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第二章 王国動乱
ボロアの思惑
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「・・・忌々しい雨め」
戦地にいるとは思えないほどに豪勢な、もはや仮ではなくしっかりとその場に建築されたような幕舎の中から外で振り続ける雨の様子を眺めていた金髪の男、ボロアはそう呟くと淹れたての紅茶で満たされたティーカップを手に取った。
「ムーラン・ロイヤルか、まぁまぁだな」
口元にまで近づけたティーカップから漂う香りを口をつける前に堪能したボロアは、それに使われている紅茶の銘柄を口にしては悦に浸る。
彼はその王室御用達の高級銘柄を口にしては、それをアピールするかのように周囲へと視線を向けるがそこには誰の姿もない、つまるところそれは単なる彼の習慣であるのだろう。
「ふふふ・・・しかし我ながら素晴らしい思いつきだったな、奴らに全て押しつけてしまうとは」
予想以上に紅茶が熱かったのか一口啜っただけで慌ててそれを口を離したボロアは、机の上のソーサリーへとそれを戻しカチャリと音を立てる。
その乱暴な手つきを気にも留めていない様子のボロアは何やら、その口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「これで奴らがあの忌々しいカンパーベック砦の奪還に失敗すれば、全て奴らの責任にしてしまえばいいのだからな!こうなればあの砦を奪われてしまったのも怪我の功名といえるのではないか?いやいやそれどころか、これはもはや巧妙な策略といっても過言では―――」
ボロアが笑みを浮かべていた理由、それは彼がユーリ達へと押しつけたカンパーベック砦奪還によるものであった。
ユーリ達がその奪還に失敗すれば、その責任全てを彼らにおっ被せてしまえる、ボロアはそう考えては悦に浸っていたのだ。
「ほほぉ、部屋が気に入らないと散々喚き散らし兵を混乱させ、周辺への警戒に出す兵を自らの身辺が危うくなると出し渋った挙句、遅れた兵の収容を急いだ結果開け放った城門から敵兵に侵入され、ついには砦を奪われてしまった事が策略だったとは・・・このセバスの目をもってしても見抜けませんでしたな」
上機嫌に自画自賛の言葉を捲し立てるボロアに、冷や水を浴びせかけるような声が掛かる。
その声の主はいつの間にかボロアの幕舎に現れたボロリア家の執事セバスであり、彼は音もなくボロアの背後に忍び寄って来てはそう囁いていたのだった。
「うひゃあ!?な、何だ、セバスか。お前は毎度毎度、どうして突然背後に現れるのだ!?びっくりするではないか!大体なんだその言い草は、それではまるで僕が失態を犯したようではないか!!」
「それは坊ちゃまのリアクションが毎度毎度面白く・・・おっと、これは失言でございましたな。それにしても坊ちゃま、あの行いが失態でないなどとそれは些か無理があるのでは?ボロリア家に身命を捧げているこのセバスをもってしても、流石に目を瞑るのは難しゅうございますなぁ」
突然背後から響いた声に座っていた椅子から跳ね上がるボロア、彼がその勢いに倒してしまいそうになった椅子やら何やらをスッと支えて戻しながら、セバスはそのニヤついた口元を白々しく隠していた。
「ふ、ふんっ!ま、まぁ?僕としても多少の失敗はあったと考えているのだぞ?だがそれも運が悪かったというだけで、決して僕が悪い訳では・・・うぁちちちっ!?」
「あ、先ほど坊ちゃまがムーラン・ロイヤルと仰られていたその紅茶ですが、その辺で買えるただの安物ですのであしからず。こんな状況でそのような高級品が手に入る訳がないことなど、少し考えれば分かると思いますが・・・いやはや、流石でございますな坊ちゃま」
セバスが淡々と口にする事実に流石のボロアもばつが悪くなってきたのか、彼は誤魔化すように紅茶へと口をつける。
そして熱々のそれを啜ったことで思わず火傷してしまった彼の姿にセバスはにっこりと微笑むと、彼をさらに追い詰める言葉を淡々と口にし続けていた。
「っ!そ、そんな事、当然分かっていたに決まっているだろう!?敢えてだ、敢えてそう思うことで気分をだなこう・・・そ、そんな事よりもだセバス!頼んでいた仕事はどうなったのだ!?」
飄々とした表情でこちらを追い詰めてくるセバスに流石に分が悪いと悟ったのか、口の中でもごもごと何やら言い訳めいたことを呟いていたボロアはそれを振り払うように手を振るうと、セバスへと頼んでいた仕事について尋ねていた。
「それなのですが、実は・・・」
