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第一章 最果ての街キッパゲルラ
一方その頃マルコム達は
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「なるほど、そんな事が・・・」
窓から差し込む柔らかな日差しが、部屋の中に設えられた高級な家具に吸い込まれていく。
名物である長廊下から客間へと場所を移したユーリ達は、彼がマービンと出会った経緯をヘイニーに説明していた。
「えぇ、実はそうなんですよ。元々マービンさんの所に誘われていて・・・わわっ!?」
自らの説明に納得を示しているヘイニーに、ユーリはどこか気まずそうに頭を掻いている。
そんなユーリ達の前に、バートラムが淹れたばかりの紅茶を配っていく。
その動作はとても洗練されており、流石は公爵家の執事だと納得出来るものであった。
ある一人に対して以外は。
「・・・ふんっ」
ユーリの前にティーカップを置く時にだけ今までの洗練された動きをかなぐり捨て、乱雑にそれを置いたバートラムに、ユーリは思わず声を上げる。
そんな彼の様子に、バートラムは不満そうに鼻を鳴らしていた。
「バートラム!!」
「これは失礼致しました、皆様方。なにぶん年なものでして・・・どうかお許しを」
先ほどのやり取りがあってもまだ納得がいっていないのか、そのような振る舞いを見せるバートラムにヘイニーは叱りつけるように声を上げる。
それにバートラムは胸に手を当てると、これもまた公爵家の執事に相応しい態度で頭を下げて見せていた。
「は、はぁ・・・その、お気になさらず。俺は大丈夫なので」
そんな二人のやり取りを、ユーリはさっぱり意味が分からないという様子で眺めていた。
「ユークレール様、お嬢様にも一度お目通り願いたいのですが・・・御不在なのでしょうか?」
「あぁ、ヘイニーで構いませんよ。オリビアならさっき・・・あれ、すれ違いませんでしたか?」
若干の不穏な空気に、一度紅茶に口をつけたマービンがソーサーにそれを戻しながら、話題を変える言葉を口にする。
その言葉にバートラムを睨み付けていた顔を元の柔和な表情に戻したヘイニーは、不思議そうに首を捻っていた。
「いえ、見かけませんでしたが・・・」
「俺も見てませんね」
マービン達が現れた方向に、オリビア達は駆けて行ったはずだ。
しかしそちらから来た二人は、その姿を見ていないと顔を見合わせる。
「旦那様、先ほどからお嬢様のお声も聞こえていないかと」
「そういえば・・・」
バートラムの指摘に思い起こせば、あれだけ騒がしかったオリビア達の声が、今はどこからも聞こえてこない。
「どこまで行ったんだ、あの子達は?」
ヘイニーは首を捻りながら、窓の外へと視線を向ける。
それに釣られて、ユーリ達も同じように窓の外の景色へと視線を向けていた。
◆◇◆◇◆◇
「ねぇ、マルコム・・・本当にやる気なの?」
「・・・俺達には、もうこうするしかないんだ」
肩を突き合わせるような距離で声を交わす、マルコムとシーマスは顔の輪郭すらも窺えない。
それはこの建物に窓がなく、僅かな光が建付けの隙間から差し込むばかりだからだ。
この建物がそんな作りになっているのは、その中に保管するものを日の光に晒したくないからか、そこで後ろ暗い事を行うためだろう。
そして恐らく、この建物の場合はその両者とも正しかった。
「こうするしかないって・・・こんなの騎士がやるような事じゃ、むぐぐっ!?」
暗い建物にはそれでも、確かに多くの人の気配がした。
マルコムはそれらの人にシーマスの言葉を聞かれないように、その口を塞ぐ。
「相談は終わったかい?やれやれ、これだから高潔な騎士様っては嫌だねぇ・・・この程度の汚れ仕事をするにも、一々相談が必要なんて」
「はっ、違いねぇ!ちっとばかり火をつけて回るだけの、簡単な仕事だろうが!一々ビビってんじゃねぇぞ!!」
しかしそれでも遅かったのか、シーマスの声を聞きつけた誰かが厭味ったらしくマルコム達へと声を掛ける。
その声は遥か上空から聞こえ、どうやら彼らは摘み上げた荷物の上から喋っているらしかった。
「問題ない。任された仕事はこなすさ」
