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第一章 最果ての街キッパゲルラ
復讐への誘い
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「・・・ねぇ、トリニア。あの手配書の犯人、捕まったの?」
レジーがそう口にした時、彼女の手が止まってかなりの時間が経過していた。
その目の前には、うず高く積み上げられた書類の山が。
それを見るまでもなく、心配事で頭が一杯で落ち着かないその様子から、彼女が仕事に全く身が入っていないのは明らかであった。
「いえ、まだそういう話は聞いてませんけど・・・それがどうかしたんですか?」
「そう・・・ごめん、トリニア。私これで上がらせてもらうわ、後はお願い」
その不可解な質問に、トリニアは首を傾げながら怪訝な表情で答えている。
彼女の返答を聞いたレジーは、嬉しいような不安なような表情を浮かべしばし沈黙すると、急に立ち上がり仕事を切り上げてしまっていた。
夕暮れ時のギルドはまだ仕事終わりに訪れる冒険者も残っており、とてもではないが仕事を終えるには早すぎる時間であった。
「えっ!?あ、はい分かりました。上には私の方から早退すると伝えておきます・・・どうしちゃったんだろ、先輩」
足早に出ていくレジーの後姿を見送りながら、トリニアは彼女の様子が変だと首を傾げている。
「さっきの話さぁ」
「え、何ですか?」
「いやさっきの、レジーが聞いてきた手配書の事なんだけど。あれ、取り下げになったらしいぞ。何でもユーリさんが子供がやる事だからって、取り下げるように掛け合ったんだと。元々ヘイニー様に献上される予定だった品物が盗まれたのが発端なもんだから、それで取り下げになったって話さ」
レジーの不自然な様子に心配そうに立ち尽くしているトリニアの背後から、別のギルド職員が声を掛けてくる。
彼はレジーが話題にしてきたあの手配書が、ユーリの手によって取り下げになったと話していた。
「そんなの、私聞いてませんよ!?」
「いや、俺も今聞いたところなんだって。とにかくそういう事だから」
初めて聞いた驚きの情報に、トリニアは何で今まで教えてくれなかったのかとその職員に詰め寄る。
それにその職員は自分も今聞いたのだと肩を竦めると、自分の席へと戻っていった。
「先輩、どうしてそんなこと知りたがったんだろう・・・?」
手配が取り下げになるという滅多にない出来事に遭遇すれば、それをやたらと知りたがったレジーへの疑問も募る。
トリニアは再びレジーが去っていった方向を見詰めると、不思議そうに首を傾げていた。
「全部、全部あいつのせいだ・・・ユーリ・ハリントン、あいつが手配書なんて出すから」
アレクが手配されていたあの手配書は、憲兵が発行したものであった。
それはつまり、その親玉であるユーリの差し金ともいえる。
やり場のない悲しみに、レジーは一見無理のあるその恨み言を呟きながら、家の扉へと手を伸ばしていた。
「鍵が、掛かってない?どうして、私は確かに・・・っ!?」
伸ばした手に、その扉は抵抗なく開いてしまう。
逆の手で家の鍵を用意していたレジーは、その事態に怪訝なそうな表情で首を捻る。
しかし彼女はやがて気付いていた、そんな事をしそうな人物に一人心当たりがある事に。
「アレク!!アレクなの!!?」
手にしていた家の鍵を取り落とし、慌てて扉を開き中へと踏み入ったレジーは、その名を叫ぶ。
彼女とほんの短い間共に過ごした、しかしその掛け替えのない心の支えとなっていた少女の名を。
「レジー・バーバーさんですね?」
しかしそこに待っていたのは、フードで顔を隠した怪しげな男であった。
「誰!?誰なのよ、貴方!?出ていって、ここは私の―――」
見知らぬ不審な男が、自らの家の中で待っていた。
その異常な事態に怯えるレジーはしかし、期待を裏切られた怒りもあって毅然に振舞う。
「ユーリ・ハリントンに復讐したくはありませんか?」
フードの男はそう囁くと、彼女へと手を伸ばす。
「えっ・・・?」
レジーはその予想だにしない言葉に呆気に取られ、固まってしまう。
