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第一章 最果ての街キッパゲルラ
回想 ギルドを訪れるヘイニー
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「ユ、ユークレール様!?ど、どうしてこちらに!?」
昼下がりの冒険者ギルド、訪れる冒険者も少なく終わったばかりの昼食についウトウトとしたくなる時間帯に現れたその男に、トリニアは思わず悲鳴のような声を上げる。
「いやなに、大した用事ではないのだが。ここに、ユーリ・ハリントンがいると―――」
眠たい空気のギルドに現れたその男、ヘイニー・ユークレール。
その背後には金髪のメイドと、その背中にぴったりとくっついてる同じ色の髪をした少女の姿があった。
「っ!お姉様!!」
「お嬢様!?」
その少女、オリビア・ユークレールはある人物の姿を見つけると、嬉しそうに瞳を輝かせ真っすぐに飛び出していく。
「貴方は確か・・・そうオリビアでしたか。久しぶりですね、変わらず壮健そうで何より」
「憶えていてくださったのですか!?嬉しいですわ!!」
ギルドに併設された酒場スペースで軽食を取っていたユーリの隣で、まるで彫像のように身じろぎ一つなく立っていたエクスの下へと駆け寄ったオリビアは、その言葉に感動し声を震わせる。
「えへへ、久しぶりだねオリビア。元気だった?」
「おー、何だよオリビアー?ボク達に会いにきたのかー?」
「私はお姉様に会いにきただけですの!べ、別に貴方達に会いに来た訳じゃ・・・!」
そんなオリビアに、ネロとプティに二人が嬉しそうに寄っていく。
同年代の彼女達は、すぐに顔を近づけ合うと子供特有の距離感で話し始めていた。
「えー?そんなこと言ってー、本当は会いたかったんだろー?このこのー」
「わ、私はオリビアに会えて・・・嬉しい、よ?」
「わ、私も本当は・・・えぇい!いつまで突く気ですの、貴方は!!」
プティから潤んだ瞳で見詰められ思わず絆されそうになったオリビアも、しつこく絡んでくるネロのウザさが癇に障れば怒鳴り声を上げてしまう。
そんな彼女の反応にも、二人は楽しそうに笑い声を上げていた。
「あー・・・うおっほん!えー、こちらにユーリ・ハリントンがいると聞いたのだが・・・間違いないかね?」
「は、はぁ・・・ユーリさんならそちらにいらっしゃいますが。その、どのようなご用件で?」
自らの娘であるオリビアとユーリの娘二人に話の腰を折られたヘイニーは、その気まずい空気を誤魔化すように咳ばらいをすると、改めてここにやって来た要件を口にする。
「あぁ、そちらの方が・・・何、彼を雇おうかと考えていてね」
「はぁ、なるほどユーリさんをお雇いに・・・えぇ!?ユーリさんを雇う!!?」
トリニアが示した先には、何やらオリビアとエクスに挟まれ困っているユーリの姿があった。
そんな彼の姿へと視線を向けながらヘイニーがふと呟いた言葉に、トリニアは思わず大声を上げてしまっていた。
「そ、それって・・・公爵様がユーリさんを雇うって事ですか!?」
「・・・今言った通りだが?」
この地の領主でもある公爵が、一冒険者に過ぎないユーリを雇う。
そのとてもではないが信じられない出来事に、トリニアは思わず当たり前の事をヘイニーに尋ねてしまう。
「それほど驚くことかね?彼らは娘の命の恩人だ、それに冒険者としても―――」
トリニアの大袈裟な反応に、ヘイニーはそうするだけの理由があるのだと説明しようとしている。
「駄目です!!!」
しかしそんな彼の言葉を遮るように、トリニアがカウンターを両手で叩いては立ち上がり、そう叫んでいた。
「な、何故君が断るのかね?私がユーリ氏を雇おうという話が、君に何の関係が・・・?」
「そ、それは・・・」
ユーリへと持ち掛けた話に何故トリニアが返事をするのだと。至極当然の疑問を口にするヘイニーに、彼女は思わず口籠ってしまう。
