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第一章 最果ての街キッパゲルラ
マルコム・スターン
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星を揺り動かすような衝撃が、最果ての街キッパゲルラに奔る。
それは瓦礫の下で気を失っていた、一人の男の意識をも揺り動かしていた。
「っ!?何だ、一体何が・・・ぐぁ!?」
凄まじい衝撃に跳ね起きたその男、マルコムはしかし限られたスペースに頭をぶつけてしまう。
「くっ、ここは・・・?俺は今まで何を・・・そうだ俺は!おい、誰か!誰かいないのか!?」
頭を押さえて蹲るマルコムは、曖昧な意識を何とか揺り起こそうとしている。
そうしてようやく自分がどうしてこんな場所にいる事になったのか思い出した彼は、慌てて周囲へと視線をやっては仲間達の姿を探す。
「誰も、いないのか・・・はははっ、何を残念がる事がある?あんな奴ら、ただの捨て駒じゃないか」
しかしそこには、誰の姿もなく彼一人きりだった。
その事実に力を失い崩れ落ちたマルコムは、自嘲の笑みを浮かべる。
「っ!誰かが近づいてくる?おーい、ここにいるぞー!助けて・・・待て、あれは!?」
そんな彼の下に、誰かの足音が近づいてくる。
それに慌てて瓦礫の隙間へと顔を近づけ、助けを呼ぼうとするマルコム。
だが彼は目にしていた、それが決して助けを呼んではならない人間であることを。
「やったね、おとーさん!凄かった、凄かったよ!!こう、バーンてね光って・・・うぅ、とにかく凄かったから!!」
「お疲れ様、おとーさん!エクスも、よく頑張ったね」
彼の視線の先では、黒と白の尻尾が元気よく駆けていく。
そしてその二人が向かった先に、一人の男が降り立っていた。
「ははは、まぁ何とかね。二人も、よく頑張ったな」
「へへっ、まぁねー。まぁ?ボクにかかれば、これぐらい楽勝だけどねー」
「えへへ・・・で、でもね、おとーさんがいたから頑張れたんだよ?」
笑顔でお祝いの言葉を掛けてくる娘二人にユーリは頬をポリポリと掻くと、照れくさそうに笑う。
彼は抱き着いてきた二人の頭を交互に撫でると、二人はそれぞれの言葉で嬉しそうな反応を見せていた。
「ユーリ・・・!やったのか、お前が?あの邪龍を?そんな馬鹿な!?」
彼らの口にする言葉どれも、あの邪龍をユーリが倒したことを示したものであった。
その事実を、マルコムは受け入れられないと唇を噛む。
食い千切られた肉から、血が一筋垂れていた。
「ふふふ、そうだそんな訳がない。あいつにそんな力がある訳が・・・っ!」
瓦礫の下の暗がりに、マルコムの血走った目だけが爛々と輝く。
彼の定まらない目はやがて、ユーリ達の姿へと釘付けになっていた。
「は、はははっ・・・馬鹿め、ここに俺がいるとも知らないで!」
それはユーリ達が、マルコムが埋まっている瓦礫の方へと無防備に歩いて来たからだった。
「そうだ、俺は悪くない・・・全部、全部あいつが、ユーリが悪いんだ!」
血走った目でユーリの姿を見詰めるマルコムの口からは、彼を呪うような声が漏れる。
相変わらず、無防備に近づくユーリ達の姿はもう彼の目の前にまで迫っていた。
「そうか、そうだったな!お前は知らないんだったな・・・」
その姿を目に焼き付けながら、マルコムはぶつぶつと呟き続ける。
その唇からは、まるで涎のように血が滴り続けていた。
「俺が再び、アイスランスを使えるようになった事を!!」
ユーリの与えられたスキルが焼失した事で、使えなくなったはずの氷の上位魔法アイスランス。
彼はそれを、自らの努力によって再び身につけていたのだった。
