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第二章 王国動乱

懲罰部隊と隊長

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「えーっと、これからどうすればいいんだ?」

 カンパーベック砦奪還事件、そう事件と呼ぶに相応しいあの出来事から数週間、ユーリ達懲罰部隊は別の戦場へと赴くとそこで野営地の設営を行っていた。
 王都へと報告に向かったボロアが帰ってくると、彼は何かに追い立てられるように張り切り、そのためにユーリ達も彼に付き合って各地を転戦する羽目となっていたのだ。

「あれ、もしかしてこれ順番逆だった?いや待てよ、やっぱり・・・あぁ!?」

 細い木の支柱を地面に突き立てながらロープを手に悩んでいたユーリは、どこかで手順を間違っていたのかと考えるとそれから手を放す。
 しかしすぐにそれが正しかったと考え直した彼が顔を上げれば、そこにはせっかく立てた支柱がゆっくりと倒れていく姿が映っていた。

「おっと、大丈夫ですかい隊長?」

 ユーリは慌ててそれへと手を伸ばすが間に合わない、既に粗方の作業が終わり他のパーツともロープで結ばれていた支柱はそれらも巻き込んで倒壊しようとする。
 その刹那、横からにゅっと伸びた武骨な手がそれを拾い、倒壊を防ぐ。
 支柱を拾い上げた男は、それが元々立ててあった地面へとそれを立て直すとユーリに親しげに声を掛けてきていた。

「あぁ、ありがとうございます!助かりました」

 その男はつい先日までユーリの事を蔑み、馬鹿にしていた囚人部隊の一人であった。
 そんな彼が今では、ユーリを隊長と慕い優しく声を掛けてくる。

「へへっ、これぐらいお安い御用ってなもんで。何ならもっとお手伝いいたしやしょうか?隊長のご用命ってんなら何だって―――」
「おい手前!なに抜け駆けしてんだよ!!隊長、そんな奴じゃなくておいらに任してくださりゃ二倍の仕事を半分の時間でこなして見せやすぜ!」
「んなもん出来る訳ねぇだろうが、このほら吹き野郎が!!隊長、俺はこいつらと違って堅実が売りの男なんでさぁ!俺に任せてもらえればそりゃもん確実万全に仕事をやりやすぜ!!」
「んだと!?誰がほら吹きだ!!手前なんざ、ただ仕事がのろいだけのとんま野郎じゃねぇか!!」
「あぁ!?そっちこそ手抜きが上手いだけの半端野郎のくせによぉ!二倍仕事をこなしても、三倍不良品を作りゃ世話ねぇわな!!」

 それどころか、こうしてユーリの仕事を手伝おうと囚人同士の奪い合いが巻き起こる次第だった。
 その光景は、ユーリ達が起こしたカンパーベック砦奪還という事件によって、彼らがユーリの実力を認めたことを示すものであった。

「あわわ・・・だ、大丈夫ですから!ここは俺だけで大丈夫ですから!!皆さんは他の仕事をお願いします!」
「そうですかい?そんじゃまた何かあったら呼んでくださいよ、すぐに飛んできますんで」
「へへっ、お願いしやすよ隊長。俺達ゃ、隊長には返しきれないほどの『恩』があるんですから」

 例の事件によって彼らがユーリの実力を認めたという事は、間違いない。
 しかし、実はそれがこの状況を作り出した全てではなかった。

「『恩』ねぇ・・・しかしまぁ、兄さんはどうしてあんなことをしちまったんだか」
「あら、何の話?」

 集まって来た囚人達をユーリが必死に追い返している、そんな光景を眺めながら彼の脱獄仲間であるエディがしみじみと呟く。
 そんな彼にテント設営のための資材を運ぶにもどこかお洒落な仕草でこなしていたシャロンが、ふとその手を止め尋ねていた。

「何の話って・・・決まってるじゃねぇですか、姉さん!あれですよあれ!!折角見つけた財宝を囚人共にくれちまった事でさぁ!!」
「何よ、大袈裟に騒いじゃってそんな事?別にいいじゃない、あんなお金なんて。どこから出てきたのかも分かんないものなんだから!逆に良かったぐらいだわ、えんがちょよえんがちょ!」

 囚人部隊を焚きつけるために用いたカンパーベック砦に財宝が隠されているという噂、それはエディがついた真っ赤な嘘の筈であった。
 しかし驚いた事に、あの砦には本当に財宝が隠されており、ユーリはそれらの財宝を気前よく囚人達へと分け与えてしまったのだ。
 常人には考えられないような偉業を為し、それで手に入れた財産すら惜しげもなく分け与える、そこまでされては生粋のへそ曲がりばかりが集まった囚人部隊の面々も心酔するというものである。
 以上がユーリ達がカンパーベック砦を奪還してからの経緯であり、ユーリが囚人達の隊長として認められるようになったあらましである。

「・・・ふんっ!」

 そんな彼らの姿を、遠くから怨めしそうに見つめる金髪の男、ボロアの姿があった。
 実は彼らが手に入れた財宝というのはボロアが、というよりも主に彼の指示を受けたセバスがあくどい方法で必要以上にせしめた軍資金なのであった。
 不在の間に行われた財宝の分配は、ジークにこっぴどくやられ砦へと帰ってきた彼に追い打ちのショックを与えていたが、元々が後ろ暗い金のため言い出すことが出来ず今日に至っていた。
 そのため彼はそうした諸々な恨み抱え、前にも増してユーリの事を憎むようになったのである。

「・・・何なのかしら、あれ?」

 ユーリ達の方へと恨みがましい視線を向けては、わざとらしく顔を逸らし去っていくボロアに、シャロンは不思議そうに首を傾げている。

「さぁ?それにしても、はぁ・・・もったいねぇもったいねぇ」
「もぅ、しつこいわよエディちゃん!ほら、あれを御覧なさい!あれを見てもまだもったいなかったって思うの?」

 シャロンがどんなに言って聞かせても、ぶつぶつともったいないと呟いては未練がましい表情を浮かべるエディに、シャロンは彼の顔を無理やり上げると伸ばした腕の先を見ろと促していた。

「隊長!ちょっとよろしいですかい?聞きたいことがありやして・・・」
「はいはーい、今行きまーす!」
「隊長、こっちもいいですかい!」
「あ、これが終わったら行きますから、ちょっと待っててくださーい!」

 その先には、隊長隊長と慕う囚人達とその間を忙しそうに、しかしどこか楽しそうに駆けまわっているユーリの姿があった。

「・・・ま、悪い気はしやせんけどね」
「でしょ?良かったのよあれで」

 漏らした息に、諦めたようなそれでいて満足そうな表情でエディはそう呟く。
 その言葉に腕を組みうんうんと大きく頷いているシャロン、その背後では一人黙々と野営地の設営作業を続けていたデズモンドが仕事の手を止め、いつもようにむっつりと頷いていたのだった。
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