上 下
95 / 210
第一章 最果ての街キッパゲルラ

リリーナ・クレイ・リンドホーム=エルドリッジ

しおりを挟む
 暗い室内に、ワインの瓶がテーブルへと置かれる。
 その栓を抜き近くのグラスへと注いだ男は、そのグラスを二つ抱えてもう一人の男へと近づいていく。
 彼がテーブルへと戻したワインの瓶には、その銘柄を示す文字が刻まれている。
 それは―――。

「いかがですか、ジーク様?シャトールーベンの三十年物ですよ」

 シャトールーベン、高級な貴腐ワインと知られるその銘柄の、それはさらに三十年物という逸品であった。

「・・・貰おう」

 豪華な燭台には、それと不釣り合いに思えるたった一つのロウソクだけが灯されている。
 その明かりに照らされた壮年の男、ジーク・オブライエンは男の声に重々しくそう答えていた。

「それで、貴様が持って帰ってきたお土産というはこのワインだけか?そうではないのだろう、マービン?」

 男からワインを受け取り、それに一口啜ってから近くのテーブルへと置いたジークは、そう尋ねる。
 その男、マービン・コームズに対して。

「まさか。あれをここに」

 ジークの言葉に肩を竦めたマービンは、指を鳴らすの部屋の奥へと声を掛ける。
 その声に部屋の外からは慌ただしい足音が響き、やがて一人の顔に覆いをされた男が連れてこられてきていた。

「・・・その男は?」
「言葉で説明するよりも、実際に顔を見ていただいた方が早いかと。お見せしろ」
「はっ」

 ジークはどこか無関心そうに、しかし値踏みする視線を連れてこられた男へと向ける。
 彼の質問にマービンはどこかもったいぶった口調で答えると、その男を連れてきた男へと声を掛け、顔を覆いを外させる。

「これはこれは・・・同じ四大貴族と並び称された者同士、このような形でお会いするとは残念ですな、エミール・レンフィールド殿。いや、今はシーマス・チットウッドとお呼びすべきか?」

 覆いを外されて現れたのは、ジークと同じ四大名家と呼ばれるレンフィールド家の人間、エミール・レンフィールドであった。
 そしてそれは、ユーリの元同僚であり、マルコムの相棒でもあったあの黒葬騎士団の一員、シーマス・チットウッドでもあったのだった。

「そうか、では?」
「はい、背後で策謀していたのはこの男でございました。いやはや中々尻尾を出しませんで、誘き出すのに苦労しました」

 ジークとマービンはお互いに視線を交わし、何かを確認し合う。
 そしてそれに頷いたマービンが口にした言葉に、エミール・レンフィールドことシーマスは目を見開いて驚愕の表情を見せると、やがてがっくりと項垂れていた。

「それでマービン、貴様の事だこれだけではあるまい?」
「流石はジーク様、全てお見通しで・・・おい、お連れしろ」

 片方の眉を上げ、そう尋ねるジークにマービンは深々と頭を下げる。
 そして彼はシーマスを連れ出させると、また別の誰かを連れてこさせるように命令していた。

「何ですの、貴方達は!?私がこんな事で屈すると思ったら、大間違いなのですわ!!」

 連れてこられたのは、キンキンと響く甲高い声を響かせながら必死に抵抗して暴れている金髪の少女と、同じく金色の髪を持った背の高い女性であった。

「これはこれは、お二方・・・」

 二人の登場に、ジークは腕を広げ歓迎を示す。
 そしてそのまま彼は、ゆっくりと彼女達へと近づいていく。

「な、何ですの貴方は!?私は、ユークレール家の娘ですのよ!!こんな事をしてただで・・・?」

 彼女達の目の前にまで歩み寄ったジークは、その前に跪く。
 しかしそれは、オリビアの前ではなかった。

「ようこそお越しくださいました、リリィ・ボニアディ様・・・いえ、リリーナ・クレイ・リンドホーム=エルドリッジ殿下」

 リグリア王国、その最高位の貴族である四大貴族の一員、ジーク・オブライエンが跪かなければならない相手は少ない。
 それはこの国の国王、もしくはその王位継承者である王子達、あるいはその娘である王女だけだ。
 そして王位継承権の持つ王の子供は、性別にかかわらず殿下と呼ばれる。
 つまり彼女は―――。

「エルドリッジ?それじゃ、リリィ・・・貴方は、この国のお姫様なの?」

 この国の王位継承者、リリーナ・クレイ・リンドホーム=エルドリッジその人であった。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

処理中です...