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第一章 最果ての街キッパゲルラ
自重しない男
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「皇龍、確か最上位のドラゴン・・・いや、別の種族なんだっけ?まぁいい、とにかく戦ってどうにかなる相手じゃないから・・・そうだな、どこか別の場所に誘導するか。確か、クイーンズガーデンの近くのあの場所なら滅多に人も来なかったはずだよな?」
背中に突き刺さるドン引きした視線もどこ吹く風と、ユーリは一人ぶつぶつと何事か呟いている。
「よし、いけそうだな!後は・・・すみません!」
「お、おぉ!どうした、やっぱり冗談だったか?」
何やら一人でぶつぶつと呟き急に振り返ったユーリに、ギルド職員はやっぱり冗談だったかと安堵した表情を見せる。
「えっ?いえ、そうじゃなくて・・・何か良い紙とかありませんか?それをやるのに必要なんです。良い素材を使った紙とかでもいいんですけど・・・」
しかし無慈悲にも、ユーリはそんな彼の言葉に真顔で返すだけだ。
「あ、そう・・・うーん、紙ねぇ。あの件の後で、普通の奴でも仕入れるのが大変でなぁ・・・あっ、そうだ!大量に買ったからオマケにってもらった奴があったな。何でも飛竜の皮を使ったレアもんだとか・・・ほら、これだよ」
「飛竜の皮ですか!いいですね、今回の事にぴったりだ」
期待した返答をもらえず肩透かしを食らったギルド職員は、ユーリの求めに近くの棚を漁り始める。
そうして彼が差し出してきたのは、飛竜の皮を加工して出来た紙であった。
「さて、これならどうだ?あぁ、いけそうだな・・・それじゃあ、始めよう『自動筆記』」
受け取った紙の具合を確かめたユーリは頷くと、自らの能力「自動筆記」を発動させる。
「あの場所の名は確か『コウガの谷』だったか?それを書きだして・・・これでいいか」
ユーリの能力「自動筆記」によって、クイーンズガーデン近郊に存在する「コウガの谷」の情報が詳細に書き込まれていく。
「後はそうだな・・・ここに何か適当な称号を『書き足し』て、皇龍を誘導しよう。『皇龍の住処』何かどうだ?取り合えずそっちに集まってくれそうだよな。それじゃそれを『書き足し』てっと」
「自動筆記」によって書き出された内容に、ユーリはもう一つの能力「書き足し」によって称号を付与していた。
その称号は「皇龍の住処」。
その名の通り、その場所は皇龍がたむろする場所へと変貌するだろう。
「よし。出来ましたよ、二人とも!ほら!」
自分の能力で作り出したそれを満足そうに見下ろしたユーリは、それを掲げて背後の二人に見せつけている。
「えっ!?こ、これでですか・・・?」
「はい!」
ユーリが広げて見せているのは、この国のある場所について詳細に記しただけの紙でしかない。
それをまじまじと目にしては不審げに疑問を漏らすトリニアに、ユーリは満面の笑みを見せるばかりであった。
「おい、どうすんだよこれ。仕事やらせ過ぎて、おかしくなったんじゃないか?」
「そ、そんな事ないですって!きっと私達に合わせて、冗談を・・・って、あれ?そういえば、前にも似たような事があったような・・・?」
そんなユーリの様子にギルド職員はトリニアの肩を抱えて隅へと寄ると、潜めた声で心配そうに彼の事を話し始める。
そんなギルド職員にトリニアは何とかユーリの事をフォローしようとするが、その途中で彼女は何かに気が付いたかのように動きを止めていた。
「ん、どうしたんだトリニア?」
「い、いえ実は前に―――」
「すみませーん、誰かいませんかー?」
「あっ、はーい!今行きまーす!」
何かに気付いたトリニアに、ギルド職員が声を掛ける。
その声にトリニアが気付いたことを話そうとしていると、受付の辺りから声が掛かり彼女は慌ててそちらへと向かう。
「すみません、お待たせして!それで、何の御用でしょう?ご依頼ですか?」
