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第一章 最果ての街キッパゲルラ
サガトガ山賊団
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「はぁ、はぁ、はぁ・・・どうにか撒いたか?」
後ろ暗い事をするための倉庫は、街外れの辺鄙な場所にあった。
そこから慌てて逃げ出したマルコム達は、いつの間にかキッパゲルラの外にまで足を運んでいた。
「な、何とか逃げ出せたけど・・・これからどうするのマルコム?」
「予定よりは早いが・・・『サガトガ山賊団』と合流する」
失敗した計画に、これからどうするのかとシーマスはマルコムに尋ねる。
それに彼は、ある山賊団の名前を出していた。
「そう、だよね・・・ねぇ、マルコム。僕達、本当にこれでいいのかな?」
「仕方ないだろう?今やあいつは、公爵のお膝元に匿われてるんだ。それを引っ張り出すには、これぐらい・・・」
「違うよ!そうまでしてユーリを暗殺しようなんて・・・やっぱり間違ってると思うんだ」
かつて彼らが退治しようとしていた山賊団に、今度は手を貸そうというマルコム。
それにシーマスは、躊躇いを感じているようだった。
「何を言っているんだ、シーマス?」
「マ、マルコム・・・?」
そのシーマスの当たり前ともいえる疑問に反応する、マルコムの様子はおかしい。
「黒葬騎士団が壊滅したのも、オンタリオ団長が死んだのも、俺達が今!こうなっているのも全部!!ユーリの、あいつのせいじゃないか!!?だから!あいつを殺さないと、そうしないと俺達の未来はないんだ・・・そうだろう、シーマス?」
目を見開き、幽鬼のような表情で叫ぶマルコムの顔からは、生気を感じない。
しかしその目からは、ギラギラとした確かな殺気が迸っていた。
「わ、分かったよ!分かったから、マルコム!!もう止めてくれ!!」
その迫力にシーマスは押し切られ、許しを請うように了解を叫んでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・分かればいいんだ。皆もいいな?なら、急ごう」
切らした息を整えたマルコムは、一見正気に戻ったように見える。
しかしそれに逆らおうとする者は、ここには一人もいなかった。
「全てユーリのせい・・・そんな事が本当にあると思っているの、マルコム」
マルコムに従い移動を開始する騎士達、その後ろに一人立ち尽くしたシーマスはそう呟く。
彼が見上げる先には、その将来を暗示するような暗雲が立ち込め始めていた。
「予定より早いじゃないか・・・こっちにも都合ってもんがあるんだけどねぇ?」
キッパゲルラから少し離れた場所に存在する洞窟、その奥で木箱で作った椅子の上で足を組み、屈強な男を従えている赤毛の少女は、そう厭味ったらしくマルコムに告げる。
「おやおや、それにしても随分みすぼらしいじゃないか?これがあの最強と謳われた黒葬騎士団の成れの果てかい?惨めなもんだねぇ」
倉庫でのいざこざから、そのままここにやって来たマルコム達の格好はボロボロだ。
それを赤毛の少女はあげつらっては、馬鹿にしてくる。
「それはお互い様では?かつてこの国を脅かした『サガトガ山賊団』がこの有り様とは・・・少々驚きました」
それにマルコムも、貴公子然とした笑顔のまま堂々と言い返していた。
確かに、ここまでの道中に見かけた「サガトガ山賊団」の規模は、とてもではないが複数の国家を脅かした山賊団と呼べるものではなかった。
「はっ、言ってくれるじゃないか!こっちは別にいいんだよ?あんた達を当局に引き渡してもねぇ!あの黒葬騎士団が国家転覆を考えていたってさぁ・・・随分と話題になるだろうねぇ!」
「そっちがその気なら、こちらも同じことをするまでです。貴方が言う記事よりも、あのサガトガ山賊団を黒葬騎士団が壊滅させた、という記事の方が話題になると思いませんか?」
「はっ!あんた状況を分かって言ってんのかい?ここはあたしらの庭なんだよ!!」
売り言葉に買い言葉、お互いに挑発し合うマルコムと赤毛の少女に、周囲は一触即発の空気となっていく。
「ま、まぁまぁ!二人とも落ち着いて―――」
そんな空気に、シーマスが慌てて取り成そうと飛び出す。
「ふんっ、中々骨があるじゃないか・・・気に入ったよ!」
「こちらこそ、規模は衰えても気概までは衰えていないようで何よりです」
「はっ、誰にものを言ってるんだい!」
しかし彼の予想に反して、二人は何故か意気投合しているようだった。
「・・・へ?」
それに呆気に取られ、シーマスは固まってしまう。
