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第一章 最果ての街キッパゲルラ

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「ちっ、いい気なもんだぜ。こっちは、てめぇらにやられた傷のせいで碌に仕事も出来ねぇってのに・・・」
「はははっ、それは自業自得だろー?」
「うるせぇ!!そんなの分かってんだよ!!」

 冒険者ギルドの片隅、建物に併設された酒場スペースでユーリ達の姿へと目をやりながら管を巻いている男が一人。
 それはネロとプティと試験の相手として戦い、彼女達にコテンパンにされた冒険者オーソンであった。

「それよりよオーソン、あの噂聞いたか?」
「あん、あの噂?何の話だ?」
「おいおい、聞いてないのかよ!?あの噂だよあの噂!ついに黄金樹の森に妖精の湖が発見されたっていう!!」

 オーソンと対面に座る冒険者は、彼に顔を寄せると何やら周りを気にして声を潜める。
 それに手にした杯の中身を飲み干したオーソンは、怪訝そうな表情で聞き返していた。

「はぁ?そんな噂かよ!そんなの今までだって散々言われてきた事だろぉ?今更見つかる訳ないっての!」
「それが今度はマジなんだって!妖精の湖を見つけて帰ってきた奴がいるって話でよ!ついに伝説の失われた聖剣エクスカリバーが発見されるかもって・・・おい、どうよオーソン?二人で探しに行かないか、その妖精の湖をよ」
「おいおい、失われた聖剣エクスカリバーだぁ?そんなのはガキのお伽噺の中だけの・・・うおぉぉ!?」

 噂話を本気にする冒険者は、オーソンに一緒にそれを探しに行かないかと持ち掛ける。
 それにオーソンは軽く手を振っては相手にしない様子を見せていたが、何かに気が付いたかのように動きを止めると、突然大声を上げて席から立ち上がる。

「ねーねー、おっさん。おっさんは何で、仕事に行かないのー?」
「な、何だお前らか。ビビらせやがって・・・あぁ?だからそれはお前らのせいだって言ってんだろ!俺だってギルドから頼まれた討伐の仕事があるってのに・・・」
「ふーん、そうなんだ大変だね。それよりそれより!さっきの話の続き聞かせてよ!!妖精の湖って何?聖剣エクスカリバーって何なの!?」

 それは彼らがついているテーブルに顔を乗せ、二人でオーソンの顔を見上げているネロとプティであった。

「大変だねって、誰のせいだと・・・ったく。あぁん、話の続きが聞きたいだと?何だお前ら、聖剣エクスカリバーも知らねぇのか?聖剣エクスカリバーっつうとあれだよ、大昔のアル何とかいう英雄が使ったっていう伝説の聖剣だろ?そんで最後は妖精の湖に沈められたとか」
「そうそう!それでその妖精の湖が最近発見されたって話!昔から黄金樹の森の中にあるって言われてきたんだけど、実際には見つかってなくてさ」

 テーブルの上に身を乗り出しては興味津々といった様子を見せる二人に、オーソンは渋々それを話し始める。
 それに二人は、一々相槌を打ちながら聞き入っていた。

「ねーねーそれで、その聖剣エクスカリバーって凄いの!?」
「凄いのって、そりゃお前・・・伝説の聖剣って言われてるぐらいなんだから、凄いに決まってるだろ?」
「わー、そうなんだ!!」

 オーソンともう一人から大体の話を聞き終わったネロは、その聖剣がどれくらい凄いのかと尋ねる。
 それに伝説の聖剣なんだから凄いに決まっていると返すオーソンに、彼女はさらに瞳を輝かせていた。

「ね、ね!ネロ、私ね・・・!」
「うん、ボクもそう思ってた!」

 お互いの手を握り合い、ネロとプティの二人はキラキラと輝く瞳で何事かを頷き合う。

「「その聖剣を二人で見つけて、おとーさんに妹にしてもらおう!!」」

 そして二人はそれを大声で宣言し、ユーリの下へと駆けていく。

「は?聖剣を妹にって、何を・・・お、おい!?妖精の湖は常に移動してて、選ばれた者の前にしか現れないんだぞって・・・行っちまった」

 二人が口にした言葉は、彼女達の出生の秘密を知らないオーソンには理解出来ない。
 それに戸惑い思わず固まってしまっていた彼は、二人にそれを伝えることが出来ずに頭を掻く。
 その聖剣が沈められている妖精の湖が常に移動しており、そう容易には見つかりはしないという重要な事実を。
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