【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

文字の大きさ
上 下
16 / 210
第一章 最果ての街キッパゲルラ

乱入する二人

しおりを挟む
「今回ユーリさんにお願いしたいのは最近黄金樹の森で目撃された大型の魔物討伐でもう一方、別の冒険者と共同でこれに―――」

 朝のピークを終えたギルドには、それでもチラホラと冒険者が訪れている。
 そんなギルドの窓口の一つには、最近姿を見せていなかった冒険者が訪れていた。
 その冒険者ユーリに対して依頼の説明をしているトリニアの表情は、その内容の割には嬉しそうだ。

「だ~れだ!」

 そんなトリニアの声を遮るようにして、明るい声が響く。

「うえっ!?ネ、ネロか!?ちょ、えっ!?何でここに、宿で待ってろって言っただろ!?」

 それと同時にユーリの目元を覆った手の感触は、足りない身長をつま先立ちで支えているからか重い。

「へへへ、当ったりー!どう、びっくりした?」
「ご、ごめんね。その、我慢出来なくて・・・来ちゃった、の」

 その体重の一部を預けているネロの手に、頭を軽く持っていかれていたユーリがその名を口にすると、嬉しそうに笑う彼女の顔が現れる。
 その横には、叱られるかもと不安そうにこちらを見詰めるプティの姿があった。

「全く・・・今度からは誰かに連れてきてもらうんだぞ、街の中だって安全じゃないんだから」
「えー、これぐらいボク達だけで平気だって」
「うん、今度からはそうするね!えへへ・・・」

 言いつけをちゃんと守れなかった二人にも、そんな姿を目にすれば怒る気にはなれない。
 ユーリは優しく微笑みながら、二人の頭を撫でる。
 それに二人は、それぞれの角度でその尻尾をぶんぶんと振っていた。

「おいおい、何だありゃ。久々にやってきたかと思えば女連れかよ・・・ちっ、しばらく姿が見えなかったのはそういう事か」
「いや、でもあれは不味いでしょ?完全に犯罪じゃん・・・」
「あー、でもあいつって元騎士って話だろ?だったら貴族みたいなもんだし・・・ほら、貴族のそういう趣味ってよく聞くだろ?」

 ユーリ達の微笑ましい交流も、傍目から見ればまた違った風にも見えてくる。
 まとまったお金を手にし、しばらくギルドに姿を見せなかったユーリがようやく現れたかと思えば、とんでもない美少女を二人も連れている。
 その事実に周りの冒険者達は、ひそひそとあらぬ疑いを噂し始めていた。

「っ!ふっふーん、そう見えちゃうんだー」

 そしてそれを聞き逃さない者が、ここにも一人。

「ねぇユーリ?昨日あんなに激しく愛し合ったのに、置いてくなんて酷いじゃない?」

 周りから聞こえる声にニヤリと怪しい笑みを浮かべたネロは、その身体をユーリへともたれ掛からせると、その胸を指でなぞりながら何やら意味深な事を囁き始める。

「は?ネ、ネロ!?何を急に・・・はっ!?その違いますから、そういうんじゃないですから!!」 

 それに周りのざわめきはさらに激しくなり、ユーリに向けられる視線も冷たさを増していた。

「・・・?でも、プティも一緒に寝たよ?」

 そこにさらに、プティが天然で爆弾を落とす。

「ちょ、プティ!?その発言は誤解を招くから!!違いますから、本当にそういうんじゃないですからー!!」

 プティの発言によって、さらに加速する周りの噂話。
 それにお腹を抱えては、けらけらと笑いだすネロ。
 そんな収拾のつかない事態に、ユーリの必死な叫び声だけが響き渡っていた。



「・・・娘さん、ですか?」

 ユーリの必死な事情説明によって、ようやく事情が呑み込めたトリニアがそう呟く。

「そう、その通り!この子達は俺の娘で、そういう関係じゃありませんから!ほら、二人からもちゃんと言ってやって!」
「あははははっ!!ごめんごめん、おとーさんの反応が面白くってつい」
「うん、プティ達はおとーさんの娘だよ?だって、おとーさんに生み出してもら―――」

 二人によって作られた窮地を、二人の口から説明させることによって脱しようと、ユーリはネロとプティの二人を前へと押し出している。
 そのプティの口から再び飛び出した爆弾発言に、ユーリは慌てて彼女の口を塞いだ。

「あはははっ!?何言ってるんでしょうねこの子は、おとーさんが君達を生むのはちょっと無理かなー!あはははっ!」
「・・・生み出された?でも、そっか・・・娘がいるんだ」

 その発言を誤魔化すのに必死なユーリは、トリニアが不意に見せたその表情に気付かない。

「ん、んんっ!それで、どうされるんですかユーリさん?お二人を連れて依頼に行こうとしている訳ではないですよね?」
「えっ?あ、あぁ・・・確かに、そうですね。どうしたもんかな?」

 わざとらしい咳払いで無理やり話題を引き戻したトリニアは、ユーリに今の彼の懸念事項について尋ねる。
 それにその懸念事項の二人は口々に反論していたが、それをユーリは片手ずつで押さえていた。

「それでしたら、実はギルドに託児サービスというのがありまして。それを利用されてはいかがでしょうか?」
「そんなのあるんですか?へぇ~、知らなかったなぁ」
「はい、実はあるんです。子供を産んでも仕事を続けたいという方が結構いらしゃって、割と前からやってるサービスなんですよ。利用されるんでしたら、この書類の方に―――」

 冒険者ギルドの託児サービス。
 それは子供を産んでも仕事を続けたいという、冒険者に向けたサービスであった。

「あら、トリニア。それは不味いんじゃないかしら?」

 トリニアがユーリへと差し出した書類を、後方から伸びた手が奪い取る。
 それは黒髪の受付嬢、レジーの仕業だった。

「託児サービスは元々、子供を産んでも冒険者を続けたい女性に向けたサービスでしょ?それをこんな若い男性相手に適応するのは、ねぇ?」

 託児サービス、それは元々子供を産んでも仕事を続けたい女性に向けたサービスだとレジーは告げる。

「えっ、先輩?でも、託児サービスの利用資格に性別の規定はなかった筈じゃ?」
「それはそうね。でもユーリさんのような駆け出しの冒険者がそれを使うのはどうなのかしら?ギルドは託児所じゃないのよ、それ代わりに使われた溜まったものではないでしょう?」

 ユーリのような冒険者としての実績もない者にもそれの利用を許すと、ギルドを託児所代わりに使う冒険者で溢れてしまう、そうレジーは懸念を口にする。

「ユーリさんには立派な実績があるじゃないですか!!彼が万霊草を採って来てくれて、うちのギルドがどれだけ助かったか!!」
「あら、それはたまたま運が良かっただけでしょう?それを実績というのは、ねぇ?」
「そうだそうだ、贔屓だぞ贔屓!!」

 レジーの厭味ったらしい言葉に、周りの冒険者も賛同の声を上げる。
 それはかつてレジーと共にユーリに反感を抱いていた、大柄な冒険者オーソンであった。

「そんな・・・だったら、ユーリさんはどうすれば?」
「あら、そんなの簡単よ。受ければいいじゃない、この二人も冒険者試験を」

 元騎士という肩書に、いきなり大活躍してしまったユーリに反発する者は多い。
 そんな空気の中、彼に託児サービスを利用させるのは難しいとなったトリニアは、だったらどうすればいいのかと頭を抱える。
 それにレジーはにっこりと笑みを作ると、ある提案を口にしていた。

「・・・へ?」

 ネロとプティ、その二人も冒険者になればいいのだという提案を。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

処理中です...