「ユ、ユーリさん達は私達ギルドの主力冒険者です!それをこんな急に引き抜かれるなんて、いくら領主様の要請だからって納得出来ません!!」
しかしトリニアはすぐに気を取り直すと、両手を握り締めては気合の籠った瞳でそう主張にする。
「そ、そうだそうだ!!ユーリさんは、自分達の仕事も手伝ってくれてるんですよ!」
「そうですよ!そんな人に急に抜けられたら・・・私達はどうしたらいいんですか!?」
「横暴だ、横暴ー!!」
トリニアの言葉に乗せられ、彼女の周りのギルド職員達も口々に騒ぎ始める。
その勢いに、ヘイニーも押され始めていた。
「き、君達の言っている事も分かるが・・・しかしだな―――」
「私のいない所でそのような話を進められては困りますな、ユークレール様」
職員達の勢いに押され、段々と取り繕っていた威厳が薄らいできたヘイニーは、戸惑いながらも何とか話しを進めようとする。
しかしそんな彼の前にまた一人、新たな人物が現れていた。
「フレッド、まさか君もなのか?」
「えぇ、その通りです。私もユーリ君の引き抜きには反対させていただきます」
それはこのギルドの責任者、ギルド長のフレッド・リンチであった。
「ユーリ君、彼はこのギルドでもエースと呼べる冒険者なのです。それにギルドの仕事を手伝って貰ってもいて、この間の焼失事件においてなど大変な活躍をしたほどです。確かに彼とギルドの間には悲しい事件もありました・・・しかしそれも今のこのギルドの姿のように綺麗に修復されているのです!そのような人材を急に引き抜こうなどと・・・いくらユークレール様の要望と言えど、即答しかねますな」
フレッドは如何にユーリがこのギルドに必要な人材なのかを言い並べ、ヘイニーの要望に対して難色を示している。
彼が口にした通り、かつてエクスが半壊させたギルドの建物は今や、すっかり元通りといった様相を呈していた。
「ギルド長の言う通りです!困っちゃいます!!」
「そうだそうだ!!」
責任者の登場とその援護に、俄然盛り上がるギルド職員達。
その中でも特に、トリニアが誰より目立つ大声でそれを後押ししていた。
「・・・別にどうでもいいでしょ。一人抜けたぐらいで、何も変わらないわよ」
そのボルテージはすっかり高まり、勢いに乗った職員達はさらに声を大きくしていく。
だから誰も気付かない、黒髪の受付嬢がぼそりと呟いたそんな一言には。
「うむむむ・・・こうも反対されてはな、諦めるしかないか。いや残念だ、ユーリ氏は事務仕事も大変得意だと聞いたので、その辺りの仕事を一手に任せようかと考えていたのだが・・・」
もはやギルド全体から反対されているような有様に、ヘイニーはユーリを雇うのを諦めようとしていた。
そして最後に彼は呟く、その雇用条件を。
「それ、本当ですか!!?」
その雇用条件を耳にしたユーリは、その目をキラキラと輝かせながら飛びついていた。
「あっ・・・」
そんなユーリの様子に、トリニア達ギルド職員は何かを察してしまっていた。
ユーリと共に仕事をしていた彼らは知っているのだ、彼が如何に事務仕事が好きでその仕事に就きたがっているかを。
そして冒険者としての彼らの力も欠かすことが出来なかったギルドが、それを遠回しに拒絶し続けた事実も。
「ほ、本当だが?確かに私は君に、この領地での事務仕事全般を任せようと考えている」
「この領地全般の事務仕事!!?それって当然、とんでもない量ですよね!?」
「まぁそうなるな。だから優秀な人材が欲しかったのだが、こうなっては・・・」
一つの領地を運営する上での事務仕事ともなれば、それはとんでもない量となってくる。
それをユーリ一人にやらせようと口にする、ヘイニーの考えはとんでもない。
しかしそれ以上に、それを聞いてキラキラと瞳を輝かせるユーリはとんでもなかった。
「やります!!是非、やらせてください!!!」