「これで、これで・・・全てお終いだ、ユーリィィィ!!」
瓦礫の隙間から腕を突き出したマルコムは、目の前のユーリに対して発動させる。
彼の必殺技である、アイスランスを。
「ねーねー、今度はボクにも使わせてよー?いいでしょー、おとーさん?」
「はははっ、まぁ機会があったらな・・・ん?」
マルコムの雄たけびと共に、生み出された氷の槍。
それは狙いを違えずに、ユーリへと迫る。
「・・・どうしたの、おとーさん?」
「んー?いや、何でもない。気のせいだった」
「ふーん」
そしてそれは彼へと触れる寸前に、まるで圧倒的な力の前に弾かれるように掻き消されてしまっていた。
「は、はははっ・・・嘘だ、こんなの有り得ない・・・有り得る訳ないだろう?」
聖剣エクスカリバーを握ったままのユーリは、マルコムに攻撃された事にも気付かずに、そのまま娘達と楽しそうに会話しながら立ち去っていく。
その光景は、マルコムに強烈な敗北感を感じさせるには十分過ぎるものであった。
「そうだこれは悪夢だ、悪い夢なんだ!!はははっ、何だそうだったのか!!考えてみれば当たり前じゃないか!あのユーリが、俺に勝つなんてあり得る訳がないんだから!!」
しかしマルコムは、それを受け入れることが出来なかった。
彼は頭をボリボリと掻き毟ると、完全にその現実を否定し夢想の世界へ逃げ出してしまう。
「何だ、何が・・・?瓦礫が崩れるのか・・・!?」
そんな彼を、現実の方は逃がしてはくれない。
マルコムがアイスランスを放った衝撃に、元々ギリギリのバランスで成り立っていた瓦礫が崩壊を始める。
「ぎゃあああああ!!!?腕が、俺の腕があああああぁぁぁぁぁ!!!?」
そして崩壊した瓦礫は、彼の右腕を押し潰してしまうのだった。
マルコムは、悲鳴を上げる。
しかしそれを聞き届ける者はもうここには存在せず、手を差し伸べる者もいない。
崩れた瓦礫に、外部へと彼の存在を伝えていた隙間も塞がり、彼はもはや誰からも見向きもされない存在となっていた。
それは瓦礫の下で気を失っていた、一人の男の意識をも揺り動かしていた。
「っ!?何だ、一体何が・・・ぐぁ!?」
凄まじい衝撃に跳ね起きたその男、マルコムはしかし限られたスペースに頭をぶつけてしまう。
「くっ、ここは・・・?俺は今まで何を・・・そうだ俺は!おい、誰か!誰かいないのか!?」
頭を押さえて蹲るマルコムは、曖昧な意識を何とか揺り起こそうとしている。
そうしてようやく自分がどうしてこんな場所にいる事になったのか思い出した彼は、慌てて周囲へと視線をやっては仲間達の姿を探す。
「誰も、いないのか・・・はははっ、何を残念がる事がある?あんな奴ら、ただの捨て駒じゃないか」
しかしそこには、誰の姿もなく彼一人きりだった。
その事実に力を失い崩れ落ちたマルコムは、自嘲の笑みを浮かべる。
「っ!誰かが近づいてくる?おーい、ここにいるぞー!助けて・・・待て、あれは!?」
そんな彼の下に、誰かの足音が近づいてくる。
それに慌てて瓦礫の隙間へと顔を近づけ、助けを呼ぼうとするマルコム。
だが彼は目にしていた、それが決して助けを呼んではならない人間であることを。
「やったね、おとーさん!凄かった、凄かったよ!!こう、バーンてね光って・・・うぅ、とにかく凄かったから!!」
「お疲れ様、おとーさん!エクスも、よく頑張ったね」
彼の視線の先では、黒と白の尻尾が元気よく駆けていく。
そしてその二人が向かった先に、一人の男が降り立っていた。
「ははは、まぁ何とかね。二人も、よく頑張ったな」
「へへっ、まぁねー。まぁ?ボクにかかれば、これぐらい楽勝だけどねー」
「えへへ・・・で、でもね、おとーさんがいたから頑張れたんだよ?」