「何をしてるんだシーマス?話の邪魔だ、下がっていろ」
「う、うん・・・分かった」
こうなると完全に意味の分からない行動を取ったことになるシーマスに、マルコムは首を傾げると下がっていろと命令する。
それに釈然としない表情を浮かべながらも、シーマスは素直に後ろへと下がっていた。
「それで、これからの動きだが―――」
シーマスを後ろに下がらせたマルコムは、赤毛の少女に一歩近づくとこれからの動きについて詳細を詰めようとしていた。
そこに、爆音が響く。
「な、何だ・・・何が起こった・・・?」
突如襲い掛かってきた物凄い衝撃に、前後も分からないほどに吹き飛ばされてしまったマルコムは、何とか顔を上げると周りへと視線を向ける。
そこには先ほどとは一変した、洞窟の姿があった。
「ようやく見つけたぞ、『サガトガ山賊団』。その数々の悪行許しておけぬ、ここで成敗してくれる!!」
いやそれは間違いだ、そこにはもはや洞窟の姿などなかった。
マルコムが目にしたのは、モクモクと立ち込める煙とその向こうから現れる金髪の少女。
そしてそれ以外に、遮るもののない景色であった。
「さぁ、征くのだ!我が聖剣騎士団よ!!」
立ち込める土煙の中、その手にした剣を地面へと突き立てた金髪の少女は堂々と叫ぶ。
それはまさしく、戦いの開始を告げる号令であった。
「む、無理ですよ隊長!?相手はあの『サガトガ山賊団』ですよ!?隊長ならとにかく、僕達だけじゃとても・・・」
しかしそんな少女の号令に、彼女の背後に控える騎士達は一斉に泣き言を口にする。
「ほぅ、そうか・・・無理だと申すか?無理というのは臆病者の言葉だが・・・まぁよい、無理強いは出来まい。ここは私が引き受けよう」
「た、助かった・・・」
そんな彼らに振り返った少女は残念そうな表情を見せるが、やがて納得するとここは自らが引き受けると口にする。
その言葉に背後の騎士達は、一斉に胸を撫で下ろしていた。
「・・・帰ったら、猛特訓だな」
「ひぃ!!?」
しかしそれも、少女が呟いたその一言を聞くまでの話しだ。
猛特訓、その一言を聞いた騎士達は一斉に顔を青ざめさせる。
「う、うおおおぉぉぉぉ!!!やってやる、やってやるぞぉぉぉぉ!!!」
「野郎、ぶっ殺してやるぅぅぅぅ!!!」
そして、彼らは弾かれたように飛び出していく。
その目からは、血の涙が流れていた。
「うむうむ、それでこそ我が聖剣騎士団だ」
そんな彼らの様子に、少女は満足そうに頷いていた。
後ろ暗い事をするための倉庫は、街外れの辺鄙な場所にあった。
そこから慌てて逃げ出したマルコム達は、いつの間にかキッパゲルラの外にまで足を運んでいた。
「な、何とか逃げ出せたけど・・・これからどうするのマルコム?」
「予定よりは早いが・・・『サガトガ山賊団』と合流する」
失敗した計画に、これからどうするのかとシーマスはマルコムに尋ねる。
それに彼は、ある山賊団の名前を出していた。
「そう、だよね・・・ねぇ、マルコム。僕達、本当にこれでいいのかな?」
「仕方ないだろう?今やあいつは、公爵のお膝元に匿われてるんだ。それを引っ張り出すには、これぐらい・・・」
「違うよ!そうまでしてユーリを暗殺しようなんて・・・やっぱり間違ってると思うんだ」
かつて彼らが退治しようとしていた山賊団に、今度は手を貸そうというマルコム。
それにシーマスは、躊躇いを感じているようだった。
「何を言っているんだ、シーマス?」
「マ、マルコム・・・?」
そのシーマスの当たり前ともいえる疑問に反応する、マルコムの様子はおかしい。
「黒葬騎士団が壊滅したのも、オンタリオ団長が死んだのも、俺達が今!こうなっているのも全部!!ユーリの、あいつのせいじゃないか!!?だから!あいつを殺さないと、そうしないと俺達の未来はないんだ・・・そうだろう、シーマス?」
目を見開き、幽鬼のような表情で叫ぶマルコムの顔からは、生気を感じない。
しかしその目からは、ギラギラとした確かな殺気が迸っていた。
「わ、分かったよ!分かったから、マルコム!!もう止めてくれ!!」
その迫力にシーマスは押し切られ、許しを請うように了解を叫んでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・分かればいいんだ。皆もいいな?なら、急ごう」
切らした息を整えたマルコムは、一見正気に戻ったように見える。
しかしそれに逆らおうとする者は、ここには一人もいなかった。
「全てユーリのせい・・・そんな事が本当にあると思っているの、マルコム」
マルコムに従い移動を開始する騎士達、その後ろに一人立ち尽くしたシーマスはそう呟く。
