【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

絶体絶命

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 最果ての街キッパゲルラ、その周囲に広がる荒野に激しい戦闘の音が響いている。
 それは鉄を打ち付け合う耳障りな金属音と、刺し貫かれ泣き叫ぶ兵士達の悲鳴だ。
 その出自を隠すためなのか、目立つ意匠や旗を掲げていないフードの男の軍に対して、ヘイニー達の様々な領主達の兵からなる連合軍はカラフルだ。
 その連合軍が今、二倍の戦力を有する敵軍に押し潰されようとしていた。

「ぐっ・・・こ、こいつら強いぞ!!」
「こ、こんなの敵う訳が・・・ぎゃあああ!!?」

 ヘイニーの演説によって士気も高まっていた連合軍は当初、優勢に戦況を進めていた。
 しかしそれも初めのうちだけで長く続くことはなく、徐々に数の差や練度の差に押し込まれ始めた彼らは、やがてもはや取り返しのつかないほどに追い詰められてしまっていた。

「左翼、バーグ伯爵の部隊が救援を求めております!!」

 旗色の悪い連合軍の間を、伝令が駆ける。
 彼は中央の軍勢の中に割って入ると、その指揮官ヘイニー対して叫ぶ。

「で、では、こちらから兵を割いて、救援に向かわせるんだ!」
「し、しかしこちらも余裕はありません!これ以上、兵を割いては・・・!」

 味方が救援を求めているという伝令に対して、ヘイニーは自らの部隊から兵を割いてそれに向かわせようとしている。
 しかし彼の近習を務める聖剣騎士団の一人が、もはや避けるような兵は残ってはいないと注進していた。

「そ、そうか・・・しかし味方を見捨てることは出来ない!何とか兵を割いて、救援に向かわせてくれ!!」
「か、畏まりました!」

 全体的に悪い戦況に、ヘイニーが指揮を取っている中央の軍も例外ではなかった。
 後方にいる筈のヘイニー達ですら敵軍の息吹がすぐ傍に感じられる状況に、割ける兵など存在しない。
 しかしヘイニーはそれでも救援を送ると決断すると、近くの騎士へと命令を下す。

「た、大変ですヘイニー様!右翼を指揮していた、ガスパー様が・・・ガスパー様が指揮を放棄して逃亡した模様です!!」
「何だって!?」

 ヘイニーの命令を受けて何か決意した表情で駆けていった騎士と入れ替わるように、別の騎士が慌てた様子で駆け込んでくる。
 彼は右翼の部隊の指揮を任せていた貴族が、その指揮を放棄して逃亡したという驚きの情報を伝えてくる。

「それは本当か!?くっ、とにかくそれを確かめるためにも私が一度そちらに向かう!ここで右翼が崩れては、総崩れになってしまうぞ!ここの指揮は私に代わって―――」

 慌てた様子でそれを伝えてきた、騎士の情報は不確かだ。
 しかしそれが仮に事実だとすれば、一気に総崩れになりかねない危険に、ヘイニーは自ら右翼に乗り込むことで何とか戦線を支えようとする。

「ヘイニー様、お逃げください!!」

 そんな彼の下に、先ほどの騎士の鋭い声が飛ぶ。

「―――えっ?」

 その声に振り返れば、前線を突破しヘイニーの下へと迫る敵方の騎士の姿が。
 その騎士は槍を抱えたまま猛スピードで、ヘイニーへと突っ込んでくる。
 ヘイニーを庇うように、彼へと逃げるように声を上げた騎士が立ち塞がるが、スピードの乗った敵の騎士の槍は彼諸共ヘイニーの身体を貫くだろう。
 そしてそれは、もう目の前にまで迫っていた。

◆◇◆◇◆◇

「はぁ、はぁ、はぁ。へ、へへへっ・・・やるじゃねぇか」

 荒い呼吸に流れ続ける汗を拭おうと、オーソンはその腕を口元へと擦りつける。
 拭った口元に僅かにその中へと入った水気は、しょっぱさと僅かではあるが刺すような苦みを感じさせた。
 その味の元が、口の外から入ったのかそれとも口の中から湧いたものなのか、それがオーソンには分からなかった。

「・・・この状況で随分と強がるんだな、冒険者というのはそういうものなのか?」

 オーソンが立っているのもやっとという状態ながら強がって見せたのは、その目の前に相手に対してだ。
 その目の前の相手であるマルコムは無傷のまま、涼しい顔で彼の事を見下ろしている。
 マルコムはオーソンの態度が理解出来ないと首を傾げながら、周りを示していた。
 そこにはマルコムほどの余裕はないが健在な黒葬騎士団の面々と、彼らに打ち倒された冒険者達の姿があった。

「はっ、分かっちゃないねぇお前さんは・・・冒険者がそうなんじゃねぇ、この俺、オーソン・マーズがそういう男なのよぉ!!」

 とうに諦め、心が折れてもいい状況だと疑問を口にするマルコムに、オーソンは支えに突き立てていた斧を担ぐと、そう啖呵を切る。

「うおおおおぉぉぉぉ、食らいやがれぇぇぇ!!!」

 そして彼は雄叫びを上げると、そのままマルコムへと挑みかかっていく。
 その動きは速く、とてもではないが先ほどまで立っているのもやっとという人間の動きとは思えなかった。

「・・・そうか、だからどうした?」

 そんなオーソンの渾身の一撃を、マルコムは軽々と躱して見せる。

「なっ!?くっ、この!!」
「しつこいな・・・その執念は称賛に値するよ。だが、そもそも俺達の目的はお前達を倒す事じゃない。だから、わざわざこんな事に付き合ってやる義理もないんでな。おい、先に行け」

 その動きに呆気に取られるオーソンはしかし、諦めずに追撃を繰り出し続ける。
 しかしそれもマルコムは苦も無く躱し続け、やがて彼はそれに付き合っていられないと仲間へと指示を出していた。
 それはオーソンの事など無視して彼らの本来の目的、領主の館に向かえというものだった。

「んだとぉ・・・んなことをなぁ、やらせる訳ねぇだろうがぁ!!」

 目の前の自分という驚異を無視し、敵が背中を向けて他の目標へと向かおうとしている。
 そんな屈辱的な扱いに、その全身へと怒りを滾らせたオーソンは、この路地から出ていこうとしているマルコムの仲間へと躍りかかっていく。

「オーソン、駄目ぇぇぇ!!!」

 その時、どこかから悲鳴が響く。
 それはこの袋小路の物陰へと隠れた、レジーが上げたものであった。

「―――称賛に値すると言っただろう?そうした相手には、こういう手も使う」

 マルコムの仲間の行動を阻止しようと動いたオーソンは、ある人物から見れば隙だらけであった。
 その人物、マルコムは彼の背後へとそっと迫ると、そう囁く。
 彼はそれを言い終わるや否や、手にしていた剣をオーソンへと真っ直ぐ突き刺していた。
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