暗闇包まれた室内に、見えずとも彼らがこちらを見下して笑っているのは伝わってくる。
そんな彼らの前にマルコムは一歩進み出ると、任せてくれと断言していた。
「マルコム!?僕はっ・・・!」
「シーマス!」
「・・・分かったよ」
マルコムの決断に不満なシーマスも、彼が食いしばった歯の間から絞り出した声を聞けば、黙るしかない。
彼がそうして返した返事も、喉の奥から絞り出したような声であった。
「はっ、分かりゃいいんだよ分かれば!ま、火付け自体は慣れてる俺らがやるからよ。あんたらには陽動に適当に暴れてもらうぜ。詳しい事は―――」
マルコムの返事に気を良くした彼らは、早速計画の詳細について話し始めている。
「なぁ、これには何が入ってるんだ?」
「あん?何だ気になるのか?へへっ、こいつにはな・・・滅多にお目に掛かれない上物が入ってるんだぜ?」
マルコム達が計画の詳細について詰めている背後では、暇を飽かした騎士が近くにいた者に声を掛けていた。
「へぇ、上物だって?」
「気になるかい?見せてやろうか?」
「本当か?見たい見たい!」
「仕方ねぇな・・・ちょっとだけだぞ?」
一部の者だけで進める話にあちら側も退屈していたのか、何やら上機嫌に話す男は近くにあった箱へと手を掛けながらそう口にする。
暗闇に包まれた室内にも、彼らが立っているのは壁際に近く、その隙間から洩れる光で僅かに視界が保たれていた。
「どれどれ・・・うわぁ!!?」
男が蓋を開けた箱を覗き込んだ騎士は、悲鳴を上げる。
それはそこから何か、小さな影が飛び出してきたからだった。
「憲兵隊だ!!ここで違法な品物を取引している事は既に上がっている!無駄な抵抗はせず、大人しく投降しろ!!」
そしてそれは、その声が響くのとほぼ同じタイミングだった。
「くそ、何でバレた!?」
「そんなの俺が知るかよ!?」
「シーマス、逃げるぞ!!」
「う、うん!」
倉庫の扉を開け放ち、中へと雪崩れ込んでくる兵士達。
それに混乱し、中の男達は慌てふためく。
「ちゅちゅ?」
そんな中で一人、いや一匹、不思議そうに首を傾げている者がいた。
「ちゅー!!」
そして彼は、兵士達が開け放った扉を見つけると、一目散にそこへと飛び込んでいくのだった。
窓から差し込む柔らかな日差しが、部屋の中に設えられた高級な家具に吸い込まれていく。
名物である長廊下から客間へと場所を移したユーリ達は、彼がマービンと出会った経緯をヘイニーに説明していた。
「えぇ、実はそうなんですよ。元々マービンさんの所に誘われていて・・・わわっ!?」
自らの説明に納得を示しているヘイニーに、ユーリはどこか気まずそうに頭を掻いている。
そんなユーリ達の前に、バートラムが淹れたばかりの紅茶を配っていく。
その動作はとても洗練されており、流石は公爵家の執事だと納得出来るものであった。
ある一人に対して以外は。
「・・・ふんっ」
ユーリの前にティーカップを置く時にだけ今までの洗練された動きをかなぐり捨て、乱雑にそれを置いたバートラムに、ユーリは思わず声を上げる。
そんな彼の様子に、バートラムは不満そうに鼻を鳴らしていた。
「バートラム!!」
「これは失礼致しました、皆様方。なにぶん年なものでして・・・どうかお許しを」
先ほどのやり取りがあってもまだ納得がいっていないのか、そのような振る舞いを見せるバートラムにヘイニーは叱りつけるように声を上げる。
それにバートラムは胸に手を当てると、これもまた公爵家の執事に相応しい態度で頭を下げて見せていた。
「は、はぁ・・・その、お気になさらず。俺は大丈夫なので」
そんな二人のやり取りを、ユーリはさっぱり意味が分からないという様子で眺めていた。
「ユークレール様、お嬢様にも一度お目通り願いたいのですが・・・御不在なのでしょうか?」
「あぁ、ヘイニーで構いませんよ。オリビアならさっき・・・あれ、すれ違いませんでしたか?」
若干の不穏な空気に、一度紅茶に口をつけたマービンがソーサーにそれを戻しながら、話題を変える言葉を口にする。
その言葉にバートラムを睨み付けていた顔を元の柔和な表情に戻したヘイニーは、不思議そうに首を捻っていた。
「いえ、見かけませんでしたが・・・」
「俺も見てませんね」