「あぁいや、そうではなくてですね・・・私商人なんですが、ここで相場が聞けると窺って。麦の相場をお尋ねしたいのですが」
「えっ?む、麦の相場ですか?そういうのはちょっと・・・ここは冒険者ギルドなので」
受付へと戻ったトリニアは、待っている客に頭を下げると要件を窺う。
するとその客は自らが商人だと名乗ると、麦の相場という場違いな事を尋ねてきていた。
「えっ、そうなんですか?おかしいな・・・万霊草相場で大儲けしたギルドってここですよね?そういう場所なら、それも聞けると思ったんですが・・・」
「うっ!?そ、それはですね。その、事情があって・・・」
その商人が麦の相場という場違いな事を聞いてきたのは、彼がこのギルドが万霊草で大儲けしたという噂を耳にしたからであった。
それを口にする商人に、トリニアは痛い所を突かれたと思わず口籠ってしまう。
「あ、それなら出来ますよ」
「えぇ!?ほ、本当ですか、ユーリさん!?」
そんなトリニアの背後からユーリは顔を出すと、あっさりとそう告げる。
「はい。えっと、この街の周辺の麦相場でいいんですよね?」
「えぇ」
「だったら・・・はい、こんなものでどうでしょう?」
先ほどまで仕事をしていた机から一枚まっさらな紙を持ってきたユーリは、そこにサラサラと周辺地域の麦相場を書き出していく。
「えぇ・・・一体どこから、そんな情報を」
「駄目だ、深く突っ込むな。頭がおかしくなるぞ」
そしてそれをあっさりと書き上げ商人へと手渡すユーリの姿に、トリニアとギルド職員はもはや考えることを放棄してしまっていた。
「どれどれ・・・おぉ!?こ、これは!?」
ユーリから受け取った相場表へと目を向けた商人は、突然奇声を上げるとそれに食い入るように見詰め始める。
「ど、どうされましたか!?や、やはり何か不備が!?」
その商人の反応に、慌ててトリニアが彼へと窺いの声を掛ける。
しかしその声は、どこか期待の色が滲んでいた。
「不備?はっはっは、いやいやまさか!」
「へ?」
その期待を裏切るように、商人の愉快げな笑い声が響く。
「凄いですよ、この相場表は!この街の周囲だけの相場かと思えば、クイーンズガーデンやバーバリー辺りの相場まで網羅されている。もはやこの国の相場表といっても過言ではありませんな!いやまさか、これほどの情報をお持ちとは・・・これならば万霊草で大儲けしたのも頷けますな!」
「あー、そういう・・・あはは、そ、そーなんですよー。その、うち独自の情報網というのがありましてー」
ユーリが作成した相場表に太鼓判を押す商人、そんな彼にトリニアは乾いた笑みを漏らす。
「おぉ、やはりそうでしたか!いやはや羨ましい限りで・・・むむむっ!?こ、これは!!」
「あ!やっぱり何かおかしい所がありましたか!?」
再び奇声を上げる商人、もはやユーリが怖くなってきたトリニアは安堵を求めてそれに失敗を期待する。
「クイーンズガーデン周辺で相場が高騰している!?ラダトム・・・聞いた事のない街だが、ここで一体何が?不作などという情報は・・・いや、今はそれどころではない!!こんなチャンスを逃しては商人の名折れ!!今すぐ、向かわねば!!それでは私はこれで!また寄らせてもらいますので!!」
しかしそれは再び裏切られ、商売のチャンスを見出した商人は大慌てでギルドを去っていく。
「はーい、またどうぞー」
そんな彼に、トリニアはもはや無心でヒラヒラと手を振りながら見送っていた。
「お、おい!?またって、もう一度来られてもこんな情報用意出来ないんだぞ!?」
「えー・・・?もう、ユーリさん雇っちゃえばいいじゃないですかー」
求めた以上の情報が手に入ったことで、商人はまたの来訪を約束して去っていく。
それにギルド職員はそんな情報用意出来ないとトリニアの身体を揺するが、彼女はもはや全てを諦めたかのような表情でユーリを雇えばいいと口にしていた。
「はぁ?そんなの無理に決まって―――」
「いや、私もそれに賛成だな」
