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第一章 最果ての街キッパゲルラ
オリビア・ユークレール
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「怖い、怖いよリリィ!!どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないの!?」
ヘイニーの一人娘オリビアに与えられた部屋は、その愛情を示すように可愛らしい装飾で彩られている。
領主の館である「放蕩者の家」の中でも奥まった、そして高い位置にあるその部屋の隅で今、その部屋の主であるオリビアが震えながら悲鳴を上げていた。
「オリビア様、落ち着いてください!大丈夫です、ユーリ様がきっと何とかしてくださいます」
そのオリビアが縋りつき泣いているのは、彼女専属の侍女であるリリィであった。
彼女はその美しい金色の髪が涙や鼻水で汚れるのも構わず、オリビアの頭を優しく撫でてやっている。
「そのユーリ達が出ていったまま戻らないんじゃない!!きっと私達を見捨てて逃げたのだわ!!」
リリィがオリビアを慰めるために口にした言葉、しかしそれは彼女を余計に動揺させるものとなっていた。
短い期間で領民の、何よりオリビア達の心を掴んでいたユーリ達は、すっかりこの地の守護神となっていた。
それがいない不安に、オリビアは心にもない事を口走ってしまう。
「お嬢様、ご無事でございますか!?こ、これは・・・?」
響いたのは、鋭くしかし小さな音と、騒がしいその物音。
その騒がしい方であるバートラムは、オリビアの部屋の扉を開け放って早々、戸惑うように立ち尽くしていた。
「ぶった!今、私をぶったわ!!」
頬を押さえるオリビア、その下は真っ赤に変色し僅かに腫れている。
そして彼女の目の前には、振り抜いたままの手を掲げているリリィの姿があった。
「えぇ、ぶちましたとも!!例えお嬢様といえど、もう一度同じことを言うのなら私は何度でも同じことをやります!!」
涙目で訴えるオリビアにも、リリィは一歩も引かずに怒鳴り返す。
彼女はもう一度ビンタをするように、その手をさらに高く掲げていた。
「ユーリ様は今、私共のためにその身を危険に晒して戦っているのですよ!?それを言うに事欠いて逃げたとは・・・恥を知りなさい、それでも貴方は貴族の娘ですか!!」
リリィはオリビアが先ほど言った言葉は、口にしてはならない侮辱だと真剣な表情で彼女を睨み付ける。
「そ、その・・・リリィ嬢、そのぐらいで―――」
「バートラム様は黙っていてください!!そもそも貴方は何をしにここに来たのですか!?」
「ひぃ!?わ、私はその・・・戦場に出られる旦那様の代わりに、お嬢様をお守りするよう仰せつかりまして」
リリィの激しい剣幕に、バートラムはそれぐらいで勘弁してやるようにと諭すが、彼女はそれにキッと一睨みして返すだけ。
彼女の迫力に押されたバートラムは、仕切りの影に隠れては自分がここにやって来た要件を口にしていた。
「聞きましたか、お嬢様!旦那様が、兵を率いて戦いに向かうと!あのお優しい旦那様がですよ!!」
「お父様が・・・?」
彼女達が知っているヘイニーは穏やかで、決して戦などに行く人ではなかった。
そのヘイニーが兵を率いて戦うという、彼女達を守るために。
オリビアの頬に流れ続けていた涙が止まり、彼女は戦場へと向かう父親を思い浮かべて窓の外へと視線を向ける。
「そうです!旦那様はお嬢様を、そして皆を守るために立ち上がったのです!!貴方はここで何をしているのですか!?ここでずっと泣き続けますか!?違うでしょう、オリビア・ユークレール!!」
オリビアが視線を向けた先、迫る敵の姿が僅かに覗く窓へとリリィは近づくと、それを叩いて叫ぶ。
貴方はここで泣き続けているつもりなのかと。
「私は・・・私も戦う、戦うわリリィ!!」
「そうです、それでこそお嬢様です!!」
リリィの力強い言葉に、最後に一筋涙を流したオリビアは立ち上がると、自分も戦うと宣言する。
彼女の言葉にリリィはその肩を抱くと、涙を溢れさせていた。
