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第二章 王国動乱
地下水路
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「・・・全、然!楽勝じゃないじゃない!!」
不意に立ち止まり思わずそう叫んだシャロンの声は、この閉鎖的な狭い空間にわんわんと反響した。
その声に先頭を歩いていたデズモンドが振り返り、彼が手にしていたランタンの明かりがそちらへと向く。
それでも周囲の闇がうっすらと薄れるだけなのは、ここが日の光の届かない地下の空間だからだろう。
「暗いし、ジメジメしてるし、荷物は重いし・・・もう最悪!!ねぇ、ユーリちゃん!?一体あとどれくらいで着くの、もう半日は歩いたわよ!?」
足元をちょろちょろと流れる水を嫌気が差したように踏みつけているシャロンは、それによって跳ねてきた水飛沫にも余計にイライラしてしまっているようだ。
「・・・この枯れた水路に侵入する古井戸まで半日、ここに入ってから半日で丁度丸一日だな」
「そうよ!もう丸一日も掛かってるじゃない!!なんだかんだ準備に丸一日掛かっちゃって、出発したのだって昨日の午後からだし、もう三日目よ三日目!?大丈夫なのユーリちゃん!?このペースで、本当に三日以内にあの砦を奪還出来るの!?」
シャロンの疑問に答えたのは、ランタンの火が消えてしまわないようにそれをピタリと固定し微塵も揺らしていないデズモンドであった。
彼が言ったように、ユーリ達はカンパーベック砦に繋がる枯れた水路内を進んでいる所であった。
「ま、まぁまぁ、確かに思ったよりも掛かっちゃいましたけど・・・ここまでは一応順調ですし。ほらそれに、枯れちゃった水路ならきっと敵の警戒も薄いですよ!この図面通りならもう少しの筈ですし、ついちゃえば後は楽ですから!」
「それ本当なの~?ま、ユーリちゃんがそう言うなら信じてあげるけど・・・はーそれにしてもこの水、何とかならないのかしら?足元が気持ち悪いったらないわ!」
流石にあの机一杯使って書き上げた図面では持ち運びに不便だったのか、手元に抱えられるサイズに簡略化した図面を覗き込みながらユーリはシャロンの不満を宥めている。
彼の言う通りとっくに枯れており今は使われていない水路であるならば敵の警戒も薄いだろう、シャロンはそのユーリの言葉に納得しながらも不満そうに足元の水を蹴とばしていた。
「それもあと少しの辛抱ですから・・・っとと!?どうしたんだデズモンド、急に立ち止まって?」
シャロンが蹴とばした水飛沫を軽く避けながら前へと足を進めていたユーリは、突然目の前に立ち塞がった見上げるような大きさの壁にぶつかってしまう。
その壁であるデズモンドは、ランタンを普段よりも高い位置に掲げると何かを気にするかのように明後日の方向へと顔を向けていた。
「・・・音だ」
「音?」
見れば彼はランタンを掲げていない方の手を耳に添え、周囲へと耳を澄ましているようだった。
そんな彼が呟いた言葉に、ユーリは不思議そうに首を傾げる。
「ねぇユーリちゃん、そういえば気になったんだけど・・・何で枯れた筈の水路なのに水が流れてるのかしら?」
首を傾げているユーリに、背後からシャロンが声を掛けてくる。
その足元では、彼が掻き混ぜるようにしてそこに流れる水を揺らしていた。
「えっ?あぁそれは、ここ何日か雨が降り続けてますから増水して、きっとこの枯れた水路にも水が・・・」
釣られてそちらへと目を向けると、その水流は先ほどよりも水嵩を増したように思える。
ここ数日、雨は降り続けた。
特にここ一日二日は、土砂降りといっていいほどの雨が降り続いたのだ。
遠く、地響きのような音が轟く。
「・・・逃げるぞ」
「ユーリちゃん、遅れないで!!」
地響きと共にやって来たのは、ランタンの薄い明りに照らされても本物の闇のように真っ暗な荒れ狂う濁流だった。
「えっ、えっ!?」
襲い来る危機に、デズモンドとシャロンの二人は即座に逃げ出している。
二人のその余りに素早い反応にユーリは置いて行かれ、その場に立ち竦んでしまう。
「ちょ、待って・・・うわあああぁぁぁぁぁ!!?」
遠ざかる明かりに、背後に迫りくる闇と暴力を身に纏った濁流。
それに居ても立っても居られなくなったユーリは慌てて逃げ出すが、それは既に遅い。