諦めを口にしようとするヘイニーの言葉を遮って、ユーリが叫ぶ。
その声はギルドの建物の外、それが面した大通りの向こうにまで響き渡ったという。
昼下がりの冒険者ギルド、訪れる冒険者も少なく終わったばかりの昼食についウトウトとしたくなる時間帯に現れたその男に、トリニアは思わず悲鳴のような声を上げる。
「いやなに、大した用事ではないのだが。ここに、ユーリ・ハリントンがいると―――」
眠たい空気のギルドに現れたその男、ヘイニー・ユークレール。
その背後には金髪のメイドと、その背中にぴったりとくっついてる同じ色の髪をした少女の姿があった。
「っ!お姉様!!」
「お嬢様!?」
その少女、オリビア・ユークレールはある人物の姿を見つけると、嬉しそうに瞳を輝かせ真っすぐに飛び出していく。
「貴方は確か・・・そうオリビアでしたか。久しぶりですね、変わらず壮健そうで何より」
「憶えていてくださったのですか!?嬉しいですわ!!」
ギルドに併設された酒場スペースで軽食を取っていたユーリの隣で、まるで彫像のように身じろぎ一つなく立っていたエクスの下へと駆け寄ったオリビアは、その言葉に感動し声を震わせる。
「えへへ、久しぶりだねオリビア。元気だった?」
「おー、何だよオリビアー?ボク達に会いにきたのかー?」
「私はお姉様に会いにきただけですの!べ、別に貴方達に会いに来た訳じゃ・・・!」
そんなオリビアに、ネロとプティに二人が嬉しそうに寄っていく。
同年代の彼女達は、すぐに顔を近づけ合うと子供特有の距離感で話し始めていた。
「えー?そんなこと言ってー、本当は会いたかったんだろー?このこのー」
「わ、私はオリビアに会えて・・・嬉しい、よ?」
「わ、私も本当は・・・えぇい!いつまで突く気ですの、貴方は!!」
プティから潤んだ瞳で見詰められ思わず絆されそうになったオリビアも、しつこく絡んでくるネロのウザさが癇に障れば怒鳴り声を上げてしまう。
そんな彼女の反応にも、二人は楽しそうに笑い声を上げていた。
「あー・・・うおっほん!えー、こちらにユーリ・ハリントンがいると聞いたのだが・・・間違いないかね?」
「は、はぁ・・・ユーリさんならそちらにいらっしゃいますが。その、どのようなご用件で?」
自らの娘であるオリビアとユーリの娘二人に話の腰を折られたヘイニーは、その気まずい空気を誤魔化すように咳ばらいをすると、改めてここにやって来た要件を口にする。
「あぁ、そちらの方が・・・何、彼を雇おうかと考えていてね」
「はぁ、なるほどユーリさんをお雇いに・・・えぇ!?ユーリさんを雇う!!?」
トリニアが示した先には、何やらオリビアとエクスに挟まれ困っているユーリの姿があった。
そんな彼の姿へと視線を向けながらヘイニーがふと呟いた言葉に、トリニアは思わず大声を上げてしまっていた。
「そ、それって・・・公爵様がユーリさんを雇うって事ですか!?」
「・・・今言った通りだが?」
この地の領主でもある公爵が、一冒険者に過ぎないユーリを雇う。
そのとてもではないが信じられない出来事に、トリニアは思わず当たり前の事をヘイニーに尋ねてしまう。
「それほど驚くことかね?彼らは娘の命の恩人だ、それに冒険者としても―――」
トリニアの大袈裟な反応に、ヘイニーはそうするだけの理由があるのだと説明しようとしている。
「駄目です!!!」
しかしそんな彼の言葉を遮るように、トリニアがカウンターを両手で叩いては立ち上がり、そう叫んでいた。
「な、何故君が断るのかね?私がユーリ氏を雇おうという話が、君に何の関係が・・・?」
「そ、それは・・・」
ユーリへと持ち掛けた話に何故トリニアが返事をするのだと。至極当然の疑問を口にするヘイニーに、彼女は思わず口籠ってしまう。
「ユ、ユーリさん達は私達ギルドの主力冒険者です!それをこんな急に引き抜かれるなんて、いくら領主様の要請だからって納得出来ません!!」
しかしトリニアはすぐに気を取り直すと、両手を握り締めては気合の籠った瞳でそう主張にする。
