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第二章 王国動乱
始まりの夜
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王都クイーンズガーデン、その名前の由来はその場所にかつての王の「愛人」の庭園があった事からである。
そしてその象徴である王城黒百合城は、その庭園に存在した黒百合園からつけられた名前であった。
しかし現在の黒百合城は、その庭園があった場所に存在する訳ではない。
王の愛人、王からも人々からも愛され、そのために王妃から恨みを買い毒殺された女性オードリー・タイラーのために作られた庭園は今、白百合園として王都の郊外に存在した。
白百合園は現在、王の別荘として、更には療養所として使われている。
その白百合園に、現王ウィリアム・セント・リンドホーム=エルドリッチが滞在していた。
その目的は、療養にあった。
「陛下の様態はどうなっている!」
白百合園の中に建てられた建物、かつては王の愛人オードリーが過ごしたその建築物は今、王のための別荘として使われている。
その建物の扉が激しく開かれると、荒れ模様の天候から来る雨音と鳴り響く雷鳴が飛び込んできていた。
「こ、これはオブライエン公爵!よくぞおいでくださいました!」
「挨拶はいい!それよりも、陛下の様態はどうなっているのだ!!」
扉を潜って現れた人物、ジーク・オブライエンは雨に濡れた外套を近づいてきた使用人へと投げつける。
彼はそれを慌てて受け取りながらジークに対して歓迎の言葉を告げていたが、ジークはそれに苛立たしげに顔を顰めるだけであった。
「そ、それは・・・私の口からはとても」
「・・・そうか。ならばよい、自分の目で確かめよう。陛下はこの奥に?」
この国の筆頭貴族として国を支えてきた、ジークの迫力は凄まじい。
その詰問を受けても王の様態を口にすることなく言葉を濁した使用人の姿にジークは何かを察すると、それ以上尋ねずに彼が示した王の居場所へと足を進める。
「・・・今、陛下が亡くなられれば次の王は一体誰に?」
「御子息であるカール様は既に亡くなられておりますし・・・」
「で、あれば王弟陛下の御子息の誰かに?」
「いや、それは・・・」
かつての王が最愛の愛人のために建てた、この建物は大きい。
そのため現在では、かつての建物を幾らか縮小して運営しているほどであった。
それでもまだ別荘と呼ぶには大きすぎるその建物には、王の下へと辿り着くまでに幾つもの扉を潜る必要があった。
その扉を次々と潜っていくジークの耳には、この場に集まっている侍女や侍従、その多くは貴族の子弟達だが、彼らの噂話が入ってきていた。
「気の早い事だな。いや、決して早くは・・・ない、か」
既に王が死んだものとして、次の王とその下での身の振り方について噂している彼らの口ぶりに、ジークは皮肉げに口元を歪める。
しかし彼が王の寝所へと続く最後の扉へと手を掛け、そこから漂ってくる強烈な死の気配を感じ取ると、それもあながち間違いではないのかと考えを改めていた。
「王よ!!」
開いた扉に、雷鳴が轟く。
その稲光が、王の寝室に取りつけられた大きなガラスの窓を通して室内を明滅させた。
激しい稲光に白と黒で塗りつぶされた室内は乱れ、多くの者達が取り乱したように蹲り、泣き崩れている者もあった。
そんな中で、王が横たわる巨大なベッドの周辺だけは奇妙なほどの静謐が保たれており、それは人がイメージする死そのものの情景であった。
その情景の中、王の傍らに控える神官が静かに首を横に振る。
「そうか、陛下はもう・・・」
扉を押し開いたまま、ジークはその場に立ち尽くす。
彼は知ったのだ、もはやそこから先に進む必要などない事を。
「―――、―――――!!」
王を最後まで見とった古株の侍女だろうか、彼女はジークの姿を認めると涙で濡らした顔で彼へと飛び込んでくる。
彼女が叫んだ言葉は鳴り響く雷鳴に掻き消され、ジークの耳に届くことはない。
「間に合わなかった、か。荒れるな、これは・・・」