「何だ、まさか駄目だったのか!?奴らに協力しないよう、囚人共に少しばかり言い含めてやるだけだろう?何故それが失敗するのだ!?はっ!まさか奴らめ何か卑劣な手を使って・・・くっ、王殺しの異名は伊達ではないということか?こ、こうしてはいられん、セバス即刻何か対応を―――」
ボロアの言葉にセバスは顔を伏せると、言葉を濁すように言い淀んでいた。
彼のその表情は、ボロアが彼に頼んでいた仕事がうまくいかなかったことを物語っている。
それをその仕事の対象であるユーリ達の陰謀によるものだと考えたボロアは、再び慌てふためくと椅子から跳ね上がってバタバタと右往左往し始めていた。
「私が話をするまでもなく彼らは例の者に協力する気はなかったようで、何もする必要がありませんでした。いやはや、骨折り損のくたびれ儲けとはまさにこのことですな」
「それならそうと、始めからそう言え!!」
こちらの行動を全て見透かすユーリ達が今にもここに襲い掛かってくるのではと、青い顔をしきりに周囲を警戒していたボロアは、セバスが口にしたどうしようもない事実に顔を真っ赤に染めると怒鳴り散らしている。
「と、とにかくだ!囚人共は奴らに協力する気はないのだな?」
「えぇ、それは間違いありません。私が、一々!確認して参りましたからな」
「・・・何か、含みがある言い方だな」
「何か?」
「いや、何でもないぞ!ふふふ、しかし奴らめよっぽど人望がないと見える。これで僕の計画は成功したも同然だな!よし、ここは一つ奴らの絶望した顔でも拝みに行ってやるとするか」
セバスにしつこく確認してはユーリ達に囚人達が協力しないことを確かめたボロアは途端に上機嫌になると、うきうきとした表情で幕舎の外へと足を運ぶ。
「うわっ!?何だこれは、土砂降りではないか!!セバス、セバス!!早く来てくれ、このままでは風邪をひいてしまう!!」
スキップのような足取りで幕舎の外へと足を踏み出したボロアは、そこに降り続いている土砂降りの雨に打たれ、一瞬の内に濡れ鼠の様相となっていた。
「やれやれ・・・坊ちゃま、今参ります!そこでお待ちください!!」
「う、うむここで待てばよいのだな?・・・ん?ここで待たなければならないのか?雨が酷いのだが・・・わぷっ、わぷぷ!?セバス、セバスー!!?」
つい先ほど外で降り続ける雨に悪態をついたばかりだというのに、それをもう忘れて全身びしゃびしゃになってしまっているボロアの姿に、セバスはやれやれと首を横に振るとゆっくりと彼に近づいていく。
そんなセバスが口にした言葉に騙され、土砂降りの野外に突っ立って待っていたボロアは、余りに酷い雨に溺れそうになりながら必死に彼へと助けを求め続けるのだった。
戦地にいるとは思えないほどに豪勢な、もはや仮ではなくしっかりとその場に建築されたような幕舎の中から外で振り続ける雨の様子を眺めていた金髪の男、ボロアはそう呟くと淹れたての紅茶で満たされたティーカップを手に取った。
「ムーラン・ロイヤルか、まぁまぁだな」
口元にまで近づけたティーカップから漂う香りを口をつける前に堪能したボロアは、それに使われている紅茶の銘柄を口にしては悦に浸る。
彼はその王室御用達の高級銘柄を口にしては、それをアピールするかのように周囲へと視線を向けるがそこには誰の姿もない、つまるところそれは単なる彼の習慣であるのだろう。
「ふふふ・・・しかし我ながら素晴らしい思いつきだったな、奴らに全て押しつけてしまうとは」
予想以上に紅茶が熱かったのか一口啜っただけで慌ててそれを口を離したボロアは、机の上のソーサリーへとそれを戻しカチャリと音を立てる。
その乱暴な手つきを気にも留めていない様子のボロアは何やら、その口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「これで奴らがあの忌々しいカンパーベック砦の奪還に失敗すれば、全て奴らの責任にしてしまえばいいのだからな!こうなればあの砦を奪われてしまったのも怪我の功名といえるのではないか?いやいやそれどころか、これはもはや巧妙な策略といっても過言では―――」
ボロアが笑みを浮かべていた理由、それは彼がユーリ達へと押しつけたカンパーベック砦奪還によるものであった。
ユーリ達がその奪還に失敗すれば、その責任全てを彼らにおっ被せてしまえる、ボロアはそう考えては悦に浸っていたのだ。
「ほほぉ、部屋が気に入らないと散々喚き散らし兵を混乱させ、周辺への警戒に出す兵を自らの身辺が危うくなると出し渋った挙句、遅れた兵の収容を急いだ結果開け放った城門から敵兵に侵入され、ついには砦を奪われてしまった事が策略だったとは・・・このセバスの目をもってしても見抜けませんでしたな」
