【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

乱入する二人

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「今回ユーリさんにお願いしたいのは最近黄金樹の森で目撃された大型の魔物討伐でもう一方、別の冒険者と共同でこれに―――」

 朝のピークを終えたギルドには、それでもチラホラと冒険者が訪れている。
 そんなギルドの窓口の一つには、最近姿を見せていなかった冒険者が訪れていた。
 その冒険者ユーリに対して依頼の説明をしているトリニアの表情は、その内容の割には嬉しそうだ。

「だ~れだ!」

 そんなトリニアの声を遮るようにして、明るい声が響く。

「うえっ!?ネ、ネロか!?ちょ、えっ!?何でここに、宿で待ってろって言っただろ!?」

 それと同時にユーリの目元を覆った手の感触は、足りない身長をつま先立ちで支えているからか重い。

「へへへ、当ったりー!どう、びっくりした?」
「ご、ごめんね。その、我慢出来なくて・・・来ちゃった、の」

 その体重の一部を預けているネロの手に、頭を軽く持っていかれていたユーリがその名を口にすると、嬉しそうに笑う彼女の顔が現れる。
 その横には、叱られるかもと不安そうにこちらを見詰めるプティの姿があった。

「全く・・・今度からは誰かに連れてきてもらうんだぞ、街の中だって安全じゃないんだから」
「えー、これぐらいボク達だけで平気だって」
「うん、今度からはそうするね!えへへ・・・」

 言いつけをちゃんと守れなかった二人にも、そんな姿を目にすれば怒る気にはなれない。
 ユーリは優しく微笑みながら、二人の頭を撫でる。
 それに二人は、それぞれの角度でその尻尾をぶんぶんと振っていた。

「おいおい、何だありゃ。久々にやってきたかと思えば女連れかよ・・・ちっ、しばらく姿が見えなかったのはそういう事か」
「いや、でもあれは不味いでしょ?完全に犯罪じゃん・・・」
「あー、でもあいつって元騎士って話だろ?だったら貴族みたいなもんだし・・・ほら、貴族のそういう趣味ってよく聞くだろ?」

 ユーリ達の微笑ましい交流も、傍目から見ればまた違った風にも見えてくる。
 まとまったお金を手にし、しばらくギルドに姿を見せなかったユーリがようやく現れたかと思えば、とんでもない美少女を二人も連れている。
 その事実に周りの冒険者達は、ひそひそとあらぬ疑いを噂し始めていた。

「っ!ふっふーん、そう見えちゃうんだー」

 そしてそれを聞き逃さない者が、ここにも一人。

「ねぇユーリ?昨日あんなに激しく愛し合ったのに、置いてくなんて酷いじゃない?」

 周りから聞こえる声にニヤリと怪しい笑みを浮かべたネロは、その身体をユーリへともたれ掛からせると、その胸を指でなぞりながら何やら意味深な事を囁き始める。

「は?ネ、ネロ!?何を急に・・・はっ!?その違いますから、そういうんじゃないですから!!」 

 それに周りのざわめきはさらに激しくなり、ユーリに向けられる視線も冷たさを増していた。

「・・・?でも、プティも一緒に寝たよ?」

 そこにさらに、プティが天然で爆弾を落とす。

「ちょ、プティ!?その発言は誤解を招くから!!違いますから、本当にそういうんじゃないですからー!!」

 プティの発言によって、さらに加速する周りの噂話。
 それにお腹を抱えては、けらけらと笑いだすネロ。
 そんな収拾のつかない事態に、ユーリの必死な叫び声だけが響き渡っていた。



「・・・娘さん、ですか?」

 ユーリの必死な事情説明によって、ようやく事情が呑み込めたトリニアがそう呟く。

「そう、その通り!この子達は俺の娘で、そういう関係じゃありませんから!ほら、二人からもちゃんと言ってやって!」
「あははははっ!!ごめんごめん、おとーさんの反応が面白くってつい」
「うん、プティ達はおとーさんの娘だよ?だって、おとーさんに生み出してもら―――」

 二人によって作られた窮地を、二人の口から説明させることによって脱しようと、ユーリはネロとプティの二人を前へと押し出している。
 そのプティの口から再び飛び出した爆弾発言に、ユーリは慌てて彼女の口を塞いだ。

「あはははっ!?何言ってるんでしょうねこの子は、おとーさんが君達を生むのはちょっと無理かなー!あはははっ!」
「・・・生み出された?でも、そっか・・・娘がいるんだ」

 その発言を誤魔化すのに必死なユーリは、トリニアが不意に見せたその表情に気付かない。

「ん、んんっ!それで、どうされるんですかユーリさん?お二人を連れて依頼に行こうとしている訳ではないですよね?」
「えっ?あ、あぁ・・・確かに、そうですね。どうしたもんかな?」

 わざとらしい咳払いで無理やり話題を引き戻したトリニアは、ユーリに今の彼の懸念事項について尋ねる。
 それにその懸念事項の二人は口々に反論していたが、それをユーリは片手ずつで押さえていた。

「それでしたら、実はギルドに託児サービスというのがありまして。それを利用されてはいかがでしょうか?」
「そんなのあるんですか?へぇ~、知らなかったなぁ」
「はい、実はあるんです。子供を産んでも仕事を続けたいという方が結構いらしゃって、割と前からやってるサービスなんですよ。利用されるんでしたら、この書類の方に―――」

 冒険者ギルドの託児サービス。
 それは子供を産んでも仕事を続けたいという、冒険者に向けたサービスであった。

「あら、トリニア。それは不味いんじゃないかしら?」

 トリニアがユーリへと差し出した書類を、後方から伸びた手が奪い取る。
 それは黒髪の受付嬢、レジーの仕業だった。

「託児サービスは元々、子供を産んでも冒険者を続けたい女性に向けたサービスでしょ?それをこんな若い男性相手に適応するのは、ねぇ?」

 託児サービス、それは元々子供を産んでも仕事を続けたい女性に向けたサービスだとレジーは告げる。

「えっ、先輩?でも、託児サービスの利用資格に性別の規定はなかった筈じゃ?」
「それはそうね。でもユーリさんのような駆け出しの冒険者がそれを使うのはどうなのかしら?ギルドは託児所じゃないのよ、それ代わりに使われた溜まったものではないでしょう?」

 ユーリのような冒険者としての実績もない者にもそれの利用を許すと、ギルドを託児所代わりに使う冒険者で溢れてしまう、そうレジーは懸念を口にする。

「ユーリさんには立派な実績があるじゃないですか!!彼が万霊草を採って来てくれて、うちのギルドがどれだけ助かったか!!」
「あら、それはたまたま運が良かっただけでしょう?それを実績というのは、ねぇ?」
「そうだそうだ、贔屓だぞ贔屓!!」

 レジーの厭味ったらしい言葉に、周りの冒険者も賛同の声を上げる。
 それはかつてレジーと共にユーリに反感を抱いていた、大柄な冒険者オーソンであった。

「そんな・・・だったら、ユーリさんはどうすれば?」
「あら、そんなの簡単よ。受ければいいじゃない、この二人も冒険者試験を」

 元騎士という肩書に、いきなり大活躍してしまったユーリに反発する者は多い。
 そんな空気の中、彼に託児サービスを利用させるのは難しいとなったトリニアは、だったらどうすればいいのかと頭を抱える。
 それにレジーはにっこりと笑みを作ると、ある提案を口にしていた。

「・・・へ?」

 ネロとプティ、その二人も冒険者になればいいのだという提案を。
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