ジークはその侍女に胸を貸しながら、一人呟く。
彼が口にしたその言葉が、その視線の先の天候の事を示した訳ではない事は確かであった。
そしてその象徴である王城黒百合城は、その庭園に存在した黒百合園からつけられた名前であった。
しかし現在の黒百合城は、その庭園があった場所に存在する訳ではない。
王の愛人、王からも人々からも愛され、そのために王妃から恨みを買い毒殺された女性オードリー・タイラーのために作られた庭園は今、白百合園として王都の郊外に存在した。
白百合園は現在、王の別荘として、更には療養所として使われている。
その白百合園に、現王ウィリアム・セント・リンドホーム=エルドリッチが滞在していた。
その目的は、療養にあった。
「陛下の様態はどうなっている!」
白百合園の中に建てられた建物、かつては王の愛人オードリーが過ごしたその建築物は今、王のための別荘として使われている。
その建物の扉が激しく開かれると、荒れ模様の天候から来る雨音と鳴り響く雷鳴が飛び込んできていた。
「こ、これはオブライエン公爵!よくぞおいでくださいました!」
「挨拶はいい!それよりも、陛下の様態はどうなっているのだ!!」
扉を潜って現れた人物、ジーク・オブライエンは雨に濡れた外套を近づいてきた使用人へと投げつける。
彼はそれを慌てて受け取りながらジークに対して歓迎の言葉を告げていたが、ジークはそれに苛立たしげに顔を顰めるだけであった。
「そ、それは・・・私の口からはとても」
「・・・そうか。ならばよい、自分の目で確かめよう。陛下はこの奥に?」
この国の筆頭貴族として国を支えてきた、ジークの迫力は凄まじい。
その詰問を受けても王の様態を口にすることなく言葉を濁した使用人の姿にジークは何かを察すると、それ以上尋ねずに彼が示した王の居場所へと足を進める。
「・・・今、陛下が亡くなられれば次の王は一体誰に?」
「御子息であるカール様は既に亡くなられておりますし・・・」
「で、あれば王弟陛下の御子息の誰かに?」
「いや、それは・・・」
かつての王が最愛の愛人のために建てた、この建物は大きい。
そのため現在では、かつての建物を幾らか縮小して運営しているほどであった。
それでもまだ別荘と呼ぶには大きすぎるその建物には、王の下へと辿り着くまでに幾つもの扉を潜る必要があった。
その扉を次々と潜っていくジークの耳には、この場に集まっている侍女や侍従、その多くは貴族の子弟達だが、彼らの噂話が入ってきていた。
「気の早い事だな。いや、決して早くは・・・ない、か」
既に王が死んだものとして、次の王とその下での身の振り方について噂している彼らの口ぶりに、ジークは皮肉げに口元を歪める。
しかし彼が王の寝所へと続く最後の扉へと手を掛け、そこから漂ってくる強烈な死の気配を感じ取ると、それもあながち間違いではないのかと考えを改めていた。
「王よ!!」
開いた扉に、雷鳴が轟く。
その稲光が、王の寝室に取りつけられた大きなガラスの窓を通して室内を明滅させた。
激しい稲光に白と黒で塗りつぶされた室内は乱れ、多くの者達が取り乱したように蹲り、泣き崩れている者もあった。
そんな中で、王が横たわる巨大なベッドの周辺だけは奇妙なほどの静謐が保たれており、それは人がイメージする死そのものの情景であった。
その情景の中、王の傍らに控える神官が静かに首を横に振る。
「そうか、陛下はもう・・・」
扉を押し開いたまま、ジークはその場に立ち尽くす。
彼は知ったのだ、もはやそこから先に進む必要などない事を。
「―――、―――――!!」
王を最後まで見とった古株の侍女だろうか、彼女はジークの姿を認めると涙で濡らした顔で彼へと飛び込んでくる。
彼女が叫んだ言葉は鳴り響く雷鳴に掻き消され、ジークの耳に届くことはない。
「間に合わなかった、か。荒れるな、これは・・・」
ジークはその侍女に胸を貸しながら、一人呟く。
彼が口にしたその言葉が、その視線の先の天候の事を示した訳ではない事は確かであった。
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