彼が見上げる先には、その将来を暗示するような暗雲が立ち込め始めていた。
「予定より早いじゃないか・・・こっちにも都合ってもんがあるんだけどねぇ?」
キッパゲルラから少し離れた場所に存在する洞窟、その奥で木箱で作った椅子の上で足を組み、屈強な男を従えている赤毛の少女は、そう厭味ったらしくマルコムに告げる。
「おやおや、それにしても随分みすぼらしいじゃないか?これがあの最強と謳われた黒葬騎士団の成れの果てかい?惨めなもんだねぇ」
倉庫でのいざこざから、そのままここにやって来たマルコム達の格好はボロボロだ。
それを赤毛の少女はあげつらっては、馬鹿にしてくる。
「それはお互い様では?かつてこの国を脅かした『サガトガ山賊団』がこの有り様とは・・・少々驚きました」
それにマルコムも、貴公子然とした笑顔のまま堂々と言い返していた。
確かに、ここまでの道中に見かけた「サガトガ山賊団」の規模は、とてもではないが複数の国家を脅かした山賊団と呼べるものではなかった。
「はっ、言ってくれるじゃないか!こっちは別にいいんだよ?あんた達を当局に引き渡してもねぇ!あの黒葬騎士団が国家転覆を考えていたってさぁ・・・随分と話題になるだろうねぇ!」
「そっちがその気なら、こちらも同じことをするまでです。貴方が言う記事よりも、あのサガトガ山賊団を黒葬騎士団が壊滅させた、という記事の方が話題になると思いませんか?」
「はっ!あんた状況を分かって言ってんのかい?ここはあたしらの庭なんだよ!!」
売り言葉に買い言葉、お互いに挑発し合うマルコムと赤毛の少女に、周囲は一触即発の空気となっていく。
「ま、まぁまぁ!二人とも落ち着いて―――」
そんな空気に、シーマスが慌てて取り成そうと飛び出す。
「ふんっ、中々骨があるじゃないか・・・気に入ったよ!」
「こちらこそ、規模は衰えても気概までは衰えていないようで何よりです」
「はっ、誰にものを言ってるんだい!」
しかし彼の予想に反して、二人は何故か意気投合しているようだった。
「・・・へ?」
それに呆気に取られ、シーマスは固まってしまう。
「何をしてるんだシーマス?話の邪魔だ、下がっていろ」
「う、うん・・・分かった」
こうなると完全に意味の分からない行動を取ったことになるシーマスに、マルコムは首を傾げると下がっていろと命令する。
それに釈然としない表情を浮かべながらも、シーマスは素直に後ろへと下がっていた。
「それで、これからの動きだが―――」
シーマスを後ろに下がらせたマルコムは、赤毛の少女に一歩近づくとこれからの動きについて詳細を詰めようとしていた。
そこに、爆音が響く。
「な、何だ・・・何が起こった・・・?」
突如襲い掛かってきた物凄い衝撃に、前後も分からないほどに吹き飛ばされてしまったマルコムは、何とか顔を上げると周りへと視線を向ける。
そこには先ほどとは一変した、洞窟の姿があった。
「ようやく見つけたぞ、『サガトガ山賊団』。その数々の悪行許しておけぬ、ここで成敗してくれる!!」
いやそれは間違いだ、そこにはもはや洞窟の姿などなかった。
マルコムが目にしたのは、モクモクと立ち込める煙とその向こうから現れる金髪の少女。
そしてそれ以外に、遮るもののない景色であった。
「さぁ、征くのだ!我が聖剣騎士団よ!!」
立ち込める土煙の中、その手にした剣を地面へと突き立てた金髪の少女は堂々と叫ぶ。
それはまさしく、戦いの開始を告げる号令であった。
「む、無理ですよ隊長!?相手はあの『サガトガ山賊団』ですよ!?隊長ならとにかく、僕達だけじゃとても・・・」
しかしそんな少女の号令に、彼女の背後に控える騎士達は一斉に泣き言を口にする。
「ほぅ、そうか・・・無理だと申すか?無理というのは臆病者の言葉だが・・・まぁよい、無理強いは出来まい。ここは私が引き受けよう」
「た、助かった・・・」
そんな彼らに振り返った少女は残念そうな表情を見せるが、やがて納得するとここは自らが引き受けると口にする。
その言葉に背後の騎士達は、一斉に胸を撫で下ろしていた。
「・・・帰ったら、猛特訓だな」
「ひぃ!!?」
しかしそれも、少女が呟いたその一言を聞くまでの話しだ。
猛特訓、その一言を聞いた騎士達は一斉に顔を青ざめさせる。
「う、うおおおぉぉぉぉ!!!やってやる、やってやるぞぉぉぉぉ!!!」
「野郎、ぶっ殺してやるぅぅぅぅ!!!」
そして、彼らは弾かれたように飛び出していく。
その目からは、血の涙が流れていた。
「うむうむ、それでこそ我が聖剣騎士団だ」
そんな彼らの様子に、少女は満足そうに頷いていた。
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