【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第二章 王国動乱

助けに戻る二人

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「ユーリちゃん、デズモンドちゃん!二人とも、ちゃんとついて来てるわね!?」

 門が下がるのと連動して上がっていく跳ね橋は、僅かに下りたそれに先端を跳ねさせている。
 それを華麗に飛び越え、着地も見事に決めたシャロンは再び駆け出すとそう背後へと声を掛ける。

「・・・あぁ」

 しかしそれに返事を返したのは、その巨体でありながらも身軽そうなシャロンよりも見事に跳躍し、音もなく着地を決めて見せたデズモンドだけであった。

「あら、デズモンドちゃんだけ?ユーリちゃん、お返事は―――」
「シャロン!」

 それを不審に思い足を緩め振り返ろうとしたシャロンに、デズモンドの鋭い声が飛ぶ。
 彼はその太い腕でシャロンの前方を指しており、その先からは何やら怪しい人影が彼らの行く手を遮るように飛び出してきていた。

「了解よ、デズモンドちゃん!あたし達の邪魔をする悪い子には、容赦しないんだから!」

 デズモンドの声を受けたシャロンの反応は早く、その瞬間にはもはや腰にぶら下げていた細身の剣を抜き放っていた。
 居合の要領で抜き放たれた剣先は鋭く、彼らの目の前に立ち塞がった首筋へと寸分違えずに迫る。

「ちょ、ちょっと待ってくだせぇ!姉さん、あっしですよあっし!エディ・パーカーでやす!」

 その怪しい人影は、彼らの仲間であるエディ・パーカーその人であった。
 必死な表情で敵意はないと両手を振っている彼の首筋、その皮一枚を断ち切ったところでシャロンが振るった剣先はピタリと止まっていた。

「あら、エディちゃんじゃない。どうしたの、こんなところで?」
「どうしたもこうしたも・・・それはこっちの台詞でやすぜ!何で姉さん方がこっちに来てるんです?囚人共を先導するのはあっしの役回りでがしょ?」

 エディの首筋から剣先を引いていくシャロンの表情はどこか残念そうだ、そんな彼の表情にその無事を確かめるように首を擦っているエディは、思いがけない彼らとの合流を不思議がっていた。

「まぁ、色々あったのよ色々とね」
「そりゃそうでしょうが・・・そんな事より兄さんはどこに行ったんで?一緒じゃなかったんですかい?」
「・・・え?」

 自分のしょーもない行動によって巻き起こったトラブルも、シャロンに語らせれば逃れられない悲劇の運命にも思える。
 しかしそんな彼の大袈裟な振る舞いにも慣れているのか、エディはそれに目を細くしただけで彼が気づいた疑問について口にしていた。

「まぁ大変!?ユーリちゃんがいないわ!!」
「・・・困った」
「えぇ!?気づいてなかったんで!?」

 エディの指摘に、初めてユーリの不在に気がついた二人は、それぞれやり方で最大限の驚きを示している。
 そんな二人の姿に、エディが逆に驚き呆れるような声を漏らしていた。

「きっと逃げ遅れちゃったんだわ!デズモンドちゃん、助けに行くわよ!!」
「・・・あぁ」

 ユーリの不在に彼が逃げ遅れてしまったのだと判断したシャロンは、すぐに彼の救出に向かおうと踵を返し、それにデズモンドも従う。

「くそっ、こいつ次から次へと・・・おい、もっと増援を寄越してくれ!!このままじゃ、ぐはぁ!?」
「ひゃはははっ!!こいつらほんとに出てきやがったぞ!!おらおら、お前らもっと張り切りやがれぇ!聞いた話じゃ、こいつらたんまりお宝を隠し持ってやがるんだと!ここを落としゃ、略奪し放題だぜぇ!!ひゃっはー!!!」

 しかし彼らが振り返った先では、もはや簡単に通り抜けられようもない地獄のような光景が繰り広げられていた。
 迫る敵兵から砦を守ろうと打って出た兵士達と、エディに財宝があると唆され砦を襲撃している囚人達、それらが激しくぶつかり合う戦場に思わずシャロン達はその足を止めてしまっていた。

「そんなこれじゃ、ユーリちゃんを助けに行くなんて・・・」

 余りに激しい戦闘は、その間をこっそり通り抜けていくことも許さない。
 シャロンはその光景に、ユーリを助けに行くことが不可能だとがっくりと項垂れる。

「ふっふっふ、こんなこともあろうかと・・・旦那、こいつを使ってくだせぇ」
「これは?」
「鍵縄って奴でさぁ、デズモンドの旦那ならこいつであんな城壁なんてひょいと越えられちまいますでしょ?いやね、ついさっきまで囚人共を騙くらかすために奴らの陣地を回ってたんですが、そこで偶然こいつを見つけましてね。何かに使えるかと思ってかっぱらっといたんですが・・・こうもすぐに役立つとは、あっしの鼻も中々馬鹿にならねぇもんでがしょ?」

 落ち込むシャロンにエディが思わせぶりな態度で差し出したのは、城壁など高所を上るために使う道具、鍵縄であった。

「あら、いいところもあるじゃないエディちゃん・・・でもこんな便利な道具があるなら、最初からこれを使えばよかったのに」
「こんなもの、今みたいな混乱した状況でしか使えないに決まってでやしょ!?ほら、とにかく行った行った!早いとこ兄さんを助け出してやってくだせぇ!」

 エディから受け取った鍵縄をデズモンドに手渡しながら、シャロンはそんな疑問を口にする。
 エディはそんなうまい話がある訳ないと怒りながら、彼らの背中をグイグイと押していた。

「そんな押さなくったってすぐに行くわよ、もぅ!とにかく助かったわ、エディちゃん!そっちも引き続きよろしくね!!」
「へい、こっちは任せといてくだせぇ!!あぁ、それより姉さん!向こうでけったいな赤毛の趣味の悪いハート型のピアスをした兵士を見かけたらこう言ってやってくだせぇ、『お前の尻の秘密は知っている』と!そうすりゃそいつはもう姉さんの思うがままでやすよ!!」

 背中を押され駆けていくシャロンに、エディは手を振りながら最後のアドバイスを叫ぶ。
 その声にシャロンは手を振り返しながら、指で了解の形を作るとそのまま城壁の下へと向かっていくのだった。
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