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第二章 王国動乱

知らなかった男

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 暴動寸前だったスラム街、兵士に取り囲まれた孤児院、そして今にも握り潰されようとしている二人の少女。
 全ての悲劇がその結末を告げようとしているまさにその時、その場に現れたのはどこか風采の上がらない男であった。

「ネロ、プティ。もう大丈夫ですよ」

 その男、ユーリが現れて瞬きもしない間に二人の少女、ネロとプティは救出されていた。
 今や彼女達は、金色の髪の神秘的な美少女の腕に抱えられ地面へと下ろされようとしている所だった。

「「おとーさーん・・・おとーさーーーん!!!」」

 彼女達の背後では、ヌーボが何が起こったのか分からないと不思議そうに首を捻っている。
 地面に下ろされた二人は、その目に涙を一杯に浮かべると駆け出していく、自分達を助け出してくれた父親の下へと。

「よしよし、怖かったな。全く、心配したんだぞ?いつもの時間になっても帰ってこないから・・・でも無事で、本当に良かった」

 飛び込んできた二人をユーリは抱き留めると、その頭を優しく撫でてやっている。

「うわぁーん!怖かったよぉ、怖かったよぉおとーさーん!!」
「うぅ、ひっくひっく・・・ご、ごめんねおとーさん。プティ、言いつけ守れなくて」
「いいんだプティ、よく頑張ったね・・・ネロも、気が済むまで泣いていいからな」

 父親の腕に抱かれてその胸で泣く二人は、安心しきったように無防備だ。
 それはネロとプティ、彼女たち二人のユーリに対する深い愛情を感じさせる光景だった。

「ふっ、そうか。何をしようと余のものにはならぬという訳か・・・殺せ!!あの男諸共、殺してしまえ!!」

 その光景は二人の愛情が手に入る事はないと、はっきりと示していた。
 それを知り絶望するジョンは、手を掲げ合図を送る。
 彼らを殺せと。

「あぁ?さっきから聞いてりゃ何度も何度も・・・余のものとかなぁ、そんなの―――」

 泣き続けた事で大分落ち着いてきた二人を背後へと庇ったユーリはゆっくりと立ち上がると、ジョンへと向き直る。
 その周囲には、ジョンによって嗾けられた兵士達が群がってきていた。

「お父さんは許しません!!!」

 そして彼は叫ぶ、お父さんは許さないと。
 そう、彼が何より怒っていたことそれは、ジョンのそうした発言であったのだ。
 彼は怒り狂う、娘が彼氏を連れてきて、その彼氏が娘さんをくださいと土下座してきた時の父親のように。

「・・・は?何を言ってるのだ?このままでは死ぬだけだと理解して、おかしくなったのか?」

 意味の分からないユーリの叫びに、ジョンは彼がおかしくなったのかと嗤う。
 しかし彼は理解するべきだったのだ、目の前の人物が決して怒らせてはならない人間であるという事を。
 そして何より、その娘に手を出すことが彼を怒らせるという、その事実を。

「エクス、やれ」

 その死刑宣告は、短い。

「よろしいのですか、マスター?」
「あぁ、手加減の必要はないぞ」
「畏まりました」

 そしてその後に待っていたのは、一方的な蹂躙だけであった。



「お、覚えてろよ!!」

 見る影もなくボロボロになったジョンが、ヌーボに抱えられガララと共に去っていく。
 意外な事に、普段ブレーキ役となっているユーリが暴走した結果、いつも暴走しているエクスの方がブレーキ役となり、人死にが出ないように力をコントロールする事に成功していたのだった。

「ふんっ!二度とその面見せるんじゃないぞ!!」

 涙目になりながら逃げ去っていくジョンに、ユーリは地面の砂を蹴りつけながらそう吐き捨てる。
 彼の周囲には、エクスによって薙ぎ倒された兵士達の姿があった。

「助かりました・・・ユーリさん、でしたか。ありがとうございます」

 そんなユーリの下に、妙齢の女性が近づいてくる。
 彼女はユーリの顔を確かめるように見つめると、頭を下げてお礼を言っていた。

「あ、院長先生!」
「皆は無事でしたか?」

 彼女の下にはネロとプティの二人が駆け寄っていき、その顔を心配そうに覗き込んでいた。
 どうやら彼女は、先ほど二人が訪問した孤児院の院長であるようだ。

「えぇ、お陰さまでね。それにしても勇気がおありなのねぇ・・・王様相手にこんな事をするなんて」
「まぁ娘のためですから!はははっ・・・ん?ちょ、ちょっと待ってください!?先ほど、何と仰られました!?」

 近づいてきた二人の頭を撫でると、院長はユーリへと視線を向ける。
 そして彼女が口にした誉め言葉に、ユーリは頭を掻いては照れ笑いを浮かべていた。

「え?その勇気がおありと・・・」
「そ、その後です、その後!」
「はぁ・・・王様相手にこんなことするなんて、とは言いましたけど。それが何か?」

 先王ウィリアムの国葬にはヘイニーの従者として参加したユーリも、選ばれた貴族だけが参列を許される王の戴冠式には参加出来なかった。
 そのため彼は知らなかったのだ、その時即位した幼王ジョンの顔など。

「・・・え?さっきのって、もしかして王様だったの?」

 そう、知らなかったのだ。
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