「あぁ、お嬢様・・・何と立派な」
彼女達の姿に、バートラムはまたしてもハラハラと涙を流す。
その視線の先、窓の向こう側では今まさに戦端が開こうとしていた。
ヘイニーの一人娘オリビアに与えられた部屋は、その愛情を示すように可愛らしい装飾で彩られている。
領主の館である「放蕩者の家」の中でも奥まった、そして高い位置にあるその部屋の隅で今、その部屋の主であるオリビアが震えながら悲鳴を上げていた。
「オリビア様、落ち着いてください!大丈夫です、ユーリ様がきっと何とかしてくださいます」
そのオリビアが縋りつき泣いているのは、彼女専属の侍女であるリリィであった。
彼女はその美しい金色の髪が涙や鼻水で汚れるのも構わず、オリビアの頭を優しく撫でてやっている。
「そのユーリ達が出ていったまま戻らないんじゃない!!きっと私達を見捨てて逃げたのだわ!!」
リリィがオリビアを慰めるために口にした言葉、しかしそれは彼女を余計に動揺させるものとなっていた。
短い期間で領民の、何よりオリビア達の心を掴んでいたユーリ達は、すっかりこの地の守護神となっていた。
それがいない不安に、オリビアは心にもない事を口走ってしまう。
「お嬢様、ご無事でございますか!?こ、これは・・・?」
響いたのは、鋭くしかし小さな音と、騒がしいその物音。
その騒がしい方であるバートラムは、オリビアの部屋の扉を開け放って早々、戸惑うように立ち尽くしていた。
「ぶった!今、私をぶったわ!!」
頬を押さえるオリビア、その下は真っ赤に変色し僅かに腫れている。
そして彼女の目の前には、振り抜いたままの手を掲げているリリィの姿があった。
「えぇ、ぶちましたとも!!例えお嬢様といえど、もう一度同じことを言うのなら私は何度でも同じことをやります!!」
涙目で訴えるオリビアにも、リリィは一歩も引かずに怒鳴り返す。
彼女はもう一度ビンタをするように、その手をさらに高く掲げていた。
「ユーリ様は今、私共のためにその身を危険に晒して戦っているのですよ!?それを言うに事欠いて逃げたとは・・・恥を知りなさい、それでも貴方は貴族の娘ですか!!」
リリィはオリビアが先ほど言った言葉は、口にしてはならない侮辱だと真剣な表情で彼女を睨み付ける。
「そ、その・・・リリィ嬢、そのぐらいで―――」
「バートラム様は黙っていてください!!そもそも貴方は何をしにここに来たのですか!?」
「ひぃ!?わ、私はその・・・戦場に出られる旦那様の代わりに、お嬢様をお守りするよう仰せつかりまして」
リリィの激しい剣幕に、バートラムはそれぐらいで勘弁してやるようにと諭すが、彼女はそれにキッと一睨みして返すだけ。
彼女の迫力に押されたバートラムは、仕切りの影に隠れては自分がここにやって来た要件を口にしていた。
「聞きましたか、お嬢様!旦那様が、兵を率いて戦いに向かうと!あのお優しい旦那様がですよ!!」
「お父様が・・・?」
彼女達が知っているヘイニーは穏やかで、決して戦などに行く人ではなかった。
そのヘイニーが兵を率いて戦うという、彼女達を守るために。
オリビアの頬に流れ続けていた涙が止まり、彼女は戦場へと向かう父親を思い浮かべて窓の外へと視線を向ける。
「そうです!旦那様はお嬢様を、そして皆を守るために立ち上がったのです!!貴方はここで何をしているのですか!?ここでずっと泣き続けますか!?違うでしょう、オリビア・ユークレール!!」
オリビアが視線を向けた先、迫る敵の姿が僅かに覗く窓へとリリィは近づくと、それを叩いて叫ぶ。
貴方はここで泣き続けているつもりなのかと。
「私は・・・私も戦う、戦うわリリィ!!」
「そうです、それでこそお嬢様です!!」
リリィの力強い言葉に、最後に一筋涙を流したオリビアは立ち上がると、自分も戦うと宣言する。
彼女の言葉にリリィはその肩を抱くと、涙を溢れさせていた。
「あぁ、お嬢様・・・何と立派な」
彼女達の姿に、バートラムはまたしてもハラハラと涙を流す。
その視線の先、窓の向こう側では今まさに戦端が開こうとしていた。
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