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第一章 最果ての街キッパゲルラ

再会

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「いいか?今回の依頼は大事なんだからな!分かってるな!!」

 最果ての街キッパゲルラ、その城門から離れてしばらく、ユーリ達は小高い丘へと続く道を歩いていた。
 彼らの服装は街で普段過ごすものとは違い、冒険用の装備を身に纏っている。

「「はーい」」

 丘へと続く道の途中、立ち止まったユーリが口にした言葉に、ネロとプティの二人は元気よく答えている。

「何故でしょうか、マスター?仕事は全て大切であり誠心誠意をもって当たるべきもので、優劣をつけるべきものではないと思いますが?」

 しかしそんなユーリの言葉に対して、エクスだけが真顔で正論を返してくる。

「お前のせいだよ!!!お前がこの前やらかしたから、こんな事になってるんでしょーが!!!」

 そんなエクスのもっともな意見に、ユーリの悲痛な叫び声が響く。

「この前のやらかし・・・?何の事でしょうか?」
「えっ?そこから?そこから説明する必要があるの?」

 しかしエクスには、そんな悲痛な叫びすら届いてはいないようだった。

「と、とにかくだ!今回の依頼は名誉挽回のためにギルドから任されたもので、依頼先もギルドのお得意様の大きな商会だって話だ!だから絶対に失敗は許されない、分かったな!」

 エクスの疑問に答える事を放棄したユーリは、今回の依頼の要点についてだけを掻い摘んで話す。

「はい、分かりましたマスター。ですが―――」
「分かったな、エクス?今回だけは絶対に!大人しくしてるんだぞ?」

 それにもどこか不満がありそうだったエクスに、ユーリはもはや抵抗は許さないとさらに言葉を重ねている。

「お任せください、マスター。聖剣エクスカリバーの名に懸けて、問題は起こさないと誓います」 

 覆い被さるようにして強くプレッシャーを掛けてくるユーリに、エクスは決然とした表情を見せると、決して問題を起こさないと胸に手を当て力強く誓う。

「何だ、ちゃんと言えば分かってくれるじゃないか。ここまで言うんだから、きっと安心だな」

 それは元騎士であるユーリとは比較にならないほど騎士らしい態度であり、そんな彼女の姿にユーリも少しは安心していいのかと感じていた。



「これで、終わりです!!」

 その掛け声と共に吹き飛んだのは、黄色いドラゴンの頭と近くに建っていた建物のほとんどだ。

「あああああぁぁぁぁぁぁ!!!?またやりやがった、あいつぅぅぅぅ!!!?」

 爆発のような衝撃に立ち込める土煙はまだ、その全容を覆い隠している。
 しかしそれを目にするまでもなく、ユーリはこの仕事の失敗を確信し、頭を抱えては悲鳴を上げていた。

「どーすんだよこれ!?一体どーしてくれんだよぉぉぉ!!?」

 小高い丘の上に建つ今回の依頼主である商会の建物、当然そこにはその従業員も多数詰めており、騒動を聞きつけてはぞろぞろと現れ始めている。
 幸い倒壊した建物は現在使っていなかったのか怪我人が出た様子はなかったが、その騒ぎの様子にもはや言い逃れも難しそうであった。

「はっ!こうなったらもう今の内に逃げちゃうか!あいつなら一人でもどうにかなるだろ!!よし!ネロ、プティ!二人とも逃げ―――」
「「おとーさーん!見て見てー!!」」

 もはやどうしようもない状況に、ユーリは全ての責任をエクスにおっ被せて逃げてしまおうと考えている。
 そんなユーリが呼び掛けるよりも早く、ネロとプティの二人の方が彼へと声を掛けてくる。
 その手に今回の依頼の討伐対象である、イエローグラスドラゴンの頭を持って。

「うおわぁ!?ば、馬鹿!そんなもの持ってたら目立って逃げられないだろ!ほら、ポイしなさいポイ!!」

 イエローグラスドラゴンの頭を持ってニコニコと駆け寄ってくる二人に、ユーリは驚き思わず飛び退っている。

「えー?でもこれ、凄くない?ボク達が皆してやっと倒したのが、一撃だよ一撃!」
「はいはい、凄いのは分かったからポイしましょうねー。うわっ、案外重いなこれ」 

 今回、エクスが倒したその魔物は以前、ユーリ達が三人がかりでやっと倒すことに成功した魔物だ。
 それをたった一人で倒してしまったエクスの力を、まるで自分の事のように嬉しそうに自慢しているネロから、ユーリはその魔物の頭を奪い取っていた。

「よし!今の内にずらかるぞ!あの建物を壊したのが俺達だなんて知られたら、依頼主からなんて言われるか―――」

 奪い取った魔物の頭を放り捨てたユーリに、二人は残念そうに声を上げる。
 それを無視したユーリは二人の肩を抱えると、そのままこの場から逃げ出そうとしていた。

「おや、どこに行こうというのですか?」
「うぇ!?え、えーっと・・・貴方様は、そのーどちら様でしょうか?」

 しかしそれは、時すでに遅し。
 ユーリ達の背後には、如何にも偉そうなオーラを纏った恰幅のいい男性が現れていた。

「あ、旦那!これ、どうしやしょう?」
「あぁ、それは後で決めるから」
「了解っす!」

 そして彼がもしかしたらそうではないのではないかという希望も儚く破れ、目の前に現れた恰幅のいい男性は間違いなくこの商会の主で、ユーリ達の依頼主であるようだった。

「あ、やっぱりそうですよねー。あはははっ・・・その、すみませんでした!!建物を壊してしまい!!弁償の方は何とかしますので、どうかギルドの方には!!」
「「すみませんでしたー」」

 もはや言い逃れ出来ない状況に頭を掻いては乾いた笑いを漏らしたユーリ、彼は次の瞬間には目の前の男性に頭を下げ許しを請う。
 そんなユーリの姿に倣ってネロは棒読みに、プティは真摯に頭を下げて謝罪の言葉を告げていた。

「弁償?・・・はっはっはっは!そんなもの必要ありませんよ!あれは元々取り壊す予定の建物でしたから、寧ろ手間が省けて感謝したいくらいなのですよ」
「へ?ほ、本当ですか!?」

 頭を下げるユーリ達は目の前の恰幅のいい男性は豪快に笑い声を上げると、そんなもの必要ないと優しく笑い掛けてくる。

「えぇ、それよりも久しぶりですねユーリさん。こうして会うのは何か月ぶりか・・・」
「えっ!?えっと、その・・・」

 ユーリ達のやらかしをあっさりと許してくれたこの商会の主、彼はユーリに久しぶりだと声を掛けてくる。
 しかしユーリには、それに心当たりがなかった。

「はははっ!そうですよね、あの時一度会ったきりですから・・・申し訳ない。改めまして、このコームズ商会の主、マービン・コームズです」

 ユーリの気まずそうな反応に笑い声を上げた商会の主は、その高そうな帽子を取ると深々と頭を下げる。
 そうして顔を上げた彼は、ユーリがこの街へとやって来た時に会った人の良い商人、マービン・コームズその人であった。
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