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第一章 最果ての街キッパゲルラ

そう簡単に事は運ばない

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「おい、何だよあれ。あんな化け物に勝てる訳が・・・ぎゃあああ!!?」
「ひぃぃ!?そうだ勝てる訳がねぇ!逃げろ、逃げろぉぉぉ!!」

 最果ての街キッパゲルラ、その周囲で行われている戦闘では異常な光景が繰り広げられていた。
 今もまた、何かが爆発するような音が響くと、それによって重い鎧を身に纏った兵士達が空を舞う。
 しかもそれはその一か所だけではなく、戦場の幾つもの場所で同時に起こっているのだ。
 そんな異常な光景を目にした兵士達は動揺し、少なくない人数が武器を捨てて逃げ出してしまっていた。

「狼狽えるな!!所詮相手は一時の勢いだけ!戦況は依然、我々が有利なのだぞ!!」

 一人が武器を捨てて逃げれば、それを目にした十人がそれに倣って武器を放り投げてしまう。
 次々と武器を捨て、戦場から逃げ出そうとしている兵士達の姿に、立派な兜を被った指揮官風の男が馬上から叫ぶ。

「見よ!自らの背後を、自らの隣を!!そこには貴様らの同胞が今も戦っている!!そして見るのだ!貴様らの正面を!敵はそこにしかいない!!どうしてそれで、我らが破れようか!!!」

 腰の剣を抜き放ち、それを掲げながら叫ぶ指揮官は、敵よりもこちらの方が数が多いのだと兵士達が実感出来る言葉で伝えていた。
 その言葉に兵士達は見ただろう、自分達の背後にも隣にも多くの兵が、味方がいる事を。
 そして正面を向いて気付くのだ、敵はそこにしかおらず、その数もずっと少ないという事を。

「そ、そうだよな。こっちの方がずっと多いんだ、これで負ける訳ないよな・・・」
「おい!あんな化け物放っておいて、こっちから攻めようぜ!」
「あぁ、そうだな!」

 指揮官の言葉に冷静さを取り戻した兵士達は、投げ捨てた武器を拾い直すと戦線に復帰していく。
 彼らはこちらの数の多さを生かして、少数の化け物を無視する戦法を取ろうとしていた。

「よし!そのまま両翼を広げ、徐々に包囲しろ!あれらには正面から当たる必要はない、うまくやり過ごすのだ!!」

 盛り返した戦線に、指揮官は数の利を生かした包囲戦術を取る。
 数の差によって、既に半包囲に近い状態となっていた前線は、その命令によって包囲を完成しつつあった。

「このままでも時期に包囲は成るが・・・おい!あれはどうなっている?」
「はっ、いつでも動かす準備は出来ております!」

 完成しつつある包囲に、指揮官はそれを馬上から眺めながら思案する。
 そして彼は顔を上げると、傍らに控えていた騎士へと声を掛けていた。

「よし!ではそれに、奴らの後背を突かせるのだ!」
「ははっ!」

 指揮官の命令に、控えていた騎士は了承の声を上げると、跨っていた馬の腹を踵で叩く。
 一つ嘶きを上げて駆け出した馬に、あっという間に見えなくなる騎士。
 そして程なくして、指揮官が望んだ部隊が動き出していた。

「ふふふ・・・これで奴らも終いよ」

 戦場に響く地響きは、死神の葬列を思わせる。
 そして事実、その音は戦場で多くの死を生み出し、勝敗を決定づける威力を持っていた。

「戦場の華、騎兵部隊によってなぁ!!」

 土煙を上げながら、騎兵部隊は戦場を大きく迂回する。
 それは誰にも阻まれる事なくヘイニー達の軍の後背へと迫り、そのたっぷりと蓄えた運動エネルギーをぶつけようとしている。
 そしてそれは、もうすぐそこにまで迫っていた。

◆◇◆◇◆◇

「・・・そうか、そういう事か」

 最果ての街キッパゲルラ、その暗い路地裏の袋小路。
 そこでは、激しい戦闘が繰り広げられている。
 しかしそれを呟いた金髪の男、マルコムはその戦闘から一歩引いた場所で、それを観察しているようだった。

「その大男は表皮が異常に強化されている、刃物は通用しないぞ!鈍器を使って攻撃するんだ!そちらの女の力は気を強く持てば影響も少なくなる!それでも動きが一瞬阻害されるが、それを頭に入れておけばお前達なら対応出来る筈だ!!」

 後方から戦闘を俯瞰しそれを分析したマルコムは、敵の弱点を看破しそれを仲間へと伝える。

「なるほど、そういう事だったのか!」
「お前達なら出来るだと・・・ふんっ、誰に言っていると思っているんだ!」

 マルコムの言葉に、相手の不可思議な力に押されていた彼の仲間達も勢いを取り戻す。
 予備の武器として鈍器を持っていた騎士はそれに持ち替え、持ち合わせのなかった騎士は剣の腹でオーソンを殴打する。
 そんな彼らにもレジーの声が飛び、その度に彼らは身体を硬直させていたが、それを始めから織り込み済みで動いていていた彼らは動揺することなく、お互いにフォローして戦いを継続していた。

「ふっ、確かに驚きはしたが・・・種明かしをしてしまえばこんなものか」

 一気に形勢逆転し相手を押し込んでいく仲間達の姿に、マルコムは余裕の笑みを見せる。

「舐めるなよ、俺達を一体誰だと思っている?この国最強の黒葬騎士団だぞ」

 彼は一度は収めていた剣を再び抜き放つと、ゆっくり歩みを進める。
 そう彼らは腐っても、この国最強たる黒葬騎士団の一員なのだ。
 そして今、戦闘に参加しようとしているのはその中でも最強の騎士、マルコム・スターンであった。
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