【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

オンタリオの最期

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「何なのだ・・・一体何なのだ、あいつらは!!?」

 オンタリオは手綱を激しく振りながら、そう悲鳴を上げる。
 彼らの馬車の背後には、狼ような、しかしそれよりも何倍も大きな魔物が追い駆けてきていた。

「あいつら、もしや積み荷を狙ってるのか?おい、積み荷を落とせ!!」
「積み荷を!?ど、どれだけですか!!?」
「全部だ!全部に決まっているだろうが!!馬鹿者!!」

 どれだけ必死に馬を走らせてもどんどんと縮まる距離に、このままでは不味いと考えたオンタリオは一計を案じる。
 それは積み荷である麦の詰まった樽を、囮として使うというものだった。

「これでどうだ・・・?」

 オンタリオの怒鳴り声に、慌ててそれに従う団員達。
 馬車から放り投げられる樽は、街道の踏み固められた地面にぶつかりその中身を溢れさせる。
 それに倣い、オンタリオが乗車していない別の馬車も、同じように樽を地面へと放り投げ始めていた。

「ははっ、所詮は獣よ!!まんまと掛かりおったわ!!」

 その狙いは功を奏し、彼らをつけ狙っていた魔物はそれへと飛びついていた。

「くっ、まだ追ってくるのもいるのか・・・」

 かなりの数が荷へと食いついたものの、僅かながら彼らの馬車をしつこく追い駆けてくる魔物の姿もあった。
 荷を捨て幾分か軽くなった馬車でも、その凄まじい速度には敵いそうもない。

「おい、もっと荷を捨てろ!このままでは、追いつかれてしまうぞ!!」
「で、ですが団長!!もう捨てる荷がありません!これ以上軽くしようとしたら、もう・・・」

 焦るオンタリオは、更に荷を捨てろと怒鳴り散らす。
 それにシーマスは、もう捨てる荷がないのだと叫んでいた。
 彼がそうして視線を向けた先には、この馬車に乗車している他の騎士達の姿があった。

「ふむ、その手があったか・・・おい、マルコム」
「は?何でしょうか、団長」

 シーマスの視線は、それを捨てることは出来ないと告げるものであった。
 しかしオンタリオはどうやら、その視線から発送得ていたようだ。
 捨てるべき荷はもうない、それでもなお馬車を軽くしたいならどうすればいいかという発想を。

「お前、この馬車から降りろ」
「・・・は?」

 それはその馬車にまだ残っている、人を捨てるという発想であった。

「ひっ!?そ、そんな!?うわぁぁぁ!!?」
「団長、止めてください団長!!?」

 真っ先に放り出されたマルコムに続いてシーマスも摘まみだされ、次いで他の団員達も蹴りだされていく。
 見れば他の馬車も彼に習い、ベテランの団員達が若手の団員達を馬車から放り出しているようだった。

「はははっ!!流石にここまですれば、もう追ってこれまい!荷も軽くし、同時に囮も用意する!このオンタリオの見事な知恵にひれ伏すがいい!!ははははははっ!!!」

 オンタリオは笑いながら、軽くなった馬車を軽快に飛ばす。
 その背後から、影を縫うような静かな足音が迫っていた。

「何、だと・・・何故、追いつかれる?いや、何故向こうを狙わんのだ!!?」

 その魔物は麦の交易路を狙って、そこを通る隊商を襲い続けていた。
 つまり彼らは憶えてしまったのだ。
 人の味を、そして彼らが操る馬の味を。

「ガアアァァ!!!」

 獲物を捕らえた確信に、魔物が雄叫びを上げる。

「わしは、わしは・・・黒葬騎士団団長オンタリオ・マクルフ様だぞ!!?それが、こんな所で・・・こんな所で死んでいい訳ないだろぉぉぉ!!!?」

 間近に迫った死の予感に、オンタリオは情けなく悲鳴を上げる。
 それは丁度、彼と共に逃げていた他の馬車達がその魔物に襲われるのと同じ時であった。



「・・・ははっ」

 オンタリオ達が巨大な狼の魔物、恐らくヒュドラガルムと呼ばれる魔物に襲われ殺されていく様を目にして、マルコムは乾いた笑みを漏らしていた。

「マルコム、君も無事だったんだね!」

 走行中の馬車から蹴り落されたため全身をボロボロにしたシーマスが、そんな彼に声を掛けてくる。

「あぁ・・・今はな」
「今・・・?っ!?」

 マルコムは馬車から放り出されても手放すことのなかった剣を抜き放つと、それをゆっくりと構える。
 それに不思議そうな表情を見せたシーマスもやがて気付くだろう、マルコムが鋭い表情を向けるその先からは、オンタリオ達を食い散らかしてもまだ満足していない魔物達が近づいていることを。

