【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

救世主の真相

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 空を覆うような邪龍の巨大なシルエット、それと比べれば余りにちっぽけなシルエットがそれへと向かっていく。
 それは初めから勝負が決まっているような、そんな衝突であった。

「ウオオオォォォン!!?」

 しかし鳴り響いたのは、苦痛に叫ぶ邪龍の咆哮の方であった。
 それは現実を覆すような、圧倒的な力を証明する光景だ。
 そしてここには、もう一人悲鳴を叫んでいる人物がいた。

「ひぃぃぃぃぃ!!?今、どうなってんの!?ねぇ、今どうなってんのこれぇぇぇ!!!?」

 その人物、ユーリは泣き叫びながら聖剣エクスカリバーを振り回す。
 彼はその状態で、邪龍の身体から伸びた触手を次々と切り落としていくのだった。

「マスター、お静かにお願い出来ますか?気が散って、マスターの身体の操作に集中出来ません」

 その矛盾した光景の答えは、今は聖剣エクスカリバーとなっているエクスが口にしている。
 ユーリは今、エクスにその身体の操縦権を握られて操られていたのだ。

「ねぇぇぇ!!だったらもう俺じゃなくても良くない!?いいよね、絶対!!」
「駄目です。マスターでないと、私のやる気が出ませんから」
「ええぇぇぇぇ!!?そんなのありぃぃぃ!?」

 襲い掛かる邪龍の巨大な尻尾、ユーリはそれを切り払い打ち返す。
 痛みにのたうち回る邪龍へと彼は追い打ちを掛けると、その柔らかい腹を薙いでいた。

「そういえばさっきのもさぁ!あれ、何なの?やる必要あった?」
「当然です。私のマスターですから、格好良くなければ」
「えぇ・・・そんな事のためにやってたの、あれ?これとか、ちょっと恥ずかしいんだけど」

 自らの腹へと乗り上げているユーリに、邪龍は噛みつこうとその長い首を伸ばす。
 ユーリはその開いた口の中へと聖剣を伸ばすと、邪龍の牙を切り飛ばす。
 そして彼は、邪龍の顔を蹴りつけて自らも大きく飛び退いていた。
 その背中には、ユークレール家の旗で作った外套が翻っている。

「ねぇ、脱いでいいこれ?正直、邪魔でしょ実際」
「駄目です。格好いいですから」
「あ、はい。そうですか・・・はぁ」

 何だかとっても勇者っぽい恰好に、ユーリはそれが恥ずかしいと何とか止めさせようとする。
 しかしエクスににべもなく断られて、彼は静かに溜め息を漏らすばかりであった。

「それよりもマスター、前をご覧ください」
「えっ?うわあああっぁ!!?」

 戦闘中にも拘わらず俯き落ち込んでいるユーリに、エクスが静かに注意を促してくる。
 その声にユーリが顔を上げれば、そこには真っ黒な景色が。
 邪龍のブレスが、今まさに彼を襲おうとしていた。

「マスター、ご安心を。この程度の攻撃で私がマスターの身体を傷つけさせることなど、断じて有り得ません」
「お、おぉ・・・助かったよ、エクス・・・って、ええぇぇぇ!!?」

 それをエクスは、難なく防いで見せている。
 恐怖に目を閉ざしていたユーリはその声にゆっくりと目を開くと、彼女に礼を口にしようとしてた。
 しかしその途中で彼は何かを目撃すると、頭を抱えて悲鳴を上げていた。

「時計塔が、時計塔が・・・また倒壊してるぅぅぅぅ!!!」

 それは、時計塔が崩壊している姿を目にしたからだった。
 彼らが今、戦っているのはキッパゲルラでも一番広い広場「青の広場」であった。
 そのシンボルである時計塔が今、再びエクスの手によって破壊されてしまったのだ。

「・・・?何をそんなにお嘆きになっているのですか?」
「いやいやいや、そっちこそ何でそんな平気そうにしてるんだよ!?お前が壊したのを頼み込んで再建してもらったんだぞ!?それをまた壊して・・・平気な顔してる方がおかしいだろ!?」

 頭を抱えて悲鳴を上げるユーリに、その姿は今は見えないがエクスは本当に意味が分からないと不思議そうに首を傾げていそうな声で彼へとそう尋ねる。
 ユーリはそれに手を振り回しながらおかしいだろうと熱弁するが、それは結果的に口論の相手を振り回しながら熱弁するという不思議な光景となっていた。

「マスター。人は死ねば取り返しがつきません、しかしものならば幾らでも取り返しが利きます。私達が守るべきなのは、果たしてどちらでしょうか?答えは決まっています」

 ユーリの熱弁に、エクスは諭すように答える。
 その言葉は、一見正論のように思えていた。

「何かいいこと言ってる感じだしてるけど・・・この人、結局好きに暴れたいだけだよ絶対!!!」

 しかし違うのだ。
 彼女の口調、そして手にした聖剣から伝わってくる波動のようなこのオーラは、ユーリという主人と一緒に戦うのが楽しくて仕方がないと言っている。
 つまり彼女は何かいい感じの事を言っているが、結局は好きに暴れたいだけなのであった。

「おっと、そんなどうでもいいことを話している間に敵の攻撃が」
「はい、本音が出ました!聞きましたか、奥さん!!この子やっぱりただ暴れたいだけですよ、騙されないでくださーい!!」

 隙だらけな姿を晒して口論しているユーリ達に、邪龍の攻撃が迫る。
 それはその身体から無数に生えている触手の連打と、止めのブレスであった。
 それらを全て、エクスは軽々と躱していく。

「ああああぁぁぁぁ!!?青の広場がぁぁぁ!!?あぁ!?あれはヘイニーさんのワインセラーまで!?やばいって、どうすんだよこれぇぇぇ!!?」

 躱した攻撃は当然、彼らが立っていた場所へと襲いかかる事になる。
 邪龍の攻撃によって「青の広場」に敷き詰められていた緑雲石が砕け、それが宙に舞うという幻想的な光景が繰り広げられていた。

「もーさー!ちょっとだけでも気を使えないの!?それか気を使えないならいっそ、一気に決着をつけるとかさぁ!!」

 夕暮れの光を浴びて、宙に舞う緑雲石がキラキラと幻想的な輝きを放っている。
 その一見美しい、しかし破壊的な光景を目にしてユーリは叫ぶ。

「分かりました。では、全力で掛かります。マスター、準備はよろしいですか?」

 そのユーリの言葉に、エクスは意外な反応を返していた。

「えっ?今まで本気じゃなかったの?ちょっと待って、準備って一体―――」
「では、参ります」

 エクスの意外な反応に、ユーリは虚を突かれキョトンとした顔をしている。
 そんな彼を置き去りに、やっと全力で戦えるとウキウキなエクスは、もはや彼の了承を待つこともなかった。

「ちょ、待っ・・・ひぃぃぃぃぃぃ!!!?」

 全力を出したエクスの力は、人の想像を超えている。
 その余りの速度に、ユーリの悲鳴も間延びして、高音から低音へと遷移する。
 それからの戦いは、まさに一方的であった。
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