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第一章 最果ての街キッパゲルラ
少女達の冒険
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「はぁ、はぁ、はぁ・・・何なんだよ、何なんだよあいつらは!!」
死に物狂いで戦う聖剣騎士団と、不意を突かれ訳も分からないまま襲われるマルコム達とでは、始めから勝負にもならなかった。
そこから命からがら逃げてきた彼らは、何処かも分からない山中に取り残されていた。
「あんな奴らがいるなんて聞いてないぞ!何でこんな辺境の地に、あんな腕利きの騎士達がいるんだ!!」
キッパゲルラなどという辺境の地に、何故あのような腕利きの騎士が揃っているのだと、マルコムは頭を掻き毟りながら叫ぶ。
「・・・お前のせいじゃないか」
「あ?今、何て言った?」
マルコムの周りには、彼と同じように息も絶え絶えいった様子の仲間達の姿が。
その数は先ほどよりも減っており、まさに風前の灯火といった様相だ。
そんな仲間の一人が、この現状に対して吐き捨てるように呟く。
「お前のせいだって言ったんだよ、マルコム!だってそうだろう、見ろよこの有り様!これも全部、お前に従った結果なんだからな!!」
「貴様!!」
彼は周りの惨状を示しながら、そうなったのは全部マルコムの責任だと彼を罵る。
それに思わず、マルコムは剣を抜き放ってしまっていた。
「マルコム、それは駄目だ!!」
そんなマルコムを、シーマスが羽交い絞めにして必死な形相で制止する。
「止めるな、シーマス!これを許せば、指揮がっ」
「はっ、殺せよ!殺したらいいだろ!!あの時と同じように!!」
指揮官への批判を許せば、指揮系統への乱れが出る。
それを恐れて、マルコムは断固とした対応を取ろうとしている。
そんな彼に対して、目の前の仲間の一人は吐き捨てるようにある出来事の事を口に出していた。
「なん、だと・・・お前らは俺を、そんな風に」
彼が口にしたのは、マルコムが以前仲間の事を手に掛けた出来事についてだ。
それにマルコムは目を見開き、衝撃を受けたように小さく震えている。
周囲へと目をやれば、周りの仲間達もどこか気まずそうにしていたが、誰もそれを否定しようとはしていなかった。
「しっ!マルコム、誰か来る!」
そんな彼に、近づいてくる足音に気付いたシーマスが声を掛け、その姿勢を低くさせる。
「ちぇー!今回も外れかー」
「で、でも!こんな綺麗なのも見つかったし・・・」
「えー?そんなの見つけてもさー。ボクはこう・・・格好いい剣とかが欲しかったなー」
慌てて近くの木陰へと隠れる彼らの前を、賑やかな話し声が通り過ぎる。
それは獣の耳をその頭の上に生やしている、黒と白の髪をした美しい少女達であった。
「ちょ、ちょっとお待ちになって二人とも!!私を置いていくつもりですの!?」
そしてその背後からはもう一人、金色の髪のこれもまた先ほどの二人と負けず劣らない美しい少女が、息も絶え絶えといった様子で追い駆けてきていた。
「えー?だって隊長遅いんだもーん」
「隊長ではありませんわ!親分と呼ぶように、何度も言っているでしょう!全く、二人には子分としての自覚が足りませんわ」
「ご、ごめんね・・・その、お、親分!」
ふらふらと彷徨うように山道を下っている金髪の少女の下に、先行していた二人が駆け足で戻ってくる。
合流した二人に文句を叫び、そっぽを向く金髪の少女はしかし、どこか嬉しそうであった。
「何だ、子供か。焦って損したな・・・」
そんな彼女達の様子に、木陰に隠れた騎士達は取り越し苦労かと溜め息を漏らす。
「いや待て、あれは・・・間違いない、オリビア・ユークレールだ!」
しかしマルコムだけは真剣な表情を崩さず、気を抜こうとしていた騎士達を手で制す。
そして彼は、その金髪の少女がユーリが今仕えているユークレール家の令嬢、オリビアだと見破っていた。
