【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

お手柄

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「『元騎士ユーリ・ハリントンお手柄!大活躍の謎の金髪美少女に迫る!!』か・・・」

 最果ての街キッパゲルラ、その中心である広場「青の広場」、そこにはこの街のシンボルである時計塔が堂々と鎮座していた。
 この街の周辺で採れる緑雲石で敷き詰められた広場は、今日も多くの人だかりで賑わっている。
 その人だかりのお目当ては、その広場の一角に設けられている掲示板に張り出される壁新聞だろう。
 そこには、つい先日起きたばかりの事件についての記事が載っていた。

「『先日、白昼堂々起きた誘拐事件!その標的になったのはこのキッパゲルラ領主の御令嬢、オリビア様。彼女の白い柔肌に悪漢の魔の手が迫ろうとする時、颯爽と現れた金髪の美少女!!それは何と、最近大活躍の若手冒険者ユーリ・ハリントンのパーティに新たに加わった謎の美少女だった!?今回我々は、その気になる関係性について・・・』か。ふっ、まんまとしてやられた訳だ・・・」

 その最前列へと陣取り、記事を見上げているフードの男は苦々しい表情でそう吐き捨てる。
 彼はその身につけているものをフードによって覆い隠してはいたが、その端々から垣間見える装飾品や服装に、相当に高い身分の人間であることが窺えた。

「ユーリ・ハリントン、か・・・この傷の借りは、いずれ返させてもらう」

 その男は新聞にデカデカと描かれているユーリの名前を見上げると、右手を押さえてそう呟く。
 そして彼は全身を覆うようなフードを翻し踵を返しては、その場から立ち去ろうとしている。
 その芝居がかった仕草に、周りに集まった他の観衆達は迷惑そうな表情を見せていた。

「あ、すみません!」
「ふんっ、気をつけろ!全く、これだからこうした場所には来たくなかったのだ」

 周りに一切気を遣わず、堂々とした様子で人混みの中を歩くその男に、正面から歩いてきていた別の男がぶつかりそうになってしまう。
 その男は慌てて横へと避け、彼に謝罪の言葉も告げていたが、男はそれに鼻を鳴らすばかりで逆に文句を吐き捨てては立ち去っていく。

「べーだ!!何だよ、あいつー!!」
「むー!!おとーさんは謝ってるのに・・・許せない!」
「はははっ、急いでたんだって。ほら、二人ともエクスの記事が載ってるぞ」

 その男に対して、ぷんぷんと怒りぶつかりそうになった男を引っ張る二人の少女。
 その二人の頭を撫でながら、男は笑う。
 彼らは何を隠そう、自らの活躍の記事を見にやってきたユーリ一行であった。

「えー、どこどこー?見えない見えないー!おとーさん、抱っこー!」
「あー!!ネロ、ずるいー!おとーさん!プティもプティも!!」
「はいはい、順番な。よっこらせっと」

 多くの人から見えるようにするためか、掲示板に張り出されている壁新聞の位置は高い。
 それが見えないと唇を尖らせるネロは、両手を上げて抱っこをアピールしていた。

「うー・・・読めない!読んで、おとーさん!」
「えー?あー、そっかぁ・・・読めないかぁ。確かに戦闘系のスキルばっかりだったからなぁ、その手のスキルも後で『書き足し』といた方がいいかもな」

 ユーリに抱っこされ、ウキウキな様子で壁新聞へと顔を近づけたネロはしかし、そこに書かれている文字が読めないと両手を暴れさせていた。
 考えれば彼女達に「書き足し」ていたスキルは、どれも戦闘に関わるものばかりであった。
 そう考えれば、こうした事で不便を被ってしまう事もあるかと、ユーリは反省を口にする。

「わ、私は自分で憶えるから!」
「だったら、ボクもボクも!!」
「うー・・・真似しないでよ!!」
「えー?真似じゃないもーん」

 文字を読むためのスキルを二人に書き足そうとするユーリに、プティは自分で憶えるからと手を上げてアピールしている。
 それに自分も便乗しようとするネロに、プティは唸り声を上げては噛みついていた。

「暴れるな暴れるな。まー、それについてはまた後でな。それより、どれどれ・・・『当然の事をしたまでです、そうエクス嬢は答えた』か、そうだよなあいつはいつも正しい事をしようとしてただけなんだよな。いつも少しやり過ぎるだけで・・・」

 腕の中に抱えられているネロとじゃれ合うように暴れているプティに、ユーリも巻き込まれてペチペチと叩かれている。
 それらをいなしながら壁新聞へと顔を近づけた彼は、そこに書かれていたエクスのインタビュー記事を読み上げていた。

「そ、そうだよ!エクスはいい子だよ!」
「まーね、何せボク達の妹だからね!」

 その記事には、エクスがどうしていつも騒動を巻き起こしてしまうのか、その理由について書かれていた。
 人を助ける事を当然の事だと語るエクスは、それ故に暴走してしまうのだと。
 そんな彼女の事を、ネロとプティの二人もいい子だと擁護する。

「あぁ、そうだよな・・・あの子は二人の妹で、俺のもう一人の娘でもあるんだ」

 いつも騒動を巻き起こしてしまう彼女も、その強すぎる力に振り回されているだけなのだと知れば受け入れることも出来る。
 自分達の妹の事を必死に擁護している二人の頭を優しく撫でたユーリは、その事実を受け入れていた。
 彼女、エクスもまた自分の娘なのだという事実を。

「その、悪かったなエクス。今まで除け者みたいな扱いして、今度からは家族として一緒に・・・あれ、エクス?」

 その事実を噛みしめながら振り返ったユーリは、エクスに対して頭を下げる。
 今まで扱いを謝罪し、これからは家族として一緒に頑張っていこうと告げようとしたユーリ。
 しかしそこに、彼女の姿はなかった。

「えっ?さっきまではそこにいたよな?」
「おとーさんおとーさん、あれ!」

 先ほどまで、彼らのすぐ後ろについて来ていた筈のエクス。
 その姿がどこにもないことに戸惑うユーリの服を、プティがクイクイと引っ張っている。
 彼女は、ある方向を指差していた。

「えっ?ど、どこ―――」

 その方向へと、ユーリが顔を向ける。
 そこには、この「青の広場」のシンボルである時計塔の姿があった。
 突如、爆音が響く。

「あーーーー!!?この街のシンボルの時計塔がーーー!!?」

 そしてそこにはもう、時計塔の姿はなくなっていた。

「マスター!!!」

 何かが物凄い勢いで衝突したためぽっきりと折れてしまった時計塔からは、モクモクと煙が立ち込めている。
 その煙の中、折れた時計塔の天辺から誰かが呼びかけてくる。
 それはそんな煙の中ですらキラキラと輝く金色の髪の美少女で、それ以上に眩しい満面の笑顔で恐らく犯罪者であろう男を自慢げに掲げて見せてくる人物であった。

「あーーーーもーーーー!!!またやりやがった、あいつぅぅぅぅ!!!?」

 その恐らく尻尾があればブンブンと振っているであろう金髪の美少女、エクスは先ほどユーリが自分の娘だと受け入れたばかりの存在だった。
 そんな存在が早速起こした騒動に、ユーリは頭を抱えて悲鳴を上げる。
 その横ではネロが楽しそうに腹を抱えて笑い、プティがどうしたらいいのかとオロオロと戸惑っていた。
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