【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

見知らぬ力

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「うわあああああぁぁぁぁぁぁ!!?」

 自らを狙って迫りくる敵の騎士の姿に、ヘイニーは両手で顔を覆い悲鳴を上げる。

「あ、あれ・・・どこも痛くない?ど、どうしてだ?」

 恐怖の余り目をきつく瞑り、蹲ってしまっていたヘイニーはしかし、いつまで待ってもやって来ることのない痛みに、恐る恐るその目を開ける。

「えっ?」

 そこには敵の騎士を打ち倒し、呆けたようにその場に立ち尽くしている聖剣騎士団の騎士の姿があった。

「まさか、返り討ちにしたのか?そんな馬鹿な・・・お、おい大丈夫なのか!?何があったのだ!?」

 幾ら押しに押しているとはいえ、前線を一人で突破し敵の総大将にまで迫る騎士というのは、相当な腕利きであっただろう。
 それをエクスに鍛えられたとはいえ、弱小で鳴らした自らの騎士が打ち倒せる訳がない。
 そう考え、ヘイニーは何があったのかと呆けている騎士に尋ねていた。

「そ、それが・・・自分にもよく分からないのです。ただ突然、力が湧いてきて・・・」
「突然力が湧いてきただと?そんなお伽噺のような事が、実際に起きる訳が―――」

 ヘイニーにその肩を揺すられ、ようやく放心状態から立ち直った騎士はしかし、要領の得ない言葉を返すだけ。
 彼が口にしたのは突然力が湧いて来たという、今時物語の中でも使われないような出来事であった。

「な、何だ力が勝手に・・・うおおおぉぉぉ!!!」

 その時響き渡ったその声は、ヘイニーが救援に兵を向かわせた左翼の方からであった。
 そしてその声を上げたのは、先ほど兵と共にそこに向かわせたあの騎士である。
 彼は何やら呟くと雄叫びを上げ、周囲の敵兵を蹴散らしていく。
 その凄まじい勢いに、左翼の戦況は瞬く間に立て直されていくようだった。

「力が、力が湧いてくるぞ!」
「お、俺もだ!これはきっと・・・」
「あぁ、エクス様の御加護に違いない!!」
「「聖剣騎士団、万歳ー!!!」」

 次に上がったその声は、予め分散させて各前線で指揮を取るように申しつけてあった聖剣騎士団の騎士達からであった。
 そしてそれは壊滅寸前であった右翼から上がり、彼らは団長であるエクスへの感謝の言葉を叫ぶと、正面の敵を薙ぎ払っていく。
 その余りの勢いは、すっかり逃げ出してしまおうとしていた右翼の貴族達が、今度は勝ち馬に乗ろうと引き返してくるほどであった。

「え、えぇ・・・まさか、本当なのか?」

 目の前の騎士の話を到底信じられないと否定したヘイニーも、その行動を目にすれば信じざるを得ない。
 理由は分からないが、確かに彼の配下である聖剣騎士団の騎士達が覚醒を遂げている事は確かなようだった。

「本当です、本当なんです!とにかく不思議な力が湧いてきて・・・とにかく凄いんですって!!」
「あ、あぁ・・・分かったから、お前も戦いに戻り・・・お、おい!前、前!」

 ヘイニーの目の前の騎士は、彼がその現象を信じざるを得なくなっても変わらず、自らの身に起きた不思議な現象について熱弁を振るっている。
 それにうんざりといった様子のヘイニーが、彼を前線へと戻そうとしている。
 しかし彼はその最中、自分とそして目の前の騎士へと迫る投げ槍の姿を捉えていたのだった。

「おっと、危ないじゃないですか!!それでですね、いいですかヘイニー様!貴方は全然分かっていないのです!私の身に起きた出来事が如何に凄いかを!!そもそも・・・」

 その投げ槍を騎士は軽々と受け止めると、子供にでも投げ返すような手つきで軽く投げ返していた。
 その投げ槍の威力は凄まじく、まるで敵軍の中に一本の線でも引いたかのように彼らを薙ぎ倒していく。
 しかし彼はそんな事などお構いなしといった様子で、再び自らの身に起きた現象について熱弁を振るい始めていた。

