上 下
78 / 210
第一章 最果ての街キッパゲルラ

細かい事は気にしない二人

しおりを挟む
「いっくよー、ファイヤーブレイドー!!」

 最果ての街キッパゲルラの路地裏、その奥も奥の袋小路に場違いなほど明るい声が響く。
 その掛け声と共に自らが手にした剣に炎を纏わせたネロは、近くの黒葬騎士団相手に切り込んでいく。

「ふんっ、予告しながら攻撃する奴がいるか!」

 だが彼女が口にした言葉にその攻撃手段も予想出来た相手は、それを難なく躱していく。

「う、動くと危ないですよ?えーい、サンダーストーム!」
「ぎゃああああ!!?」

 しかしその逃げ道を塞ぐように、プティが放つ雷が迫る。
 ネロの攻撃を避けるのに気を取られていた彼はそれを躱すことが出来ず、もろに食らってしまっていた。

「あー!またプティが取ったー!!」
「ち、違うもん!そんなつもりじゃなかったもん、偶々そうなっちゃっただけだもん!!」

 黒焦げになって倒れる敵の騎士に、ネロは獲物が取られたとプティに食って掛かる。
 それにプティも譲らず、彼女達は戦いそっちのけで言い合いを始めてしまう。

「・・・この、ガキ共が!」

 そんな彼女達の足元で、先ほど倒した筈の騎士がゆっくりと起き上がり、復讐に燃える瞳で剣を掲げていた。

「プティ、前!」
「えっ?きゃあああ!?」

 ネロがその寸前に気付くが、もう遅い。
 その騎士が振り下ろした刃は、プティの身体に届こうとしていた。

「・・・あれ?何ともない?」
「えっ?本当だ・・・何で?」

 蹲り目を瞑るプティを庇うように、ネロがその身体を抱きしめている。
 彼女達はいつまで待ってもやってこない痛みに、恐る恐るその目を開く。

「ったく・・・お前らは詰めが甘いだよ、詰めが」

 そこには、敵に止めを刺しているオーソンの姿があった。

「おー!何だー、オーソンもやれば出来んじゃーん!」
「す、凄いです!助かりました、オーソンさん!」

 オーソンの行動によって命を救われた二人は、その目を輝かせると彼の周りをクルクルと回ってははしゃいでいる。

「へへっ、そりゃそうよ!何たって、こちとら凄腕冒険者のオーソンで通ってるんだぜ?お前らとは年季が違うんだよ、年季が!がははははっ!!」

 自らをおだてる二人の言葉にオーソンも悪い気がしないのか、彼は豪快な笑い声を上げながら頭を掻いている。
 その三人の様子は完全に戦いの事を忘れた人のそれで、当然それを狙って敵の手が迫っていた。

「『止まりなさい!!』三人とも何やってるの、戦闘中よ!?」

 その敵をレジーがその能力を使って、何とか食い止める。

「お、おぉ・・・わりぃわりぃ」

 レジーの能力によって硬直した敵を慌てて打ち倒したオーソンは、彼女に対して手を立てて謝っている。

「全く・・・ん?」

 ネロとプティの二人はともかく、ベテランの冒険者であるオーソンのその振る舞いに、レジーは頭を抱えて溜め息を漏らす。

「わー・・・ねーねー!さっきのってどーやったの!?」
「はわわっ!駄目だよ、ネロ!そーゆーのを人に聞くのはマナー違反だって、おとーさん言ってたよ!!」

 そんな彼女の下に、その瞳をキラキラと輝かせた二人がやって来ていた。

「そ、それよりほら!お礼言わないと」
「あ、そーだった!レジーさん、助けてくれてありがとーございました!」

 二人の態度にレジーが戸惑い言葉を失っていると、彼女達はぺこりと頭を下げてくる。

「あ、貴方達・・・その、私のこと恨んでないの?」

 二人のその態度にレジーが戸惑っていたのは、彼女には彼女達との間に確執があったからだ。
 二人の真っ直ぐな態度にもはやそれを聞かずにいられなくなったレジーは、思わずをそれを口にする。

「恨む?何でー?」
「そ、そうだよ!レジーさん、いつも一生懸命仕事してて凄いなって!」
「なー」

 レジーの卑屈ですらあった言葉に、二人は目を丸くすると心底不思議そうな表情を浮かべる。
 そして二人で顔を見合わせては全然そんな事ないのにと言い合う二人に、レジーは気が抜けたのか腰を壁につけたままズルズルと崩れ落ちていく。

「そっか、私が勝手に気にしただけか・・・ははっ、本当にどうしようもない」

 自嘲の笑みを浮かべゆっくりと顔を上げたレジーは、何か憑き物が落ちたようなすっきりとした表情をしていた。

「ねーねー、それよりさっきのってどうやったのー?教えてよー?」
「ネ、ネロ!だから駄目だって、そういうのは!!」

 そんなレジーの心情などお構いなしといった様子で、ネロが彼女の腰へと抱き着くと、さっきののやり方を教えてとせがんでくる。
 プティはそれを何とか止めさせようとしていたが、それは結果的に彼女の身体を挟んでやり合う事になっていた。

「ふふっ・・・二人とも、戦闘中よ!もっと気を引き締めなさい!!」
「「はーい」」

 レジーの叱りつけるような声に、二人は背筋を伸ばして返事を返す。
 それはまるで、先生と生徒のような姿であった。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

処理中です...