「何だって、それじゃあの子を捕まえてしまえば・・・」
「そうだ、俺達の勝ちだ」
ユーリが仕えている家の令嬢が、今目の前で無防備に出歩いている。
その状況を理解した騎士達は、俄かに色めき立っていた。
「なら、やるべきことは分かるな?行くぞ!」
「お、おぉ!」
その子を捕まえてしまえば、ユーリをどうするのもこちらの思うがままだ。
それを理解した彼らは、短い合図でその場から躍り出る。
そうその少女、オリビアの前へと。
「な、何ですの貴方達は!?」
突如現れた怪しい男達に、オリビアは警戒の声を上げる。
「黒葬騎士団の成れの果て・・・なんてな、冗談さ。そうだな・・・貴族の御令嬢の誘拐を企てる、悪漢って所かな?」
マルコムが口にした皮肉を、オリビアは理解しない。
彼女の怪訝そうな表情に苦笑いを浮かべた彼は、端的に自らの正体を告げる。
ただの誘拐犯であると。
「くっ、またですの・・・どうしてこう何度も」
落ちぶれたとはいえ、公爵家の娘であるオリビアにはそうした経験は珍しくもなかった。
現に、以前ユーリ達にその現場を救われた事のある彼女は、またかと悔しそうに唇を歪める。
「ネロ、プティ!ここは親分である私が引き受けますわ!!だ、だから貴方達はお逃げなさい!!」
例え慣れていても、その恐怖がなくなる訳ではない。
寧ろ経験したからこそ、その足は今震えているのだ。
それでもなお、彼女は子分を守ろうと声を上げる。
それが親分である自分の役目なのだと、胸を張って。
「えー、必要ないでしょ?」
「う、うん。私もそう思うな。余裕、だよね?」
しかし両手を広げ、悲壮な決意で立ち塞がるオリビアの背後で、二人はそう気軽に口をする。
その表情は彼女のものとは違い余裕たっぷりで、とてもではないがこれから脅威に立ち向かおうとするものではなかった。
「あ、貴方達・・・」
オリビアの脇を通り抜け、気軽な様子で前へと進み出ていく二人に、彼女は呆気に取られている。
「へへっ、プティも分かってきたじゃん!じゃ、支援はよろしくー」
「あっ!?もぅ、いっつもそうだ!私だって前で戦いたいのにー!」
「へへーん、早いもの勝ちですよーだ!」
どこかから取り出した小ぶりな剣を掲げ、ネロは真っすぐにマルコム達へと突撃していく。
そんな彼女にプティは頬を膨らませて文句を零しているが、それは彼女を勝ち誇らせるだけであった。
「何だ、こいつら?一体何を考えている?」
真っすぐにこちらへと向かってくるネロの姿は、余りに無防備だ。
その意味が分からず、マルコムは思わず首を捻る。
「へっ、舐めやがって!どれだけ落ちぶれたってなぁ、俺達はあの黒葬騎士団なんだよ!!おい、お前ら!やっちまうぞ!!」
「「おぉ!!」」
しかしそんな彼の疑問など、ネロ達の舐め腐った態度に激高する騎士達にとっては些細な問題だろう。
彼らは調子に乗った子供に現実を思い知らせてやると、意気を上げる。
そんな彼らと突っ込んできたネロが衝突するのは、そのすぐ後の事だった。
「どうじで、どうじでこんな事に・・・」
先ほどの威勢の良さはどこに行ったのかと思うほどにボコボコにされたマルコム達は、お互いに肩を貸し合いながらトボトボと帰路についている。
「これも・・・これも全部あいずのぜいだ」
「えっ?」
一人、誘拐という卑怯な手段に手を染めるのが嫌で戦闘に参加しなかったシーマスだけが、綺麗な顔をしている。
そんなシーマスが肩を貸している、その端正な顔立ちをボコボコに腫らしたマルコムが、何事か呟いていた。
「あいずの・・・ユーリのぜいだぁぁぁぁ!!!」
汚い手段にまで手を染めて遂げようとした復讐が、悉く駄目になってしまう。
そんな絶望的な状況に心が折れてしまったマルコムは、その責任を全てその復讐の相手、ユーリに被せる事で何とか正気に保とうとしている。
「・・・そんな訳ないじゃないか」
マルコムの言葉に触発されたのか、他の騎士達も口々に同じことを叫び始める。
