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第一章 最果ての街キッパゲルラ
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「止めて」
そう少女は呟いた。
聖剣を手にしたユーリは、泣き叫びながら邪龍の尻尾を切り落とす。
悲痛な、しかしそれでも恐怖を感じさせる邪龍の咆哮が轟く。
「止めて」
そう少女は嗚咽を漏らす。
切り落とした尻尾から溢れ出す血を避けようと飛び上がったユーリに、邪龍の牙が迫る。
ユーリはその頭を踏みつけると、その額に生えていた角を砕いていた。
「止めて」
そう少女は声を絞り出し涙を流す。
その力の根源の一つでもあった角が破壊された事によって、邪龍は隙だらけな姿を晒す。
それにユーリは空中で反対方向へと斬撃を繰り出すと、その反動で邪龍へと向かう。
そして彼は、邪龍の目を刺し貫いていた。
「止めて」
そう彼女は懇願する、叶わない願いだと知りながら。
返り血を避けて邪龍から距離を取ったユーリは、崩壊した「青の広場」へと降り立っていた。
「マスター、そろそろ止めを」
「あ、そんな感じ?それで止めって・・・どうすればいいんだ?こう何か、必殺技とかある感じ?」
崩壊した街の景色、散々にやり込められボロボロな邪龍、それらとまるで無関係であるかのように傷一つないユーリとエクスが、そう口にする。
「はい。私の名前をお叫びください、マスター」
「んん?どういう事?」
「ですから、私の名前『エクスカリバー』をお叫びくださるようお願いいたします」
あのような怪物を倒すには必殺技でも必要だろうと尋ねるユーリに、エクスは自信満々な様子で自分の名前を叫んでくれと断言する。
その意味がちょっとよく分からないとユーリが首を傾げても、エクスは同じ言葉を繰り返すだけだった。
「えーっと、一応理由を聞いても?」
「勿論それは、その方が私のやる気が出るからです」
「あっ、そう。なるほどなー・・・えっ、それだけの理由で!?ていうか、そんなのでいいの!?」
エクスの訳の分からない発言に、一応その理由を尋ねるユーリ。
それにエクスは一切の偽りのない声で、ただ私が嬉しいからだと答えていた。
「マスター、もう時間がありません。どうかお早く、ご決断ください」
「えぇ?何か誤魔化そうとしてない?ちょっと無理やりな流れを・・・うおおおぉぉぉ!?何あれぇ!?」
ユーリの突っ込みにも、エクスは早く早くと急かすばかり。
それに呆れるユーリが顔を上げれば、そこには邪龍がその腹を開いて翡翠色の宝玉を剥き出しにしては、何やらとんでもない攻撃を繰り出そうとしている所であった。
「マスター!!」
「あぁ!もうどうなっても知らないからな!!」
邪龍の腹の宝玉、その前には何やら球状の凄まじい力の塊が生まれていた。
それは段々と肥大してきており、まもなく臨界を迎えようとしているのは明白であった。
鋭く声を放つエクス、それに促されるようにユーリは見様見真似で聖剣エクスカリバーを肩に担いでいた。
「えぇと、こんな感じいいのか?」
「恰好は何でも構いません、とにかく私の名前を!!」
「えぇ!?さっきは格好が大事だって・・・えぇい、もう何だっていいや!行くぞ、エクス!!」
「はい、マスター!」
ユーリの構えは、何となくこういう構えが必殺技を放つ恰好っぽいという適当なものだ。
それを気にするユーリに、エクスはそんなの何でもいいと叫ぶ。
ようやく迷いを振り切り覚悟を決めたユーリは、彼女の名を呼ぶ。
それに答えるエクスの声は、今まで一番張り切ったものであった。
「止めて、止めてよ・・・あの子を、サンドラを・・・殺さないでよぉぉぉ!!!」
そう少女は叫ぶ、その声は届くことはない。
「ウオオオオオオォォォォン!!!」
邪龍は咆哮と共に、宝玉から生まれた力を解き放つ。
その圧倒的な力は黒い極光となって、世界を塗りつぶすようだった。
「エクス、カリバァァァァァ!!!」
そして、それをさらに塗りつぶすような白い光が、全てを切り裂いていく。
最果ての街キッパゲルラ、その辺境の街を守るために築かれた城壁は高く厚い。
それをチーズのように切り裂いた斬撃は、その先の世界の果て「グレートウォール」にまで到達する。