「そ、そうだそうだ!!ユーリさんは、自分達の仕事も手伝ってくれてるんですよ!」
「そうですよ!そんな人に急に抜けられたら・・・私達はどうしたらいいんですか!?」
「横暴だ、横暴ー!!」
トリニアの言葉に乗せられ、彼女の周りのギルド職員達も口々に騒ぎ始める。
その勢いに、ヘイニーも押され始めていた。
「き、君達の言っている事も分かるが・・・しかしだな―――」
「私のいない所でそのような話を進められては困りますな、ユークレール様」
職員達の勢いに押され、段々と取り繕っていた威厳が薄らいできたヘイニーは、戸惑いながらも何とか話しを進めようとする。
しかしそんな彼の前にまた一人、新たな人物が現れていた。
「フレッド、まさか君もなのか?」
「えぇ、その通りです。私もユーリ君の引き抜きには反対させていただきます」
それはこのギルドの責任者、ギルド長のフレッド・リンチであった。
「ユーリ君、彼はこのギルドでもエースと呼べる冒険者なのです。それにギルドの仕事を手伝って貰ってもいて、この間の焼失事件においてなど大変な活躍をしたほどです。確かに彼とギルドの間には悲しい事件もありました・・・しかしそれも今のこのギルドの姿のように綺麗に修復されているのです!そのような人材を急に引き抜こうなどと・・・いくらユークレール様の要望と言えど、即答しかねますな」
フレッドは如何にユーリがこのギルドに必要な人材なのかを言い並べ、ヘイニーの要望に対して難色を示している。
彼が口にした通り、かつてエクスが半壊させたギルドの建物は今や、すっかり元通りといった様相を呈していた。
「ギルド長の言う通りです!困っちゃいます!!」
「そうだそうだ!!」
責任者の登場とその援護に、俄然盛り上がるギルド職員達。
その中でも特に、トリニアが誰より目立つ大声でそれを後押ししていた。
「・・・別にどうでもいいでしょ。一人抜けたぐらいで、何も変わらないわよ」
そのボルテージはすっかり高まり、勢いに乗った職員達はさらに声を大きくしていく。
だから誰も気付かない、黒髪の受付嬢がぼそりと呟いたそんな一言には。
「うむむむ・・・こうも反対されてはな、諦めるしかないか。いや残念だ、ユーリ氏は事務仕事も大変得意だと聞いたので、その辺りの仕事を一手に任せようかと考えていたのだが・・・」
もはやギルド全体から反対されているような有様に、ヘイニーはユーリを雇うのを諦めようとしていた。
そして最後に彼は呟く、その雇用条件を。
「それ、本当ですか!!?」
その雇用条件を耳にしたユーリは、その目をキラキラと輝かせながら飛びついていた。
「あっ・・・」
そんなユーリの様子に、トリニア達ギルド職員は何かを察してしまっていた。
ユーリと共に仕事をしていた彼らは知っているのだ、彼が如何に事務仕事が好きでその仕事に就きたがっているかを。
そして冒険者としての彼らの力も欠かすことが出来なかったギルドが、それを遠回しに拒絶し続けた事実も。
「ほ、本当だが?確かに私は君に、この領地での事務仕事全般を任せようと考えている」
「この領地全般の事務仕事!!?それって当然、とんでもない量ですよね!?」
「まぁそうなるな。だから優秀な人材が欲しかったのだが、こうなっては・・・」
一つの領地を運営する上での事務仕事ともなれば、それはとんでもない量となってくる。
それをユーリ一人にやらせようと口にする、ヘイニーの考えはとんでもない。
しかしそれ以上に、それを聞いてキラキラと瞳を輝かせるユーリはとんでもなかった。
「やります!!是非、やらせてください!!!」
諦めを口にしようとするヘイニーの言葉を遮って、ユーリが叫ぶ。
その声はギルドの建物の外、それが面した大通りの向こうにまで響き渡ったという。
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