マービン達が現れた方向に、オリビア達は駆けて行ったはずだ。
しかしそちらから来た二人は、その姿を見ていないと顔を見合わせる。
「旦那様、先ほどからお嬢様のお声も聞こえていないかと」
「そういえば・・・」
バートラムの指摘に思い起こせば、あれだけ騒がしかったオリビア達の声が、今はどこからも聞こえてこない。
「どこまで行ったんだ、あの子達は?」
ヘイニーは首を捻りながら、窓の外へと視線を向ける。
それに釣られて、ユーリ達も同じように窓の外の景色へと視線を向けていた。
◆◇◆◇◆◇
「ねぇ、マルコム・・・本当にやる気なの?」
「・・・俺達には、もうこうするしかないんだ」
肩を突き合わせるような距離で声を交わす、マルコムとシーマスは顔の輪郭すらも窺えない。
それはこの建物に窓がなく、僅かな光が建付けの隙間から差し込むばかりだからだ。
この建物がそんな作りになっているのは、その中に保管するものを日の光に晒したくないからか、そこで後ろ暗い事を行うためだろう。
そして恐らく、この建物の場合はその両者とも正しかった。
「こうするしかないって・・・こんなの騎士がやるような事じゃ、むぐぐっ!?」
暗い建物にはそれでも、確かに多くの人の気配がした。
マルコムはそれらの人にシーマスの言葉を聞かれないように、その口を塞ぐ。
「相談は終わったかい?やれやれ、これだから高潔な騎士様っては嫌だねぇ・・・この程度の汚れ仕事をするにも、一々相談が必要なんて」
「はっ、違いねぇ!ちっとばかり火をつけて回るだけの、簡単な仕事だろうが!一々ビビってんじゃねぇぞ!!」
しかしそれでも遅かったのか、シーマスの声を聞きつけた誰かが厭味ったらしくマルコム達へと声を掛ける。
その声は遥か上空から聞こえ、どうやら彼らは摘み上げた荷物の上から喋っているらしかった。
「問題ない。任された仕事はこなすさ」
暗闇包まれた室内に、見えずとも彼らがこちらを見下して笑っているのは伝わってくる。
そんな彼らの前にマルコムは一歩進み出ると、任せてくれと断言していた。
「マルコム!?僕はっ・・・!」
「シーマス!」
「・・・分かったよ」
マルコムの決断に不満なシーマスも、彼が食いしばった歯の間から絞り出した声を聞けば、黙るしかない。
彼がそうして返した返事も、喉の奥から絞り出したような声であった。
「はっ、分かりゃいいんだよ分かれば!ま、火付け自体は慣れてる俺らがやるからよ。あんたらには陽動に適当に暴れてもらうぜ。詳しい事は―――」
マルコムの返事に気を良くした彼らは、早速計画の詳細について話し始めている。
「なぁ、これには何が入ってるんだ?」
「あん?何だ気になるのか?へへっ、こいつにはな・・・滅多にお目に掛かれない上物が入ってるんだぜ?」
マルコム達が計画の詳細について詰めている背後では、暇を飽かした騎士が近くにいた者に声を掛けていた。
「へぇ、上物だって?」
「気になるかい?見せてやろうか?」
「本当か?見たい見たい!」
「仕方ねぇな・・・ちょっとだけだぞ?」
一部の者だけで進める話にあちら側も退屈していたのか、何やら上機嫌に話す男は近くにあった箱へと手を掛けながらそう口にする。
暗闇に包まれた室内にも、彼らが立っているのは壁際に近く、その隙間から洩れる光で僅かに視界が保たれていた。
「どれどれ・・・うわぁ!!?」
男が蓋を開けた箱を覗き込んだ騎士は、悲鳴を上げる。
それはそこから何か、小さな影が飛び出してきたからだった。
「憲兵隊だ!!ここで違法な品物を取引している事は既に上がっている!無駄な抵抗はせず、大人しく投降しろ!!」
そしてそれは、その声が響くのとほぼ同じタイミングだった。
「くそ、何でバレた!?」
「そんなの俺が知るかよ!?」
「シーマス、逃げるぞ!!」
「う、うん!」
倉庫の扉を開け放ち、中へと雪崩れ込んでくる兵士達。
それに混乱し、中の男達は慌てふためく。
「ちゅちゅ?」
そんな中で一人、いや一匹、不思議そうに首を傾げている者がいた。
「ちゅー!!」
そして彼は、兵士達が開け放った扉を見つけると、一目散にそこへと飛び込んでいくのだった。
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