そして世界の果てに聳え、その終端を告げる壁にひびが入った。
そう少女は呟いた。
聖剣を手にしたユーリは、泣き叫びながら邪龍の尻尾を切り落とす。
悲痛な、しかしそれでも恐怖を感じさせる邪龍の咆哮が轟く。
「止めて」
そう少女は嗚咽を漏らす。
切り落とした尻尾から溢れ出す血を避けようと飛び上がったユーリに、邪龍の牙が迫る。
ユーリはその頭を踏みつけると、その額に生えていた角を砕いていた。
「止めて」
そう少女は声を絞り出し涙を流す。
その力の根源の一つでもあった角が破壊された事によって、邪龍は隙だらけな姿を晒す。
それにユーリは空中で反対方向へと斬撃を繰り出すと、その反動で邪龍へと向かう。
そして彼は、邪龍の目を刺し貫いていた。
「止めて」
そう彼女は懇願する、叶わない願いだと知りながら。
返り血を避けて邪龍から距離を取ったユーリは、崩壊した「青の広場」へと降り立っていた。
「マスター、そろそろ止めを」
「あ、そんな感じ?それで止めって・・・どうすればいいんだ?こう何か、必殺技とかある感じ?」
崩壊した街の景色、散々にやり込められボロボロな邪龍、それらとまるで無関係であるかのように傷一つないユーリとエクスが、そう口にする。
「はい。私の名前をお叫びください、マスター」
「んん?どういう事?」
「ですから、私の名前『エクスカリバー』をお叫びくださるようお願いいたします」
あのような怪物を倒すには必殺技でも必要だろうと尋ねるユーリに、エクスは自信満々な様子で自分の名前を叫んでくれと断言する。
その意味がちょっとよく分からないとユーリが首を傾げても、エクスは同じ言葉を繰り返すだけだった。
「えーっと、一応理由を聞いても?」
「勿論それは、その方が私のやる気が出るからです」
「あっ、そう。なるほどなー・・・えっ、それだけの理由で!?ていうか、そんなのでいいの!?」
エクスの訳の分からない発言に、一応その理由を尋ねるユーリ。
それにエクスは一切の偽りのない声で、ただ私が嬉しいからだと答えていた。
「マスター、もう時間がありません。どうかお早く、ご決断ください」
「えぇ?何か誤魔化そうとしてない?ちょっと無理やりな流れを・・・うおおおぉぉぉ!?何あれぇ!?」
ユーリの突っ込みにも、エクスは早く早くと急かすばかり。
それに呆れるユーリが顔を上げれば、そこには邪龍がその腹を開いて翡翠色の宝玉を剥き出しにしては、何やらとんでもない攻撃を繰り出そうとしている所であった。
「マスター!!」
「あぁ!もうどうなっても知らないからな!!」
邪龍の腹の宝玉、その前には何やら球状の凄まじい力の塊が生まれていた。
それは段々と肥大してきており、まもなく臨界を迎えようとしているのは明白であった。
鋭く声を放つエクス、それに促されるようにユーリは見様見真似で聖剣エクスカリバーを肩に担いでいた。
「えぇと、こんな感じいいのか?」
「恰好は何でも構いません、とにかく私の名前を!!」
「えぇ!?さっきは格好が大事だって・・・えぇい、もう何だっていいや!行くぞ、エクス!!」
「はい、マスター!」
ユーリの構えは、何となくこういう構えが必殺技を放つ恰好っぽいという適当なものだ。
それを気にするユーリに、エクスはそんなの何でもいいと叫ぶ。
ようやく迷いを振り切り覚悟を決めたユーリは、彼女の名を呼ぶ。
それに答えるエクスの声は、今まで一番張り切ったものであった。
「止めて、止めてよ・・・あの子を、サンドラを・・・殺さないでよぉぉぉ!!!」
そう少女は叫ぶ、その声は届くことはない。
「ウオオオオオオォォォォン!!!」
邪龍は咆哮と共に、宝玉から生まれた力を解き放つ。
その圧倒的な力は黒い極光となって、世界を塗りつぶすようだった。
「エクス、カリバァァァァァ!!!」
そして、それをさらに塗りつぶすような白い光が、全てを切り裂いていく。
最果ての街キッパゲルラ、その辺境の街を守るために築かれた城壁は高く厚い。
それをチーズのように切り裂いた斬撃は、その先の世界の果て「グレートウォール」にまで到達する。
そして世界の果てに聳え、その終端を告げる壁にひびが入った。
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