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第一章 最果ての街キッパゲルラ
問題発生
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「えー・・・二人に残念なお知らせがあります」
古木の梢亭、その二階の一室。
そこに逗留する家族三人、その大黒柱であるユーリがそう発言すると、それまで思い思いに時間を過ごしていた二人がさっと姿勢を正していた。
「・・・路銀が尽きました」
二人がこちらの言葉をしっかりと聞く準備が出来たのを確認してからしばらく、ユーリはたっぷりと間を取ってからその言葉を口にする。
「おとーさん、聞いてもいい?」
「ん、どうしたプティ?何でも言ってごらん?」
その絶望的な状況からすれば、プティの可愛らしい仕草が心に染みる。
小首を傾げながら分からない言葉があると尋ねてきたプティに、ユーリは優しく彼女の頭を撫でながら続きを促していた。
「えへへ。えっとね・・・路銀って、なに?」
「ぷぷぷっ!プティ、そんな事も知らないのー?路銀って言ったら、あれだよ。この前行ったお店の・・・」
「それはロギンズな。俺が言ったのは路銀、まぁ平たく言えばお金の事だな」
プティが口にした疑問をネロがからかったのは、ユーリに頭を撫でられた彼女が羨ましかったからか。
そんなネロの頭をユーリはぐりぐりと撫でてやりながら、身も蓋もない事実を告げる。
「ふ、ふ~ん!そうなんだ。別に知ってたしー!知ってて、プティをからかっただけだしー!って、お金ってそれ・・・?」
「えっと、路銀はお金って事だから・・・路銀は尽きたは、お金が無くなったって事で・・・えっ!?お金が無くなった!?それって・・・だ、大丈夫なの、おとーさん!?」
嫉妬を見透かされたからか、それとも間違いを訂正されたからか、ネロはそっぽを向いたまま頭を撫でられ続けている。
しかし彼女も、やがてそれに気付いて振り返る。
時を同じくしてそれに気が付いたプティは、前へと身を乗り出すと心配そうな表情でユーリの顔を覗き込んでいた。
「大丈夫じゃないです。ですのでおとーさんは、お金を稼ぎに行こうと思います。つきましては―――」
騎士団を追放された今、ユーリがお金を稼ぐ手段は一つしかない。
そしてその手段で、ユーリは十分お金を稼げていた。
問題は、彼に以前とは一つだけ変わった点があるという事であった。
その変わった点は、ユーリの顔を不思議そうに見つめては目を丸くしていた。
「それでは、二人をよろしくお願いします」
「ふんっ、宿代を滞納されて困るのはこっちなんだ。別に感謝されるこっちゃないね!それより、しっかり稼いでくるんだよ!」
古木の梢亭、その玄関前でユーリは深く頭を下げる。
その先にはこの宿の主人であるマイカと、その後ろでユーリの事を不安げに見詰めているネロとプティの姿があった。
「二人とも、いい子にしてるんだよ。女将さんに迷惑かけないようにね」
別れ際、歩み寄るユーリに二人も前へと進み、彼は二人の頭を撫でながら優しく語りかける。
「分かってるって!全くしつこいなー、おとーさんは」
「うん!プティ、いい子にしてるよ!」
それに返す二人の返事は、どちらも明るく力強い。
その返事に安心したユーリは、軽く手を振りながらギルドへと向かう。
「ね、プティ?本当に、ここでおとーさんを待つつもり?」
ユーリの姿が見えなくなると、ネロはそうポツリと呟く。
「う、うん。だっておとーさんの言いつけだもん・・・」
「ふーん、そーなんだー。ま、プティはそうしたらいいんじゃない?ボクはそうしないけどねー」
それにどこか辛そうに返すプティを置き去りに、ネロは気軽な様子で足を進め始めていた。
その方向は、先ほどユーリが去っていったのと同じ方角だ。
「えっ?ネロ、どこに行くの・・・?」
「んー?どこだろー?」
「だ、駄目なんだよ、待ってなくちゃ!」
どこかへとふらふらと足を進ませるネロを、プティは慌てて引き留める。
「本当にそれでいいの、プティ?」
「えっ?」
自らの手を掴み引き留めてくるプティに、ネロはその目を覗き込みながら問いかける。