「は、ははは・・・一体何が起こっているんだ、これは?」

 その余りの光景に、もはや訳が分からないとヘイニーは乾いた笑いを漏らす。
 そんな彼の様子を気にも留めず、騎士は彼に熱弁を振るい続けていた。

◆◇◆◇◆◇

「何、だと・・・!?」

 勝利を確信し、残酷に細められていたマルコムの目が驚愕に見開かれる。
 その先には、確かに突き刺した筈の剣先がオーソンの皮一枚抉るだけで止まってしまっていたのだった。

「貴様、何をした!?」

 その理解出来ない状況に警戒の声を上げるマルコムは、素早く飛び退くと一旦オーソンと距離を取る。
 彼らの様子に、この場から脱出しようとしていたマルコムの仲間の騎士も、その足を止め様子を窺っているようだ。

「いや、俺にも分からねぇんだが・・・お前が何かしたんじゃないのか?」

 マルコムの疑問に、オーソンは自分にも分からないのだと首を捻っている。
 彼はマルコムに刺し貫かれた筈の箇所を手で擦ると、そこに本当に血がついてない事に驚いていた。

「戯言を!!どうせ事前に強化ポーションでも飲んでいたのだろう!?あれの効果は短い、構う事はないぞ!」
「あ、あぁ!」

 オーソンの態度をこちらを煙に巻くためのものだと解釈したマルコムは、それが強化ポーションの一種の効果だと考え、それならば大した問題ではないと言い放つ。
 その声に彼の仲間は、いったん中断したこの場からの離脱を再開する。

「やらせるかよ!!」
「それは、こっちの台詞だ!」

 当然、オーソンはそれを見逃さない。
 しかしこの場から離脱しようとした騎士へと追いすがったオーソンに、マルコムが立ち塞がる。
 今度は彼も、騙し討ちのためではなく本気で仲間をここから逃がす気のようだった。

「えーい、『止まりなさーい』!!」

 睨み合う二人に、どこか場違いな間の抜けた声がその場に響く。
 それはこの場から逃げ出そうとしている騎士を何とか阻止しようと、自分が履いていた靴を投げつけているレジーのものであった。

「くっ、外れたか・・・あ、あれ?どういう事?」

 レジーが投げつけた靴は見当違いの方向に飛んでいき、路地の壁にぶつかってそこに転がり落ちる。
 それに悔しそうに唇を噛んでいたレジーは、意外な光景を目にしていた。

「おい、どうした!?何故、そこで立ち止まる!?」

 彼女が靴を投げつけて止めようとして騎士が、何故かその場に立ち止まっているのだ。
 まるで、彼女が口にした命令に従うように。

「えっと、もしかして。『こっちに来なさい』なーんて・・・う、嘘でしょ!?」

 自分の行動が齎した結果に驚くレジーは、冗談交じりにそれを口にする。
 すると彼女が口にした通り、その騎士はこちらへとゆっくりと歩いてきていた。
 彼の戸惑うような表情に、それが彼の意志ではない事は明白であった。

「何だ魅了の力か!?精神操作系の魔法か!?何故、ギルド職員がそんな力を持っている!?」

 レジーが発揮する謎の力に、マルコムは理解出来ないと頭を抱えて叫ぶ。
 彼の目の前では、彼女がその力を使って彼の仲間を気絶させてしまっていた。

「へへへ、おいレジー。あんたにそんな力があるなんて、俺でも知らなかったぞ?」
「わ、私だって知らないわよこんな力!」
「へっ、そうかい。でもよ、とにかく今は協力して戦うしかねぇみたいだぞ?」

 レジーの命令によって、自らの得物で自らの頭を強打して倒れ伏した騎士の身体を跨いで、オーソンは彼女へと近づいていく。
 そして彼女へと背中を任せた彼は、先ほどよりもずっと真剣な表情でこちらを睨みつけてくるマルコムと対峙する。

「はぁ、嘘でしょ?もーーー、どうなっても知らないわよ!!」

 マルコムと、その仲間達は先ほどよりも鋭い動きでこちらへと躍りかかってくる。
 その様子を目にしながら、レジーは頭を抱え叫ぶ。
 その言葉もまた、彼らを見えない力で殴りつけているのだった。
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