彼の背後にまで迫った濁流はあっという間に彼を飲み込み、その叫び声すらも飲み込んでしまっていたのだった。
不意に立ち止まり思わずそう叫んだシャロンの声は、この閉鎖的な狭い空間にわんわんと反響した。
その声に先頭を歩いていたデズモンドが振り返り、彼が手にしていたランタンの明かりがそちらへと向く。
それでも周囲の闇がうっすらと薄れるだけなのは、ここが日の光の届かない地下の空間だからだろう。
「暗いし、ジメジメしてるし、荷物は重いし・・・もう最悪!!ねぇ、ユーリちゃん!?一体あとどれくらいで着くの、もう半日は歩いたわよ!?」
足元をちょろちょろと流れる水を嫌気が差したように踏みつけているシャロンは、それによって跳ねてきた水飛沫にも余計にイライラしてしまっているようだ。
「・・・この枯れた水路に侵入する古井戸まで半日、ここに入ってから半日で丁度丸一日だな」
「そうよ!もう丸一日も掛かってるじゃない!!なんだかんだ準備に丸一日掛かっちゃって、出発したのだって昨日の午後からだし、もう三日目よ三日目!?大丈夫なのユーリちゃん!?このペースで、本当に三日以内にあの砦を奪還出来るの!?」
シャロンの疑問に答えたのは、ランタンの火が消えてしまわないようにそれをピタリと固定し微塵も揺らしていないデズモンドであった。
彼が言ったように、ユーリ達はカンパーベック砦に繋がる枯れた水路内を進んでいる所であった。
「ま、まぁまぁ、確かに思ったよりも掛かっちゃいましたけど・・・ここまでは一応順調ですし。ほらそれに、枯れちゃった水路ならきっと敵の警戒も薄いですよ!この図面通りならもう少しの筈ですし、ついちゃえば後は楽ですから!」
「それ本当なの~?ま、ユーリちゃんがそう言うなら信じてあげるけど・・・はーそれにしてもこの水、何とかならないのかしら?足元が気持ち悪いったらないわ!」
流石にあの机一杯使って書き上げた図面では持ち運びに不便だったのか、手元に抱えられるサイズに簡略化した図面を覗き込みながらユーリはシャロンの不満を宥めている。
彼の言う通りとっくに枯れており今は使われていない水路であるならば敵の警戒も薄いだろう、シャロンはそのユーリの言葉に納得しながらも不満そうに足元の水を蹴とばしていた。
「それもあと少しの辛抱ですから・・・っとと!?どうしたんだデズモンド、急に立ち止まって?」
シャロンが蹴とばした水飛沫を軽く避けながら前へと足を進めていたユーリは、突然目の前に立ち塞がった見上げるような大きさの壁にぶつかってしまう。
その壁であるデズモンドは、ランタンを普段よりも高い位置に掲げると何かを気にするかのように明後日の方向へと顔を向けていた。
「・・・音だ」
「音?」
見れば彼はランタンを掲げていない方の手を耳に添え、周囲へと耳を澄ましているようだった。
そんな彼が呟いた言葉に、ユーリは不思議そうに首を傾げる。
「ねぇユーリちゃん、そういえば気になったんだけど・・・何で枯れた筈の水路なのに水が流れてるのかしら?」
首を傾げているユーリに、背後からシャロンが声を掛けてくる。
その足元では、彼が掻き混ぜるようにしてそこに流れる水を揺らしていた。
「えっ?あぁそれは、ここ何日か雨が降り続けてますから増水して、きっとこの枯れた水路にも水が・・・」
釣られてそちらへと目を向けると、その水流は先ほどよりも水嵩を増したように思える。
ここ数日、雨は降り続けた。
特にここ一日二日は、土砂降りといっていいほどの雨が降り続いたのだ。
遠く、地響きのような音が轟く。
「・・・逃げるぞ」
「ユーリちゃん、遅れないで!!」
地響きと共にやって来たのは、ランタンの薄い明りに照らされても本物の闇のように真っ暗な荒れ狂う濁流だった。
「えっ、えっ!?」
襲い来る危機に、デズモンドとシャロンの二人は即座に逃げ出している。
二人のその余りに素早い反応にユーリは置いて行かれ、その場に立ち竦んでしまう。
「ちょ、待って・・・うわあああぁぁぁぁぁ!!?」
遠ざかる明かりに、背後に迫りくる闇と暴力を身に纏った濁流。
それに居ても立っても居られなくなったユーリは慌てて逃げ出すが、それは既に遅い。
彼の背後にまで迫った濁流はあっという間に彼を飲み込み、その叫び声すらも飲み込んでしまっていたのだった。
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