そんな地獄絵図の中で一人、シーマスだけがそんな事有り得ないと呟いていた。
死に物狂いで戦う聖剣騎士団と、不意を突かれ訳も分からないまま襲われるマルコム達とでは、始めから勝負にもならなかった。
そこから命からがら逃げてきた彼らは、何処かも分からない山中に取り残されていた。
「あんな奴らがいるなんて聞いてないぞ!何でこんな辺境の地に、あんな腕利きの騎士達がいるんだ!!」
キッパゲルラなどという辺境の地に、何故あのような腕利きの騎士が揃っているのだと、マルコムは頭を掻き毟りながら叫ぶ。
「・・・お前のせいじゃないか」
「あ?今、何て言った?」
マルコムの周りには、彼と同じように息も絶え絶えいった様子の仲間達の姿が。
その数は先ほどよりも減っており、まさに風前の灯火といった様相だ。
そんな仲間の一人が、この現状に対して吐き捨てるように呟く。
「お前のせいだって言ったんだよ、マルコム!だってそうだろう、見ろよこの有り様!これも全部、お前に従った結果なんだからな!!」
「貴様!!」
彼は周りの惨状を示しながら、そうなったのは全部マルコムの責任だと彼を罵る。
それに思わず、マルコムは剣を抜き放ってしまっていた。
「マルコム、それは駄目だ!!」
そんなマルコムを、シーマスが羽交い絞めにして必死な形相で制止する。
「止めるな、シーマス!これを許せば、指揮がっ」
「はっ、殺せよ!殺したらいいだろ!!あの時と同じように!!」
指揮官への批判を許せば、指揮系統への乱れが出る。
それを恐れて、マルコムは断固とした対応を取ろうとしている。
そんな彼に対して、目の前の仲間の一人は吐き捨てるようにある出来事の事を口に出していた。
「なん、だと・・・お前らは俺を、そんな風に」
彼が口にしたのは、マルコムが以前仲間の事を手に掛けた出来事についてだ。
それにマルコムは目を見開き、衝撃を受けたように小さく震えている。
周囲へと目をやれば、周りの仲間達もどこか気まずそうにしていたが、誰もそれを否定しようとはしていなかった。
「しっ!マルコム、誰か来る!」
そんな彼に、近づいてくる足音に気付いたシーマスが声を掛け、その姿勢を低くさせる。
「ちぇー!今回も外れかー」
「で、でも!こんな綺麗なのも見つかったし・・・」
「えー?そんなの見つけてもさー。ボクはこう・・・格好いい剣とかが欲しかったなー」
慌てて近くの木陰へと隠れる彼らの前を、賑やかな話し声が通り過ぎる。
それは獣の耳をその頭の上に生やしている、黒と白の髪をした美しい少女達であった。
「ちょ、ちょっとお待ちになって二人とも!!私を置いていくつもりですの!?」
そしてその背後からはもう一人、金色の髪のこれもまた先ほどの二人と負けず劣らない美しい少女が、息も絶え絶えといった様子で追い駆けてきていた。
「えー?だって隊長遅いんだもーん」
「隊長ではありませんわ!親分と呼ぶように、何度も言っているでしょう!全く、二人には子分としての自覚が足りませんわ」
「ご、ごめんね・・・その、お、親分!」
ふらふらと彷徨うように山道を下っている金髪の少女の下に、先行していた二人が駆け足で戻ってくる。
合流した二人に文句を叫び、そっぽを向く金髪の少女はしかし、どこか嬉しそうであった。
「何だ、子供か。焦って損したな・・・」
そんな彼女達の様子に、木陰に隠れた騎士達は取り越し苦労かと溜め息を漏らす。
「いや待て、あれは・・・間違いない、オリビア・ユークレールだ!」
しかしマルコムだけは真剣な表情を崩さず、気を抜こうとしていた騎士達を手で制す。
そして彼は、その金髪の少女がユーリが今仕えているユークレール家の令嬢、オリビアだと見破っていた。
「何だって、それじゃあの子を捕まえてしまえば・・・」
「そうだ、俺達の勝ちだ」
ユーリが仕えている家の令嬢が、今目の前で無防備に出歩いている。
その状況を理解した騎士達は、俄かに色めき立っていた。
