【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

確執の誕生会

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「あら、ゲイラー様。もうお帰りになられますの?」

 苛立ちに肩を怒らせながらこの会場を後にしようとしていたゲイラーにオリビアがすれ違い、彼に対して貴族らしい丁寧なお辞儀をする。
 そして彼女は立ち去ろうとしているゲイラーに対して、彼を引き留めるように腕を伸ばしていた。

「っ、触るな!そこは怪我をしているのだ!それに無遠慮に触れようとするなど・・・この無礼者め!全くこれだから・・・何だ、オリビアではないか」

 オリビアの腕を振り払ったゲイラーは、その触れた部分を庇うように腕を抱えている。
 どうやらそこを怪我しているらしいゲイラーは怒鳴り声を上げると、そのまま立ち去ろうとしていたが、声を掛けてきたのがオリビアだと気付くと急に態度を改める。

「どうだ、考えてくれたかいオリビア?例の話を・・・」
「例の話?一体何の話をしていますの?」

 先ほどまでの怒り狂った表情は鳴りを潜め、ゲイラーはどこか媚びを売るような表情でオリビアへと語りかける。
 彼は何か、匂わせるような遠回しに言い方で話しを進めようとしていたが、オリビアは全く心当たりがないとキョトンとするばかりであった。

「っ!私達の結婚の話でないか!!」
「きゃあ!?」

 ゲイラーが遠回しな言葉を使ったのは、それが二人にとって重要な話であると考え、それでも伝わるだろうと思ったからだ。
 しかしオリビアの反応に、それが自分一人の考えであったと知った彼は激昂すると、彼女の腕を掴む。

「あれほど、あれほど目に掛けてやったというのに・・・その態度は何だ!!お前が私と結婚すれば全てが手に入るのだ!この領地も、公爵の位も!それなのにお前は!!」
「ゲイラー、貴方何を!?痛い、痛いですわ!?放して、放しなさい!!だ、誰か!誰か助けてくださいまし!!」

 ヘイニーの一人娘であるオリビアと結婚すれば、全てが手に入る。
 そのゲイラーの発言は嘘ではない。
 ただしそれは、ヘイニーやオリビア本人が許せばの話しであったが。

「ふふふ、誰が助けるものか!我々は元々一つの家だったのだ、それが時を経てもう一度一つになろうというのを誰が咎める?ましてやお前など、一度縁談が破談になった身!いわば傷物ではないか!!そんな娘を助けようとする者など、いる訳があるまい!!」
「そ、そんな・・・」

 そしてその言葉もまた、嘘ではなかった。
 跡取りがいない本家に、分家の者が入る事は珍しくなく、それが結婚によって一つになるのならば尚更自然な事であった。
 更にゲイラーの家は、この周辺でも力のある家であり、そんな彼に逆らえる人間などここにはおらず、オリビアが助けを求めて向けた視線にも気まずそうに顔を逸らすばかりであった。

「ねーねー、おとーさん!ボク、ケーキ食べたいケーキ!」
「わ、私も!あのおっきいの食べてみたいな!」
「いやあれは、オリビアのだから。まずは彼女が・・・引っ張るなって!?」

 そんな切羽詰まった空気をぶち壊すような、賑やかな声が響く。
 そしてその声の主に引っ張られて、一人の男がこの場に現れていた。

「あ、あの人ですわ!!」
「えっ?お、俺ですか?」

 その男、ユーリに対してオリビアは指を指し、声を上げる。
 ユーリはその突然の指名に、訳が分からず目を白黒させていた。

「あ、このっ!?」

 突然の乱入者に気を取られたゲイラーの隙をついて、オリビアは抜け出すとユーリの腕を掴む。

「この人が私の婚約者、ユーリ・オブライエン様ですわ!!!」

 そして彼女は、そう宣言していた。
 彼こそが、自らの婚約者であるユーリ・オブライエンだと。

「え、ええええぇぇぇぇ!!!?」

 それに一番驚いたのは、何を隠そうユーリ本人である。

「彼があのユーリ・オブライエン?」
「えっ?あの名門オブライエン家の?」
「追放されたとは聞いたが・・・」

 オリビアの言葉に、周りもざわめき始める。

「ないない、あのオブライエン家の元御曹司がこんなぼんやりした顔の訳ないだろー」
「はははっ、そりゃそうだ!ユーリ・オブライエンといえば若くして黒葬騎士団に入団した、勇猛果敢な若者だろう?それが・・・なぁ?」
「だよなぁ、それがこんななよっちい兄ちゃんな訳ないよなぁ」

 しかしそれは、周りの者達によってすぐに否定されてしまうのだった。
 彼らは王都クイーンズガーデンから遠く離れた、辺境の地の領主達である。
 そのためユーリ・オブライエンについて噂でしか聞いた事がなく、その噂からイメージされる屈強な若者と目の前のユーリとでは、とてもではない似ても似つかないと思われても仕方ないのであった。

「ははは、ですよねー・・・」

 そんな周りの言葉に、ユーリは一人ちょっぴり傷ついていた。

「えー、皆知らないのー?おとーさんはね本当はユーリ・オブライエンって、むぐぐっ!?」
「あははははっ!!何言ってるんですかねー、この子はー!」

 折角場が丸く収まろうとしている所に、爆弾発言を落とそうとするネロの口をユーリは慌てて塞ぐと、誤魔化しの笑い声を上げる。

「そんな嘘をついてまでか・・・?そんな嘘を吐くほど、私との結婚が嫌だというのか・・・?」

 しかしここにも一人、ユーリとは別の理由で傷ついている者がいた。
 その男、ゲイラーはプルプルとこぶしを震わせている。

「私を、私を馬鹿にしやがってぇぇぇぇ!!!!」
「えっ?」

 オリビアの言葉を自らの侮辱だと考えるゲイラーは怒りに狂い、雄叫びを上げるとそのまま彼女へと掴みかかろうとする。
 それにオリビアも、その隣にいるユーリも反応出来ない。

「マスターに手出しはさせません」
「何!?うおおおぉぉぉ!!?」

 あと一歩で、その手がオリビアに届くという寸前、彼の目の前に現れたのは神々しいまでに美しい金髪の少女だった。
 彼女はゲイラーの足を掛けると、その背中を軽く押す。

「・・・あれは、もういらないかな」
「うん、そうだね」

 背中を押されたゲイラーはそのまま、料理が並べられたテーブルへと流されていく。
 そしてそのまま派手にすっ転んだ彼は、そこに並べられていたオリビアの誕生日を祝う特大のケーキへと突っ込んでしまっていたのだった。

「ぷっ・・・ぷぷぷっ、何だよあれ」
「はははっ、こりゃ傑作だ!」

 その滑稽な姿は、一般の招待客達からも良く見え、彼らはクスクスと忍び笑いを漏らす。

「し、失礼する!!!」

 何とかケーキから抜け出したゲイラーは、周りから響く笑い声に顔を真っ赤に染めながら慌ててこの場を後にする。
 そんな顔色にも、彼の顔や身体はケーキのクリームでべったりとコーティングされており、真っ白な姿をしている。
 その姿もまた笑いを誘い、一般の招待客だけではなく貴族の招待客達もクスクスと笑い声を漏らす。
 ゲイラーの背後には、彼の後を追う取り巻きの姿が。
 しかしその姿は、先ほどよりもずっと少なくなっていた。

「ユーリ・ハリントン・・・覚えていろよ」

 背後から響く笑い声、それを耳にしながらゲイラーはその顔をさらに赤く染め上げている。
 そうして彼は口にする、その怒りの、恨みの相手の名を。
 それを忘れることのないように、何度も何度も。
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