【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

黒葬騎士団の凋落

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「何だ?こいつら何でこんなに強っ・・・た、助けてくれ!!助けてくれ、マルコムー!!」

 王都クイーンズガーデン郊外、オールドキープの周囲に広がる森、パラスケスの森。
 そこに、助けを求める悲痛な叫び声が響く。

「はははっ!!そんな雑魚相手に何やってるんですか、先輩!!さっきは後ろを気をつけろとか言ってませんでしたっけ!?」

 助けを求めているのは、先ほどマルコム達に絡んでいた騎士達だ。
 それに思わず、マルコムは笑い声を上げる。
 何故なら彼らが一方的にやり込められ、助けを求めている相手が雑魚魔物の代表格であるゴブリンであったからだ。

「マルコム!」
「シーマス、そんなに言わなくても分かってるさ。しかしあの程度の数のゴブリンにやられるなんて、いくら何でも弱すぎだろう。これじゃ、相手にするのも馬鹿らしくなってくるな」

 確かに幾らゴブリンといえど、ずる賢く手先も器用な彼らに群れをなして襲われれば、苦戦するのも無理はないだろう。
 しかし彼らが襲われているのは、自分達と同数程度のゴブリンでしかない。
 そんな相手に苦戦する彼らに、マルコムは相手をするのも馬鹿らしいと笑う。

「は、早く助けてくれー!!」
「はいはい、分かりましたよ。先輩方ー、ちゃんと避けてくださいね?」

 必死にこちらへと逃げる騎士達から、悲痛な声が響く。
 その声にだるそうに応えたマルコムは、ゆっくりと左手を掲げる。
 それは、いつか見た構えと同じものだった。

「薙ぎ払え、『アイスランス』」

 マルコムは余裕たっぷりに、それを唱える。
 氷の上位魔法「アイスランス」ならば、その程度の魔物など一撃なのだからそれは当然だ。

「ん?何だ・・・どうして何も起こらない?『アイスランス』」

 しかし彼がそれを唱えても、何も起こらない。
 マルコムはもう一度、それを唱える。

「っ!?どうしてだ!?どうして何も起こらない!?『アイスランス』!!『アイスランス』!!」

 だが、やはり何も起こらない。
 マルコムは何度もそれを唱えるが、結果は同じだ。

「マルコム、前!!」
「シーマス、邪魔を・・・えっ?」

 壊れたように同じ呪文を唱え続けているマルコムに、シーマスの鋭い声が飛ぶ。
 それに邪魔をするなと切り捨てたマルコムは、その目の前に飛び掛かってくるゴブリンの姿を見ていた。



「ふふふ・・・しめしめ、騎士団の予算を決める書類が焼失したという事は、私の横領の証拠も消えたということ」

 誰もいなくなった執務室で、オンタリオは気味の悪い笑い声を漏らしながら一人呟いている。

「ふははははっ、という事はだ!また新しく金を盗んでも問題ないという事だ!!なんと都合のいい事をしてくれたものか!何か褒美でもくれてやりたいところだな!」

 騎士団の大事な書類が焼失した事を怒り散らしていたオンタリオが実は、誰よりそれを喜んでいた。
 それを示すように彼は上機嫌に笑い声を響かせ、唇を歪めては笑い転げている。

「おっと、そんな事よりも・・・今の内に書類を作っておかなければな。ふふふっ、予算の所をこう、ちょんちょんっとな。これでこの差分が私の懐に・・・ふふふっ、これでまた娼館巡りが捗るというものだ!最近、お気に入りの蜂蜜館に新人が入ったと聞いたばかりだしな・・・こいつで、ぐふ、ぐふふふ・・・」

 オンタリオがマルコム達をここから遠ざけたのは、それが目的であった。
 彼はどこかから持ち出してきた書類を手に取ると、そこに手を加えていく。
 彼はそれによって手に入る資金と、その使い道を思い浮かべては下種な笑い声を響かせていた。

「オンタリオ団長、オンタリオ団長!どこにおられるのですか、大変です!!」
「ほほぉぉぅ!!?な、何だ!?どうした、何があったというのだ!?えぇい、この忙しい時に!」

 オンタリオが書類に手を加えようとしていると、部屋の外から彼を呼ぶ声がする。

「おぉ、ここにおられましたか!!それが大変なのです!周囲の魔物討伐に出たマルコム達が、ゴブリンに手酷くやられて帰ってきたのです!!」
「何だ、そんな事・・・何だと?」