「なら、やるべきことは分かるな?行くぞ!」
「お、おぉ!」
その子を捕まえてしまえば、ユーリをどうするのもこちらの思うがままだ。
それを理解した彼らは、短い合図でその場から躍り出る。
そうその少女、オリビアの前へと。
「な、何ですの貴方達は!?」
突如現れた怪しい男達に、オリビアは警戒の声を上げる。
「黒葬騎士団の成れの果て・・・なんてな、冗談さ。そうだな・・・貴族の御令嬢の誘拐を企てる、悪漢って所かな?」
マルコムが口にした皮肉を、オリビアは理解しない。
彼女の怪訝そうな表情に苦笑いを浮かべた彼は、端的に自らの正体を告げる。
ただの誘拐犯であると。
「くっ、またですの・・・どうしてこう何度も」
落ちぶれたとはいえ、公爵家の娘であるオリビアにはそうした経験は珍しくもなかった。
現に、以前ユーリ達にその現場を救われた事のある彼女は、またかと悔しそうに唇を歪める。
「ネロ、プティ!ここは親分である私が引き受けますわ!!だ、だから貴方達はお逃げなさい!!」
例え慣れていても、その恐怖がなくなる訳ではない。
寧ろ経験したからこそ、その足は今震えているのだ。
それでもなお、彼女は子分を守ろうと声を上げる。
それが親分である自分の役目なのだと、胸を張って。
「えー、必要ないでしょ?」
「う、うん。私もそう思うな。余裕、だよね?」
しかし両手を広げ、悲壮な決意で立ち塞がるオリビアの背後で、二人はそう気軽に口をする。
その表情は彼女のものとは違い余裕たっぷりで、とてもではないがこれから脅威に立ち向かおうとするものではなかった。
「あ、貴方達・・・」
オリビアの脇を通り抜け、気軽な様子で前へと進み出ていく二人に、彼女は呆気に取られている。
「へへっ、プティも分かってきたじゃん!じゃ、支援はよろしくー」
「あっ!?もぅ、いっつもそうだ!私だって前で戦いたいのにー!」
「へへーん、早いもの勝ちですよーだ!」
どこかから取り出した小ぶりな剣を掲げ、ネロは真っすぐにマルコム達へと突撃していく。
そんな彼女にプティは頬を膨らませて文句を零しているが、それは彼女を勝ち誇らせるだけであった。
「何だ、こいつら?一体何を考えている?」
真っすぐにこちらへと向かってくるネロの姿は、余りに無防備だ。
その意味が分からず、マルコムは思わず首を捻る。
「へっ、舐めやがって!どれだけ落ちぶれたってなぁ、俺達はあの黒葬騎士団なんだよ!!おい、お前ら!やっちまうぞ!!」
「「おぉ!!」」
しかしそんな彼の疑問など、ネロ達の舐め腐った態度に激高する騎士達にとっては些細な問題だろう。
彼らは調子に乗った子供に現実を思い知らせてやると、意気を上げる。
そんな彼らと突っ込んできたネロが衝突するのは、そのすぐ後の事だった。
「どうじで、どうじでこんな事に・・・」
先ほどの威勢の良さはどこに行ったのかと思うほどにボコボコにされたマルコム達は、お互いに肩を貸し合いながらトボトボと帰路についている。
「これも・・・これも全部あいずのぜいだ」
「えっ?」
一人、誘拐という卑怯な手段に手を染めるのが嫌で戦闘に参加しなかったシーマスだけが、綺麗な顔をしている。
そんなシーマスが肩を貸している、その端正な顔立ちをボコボコに腫らしたマルコムが、何事か呟いていた。
「あいずの・・・ユーリのぜいだぁぁぁぁ!!!」
汚い手段にまで手を染めて遂げようとした復讐が、悉く駄目になってしまう。
そんな絶望的な状況に心が折れてしまったマルコムは、その責任を全てその復讐の相手、ユーリに被せる事で何とか正気に保とうとしている。
「・・・そんな訳ないじゃないか」
マルコムの言葉に触発されたのか、他の騎士達も口々に同じことを叫び始める。
そんな地獄絵図の中で一人、シーマスだけがそんな事有り得ないと呟いていた。
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