【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

アレキサンドライトの輝き

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 最果ての街キッパゲルラ、その暗い路地裏の奥には、そこで暮らす住民達が使うための洗濯紐が至る所に張り巡らされていた。
 その洗濯物、袋小路へと吹き込む風がバサバサと揺らす。
 そこにはもう一つ、激しく揺れるボロボロな布地が存在した。

「・・・今度は俺が助ける番、だよな」

 袋小路の上空、張り巡らされた洗濯紐の一つが、異常な重さにしなっている。
 それは、そこに干された洗濯物の重さではない。
 その上に佇む、ボロボロなシーツを身に纏った一人の少女の重さによるものであった。

「さぁ・・・一緒に行こう、サンドラ」
「ちゅ!」

 少女は全身を覆っていたシーツを脱ぎ捨てる。
 吹き荒れる風に呑まれ、シーツは彼方へと消えた。
 その下から現れたのは灰色の髪と左右で違う色をした瞳を持った少女、そして青い毛皮の小動物であった。
 一人と一匹は洗濯紐の上から身を傾かせ、落下していく。

「っ!?何だこれは!?」

 少女が脱ぎ捨てたシーツが風に運ばれ、マルコムへと纏わりつく。
 彼はそのために、レジーへと振るっていた必殺の刃を鈍らせていた。

「一体、どこから・・・?と、とにかく、今の内に!」

 突然、どこかから現れたそのシーツに命を救われたレジーは、その出所に首を捻っている。
 しかし彼女はすぐにそれどころではないと思い直すと、慌ててその場から退避しようとしていた。

「このぐらいで・・・逃げられると思うなよ!!」

 マルコムは身体に絡みつくシーツを切り裂くと、レジーの背後に再び迫る。
 その必殺の刃は、今度こそレジーの身体を捉えようとしていた。

「もらっ、ぐあああぁぁぁぁ!!?」

 迫る刃に振り返り、絶望の表情を浮かべるレジーに、マルコムは勝ち誇りそう口走る。
 しかしその横っ面を、何かが思いっきり蹴りつけていた。

「へへっ、何とか間に合ったかな?」

 マルコムの顔を蹴りつけた少女は、それを踏み台にして近くの地面へと着地する。

「な、舐めるなぁぁぁ!!」
「っ!しまった!?」

 しかしそんな少女を、彼女に顔面を蹴りつけられたマルコムが狙う。
 レジーの方へと心配そうな視線を向ける少女は、それに気付くのが遅れていた。

「ちゅー!!」
「っ!?何だこいつは!ぐわああぁぁぁ!!?」

 今度はそこに、サンドラと呼ばれた青い小動物が割り込んでくる。
 マルコムの顔へと飛び掛かったサンドラは、彼の顔面を思いっきり引っ掻くと、そのままアレクの下へと飛び去っていく。

「お、お前は・・・」
「あ、貴方は・・・」

 サンドラはアレクの方へと飛び乗ると、彼女の頬をペロペロと舐めている。
 そんな彼女の姿にレジー、そしてオーソンが目を丸くしていた。

「あの時のガキ!?」
「アレク!!」

 二人は同時に、それぞれの呼び方で少女の名を呼ぶ。

「「えっ!?」」

 そして同時に、彼らはお互いの顔を見合わせていた。

「オーソン、何で貴方がアレクの事を・・・はっ、貴方まさかっ!?」
「はぁ!?俺はただ、あのガキが俺の宝石を・・・って、お前女だったのか!?」

 何故かアレクの事を知っていたオーソンに、レジーは彼に怪しむ視線を向ける。
 それに不満そうな表情で腕を組んだオーソンは、今の見違えるように綺麗になったアレクの姿に、彼女が女の子である事にようやく気づき、驚愕に表情を浮かべていた。

「そんなの見れば分かるでしょう!?まぁいいわ・・・そんな事より、アレク。助けてくれてありがとう」

 オーソンの反応に馬鹿なんじゃないのと切り捨てたレジーは、アレクへと向き直ると彼女に優しく声を掛ける。

「っ!べ、別に!助けに来た訳じゃないから!!偶々通りかかっただけだし!!」

 アレクはそんなレジーから慌てて距離を取ると物陰に隠れ、顔を真っ赤に染めながら、そう口にしていた。
 彼女はそう口にすると完全に物陰に隠れてしまっていたが、何度もチラチラと顔を出しては、レジー達の様子を窺ってくるのだった。

「ふふっ・・・元気そうで、安心した」

 そんな彼女の様子に、レジーは笑みを漏らす。
 アレクはそんなレジーの姿に、唇を尖らせながら物陰へと噛り付いていた。

「はぁ、何が何だか分からねぇが良かったな・・・っ!おい、レジー!後ろっ!!」
「えっ?」

 事情をよく呑み込めていないながらも、二人の様子に良かった良かったと頷いているオーソンは、突然慌てたように声を上げる。
 それは、レジーの背後へと危険が迫っていたからだった。

「・・・だから、隙だらけなんだよお前達は!!」

 その声に驚き振り返るレジーの視線の先には、頬に痣を作り顔面を引っかき傷だらけにしたマルコムの姿があった。

「危ない、レジー!!」

 剣を手にレジーへと迫るマルコムにアレクも声を上げるが、物陰に隠れている彼女では到底間に合わない。
 それはここにいる、他の者達も同様であった。

「今度こそ、もらっ・・・うおおおぉぉぉ!!?」

 今度こそはと勝ち誇るマルコムの目の前を、何か眩い光が通り過ぎる。
 それは彼が手にしていた剣の刃を焼き切り、地面にも深い傷跡を残していく。

「これで、分かったか!レジーに手を出したら、俺が容赦しないからな!」

 それは、アレクが放った攻撃であった。
 彼女のその赤と青緑色の瞳から放たれた、ビームという。

「おいおい・・・そんなのありかよ?」
「は、ははは・・・す、凄いじゃないアレク」

 アレクの信じられない力に、オーソンとレジーは引き攣った笑みを浮かべている。

「わー・・・凄い凄い!ビームだ、ビーム!」
「どうやったの、どうやったの!?ねーもっかいやって見せて、ねーってばー!!」

 大人の二人が信じられないとドン引きするアレクの力はしかし、ネロとプティの二人からすれば瞳を輝かせる不思議であった。
 彼女達は口々に歓声を上げると、はしゃぎながらアレクの下へと駆け寄っていく。
 そんな二人の姿に、アレクは迷惑そうにしながらもどこか満更でもなさそうだった。

「・・・旗色が悪いな」

 剣先を失った得物を放り捨てながら、マルコムはそう呟く。

「結局、こちらが陽動になったか・・・そう長くは持たないぞ?」

 マルコムはアレクという強力な味方を得てはしゃいでいるオーソン達の姿を眺めながら、溜め息を漏らす。
 彼は、彼方へと視線を向けながら呟く。
 その視線はこの街の領主の館、「放蕩者の家」がある方向へと向いていた。
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