その声は真剣そのもので、プティは戸惑うように瞳を迷わせる。
「おとーさんが仕事に行ったのは、ボク達のせいでお金がなくなったから何だよ?それなのにボク達はここで待ってるだけ・・・本当にそれでいいの、プティ?」
「そ、それは・・・」
ネロがこっそりユーリについて行こうとしていたのは、自分達が彼の負担になっている事を気にしたからであった。
それを聞いたプティは、自らの胸元を掴んでは言葉を詰まらせる。
「ボクは嫌だ!だから行くね!」
迷うプティの前で、ネロはそう強く言い切ると踵と返して駆けていく。
「あ・・・ま、待ってよネロ!!プティも、プティも行くから!!」
そんなネロの姿にもまだ迷っていたプティはしかし、やがて迷いを断ち切ると彼女と同じように駆けていく。
それを待っていたかのように、ネロは振り返ると彼女に対してその手を伸ばしていた。
「どうだい、いい加減あいつは行ったかい?全く、今生の別れでもないってのに見送りがしたいなんて・・・あん?どこいったんだいおチビちゃん達?」
二人がその場から姿を消したすぐ後、何やら宿の中で作業をしていたらしいマイカが姿を現す。
「まさか、あの子達あいつの後を追っていったのかい?全く・・・あたしゃ知らないよ!宿の外の出来事に責任何かありゃしないんだ!!」
周囲を一通り見て回り、そこに二人の姿がないことを確認したマイカは、イライラした様子でそう叫ぶ。
「ふんっ!このままいなくなられても目覚めが悪いさね。おい、バカ息子!!たまにゃ働いたらどうだい!!ちょっとギルドまでひとっ走り、お使いぐらいしたって罰は当たらないだろう!?」
そうして宿へと帰りその扉へと手を伸ばしたマイカは、その途中で手を止めると庭へと回る。
そしてその中にいるであろう息子に向かって、怒鳴り散らし始めていた。
「何だよおふくろ、藪から棒に・・・?」
「いいから早くおし!!ギルドまでいって、そこにいるユーリとかいう間抜け面の男に娘がそっちに行ったって伝えてくるんだよ!!」
「分かった、分かったって!!やりゃいいんだろ、やりゃ!!」
マイカの声に応えて、宿の一階部分から無精髭の男がぬっと顔を出す。
その男にマイカは喚き散らすと、尻を叩いて無理やりお使いへと送り出していた。
古木の梢亭、その二階の一室。
そこに逗留する家族三人、その大黒柱であるユーリがそう発言すると、それまで思い思いに時間を過ごしていた二人がさっと姿勢を正していた。
「・・・路銀が尽きました」
二人がこちらの言葉をしっかりと聞く準備が出来たのを確認してからしばらく、ユーリはたっぷりと間を取ってからその言葉を口にする。
「おとーさん、聞いてもいい?」
「ん、どうしたプティ?何でも言ってごらん?」
その絶望的な状況からすれば、プティの可愛らしい仕草が心に染みる。
小首を傾げながら分からない言葉があると尋ねてきたプティに、ユーリは優しく彼女の頭を撫でながら続きを促していた。
「えへへ。えっとね・・・路銀って、なに?」
「ぷぷぷっ!プティ、そんな事も知らないのー?路銀って言ったら、あれだよ。この前行ったお店の・・・」
「それはロギンズな。俺が言ったのは路銀、まぁ平たく言えばお金の事だな」
プティが口にした疑問をネロがからかったのは、ユーリに頭を撫でられた彼女が羨ましかったからか。
そんなネロの頭をユーリはぐりぐりと撫でてやりながら、身も蓋もない事実を告げる。
「ふ、ふ~ん!そうなんだ。別に知ってたしー!知ってて、プティをからかっただけだしー!って、お金ってそれ・・・?」
「えっと、路銀はお金って事だから・・・路銀は尽きたは、お金が無くなったって事で・・・えっ!?お金が無くなった!?それって・・・だ、大丈夫なの、おとーさん!?」
嫉妬を見透かされたからか、それとも間違いを訂正されたからか、ネロはそっぽを向いたまま頭を撫でられ続けている。
しかし彼女も、やがてそれに気付いて振り返る。
時を同じくしてそれに気が付いたプティは、前へと身を乗り出すと心配そうな表情でユーリの顔を覗き込んでいた。
「大丈夫じゃないです。ですのでおとーさんは、お金を稼ぎに行こうと思います。つきましては―――」