 それは、彼へと報告にやってきた騎士のものであった。
 マルコム達がゴブリンにやられ、逃げ帰ってきたという衝撃の報告を伝えに来た。



「お、お前達!これは一体どういう事なのだ!?」

 最強の騎士団である黒葬騎士団の騎士が、ゴブリン如きに敗れる。
 それは、あってはならない大不祥事であった。

「それが、急に力が出なくなって・・・」

 その問いに、騎士達は急に力が出なくなったという子供のような言い訳をする。
 しかし、それが事実なのだ。

「急に力が出なくなっただと!?何を子供のような!!えぇい、それよりもこの事をどう隠ぺいする!?それを早急に考えなければ、この騎士団は破滅だぞ!!」

 当然それはオンタリオに受け入れられる訳もなく、彼は頭を掻き毟っては彼らを怒鳴りつける。
 しかしオンタリオはその理由が何かよりも、その事実をどう隠ぺいするかに夢中なようだった。

「―――何を、隠ぺいすると?」
「分からないのか!?ゴブリンなどという貧弱な魔物に、我が黒葬騎士団の騎士が負けたという汚名を・・・ジ、ジーク閣下」

 そのオンタリオに、どこかから冷たく重い声が響く。
 それに振り返り、苛立ち交じりに怒鳴りつけていたオンタリオは目にしていた、彼らの主にも等しいお方である、ジーク・オブライエン公爵の姿を。

「その事ならば、既に知れ渡っているぞオンタリオ。それよりも貴様は、この騎士団を立て直すことを考えることが先決ではないか?」
「は、ははぁ!その通りでございます、閣下!!」

 オンタリオが隠そうとしていた事など、既に世間に知られているとジークは冷たく告げる。
 それよりも先にやる事があるだろうと話す彼に、オンタリオは頭を床に押し付けては平伏していた。

「・・・分かっているならば、実現して見せるのだぞオンタリオ。これ以上、黒葬騎士団の名を汚すことは許さん」
「は、ははぁ!!仰せのままに!!」

 それだけを告げて、ジークは踵を返して去っていく。
 彼の姿が消えてもなお、オンタリオは頭を床に擦りつけていた。



「あれは、もう使えんな。使えるならばと、不始末も見逃していたが・・・」

 通る先々で人々に頭を下げられながら、ジークは一人呟く。

「いや・・・あの騎士団も、か」

 そして彼は振り返り、黒葬騎士団の拠点オールドキープを見上げながらそう呟く。
 この国最強の騎士団、黒葬騎士団ももう使えぬ、と。



「と、とにかく!とにかくだ!!皆、仕事に励むのだ!!仕事に励んで励んで、汚名を払拭するしかない!!」

 ジークが立ち去った後、騎士達を集めた前でオンタリオはそうぶち上げる。

「しかし団長、事務の仕事はどうするのですか?ただでさえ溜まっていたのが、今回の件で大分焼失したという話ですが・・・」

 そんなオンタリオに、一人の騎士が手を上げると懸念を口にする。
 それは、溜まりに溜まった事務仕事をどうするのかというものだった。

「そ、それは・・・そうだ!ユーリを呼び戻せばいい!!騎士としては追放しろと言われたが、事務員として雇うなとは言われておらんのだ!!奴の事務処理能力なら―――」

 その懸念に、オンタリオはある妙案を思いつく。
 それは彼が追放したユーリを、事務員として呼び戻すというものだった。

「駄目だ!!そんな事は、この僕が許さない!!」

 その案を、マルコムが拒絶する。
 彼はゴブリンにやられボロボロの身体をシーマスに支えられながら、そう叫んでいた。

「は?だ、だがなマルコム・・・」
「とにかく駄目だ!!あいつはこの騎士団を追放されたんだぞ、それを呼び戻すなんて・・・大体、あんな雑魚を呼び戻してどうする!?あんな奴が帰ってきたって、却って騎士団の評判が下がるだけ―――」

 血走った目で叫ぶマルコムに、思わずオンタリオは気圧されてしまう。
 マルコムはユーリのような雑魚騎士が帰ってきても、騎士団の評判は上がらないと主張する。
 それは確かに、間違いではなかった。

「お、おい!皆大変だ!!これを見てくれ!!!」
「何だ、こんな時に・・・こ、これは!?」

 彼が、以前のままであれば。
 慌てた様子で部屋の中に駆け込んでくる若い騎士、その手にはどこかから剥ぎ取られた壁新聞が握られていた。

「『元騎士ユーリ・ハリントンお手柄!』だと?これ、あいつの事だよな・・・?」

 そこに記されていたのは、ユーリが冒険者として大活躍しているという記事であった。
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