上機嫌に自画自賛の言葉を捲し立てるボロアに、冷や水を浴びせかけるような声が掛かる。
その声の主はいつの間にかボロアの幕舎に現れたボロリア家の執事セバスであり、彼は音もなくボロアの背後に忍び寄って来てはそう囁いていたのだった。
「うひゃあ!?な、何だ、セバスか。お前は毎度毎度、どうして突然背後に現れるのだ!?びっくりするではないか!大体なんだその言い草は、それではまるで僕が失態を犯したようではないか!!」
「それは坊ちゃまのリアクションが毎度毎度面白く・・・おっと、これは失言でございましたな。それにしても坊ちゃま、あの行いが失態でないなどとそれは些か無理があるのでは?ボロリア家に身命を捧げているこのセバスをもってしても、流石に目を瞑るのは難しゅうございますなぁ」
突然背後から響いた声に座っていた椅子から跳ね上がるボロア、彼がその勢いに倒してしまいそうになった椅子やら何やらをスッと支えて戻しながら、セバスはそのニヤついた口元を白々しく隠していた。
「ふ、ふんっ!ま、まぁ?僕としても多少の失敗はあったと考えているのだぞ?だがそれも運が悪かったというだけで、決して僕が悪い訳では・・・うぁちちちっ!?」
「あ、先ほど坊ちゃまがムーラン・ロイヤルと仰られていたその紅茶ですが、その辺で買えるただの安物ですのであしからず。こんな状況でそのような高級品が手に入る訳がないことなど、少し考えれば分かると思いますが・・・いやはや、流石でございますな坊ちゃま」
セバスが淡々と口にする事実に流石のボロアもばつが悪くなってきたのか、彼は誤魔化すように紅茶へと口をつける。
そして熱々のそれを啜ったことで思わず火傷してしまった彼の姿にセバスはにっこりと微笑むと、彼をさらに追い詰める言葉を淡々と口にし続けていた。
「っ!そ、そんな事、当然分かっていたに決まっているだろう!?敢えてだ、敢えてそう思うことで気分をだなこう・・・そ、そんな事よりもだセバス!頼んでいた仕事はどうなったのだ!?」
飄々とした表情でこちらを追い詰めてくるセバスに流石に分が悪いと悟ったのか、口の中でもごもごと何やら言い訳めいたことを呟いていたボロアはそれを振り払うように手を振るうと、セバスへと頼んでいた仕事について尋ねていた。
「それなのですが、実は・・・」
「何だ、まさか駄目だったのか!?奴らに協力しないよう、囚人共に少しばかり言い含めてやるだけだろう?何故それが失敗するのだ!?はっ!まさか奴らめ何か卑劣な手を使って・・・くっ、王殺しの異名は伊達ではないということか?こ、こうしてはいられん、セバス即刻何か対応を―――」
ボロアの言葉にセバスは顔を伏せると、言葉を濁すように言い淀んでいた。
彼のその表情は、ボロアが彼に頼んでいた仕事がうまくいかなかったことを物語っている。
それをその仕事の対象であるユーリ達の陰謀によるものだと考えたボロアは、再び慌てふためくと椅子から跳ね上がってバタバタと右往左往し始めていた。
「私が話をするまでもなく彼らは例の者に協力する気はなかったようで、何もする必要がありませんでした。いやはや、骨折り損のくたびれ儲けとはまさにこのことですな」
「それならそうと、始めからそう言え!!」
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「と、とにかくだ!囚人共は奴らに協力する気はないのだな?」
「えぇ、それは間違いありません。私が、一々!確認して参りましたからな」
「・・・何か、含みがある言い方だな」
「何か?」
「いや、何でもないぞ!ふふふ、しかし奴らめよっぽど人望がないと見える。これで僕の計画は成功したも同然だな!よし、ここは一つ奴らの絶望した顔でも拝みに行ってやるとするか」
セバスにしつこく確認してはユーリ達に囚人達が協力しないことを確かめたボロアは途端に上機嫌になると、うきうきとした表情で幕舎の外へと足を運ぶ。
「うわっ!?何だこれは、土砂降りではないか!!セバス、セバス!!早く来てくれ、このままでは風邪をひいてしまう!!」
スキップのような足取りで幕舎の外へと足を踏み出したボロアは、そこに降り続いている土砂降りの雨に打たれ、一瞬の内に濡れ鼠の様相となっていた。
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つい先ほど外で降り続ける雨に悪態をついたばかりだというのに、それをもう忘れて全身びしゃびしゃになってしまっているボロアの姿に、セバスはやれやれと首を横に振るとゆっくりと彼に近づいていく。
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