【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第二章 王国動乱

報い

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「・・・ジーク?」

 後宮の扉を激しく押し開くその音に、メリッサはジークが帰ってきたものと思い顔を上げる。
 しかしそこに現れたのは、彼とは似ても似つかない者達であった。

「貴方達・・・そうよ、まだ私には貴方達がいたじゃない。手伝いなさい!協力してジーク・オブライエンを倒すのよ!!それさえ適えば、まだ私にも―――」

 扉を押し開いてこの部屋に入ってきたのは、彼女が寵愛していたあの貴族の子女達であった。
 彼らの姿に、抜け殻となっていたメリッサの瞳に再び火が灯る。
 彼らは皆、貴族の子女達と言うだけあって教養もあり武芸の手ほどきも受けている。
 そんな彼らの協力があればジークを倒せる可能性があると、彼女は希望を燃やしたのだった。

「ばーーーーーーーっか、じゃねぇの!!!」

 しかしそんな彼女の返ってきたのは、彼らからの罵声であった。

「は?あ、貴方達なにを言って・・・」

 彼らのその反応に、メリッサは理解が出来ないと呆気に取られている。

「クスクスクス、あんなことしてまだ自分が慕われてるって本気で思ってるんだ?」
「そんなのなぁ・・・ある訳ねーだろ、ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁか!!!」

 そんな彼女の様子に彼らはクスクスと笑い声を漏らしている、その笑い声は完全に彼女を見下し馬鹿にするものだ。
 そして彼らの中から一人の少女が進み出ると、口の中でたっぷりと唾液を溜めてから彼女へと罵声を浴びせかける。
 その声と一緒に吐きつけられた唾液は、メリッサの顔をべったりと汚していた。

「ねー、さっさと殺っちゃおうよー?」
「駄目駄目、殺るときはちゃんと苦しめてからって決めただろ?」
「あはっ、そうだった!じゃー・・・誰からやるー?」

 メリッサの顔に唾を吐きつけた少女に、他の少女が急かすように腕を組む。
 彼女のおねだりにその額をつんと突ついた少女に、彼女は忘れてたと頭を軽く小突く。
 そうして彼らは、それぞれに得物を取り出していた。
 それらはどれも殺傷能力を削ぐために刃を潰しており、おまけに赤黒く錆びついたものばかりであった。

「っ!?」

 彼らがメリッサを苦しめて殺そうというのは、それらを見れば一目で分かった。
 だからメリッサは急ぐ、楽に死のうと。
 幸い、そのための道具はジークによって既に用意されていた。

「ダーメ」

 しかしそれも、子女達の一人によって阻止されてしまう。

「なにー?もしかしてそれ毒だったりするのー?もー、駄目じゃない。最後ぐらい私達の役に立ってくれなきゃ、ね?」

 テーブルから払われたワイングラスに、メリッサは床へと零れたそれへとすぐさま舌を伸ばすが、それすら髪を掴まれて阻止されてしまう。
 そうして多くの子女達の手によって磔にされた彼女へと、一人に少女が笑い掛ける。

「じゃー、私から行くねー?ふふっ、最初はここから行くって決めてたの」

 ピンと真っ直ぐ腕を伸ばして開始の宣言をした少女は、ニッコリと微笑むとメリッサに向き直る。
 彼女はメリッサの右目を強制的に開かせると、その得物をゆっくりと近づけていた。
 それはワインのコルクを抜く際に使う、コルク抜きであった。

「や、止めて・・・お、お願いだから!!」

 メリッサは少女に、必死な表情で命乞いをする。
 その目に伝った涙も、少女の指に舐め取られてしまっていた。

「あははははっ!!私達が同じように頼んで、あんたが何かしてくれた事ある?ないよね?だったらさぁ・・・私達がそうする必要もないでしょ?」

 少女の笑い声に共鳴するように、周りからもクスクスとした笑い声が漏れる。
 その声を浴びながら可愛らしく首を傾げてみせた少女はもはや、その手を止めるつもりはないようだった。

「お願いよ・・・誰か、誰か助けて!!」

 強制的に開かれた目では、目を瞑る事すら許されない。
 その切っ先はもはや目の前に迫り、彼女の視界を埋め尽くす。
 少女の乱暴な手つきは強制的に開かれた方ではない目をも圧迫し、彼女の視界にはコルク抜きの鈍い切っ先しか映っていなかった。
 助けを求めるべき人の姿も映らない世界で、彼女は必死に助けを求める。
 切っ先は今、世界を塗りつぶし、その全てとなった。

「・・・?」

 真っ暗だ。
 それが死ではないのなら、閉じれなかった筈の目が閉じれた事になる。
 そしてそれが死である筈がなかった、何故なら彼らは痛ぶって彼女を殺そうとしていたのだから。

「奥方様、ご無事ですか!?」

 恐る恐る目を開いたメリッサ、そこに待っていたのは惨殺された子女達の姿と、その身体を返り血で真っ赤に染めたいつかの少年の姿だった。

「貴方は・・・」

 数多くいた寵愛の少年に、彼が誰かはメリッサには分からなかった。
 しかし彼女もやがて気付いていた、その足元にホカホカと沸き立つ湯気の存在を。

「ここは危ない、さぁお早く!!」

 そして彼は弱ったメリッサを抱きかかえ、その場を後にする。
 その行く先がどこかは、彼ら自身にもまだ分からなかった。
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