【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第二章 王国動乱

太后と摂政

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 王城の奥、王族や高貴な女性が使う空間である姫百合の間に、小さなシルエットが駆ける。
 普通ならば眉を顰めるようなその行為も、今日は誰も咎める事はない。
 それはその人物がこの王城の主、幼王ジョンであったからだ。

「さて、どこに隠れるかだが・・・よし、あそこがいい!あそこに隠れよう」

 自らの召使達と、かくれんぼに勤しんでいる幼王。
 彼が隠れ場所に決めたのは、姫百合の間の中でも飛び切り上等で更に高価な香水の匂いがプンプンと漂ってくるような、そんな部屋であった。
 彼はその部屋の中へと立ち入ると、そこのクローゼットへと身を潜ませる。

「誰だ?誰か入ってくる・・・まさか、もう見つかったのか!?」

 彼がそこに隠れると程なくして、誰かがその部屋の扉を再び開き、誰かが中へと入ってきていた。

「・・・あれは母上?それと・・・あの嫌な男か?どうしてこんな所に?」

 扉を開き部屋の中へと入ってきたのは、彼の母親である太后メリッサ・キャロルと、彼の嫌いな男ジーク・オブライエンであった。

「・・・このような所に呼び出して、何用か太后陛下」

 この部屋にメリッサがやって来ることは珍しくない、何故ならここは彼女の部屋なのだから。
 しかしそんな場所に、ジークがやって来る事はとても珍しかった。
 何故なら、二人は反目しあっている事が有名である人物であったからだ。

「お互い、腹の探り合いにはうんざりでしょう?単刀直入に言います、摂政の職を私に譲ってくださらないかしら?」

 部屋の中へと進みその中心へと立ったメリッサは、ジークが扉を閉めるのを確認すると扇で口元隠しながら、そう切り出していた。

「・・・意図を、測りかねるな」

 摂政の職を譲れという、メリッサの余りに突然の申し出。
 しかしジークはそれに意外そうな顔一つ見せることなく、淡々と答えをはぐらかしていた。

「意図も何もないでしょう?単に職を譲ってくれというだけの話なのだから。それで、譲ってくれるのくれないの?」
「この職は、亡き先王ウィリアム陛下から託されたもの。簡単に譲る訳にはいくまい」
「先王ウィリアムから託されたねぇ・・・遺言にそう記されていたのですってね?貴方が書いて、貴方が発表した遺言にそう、ね」

 メリッサがその言葉を口にした瞬間に、開け放たれていた窓の外で木々に止まっていた鳥達が一斉飛び立っていく。
 その羽ばたきの音はうるさいほどであったが、それでもその声を掻き消すほどではなかった。

「・・・何の事だ?」
「あら、とぼける必要はなくってよ?私、色々と知っているのだから。例えばそうね・・・あの子、確かリリーナとか言ったかしら?あの子を王族として擁立するために、貴方が裏で色々と暗躍していたって事とかね。貴方らしくもない、随分と張り切ったようじゃない?まぁ、あの子の生まれを考えれば張り切るのも―――」

 鳥達の羽ばたきの音が消えた室内には、痛いほどの沈黙が待っていた。
 それを打ち破ったジークの声は、重々しい。
 しかしそれを受けてニッコリと話し始めたメリッサの声は明るく、喜悦に満ちたものであった。

「条件によっては、そちらの要求を認めてもいい」
「あら、随分とお早い決断ね。それだけ、あの子の事が大事ってことかしら?ふふっ、これ以上聞くのは野暮というものよね。それでその条件とはどういったものかしら、窺ってもよろしくって?」

 ペラペラと調子よく喋り続けているメリッサの声をジークが遮ったのは、そこにそれ以上触れられたくない事があるからか。
 メリッサもそれを目敏く感じ取り更にその笑みを深めると、嗜虐的な表情を浮かべてはジークにその条件を尋ねていた。

「先王に託された職ゆえ摂政の座からは退くわけにはいかぬ、しかし政務からは離れよう。後はそちらの好きなようにするがいい。これで話は終わりだ、私は帰らせてもらおう」

 ニヤニヤとした表情で勝ち誇るメリッサの前でジークは自らの条件を口にすると、そのまま踵を返してこの場から立ち去ろうとしていた。

「なっ・・・ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?約束が違うじゃない!!」
「・・・何の違いが?私が去った後の宮廷すらまとめられないのであれば、摂政の座など土台無理だったという話であろう。まさか、その程度の事も叶わぬ者がその座を望んだとでも?」

 もはや話し合いは終わったと立ち去ろうとしているジークを、メリッサが必死に呼び止めている。
 彼女はジークに約束が違うと叫ぶが、ジークはそれに立ち止まり振り返るとギロリと睨み付けるだけ。
 自らが口にした言葉を翻す事も、譲る事も一切しないとその態度で示していた。

「くっ・・・分かったわよ、その条件を呑むわ!ただし、そちらにも約定は守ってもらいます!それでよろしくって、オブライエン卿?」
「・・・承った。その約定、決して違えぬと誓おう、太后陛下」

 交渉の余地のないジークの態度に悔しそうに呻き声を漏らしたメリッサは、諦めたようにその条件を呑むと口にする。
 その言葉に誓いの言葉を返したジークは、外套を翻るとその場から立ち去っていた。

「お、王様、ど、どこかな?どこかな?」
「さっさと見つけろってんだ、このウスノロ!俺ん時ばかり鼻を利かせやがって!!」

 太后の部屋を離れ、姫百合の間から足早に立ち去ろうとしているジークの横を、騒がしい二人組が通り過ぎてゆく。
 それは褐色の肌の大男と、薄緑の肌の小男という奇妙な二人組であった。

「あれが例の人体実験の成果か・・・外道が」

 その二人組にジークは足を止め、その姿を見詰める。
 そして彼はそう短く吐き捨てると、再び足を進め始めていた。
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