「動ける者は剣を取れ!!このままじゃ、一方的にやられるだけだぞ!!」

 マルコムは魔物から目線を外さずに、彼と同じように馬車から放り出された仲間達へと声を掛ける。
 しかし彼らの反応は鈍かった。

「―――て、くれ」
「は?何だ、何て言った?こんな時に、お喋りしてる余裕なんてないんだ!もっとはっきり・・・」
「殺してくれって、言ったんだ!!」

 彼らの反応が鈍かった理由、それは彼らがもう心が折れてしまっていたからだ。

「・・・は?何を言ってるんだ、お前達。冗談を言ってないで、早く剣を―――」
「冗談じゃない!俺達は本気だ!!」

 彼らは、殺してくれとマルコムに懇願する。
 しかしマルコムは、それを冗談だと思い真剣に受け取る事はなかった。

「マルコム、俺達はもう動けない。ここであんな魔物に食い殺されるぐらいなら・・・お前の手で楽にしてくれないか?」

 マルコムの周囲の騎士達は、それぞれに足や腕などの身体の一部を見せてくる。
 そこには走行中の馬車から落とされたために負った、深い傷が刻まれていた。

「お前達・・・本気なのか?」
「あぁ・・・本気だ。誰だって、あんな死に方したくないだろ?それにここで俺達が死ねば、お前達が逃げるための時間稼ぎぐらいにはなるだろ?だから・・・」

 もはや逃げる事も戦うことも出来ない彼らは、せめて魔物に食い殺されるという惨めな死に方だけはしたくないとマルコムに縋りつく。

「お前達・・・俺は、俺は・・・こんな事をするために騎士になったんじゃ」

 縋りついてくる彼らに、剣を振り上げたマルコムはしかし、それを否定するように首を振っている。
 マルコムは助けを求めるようにシーマスへと視線を向けるが、彼はそれから視線を背けていた。

「マルコム、時間がない!!早くしてくれ」

 そんな間にも、魔物は彼らの背後に迫っていた。
 ヒュドラガルムはその名前の由来ともなった複数の首を擡げ、彼らへと迫る。
 その数は一つ、二つ、三つ、もっと多く。
 それらは、もうすぐそこにまで迫っていた。

「あぁ・・・ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 決意も決まらないまま、マルコムは剣を振るう。

「マルコム、止めるんだ!」

 シーマスの悲痛な声が飛ぶ。
 しかしそれは、もう遅い。

「―――総員、放て」

 振るった刃に首が一つ、落ちる。
 それと同じ時、どこかから声が響き、数得きれないほどの矢が雨のように魔物へと降り注いでいた。

「な、にが・・・?」

 それにマルコムは力なく膝をつく。
 その手にした刃を、血に染めて。

「・・・酷い有様だな。これがかの黒葬騎士団の末路か」

 そこに現れたのはフードを被り、その顔を隠している男。
 そして彼が率いている軍勢であった。

「喜べ、お前達。お前達はある計画に加わる栄誉を賜ったのだ、私の『ユーリ・ハリントン抹殺計画』に加わる栄誉をな」

 フードで顔を隠した男は、その全身を覆うような衣服をはためかせるように払うと、そう宣言する。

「助かったのか・・・?ははっ、はははははっ・・・・はははははははははっ!!!」

 周囲には、無数の矢に射貫かれ地に伏せたヒュドラガルムの姿が。
 そこには、それとは関係のない死体が一つ転がっていた。
 その真ん中で、マルコムは乾いた笑みを漏らす。
 それはやがて、ひび割れたような笑い声へと変わっていた。
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