな奴なんて!!」

 肩を怒らせながらその場を立ち去るケイティは、その最後に振り替えると吐き捨てるようにそう口走る。
 その視線の先にはニコニコと笑いかけるユーリと、それにそっぽを向くシーマスの姿があった。

◇◆◇◆◇◆

「・・・嘘でしょ?」

 戦場の片隅、愛馬の背に乗ったケイティは敗走する兵士の姿を見つめながらそう呟く。
 その青く染まった顔は、味方の敗北を意味しているのか。

「う、うおおおおぉぉぉ!!!」
「やった、やったぞ勝ったんだ俺達!!」
「馬鹿、勝ったなんてもんじゃねぇ!!大勝利だ大勝利!!」

 違う、彼らは勝ったのだ。
 しかもただの勝利などというちっぽけなものではなく、一方的に敵を蹂躙する大勝利という形で。
 ケイティの視線の先では、その勝利に沸き上がる懲罰部隊の面々の姿があった。

「やったなシーマス、大勝利じゃないか!ははっ、俺も鼻が高いよ!!」
「まだだ、これから足の速い兵を集めて追撃戦に入る。敵の逆襲がないとも限らないからな、それも警戒しなければ・・・」
「え、そうなの?」
「・・・こんなことも知らずに指揮を執っていたのか?」

 味方が勝利したというだけならば、ケイティも若干の不満を抱えながら喜ぶことが出来ただろう。
 しかし目の前で想い人であるユーリが他の男とイチャイチャしているのを見せつけられれば、事情も変わってくる。
 彼女は歯を食いしばると鬼のような形相でそれを睨みつける、その迫力に彼女が騎乗している愛馬も思わず怯えたように鳴き声を上げてしまっていた。

「ふ、ふんっ!こんなのマグレに決まってる!!次はないさ!!」

 シーマスの実力を認められないケイティは、この結果は偶然の産物だと高を括る。
 確かに一度だけの大勝利ならば、天運によるものという事もあるだろう。
 しかしそれが二度三度と続けば、それはもはや偶然とは呼べない。
 シーマスは今一度目の勝利を齎した、果たして彼はこれから先二度三度と勝利を続けられるだろうか。
 ケイティはシーマス達から背を向け、明後日の方向へと馬を進める、その先に待っているであろう次なる戦いに向かって。

◇◆◇◆◇◆

 リグリア王国某所、女王派陣内にて。

「おい、聞いたか?何でもある部隊がとんでもない快進撃を続けてるって噂」
「あぁ、聞いた聞いた!でもあれだろ?それってあの『ボンクラ』ボロアの部隊だって噂だろ?ちょっと信じられないな」

 そこに集まっているのは、それぞれが一部隊を預かるような貴族の面々だ。
 彼らはこうして時々集まり、お互いの情報を交換しては戦力や物資を融通し合っていた。
 そんな彼らの間で、最近まことしやかに話されているある噂があった。

「『裸の王様』のボロアだろ?あいつを担いで裸に街に出してやったことあったもんな、あいつまんまと信じて・・・って、それは今はどうでもいいか。それよりどうも本当らしいぜ、俺も複数筋から聞いたからな」
「えぇ、本当かよ?」
「あぁそうか、お前は知らないもんな。安心しろって、凄いのはボロアじゃない。奴の下にいる部隊が凄いんだと、何でもあのジーク・オブライエンが自ら組織した秘密部隊だって話だぜ?」

 それはあの「ボンクラ」ボロアの部隊が、各地の戦場で快進撃を続けているという噂だった。
 快進撃を続けるボロア、その姿は普段の彼を知っている貴族達からすれば信じられない。
 しかしある貴族が口にしたその言葉を聞けば、彼らもその噂を信じざるを得ないだろう。

「宰相閣下の!?そうなると確かにその噂もあながち嘘じゃないと思えてくるが・・・しかし何でそんな部隊がボロアの下に?あんな奴の下じゃ宝の持ち腐れだろ」
「さぁ?あいつなら扱いやすいって思ったんじゃないか、人の言う事を簡単に信じるからな」
「はははっ、違いない!」

 宰相であるあのジーク・オブライエンが組織した秘密部隊、ボロアの快進撃がその部隊によって齎されたと知った貴族達は、その噂もあながち嘘じゃないと思い始める。
 何故そんな部隊がボロアの下に配属されたのだという話題で冗談を言うあう彼ら、その影はランタンの頼りない明りに照らされゆらゆらと輪郭を揺らしていた。

「で、だ・・・そのボロアの部隊なんだが、奴ら今はどうやら遊撃部隊のような役割をしてるらしくてな、派兵してくれるように頼めばこっちにも来てくれるんだと。なぁ、どうするよ?」

 ボロアの肴に一頻り楽しんだ彼らは不意に静まると、その中の一人がゆっくりと語り始める。
 それはそのボロアの部隊を、自分達の戦場にも呼び寄せられるかもしれないという話だった。

「お、俺は頼むぞ!戦力は少しでも欲しいんだ!!」
「じゃあ俺も頼んでみるかな、その噂の部隊がどんなもんかこの目で確かめたいしな」
「なら俺も!!」

 一人がそれを口にし、二人目がそれに追従すれば後は一瞬だった。
 俺も俺もとあちこちから声が上がり、彼らは競うようにボロアの部隊、ユーリ達の懲罰部隊へと派兵を求める嘆願書を書き上げ始める。

「しかしあれだな、そんな快進撃を続けてるんなら、さぞや楽しいだろうなボロアの奴」
「あぁ、それにその下の秘密部隊って奴らも、今は楽しくって仕方ないだろうな。全く、あやかりたいもんだぜ」

 皆が競うように嘆願書を書き上げる中、いち早くそれを書き終えた貴族の青年は顔を上げるとそう口にする。
 その声に彼と同じように嘆願書を書き終えたもう一人の貴族が応えると、彼らはお互いに笑い合っていた。
 ボロアが、彼らの下にいる懲罰部隊の連中が羨ましいと。

◇◆◇◆◇◆

 立ち込める土煙、それが晴れるとそこには勝利に沸き上がる懲罰部隊の面々の姿があった。
 ここはもはやどこかも分からないほどに駆け回った戦場の一つ、彼らはそこで今日も勝利を収めたのであった。

「どうして・・・」

 彼らはその勝利を導いた指揮官であるシーマスの周りに集まっては、その名を讃える。
 その輪の中心には当然、ユーリとシーマスの姿があった。
 そこでいつものようにいちゃいちゃしている二人の姿に、ケイティは愛馬の上で歯ぎしりをしていた。

「どうして、こうなるんだよ!!」

 彼女は一人、嘆きの声を上げる。
 しかしそれも勝利を喜ぶ懲罰部隊の雄たけびの前に、簡単に掻き消されてしまうのだった。
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