元騎士で冒険者のユーリをギルド職員に、しかも事務仕事担当に雇おうというトリニアの意見に、ギルド職員はすぐさま有り得ないと返そうとしている。
しかしそれを遮るように、重々しい声がギルドの奥から響いていた。
背中に突き刺さるドン引きした視線もどこ吹く風と、ユーリは一人ぶつぶつと何事か呟いている。
「よし、いけそうだな!後は・・・すみません!」
「お、おぉ!どうした、やっぱり冗談だったか?」
何やら一人でぶつぶつと呟き急に振り返ったユーリに、ギルド職員はやっぱり冗談だったかと安堵した表情を見せる。
「えっ?いえ、そうじゃなくて・・・何か良い紙とかありませんか?それをやるのに必要なんです。良い素材を使った紙とかでもいいんですけど・・・」
しかし無慈悲にも、ユーリはそんな彼の言葉に真顔で返すだけだ。
「あ、そう・・・うーん、紙ねぇ。あの件の後で、普通の奴でも仕入れるのが大変でなぁ・・・あっ、そうだ!大量に買ったからオマケにってもらった奴があったな。何でも飛竜の皮を使ったレアもんだとか・・・ほら、これだよ」
「飛竜の皮ですか!いいですね、今回の事にぴったりだ」
期待した返答をもらえず肩透かしを食らったギルド職員は、ユーリの求めに近くの棚を漁り始める。
そうして彼が差し出してきたのは、飛竜の皮を加工して出来た紙であった。
「さて、これならどうだ?あぁ、いけそうだな・・・それじゃあ、始めよう『自動筆記』」
受け取った紙の具合を確かめたユーリは頷くと、自らの能力「自動筆記」を発動させる。
「あの場所の名は確か『コウガの谷』だったか?それを書きだして・・・これでいいか」
ユーリの能力「自動筆記」によって、クイーンズガーデン近郊に存在する「コウガの谷」の情報が詳細に書き込まれていく。
「後はそうだな・・・ここに何か適当な称号を『書き足し』て、皇龍を誘導しよう。『皇龍の住処』何かどうだ?取り合えずそっちに集まってくれそうだよな。それじゃそれを『書き足し』てっと」
「自動筆記」によって書き出された内容に、ユーリはもう一つの能力「書き足し」によって称号を付与していた。
その称号は「皇龍の住処」。
その名の通り、その場所は皇龍がたむろする場所へと変貌するだろう。
「よし。出来ましたよ、二人とも!ほら!」
自分の能力で作り出したそれを満足そうに見下ろしたユーリは、それを掲げて背後の二人に見せつけている。
「えっ!?こ、これでですか・・・?」
「はい!」
ユーリが広げて見せているのは、この国のある場所について詳細に記しただけの紙でしかない。
それをまじまじと目にしては不審げに疑問を漏らすトリニアに、ユーリは満面の笑みを見せるばかりであった。
「おい、どうすんだよこれ。仕事やらせ過ぎて、おかしくなったんじゃないか?」
「そ、そんな事ないですって!きっと私達に合わせて、冗談を・・・って、あれ?そういえば、前にも似たような事があったような・・・?」
そんなユーリの様子にギルド職員はトリニアの肩を抱えて隅へと寄ると、潜めた声で心配そうに彼の事を話し始める。
そんなギルド職員にトリニアは何とかユーリの事をフォローしようとするが、その途中で彼女は何かに気が付いたかのように動きを止めていた。
「ん、どうしたんだトリニア?」
「い、いえ実は前に―――」
「すみませーん、誰かいませんかー?」
「あっ、はーい!今行きまーす!」
何かに気付いたトリニアに、ギルド職員が声を掛ける。
その声にトリニアが気付いたことを話そうとしていると、受付の辺りから声が掛かり彼女は慌ててそちらへと向かう。
「すみません、お待たせして!それで、何の御用でしょう?ご依頼ですか?」
「あぁいや、そうではなくてですね・・・私商人なんですが、ここで相場が聞けると窺って。麦の相場をお尋ねしたいのですが」
「えっ?む、麦の相場ですか?そういうのはちょっと・・・ここは冒険者ギルドなので」
受付へと戻ったトリニアは、待っている客に頭を下げると要件を窺う。
するとその客は自らが商人だと名乗ると、麦の相場という場違いな事を尋ねてきていた。