笑顔でお祝いの言葉を掛けてくる娘二人にユーリは頬をポリポリと掻くと、照れくさそうに笑う。
彼は抱き着いてきた二人の頭を交互に撫でると、二人はそれぞれの言葉で嬉しそうな反応を見せていた。
「ユーリ・・・!やったのか、お前が?あの邪龍を?そんな馬鹿な!?」
彼らの口にする言葉どれも、あの邪龍をユーリが倒したことを示したものであった。
その事実を、マルコムは受け入れられないと唇を噛む。
食い千切られた肉から、血が一筋垂れていた。
「ふふふ、そうだそんな訳がない。あいつにそんな力がある訳が・・・っ!」
瓦礫の下の暗がりに、マルコムの血走った目だけが爛々と輝く。
彼の定まらない目はやがて、ユーリ達の姿へと釘付けになっていた。
「は、はははっ・・・馬鹿め、ここに俺がいるとも知らないで!」
それはユーリ達が、マルコムが埋まっている瓦礫の方へと無防備に歩いて来たからだった。
「そうだ、俺は悪くない・・・全部、全部あいつが、ユーリが悪いんだ!」
血走った目でユーリの姿を見詰めるマルコムの口からは、彼を呪うような声が漏れる。
相変わらず、無防備に近づくユーリ達の姿はもう彼の目の前にまで迫っていた。
「そうか、そうだったな!お前は知らないんだったな・・・」
その姿を目に焼き付けながら、マルコムはぶつぶつと呟き続ける。
その唇からは、まるで涎のように血が滴り続けていた。
「俺が再び、アイスランスを使えるようになった事を!!」
ユーリの与えられたスキルが焼失した事で、使えなくなったはずの氷の上位魔法アイスランス。
彼はそれを、自らの努力によって再び身につけていたのだった。
「これで、これで・・・全てお終いだ、ユーリィィィ!!」
瓦礫の隙間から腕を突き出したマルコムは、目の前のユーリに対して発動させる。
彼の必殺技である、アイスランスを。
「ねーねー、今度はボクにも使わせてよー?いいでしょー、おとーさん?」
「はははっ、まぁ機会があったらな・・・ん?」
マルコムの雄たけびと共に、生み出された氷の槍。
それは狙いを違えずに、ユーリへと迫る。
「・・・どうしたの、おとーさん?」
「んー?いや、何でもない。気のせいだった」
「ふーん」
そしてそれは彼へと触れる寸前に、まるで圧倒的な力の前に弾かれるように掻き消されてしまっていた。
「は、はははっ・・・嘘だ、こんなの有り得ない・・・有り得る訳ないだろう?」
聖剣エクスカリバーを握ったままのユーリは、マルコムに攻撃された事にも気付かずに、そのまま娘達と楽しそうに会話しながら立ち去っていく。
その光景は、マルコムに強烈な敗北感を感じさせるには十分過ぎるものであった。
「そうだこれは悪夢だ、悪い夢なんだ!!はははっ、何だそうだったのか!!考えてみれば当たり前じゃないか!あのユーリが、俺に勝つなんてあり得る訳がないんだから!!」
しかしマルコムは、それを受け入れることが出来なかった。
彼は頭をボリボリと掻き毟ると、完全にその現実を否定し夢想の世界へ逃げ出してしまう。
「何だ、何が・・・?瓦礫が崩れるのか・・・!?」
そんな彼を、現実の方は逃がしてはくれない。
マルコムがアイスランスを放った衝撃に、元々ギリギリのバランスで成り立っていた瓦礫が崩壊を始める。
「ぎゃあああああ!!!?腕が、俺の腕があああああぁぁぁぁぁ!!!?」
そして崩壊した瓦礫は、彼の右腕を押し潰してしまうのだった。
マルコムは、悲鳴を上げる。
しかしそれを聞き届ける者はもうここには存在せず、手を差し伸べる者もいない。
崩れた瓦礫に、外部へと彼の存在を伝えていた隙間も塞がり、彼はもはや誰からも見向きもされない存在となっていた。
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