状況を考えれば、彼女はその手を振り払って誰か人を呼ぶべきであった。
しかし彼女は、ついぞその手を振り払う事はなかった。
レジーがそう口にした時、彼女の手が止まってかなりの時間が経過していた。
その目の前には、うず高く積み上げられた書類の山が。
それを見るまでもなく、心配事で頭が一杯で落ち着かないその様子から、彼女が仕事に全く身が入っていないのは明らかであった。
「いえ、まだそういう話は聞いてませんけど・・・それがどうかしたんですか?」
「そう・・・ごめん、トリニア。私これで上がらせてもらうわ、後はお願い」
その不可解な質問に、トリニアは首を傾げながら怪訝な表情で答えている。
彼女の返答を聞いたレジーは、嬉しいような不安なような表情を浮かべしばし沈黙すると、急に立ち上がり仕事を切り上げてしまっていた。
夕暮れ時のギルドはまだ仕事終わりに訪れる冒険者も残っており、とてもではないが仕事を終えるには早すぎる時間であった。
「えっ!?あ、はい分かりました。上には私の方から早退すると伝えておきます・・・どうしちゃったんだろ、先輩」
足早に出ていくレジーの後姿を見送りながら、トリニアは彼女の様子が変だと首を傾げている。
「さっきの話さぁ」
「え、何ですか?」
「いやさっきの、レジーが聞いてきた手配書の事なんだけど。あれ、取り下げになったらしいぞ。何でもユーリさんが子供がやる事だからって、取り下げるように掛け合ったんだと。元々ヘイニー様に献上される予定だった品物が盗まれたのが発端なもんだから、それで取り下げになったって話さ」
レジーの不自然な様子に心配そうに立ち尽くしているトリニアの背後から、別のギルド職員が声を掛けてくる。
彼はレジーが話題にしてきたあの手配書が、ユーリの手によって取り下げになったと話していた。
「そんなの、私聞いてませんよ!?」
「いや、俺も今聞いたところなんだって。とにかくそういう事だから」
初めて聞いた驚きの情報に、トリニアは何で今まで教えてくれなかったのかとその職員に詰め寄る。
それにその職員は自分も今聞いたのだと肩を竦めると、自分の席へと戻っていった。
「先輩、どうしてそんなこと知りたがったんだろう・・・?」
手配が取り下げになるという滅多にない出来事に遭遇すれば、それをやたらと知りたがったレジーへの疑問も募る。
トリニアは再びレジーが去っていった方向を見詰めると、不思議そうに首を傾げていた。
「全部、全部あいつのせいだ・・・ユーリ・ハリントン、あいつが手配書なんて出すから」
アレクが手配されていたあの手配書は、憲兵が発行したものであった。
それはつまり、その親玉であるユーリの差し金ともいえる。
やり場のない悲しみに、レジーは一見無理のあるその恨み言を呟きながら、家の扉へと手を伸ばしていた。
「鍵が、掛かってない?どうして、私は確かに・・・っ!?」
伸ばした手に、その扉は抵抗なく開いてしまう。
逆の手で家の鍵を用意していたレジーは、その事態に怪訝なそうな表情で首を捻る。
しかし彼女はやがて気付いていた、そんな事をしそうな人物に一人心当たりがある事に。
「アレク!!アレクなの!!?」
手にしていた家の鍵を取り落とし、慌てて扉を開き中へと踏み入ったレジーは、その名を叫ぶ。
彼女とほんの短い間共に過ごした、しかしその掛け替えのない心の支えとなっていた少女の名を。
「レジー・バーバーさんですね?」
しかしそこに待っていたのは、フードで顔を隠した怪しげな男であった。
「誰!?誰なのよ、貴方!?出ていって、ここは私の―――」
見知らぬ不審な男が、自らの家の中で待っていた。
その異常な事態に怯えるレジーはしかし、期待を裏切られた怒りもあって毅然に振舞う。
「ユーリ・ハリントンに復讐したくはありませんか?」
フードの男はそう囁くと、彼女へと手を伸ばす。
「えっ・・・?」
レジーはその予想だにしない言葉に呆気に取られ、固まってしまう。
状況を考えれば、彼女はその手を振り払って誰か人を呼ぶべきであった。
しかし彼女は、ついぞその手を振り払う事はなかった。
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