騎士団を追放された今、ユーリがお金を稼ぐ手段は一つしかない。
そしてその手段で、ユーリは十分お金を稼げていた。
問題は、彼に以前とは一つだけ変わった点があるという事であった。
その変わった点は、ユーリの顔を不思議そうに見つめては目を丸くしていた。
「それでは、二人をよろしくお願いします」
「ふんっ、宿代を滞納されて困るのはこっちなんだ。別に感謝されるこっちゃないね!それより、しっかり稼いでくるんだよ!」
古木の梢亭、その玄関前でユーリは深く頭を下げる。
その先にはこの宿の主人であるマイカと、その後ろでユーリの事を不安げに見詰めているネロとプティの姿があった。
「二人とも、いい子にしてるんだよ。女将さんに迷惑かけないようにね」
別れ際、歩み寄るユーリに二人も前へと進み、彼は二人の頭を撫でながら優しく語りかける。
「分かってるって!全くしつこいなー、おとーさんは」
「うん!プティ、いい子にしてるよ!」
それに返す二人の返事は、どちらも明るく力強い。
その返事に安心したユーリは、軽く手を振りながらギルドへと向かう。
「ね、プティ?本当に、ここでおとーさんを待つつもり?」
ユーリの姿が見えなくなると、ネロはそうポツリと呟く。
「う、うん。だっておとーさんの言いつけだもん・・・」
「ふーん、そーなんだー。ま、プティはそうしたらいいんじゃない?ボクはそうしないけどねー」
それにどこか辛そうに返すプティを置き去りに、ネロは気軽な様子で足を進め始めていた。
その方向は、先ほどユーリが去っていったのと同じ方角だ。
「えっ?ネロ、どこに行くの・・・?」
「んー?どこだろー?」
「だ、駄目なんだよ、待ってなくちゃ!」
どこかへとふらふらと足を進ませるネロを、プティは慌てて引き留める。
「本当にそれでいいの、プティ?」
「えっ?」
自らの手を掴み引き留めてくるプティに、ネロはその目を覗き込みながら問いかける。
その声は真剣そのもので、プティは戸惑うように瞳を迷わせる。
「おとーさんが仕事に行ったのは、ボク達のせいでお金がなくなったから何だよ?それなのにボク達はここで待ってるだけ・・・本当にそれでいいの、プティ?」
「そ、それは・・・」
ネロがこっそりユーリについて行こうとしていたのは、自分達が彼の負担になっている事を気にしたからであった。
それを聞いたプティは、自らの胸元を掴んでは言葉を詰まらせる。
「ボクは嫌だ!だから行くね!」
迷うプティの前で、ネロはそう強く言い切ると踵と返して駆けていく。
「あ・・・ま、待ってよネロ!!プティも、プティも行くから!!」
そんなネロの姿にもまだ迷っていたプティはしかし、やがて迷いを断ち切ると彼女と同じように駆けていく。
それを待っていたかのように、ネロは振り返ると彼女に対してその手を伸ばしていた。
「どうだい、いい加減あいつは行ったかい?全く、今生の別れでもないってのに見送りがしたいなんて・・・あん?どこいったんだいおチビちゃん達?」
二人がその場から姿を消したすぐ後、何やら宿の中で作業をしていたらしいマイカが姿を現す。
「まさか、あの子達あいつの後を追っていったのかい?全く・・・あたしゃ知らないよ!宿の外の出来事に責任何かありゃしないんだ!!」
周囲を一通り見て回り、そこに二人の姿がないことを確認したマイカは、イライラした様子でそう叫ぶ。
「ふんっ!このままいなくなられても目覚めが悪いさね。おい、バカ息子!!たまにゃ働いたらどうだい!!ちょっとギルドまでひとっ走り、お使いぐらいしたって罰は当たらないだろう!?」
そうして宿へと帰りその扉へと手を伸ばしたマイカは、その途中で手を止めると庭へと回る。
そしてその中にいるであろう息子に向かって、怒鳴り散らし始めていた。
「何だよおふくろ、藪から棒に・・・?」
「いいから早くおし!!ギルドまでいって、そこにいるユーリとかいう間抜け面の男に娘がそっちに行ったって伝えてくるんだよ!!」
「分かった、分かったって!!やりゃいいんだろ、やりゃ!!」
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