【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

邪龍復活

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 狭い土地に、折り重なるように建物を敷き詰めた路地裏。
 更にその奥も奥である袋小路からは、覗ける空も狭い。
 その狭い空の中に今、紫色の煙が確かに立ち上っていた。

「合図か・・・だが、遅すぎたな」

 それを見上げ、呟くマルコムの声は重い。
 それは、彼が地上へと戻した視線の先を見れば分かるだろう。
 その先には地面へと倒れ伏す彼の仲間達と、その前で余裕な様子で佇んでいるオーソン達の姿があった。

「で、あんたはどうするんだい?まだやるってんなら・・・」
「そうだな、降伏すべきなんだろうな」
「あ?何だ、だったら適当に縄にでも縛って・・・誰か縄、持ってるか?」

 マルコム以外の敵を一通り叩きのめし余裕の態度を見せるオーソンは、腕を組みながらマルコムに尋ねる。
 オーソンは当然のようにマルコムはまだ戦うだろうと考えていたようだったが、彼は意外にも降伏を口にする。

「だが、そうだな・・・やはり、役目は果たさなければな!」
「あん?」

 誰か縄を持っているかと尋ねるオーソンに、周りの者達は皆一様に首を横に振っている。
 それに困ったなと頭を抱えるオーソンに、マルコムは懐から球状の何かを取り出すとニヤリと笑って見せていた。

「そ、それは・・・『邪龍の宝珠』!?マルコムお前、そんなものを持ち出していたのか!?」

 地面へと倒れ伏しているマルコムの仲間の一人が、彼が手にしたものを目にしてそう口にする。
 「邪龍の宝珠」、それはユーリが危険物として彼らの拠点である「狼の巣」から移送させようとしたアーティファクト。
 その効果は―――。

「おい、何かやばそうだぞ。お前ら、逃げる準備しとけ」

 マルコムが手にしたアーティファクト、そのやばい雰囲気を嗅ぎ取ったオーソンはレジー達に小さく耳打ちすると、避難を急がせる。

「だが、無駄だ!それが効果を発揮するには、龍が・・・ドラゴンが必要だろう!?ここにはそんなもの、いないじゃないか!」

 「邪龍の宝珠」その効果は龍に、つまりはドラゴン種に絶大な力を与える代わりに理性を奪い、その性質をまさに邪龍と呼ばれるものに変えるというもの。
 つまり、近くにドラゴンが存在しなければ意味がない代物なのだ。

「何だ、だったら問題ねぇじゃねぇか。お前ら、逃げなくてもよく―――」

 マルコムの仲間が暴露したそのアーティファクトの効果に、それなら問題ないじゃないかと拍子抜けするオーソンは、レジー達に逃げなくてもいいと声を掛ける。

「―――ドラゴンなら、そこにいるだろ?もっと上等な奴がな」

 しかしマルコムは彼らの言葉を無視し、ニヤリと笑うとその手にした宝珠を握り潰す。
 パキンと小気味いい音を立てて、それは呆気なく砕け散っていた。

「くっ、お前ら逃げ・・・って、何だ?何も起きねぇじゃねぇか・・・自棄にでもなったのか?」

 マルコムの予想外の行動に焦るオーソンであったが、それからしばらく経っても何も起きない事を知れば、彼が自棄になっただけかと安堵の吐息を漏らす。

「ちゅ、ちゅー・・・」
「サンドラ?どうした、お腹でも痛いのか?」

 しかし異変は、その時すでに起こっていたのだ。

「どうしたの、アレク?」
「レジー・・・サンドラが、サンドラが変なんだ!」

 アレクが連れていた青い毛皮の希少動物、サンドラと呼ばれたそれが突然苦しみだしていた。
 青い毛皮のその希少動物、はたしてそれは何という生き物であったか。

「ははははっ!馬鹿め、知らずに連れ回していたのか!?それはなぁ、その生き物はなぁ・・・翡翠龍と呼ばれる、龍種の一種なんだよ!!」

 サンドラと呼ばれたその希少動物、それは翡翠龍と呼ばれるドラゴン種の上位種、幻獣とも呼ばれる龍種の一種であった。
 マルコムはそれを口にしながら、笑い声を上げる。

「それが、どういう事か分かるか?」

 愉快で堪らないと頭を抱えて笑っていたマルコムは、急にそれを潜めるとオーソン達に疑問を投げかける。
 気付けば彼は、この袋小路の出口のすぐ傍に立っていた。

「―――終わりだよ」

 そう口にした彼は、その場から全速力で逃げだしている。
 その意味する所は、明白であった。

「プティ、逃げるよ!」
「う、うん!!」

 プティを抱えたネロが、その身体能力を生かして袋小路の建物を駆け上っていく。

「お前ら逃げるぞ!!」
「えぇ!アレク、貴方も一緒に!!」

 オーソンはレジーを抱えて逃げ出そうとし、そのレジーがアレクへと手を伸ばす。

「サンドラ、そんな・・・サンドラーーー!!!」

 アレクは地面に蹲り、苦しんでいるサンドラへと手を伸ばす。
 その手はレジー達の手によって遠ざかり、そして彼女は悲鳴を上げる。
 彼女の目の前では、何か巨大な力のようなものがサンドラの身体を飲み込み、その身体が何倍にも膨らむ。
 そしてそれは限界を迎えると弾け飛び、辺り一帯を吹き飛ばしていた。
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