「えっ、そうなんですか?おかしいな・・・万霊草相場で大儲けしたギルドってここですよね?そういう場所なら、それも聞けると思ったんですが・・・」
「うっ!?そ、それはですね。その、事情があって・・・」
その商人が麦の相場という場違いな事を聞いてきたのは、彼がこのギルドが万霊草で大儲けしたという噂を耳にしたからであった。
それを口にする商人に、トリニアは痛い所を突かれたと思わず口籠ってしまう。
「あ、それなら出来ますよ」
「えぇ!?ほ、本当ですか、ユーリさん!?」
そんなトリニアの背後からユーリは顔を出すと、あっさりとそう告げる。
「はい。えっと、この街の周辺の麦相場でいいんですよね?」
「えぇ」
「だったら・・・はい、こんなものでどうでしょう?」
先ほどまで仕事をしていた机から一枚まっさらな紙を持ってきたユーリは、そこにサラサラと周辺地域の麦相場を書き出していく。
「えぇ・・・一体どこから、そんな情報を」
「駄目だ、深く突っ込むな。頭がおかしくなるぞ」
そしてそれをあっさりと書き上げ商人へと手渡すユーリの姿に、トリニアとギルド職員はもはや考えることを放棄してしまっていた。
「どれどれ・・・おぉ!?こ、これは!?」
ユーリから受け取った相場表へと目を向けた商人は、突然奇声を上げるとそれに食い入るように見詰め始める。
「ど、どうされましたか!?や、やはり何か不備が!?」
その商人の反応に、慌ててトリニアが彼へと窺いの声を掛ける。
しかしその声は、どこか期待の色が滲んでいた。
「不備?はっはっは、いやいやまさか!」
「へ?」
その期待を裏切るように、商人の愉快げな笑い声が響く。
「凄いですよ、この相場表は!この街の周囲だけの相場かと思えば、クイーンズガーデンやバーバリー辺りの相場まで網羅されている。もはやこの国の相場表といっても過言ではありませんな!いやまさか、これほどの情報をお持ちとは・・・これならば万霊草で大儲けしたのも頷けますな!」
「あー、そういう・・・あはは、そ、そーなんですよー。その、うち独自の情報網というのがありましてー」
ユーリが作成した相場表に太鼓判を押す商人、そんな彼にトリニアは乾いた笑みを漏らす。
「おぉ、やはりそうでしたか!いやはや羨ましい限りで・・・むむむっ!?こ、これは!!」
「あ!やっぱり何かおかしい所がありましたか!?」
再び奇声を上げる商人、もはやユーリが怖くなってきたトリニアは安堵を求めてそれに失敗を期待する。
「クイーンズガーデン周辺で相場が高騰している!?ラダトム・・・聞いた事のない街だが、ここで一体何が?不作などという情報は・・・いや、今はそれどころではない!!こんなチャンスを逃しては商人の名折れ!!今すぐ、向かわねば!!それでは私はこれで!また寄らせてもらいますので!!」
しかしそれは再び裏切られ、商売のチャンスを見出した商人は大慌てでギルドを去っていく。
「はーい、またどうぞー」
そんな彼に、トリニアはもはや無心でヒラヒラと手を振りながら見送っていた。
「お、おい!?またって、もう一度来られてもこんな情報用意出来ないんだぞ!?」
「えー・・・?もう、ユーリさん雇っちゃえばいいじゃないですかー」
求めた以上の情報が手に入ったことで、商人はまたの来訪を約束して去っていく。
それにギルド職員はそんな情報用意出来ないとトリニアの身体を揺するが、彼女はもはや全てを諦めたかのような表情でユーリを雇えばいいと口にしていた。
「はぁ?そんなの無理に決まって―――」
「いや、私もそれに賛成だな」
元騎士で冒険者のユーリをギルド職員に、しかも事務仕事担当に雇おうというトリニアの意見に、ギルド職員はすぐさま有り得ないと返そうとしている。
しかしそれを遮るように、重々しい声がギルドの奥から響いていた。
応援ありがとうございます!
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