【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

「勇者」ユーリ・ハリントン

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「うー・・・今回だけだからねー!」
「頑張ってねおとーさん!エクスも!」

 ネロは不満げに唇を尖らせて、プティは最後に残る二人を励ます声を上げて去っていく。
 その場に残されたのは無人の街と恐ろしい邪龍、そしてウキウキとした表情で手を差し伸べているエクスと頭を抱えているユーリの二人であった。

「ちょ、ま・・・あぁ、行っちゃった」

 エクスの言葉にあっさりと納得し去っていく二人にユーリは慌てて手を伸ばすが、その姿はもう見えなくなっている。
 その事実に、彼は再び頭を抱えては蹲る。

「さぁ、マスター。時間もありません、お早く」
「あぁ、うん。それで、どうすればいいの?」

 そんな彼の肩を、瞳をキラキラと輝かせたエクスが揺する。
 ユーリはそれに諦めたように振り返ると、何をすればいいのかと尋ねていた。

「そうですね・・・ではまず、マスターのお力でマスター自身に『勇者』の称号を付与いたしましょう。やはり私、聖剣エクスカリバーを振るう者は勇者でなければ!」

 ユーリの言葉にその整った顎へと指を添えたエクスは少し悩んでから顔を上げると、ユーリ自身に「勇者」の称号を付与しようと提案する。

「えぇ?いやいや、無理無理!もうあの書状は使いきっちゃったんだぞ?そんな『勇者』なんて大層な称号、付与出来る訳が・・・」

 しかしユーリは、その提案に難色を示す。
 この街、キッパゲルラへと「立ち入り禁止」の称号を付与した事で、彼が持っていた高位の素材を使用した紙は使い切ってしまったのだ。
 そんな状況では、「勇者」などという最上位の称号を付与することは出来ない、彼はそう口にする。

「やってみなければ分からないではないですか!さぁさぁ!やってみましょう、マスター!」

 しかしエクスにそんな理屈など通用する訳がなく、彼女はグイグイとユーリへと迫ると、それを強制してくる。

「分かったから!分かったから押すなって!!ったく・・・出来なくても、怒るなよ?えーっと、筆記用具一式はいつも持ってるから・・・うーん、やっぱり碌な素材持ってないなぁ。これでも結構苦労して集めたんだけど・・・」

 エクスの勢いに負けて自らの荷物を探り始めるユーリは、そこから愛用の筆記用具一式を取り出していた。
 エクスを『命名』した際に焼失した以前のそれらは、市場に出回っている中でも最上級の品を取り揃えていたが、今回のものはそれとは比べ物にならない質のものであった。

「あれ?何かいけちゃった・・・何でだ?こんな素材の質で、『勇者』なんて称号が書き足せる訳が―――」

 背後から感じる無言のプレッシャーに、ユーリは渋々ながらそれらに自らのプロフィールを書き出し、そこに「勇者」の称号を「書き足し」ていく。
 それは彼の予想に反して、あっさりと「書き足す」事に成功してしまっていた。

「あぁ!!やはり・・・やはりそうだったのですね、マスター!マスターこそ・・・マスターこそ!私の勇者様だったのですね!!!」

 ユーリが首を捻りながら口にする疑問、それを掻き消すような声が彼の背後から響く。
 それに振り返ればそこには、感動に涙ぐみ満面の笑顔で祈るように両手を組んでいるエクスの姿があった。

「えぇ・・・何言ってるんだ、この子は?そんな訳が―――」
「さぁ、マスター!いえ、勇者様!!私をその手にお取りください!!」

 そんなエクスの反応に、ユーリはドン引きしている。
 しかし彼女はそんなユーリの反応などお構いなしにその手を取ると、自らの胸へとそれを導いていた。

「ちょ、おまっ!?駄目だってこんな時に!!?」

 その感触は柔らかく、生温かかった。
 自らの手に触れた柔らかな感触に、ユーリは顔を真っ赤に染めると明らかに動揺し、慌てふためていた。

「マスター、何を驚かれているのですか?」
「えぇ!?いやだってお前これは・・・えっ、もしかして経験が・・・って、うわぁ!!?」

 完全にユーリに胸を揉まれた状態で、エクスは不思議そうに首を捻っている。
 彼女のそんな反応に何故かちょっと傷ついた表情を見せていたユーリは、突然悲鳴を上げていた。

「ちょ!?何これ何これ!?いやー!!何かむにってした、むにって!?これ触って大丈夫な奴!?ねぇ、大丈夫な奴なの!!?」

 それはユーリの手がエクスの身体へと、完全にめり込んでいったからであった。

「んんっ!だ、大丈夫ですマスター。これで私は聖剣に、んぅ!?も、戻れますから」
「いやいやいや、ここに来てちょっとエッチな感じになるの止めてよ!!反応に困るから!後大丈夫なんだよね、本当に!?」

 人間であれば心臓がある位置に手を突っ込まれたエクスは、何故か頬を赤らめると喘ぎ始める。
 そのちょっとエッチな反応が、今自らの手が置かれているグロテスクな状況とギャップがあり過ぎて、ユーリはどう反応していいか困っていた。

「はい、大丈夫です。マスター、私を、聖剣エクスカリバーを貴方の手に託します」

 頬を赤く染めたエクスが、最後に微笑むとそう囁く。
 そして彼女は眩い光へと包まれると、その姿を変える。
 その光は、彼女が現れたあの時の光と同じものであった。

「・・・これが、聖剣エクスカリバー」

 そしてユーリの手に、それが握られる。
 刃が半分に欠けた姿しか見ることのなかった聖剣エクスカリバー、その真の姿を。

「はははっ、凄い凄いぞ!流石伝説は聖剣エクスカリバー!凄い力じゃないか!この力さえあれば、あんな邪龍相手にもならない!!さぁ、どこからでも掛かって―――」

 握りしめた聖剣エクスカリバーから伝わる力は、そうした事に鈍感なユーリにもはっきりと伝わるほどの圧倒的なものであった。
 その余りの力にユーリは思わず笑みを零すと、これならばあの邪龍とすら戦えると自信を覗かせる。

「ウオオオオオオォォォォォン!!!」

 しかしその力を感じ取ったのは、何もユーリだけという訳ではなかった。
 寧ろ、その敵である邪龍こそが、その力を一番に嗅ぎ取っていたのだ。
 そして邪龍は咆哮を上げる、倒すべき敵の出現に猛り狂って。
 その咆哮には、今までのそれとは比べ物にならないほど悪意と憎しみが込められていた。

「えっ、マジ・・・俺、あれと戦うの?」

 邪龍の巨大さに比べれば、人間は余りにちっぽけだ。
 そんな強大な存在に睨み付けられ、ユーリは小さく呟く。
 その呟きからは、さっきまでの勢いは完全に消え去っていた。
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