【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

命名

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「・・・結局、どこにも寄らずに帰ってきちゃったな」

 そう呟くと、ユーリは持っていた串焼きの串をゴミ箱へと放り投げる。
 どっかりと下ろした腰に、安宿のベッドが軋んだ音を立てた。
 ここはユーリがこの街、キッパゲルラやって来てからずっと逗留している宿、「古木の梢亭」であった。

「ふぅー・・・」

 腰を下ろしたベッドに後ろ手に手をつき仰け反れば、開け放った窓から外の景色が覗いていた。
 この街の象徴ともいえるグレートウォール、それが沈み始めた太陽に僅かに茜に染まっている。
 それを見るともなしに視線を向けているユーリは、どこか沈んだ様子を見せていた。

「・・・手紙、書くかぁ」

 先ほど見かけた家族連れに思い出さされた郷愁は、やり場もないまま燻ぶっている。
 その呟きは、ユーリが見つけたその思いのやり場であった。

「何を書いたもんかなぁ。あぁ、そもそも父さんに見つかったら不味のか。なら、うまいこと執事の・・・ん、何だこれ?」

 故郷に残してきた家族に手紙を書くと決めると気分も軽くなったのか、ユーリは早速とばかりにその準備へと取り掛かっている。
 手紙を書くのに必要な筆記用具を探して荷物を探っていたユーリは、そこからある書類を手に取っていた。

「これは・・・あぁ、昔書き出した俺の能力か!懐かしいな、どれくらい前のだっけこれ?」

 それはユーリが以前書き出した、自らの能力が記された書類であった。

「おー・・・こんなんだった、こんなんだった。懐かしー」

 ユーリはその書類の内容を読み込んでは、再びベッドへと座り込む。
 その目はすっかり、当初の目的を忘れてしまったようだった。

「そうだ!また書き出してみるか、今の自分の能力!これを書いてから結構経ってるし、最近は冒険者としても頑張ってるからな、結構成長してるだろ」

 今の自分の能力書き出してみる、それを思いついたユーリは早速とばかり愛用の筆記用具を引っ張り出し、それをベッドの上で広げ始める。

「よし、こんなもんか。それじゃ早速・・・『ユーリ・ハリントン』」

 ユーリがそう呟いた瞬間、物凄い勢いで彼が握った羽ペンが勝手に動き始める。
 彼の能力「自動筆記」に掛かれば、それが書き上がるまでに僅かな暇も必要なかった。

「よし、完成!どれどれ・・・はははっ!!」

 完成した自らの能力表をまじまじと見つめるユーリは、突然笑いだすとそのままベッドに横になる。

「何だこれ、全然変わってねー」

 ユーリが手にする新しい能力表、そこに記された彼の能力は以前のものとまるで変わらないものであった。

「はー・・・何だこれ。スキルの『書記』も成長してないよなー。『自動筆記』は最初からある奴だし、『書き足し』も前からあった、こいつは使えない奴だし・・・んんっ!?何だこれ!?見た事ない奴だぞ!!?」

 ざっと眺める自らの能力に、ユーリはやがてその最大の強みであるユニークスキル『書記』の能力にも目をやっていた。
 そしてそこに、見た事のない項目を発見すると慌てて跳ね起きる。

「うん、やっぱり新しい奴だよなこれ?『命名』って、どういう能力だ?これってあれだよな確か、何かに名前をつけたりする・・・」

 先ほど見つけた以前の能力表と見比べても、確かにその能力「命名」は存在しなかった。
 つまりその「命名」は新しく獲得した、スキル「書記」の能力で間違いないようであった。
 鼓動が、早まる。

「えぇい、そんなの実際に使ってみれば分かるか!!えぇと、何か適当に名前をつけれるものはっと・・・」

 新たな能力に高まる期待は、ユーリに見切り発車を促している。
 彼はそのちょっと一見どういった力か分からない能力を、とりあえず使って確かめてみようと、荷物をひっくり返して実験台になるものを探し始めていた。

「ん、何だこれ?騎士団の倉庫を整理してる時にでも紛れ込んだのか?ちょっと覚えがないんだけど・・・まぁ、これでいいか」

 ユーリが荷物から取り出したのは、彼自身にもその出所に覚えのない卵状の物体であった。
 それが二つ、ベッドの前の床にコロンと転がる。

「うーん、名前ってどんな感じでつければいいんだ?・・・まぁ、適当でいいか」

 ベッドの上、一応とばかりに二枚並べたまっさらな紙の前でユーリは腕を組んでは頭を悩ませる。
 しかし彼はやがて、悩んでも仕方ないと適当な手つきでペンを奔らせていた。

「うん、これで」

 並んだ二枚の紙、その上に「ネロ」と「プティ」という二つの名前が並んでいた。

「どうだ?・・・あれ、何も起こらない?」

 二つの名前を記した紙を、それぞれに当てはめるように床に転がった卵状の物体の前に掲げるユーリ。
 しかしその名前を記した紙にも、目の前の卵上の物体にも一向に変化は現れる事はなかった。

「何だよ、つまんな・・・うおおおぉぉぉ!!?」

 一向に現れない変化にユーリが諦めかけていると、ぷすぷすとどこかから煙が立ち上ってくる。
 それは彼の手元、その手にした紙からだった。
 燃え盛る二枚の書類に、思わずユーリはそれを放り捨てる。

「やばいやばい!!?火事になっちゃう、火事になっちゃう!!?」

 乏しい滞在費に選んだ安宿は、当然の如く木造建築だ。
 そんな中に激しく燃え上がる火種を放っては火事になってしまうと、ユーリは消火を急ぐ。

「あれ、燃え移らない?何だ、普通の炎とは違うのか・・・?」

 慌てふためき消火手段を探し求めるユーリはやがて、可燃物だらけの場所に落ちたそれが、周りに火を燃え移らせていないことに気付く。
 そしてそれも、やがて燃え尽きる。

「っ!?何の光だ!?」

 「ネロ」と「プティ」、その二つの名前が燃え尽きると、どこかから眩しい光が迸る。
 翳した手に、立ち込める煙が視界を眩ませた。

「げほっ、げほっげほっ!!?煙が・・・何だ、何が起こった?」

 「命名」、それは文字通りその対象に新たな名前を与える能力。
 そして新たな名前を与えるという行為は、新たに命を吹き込む事に等しい。
 それ故に、その能力の名を「命名」と言う。

「あぁ、ようやく煙が晴れて・・・えっ!?」

 ユーリはその名前をつける時、何を望んだのか。
 彼は家族を羨み、それを懐かしんでその名をつけたのだ。
 だから、その存在が生まれた。

「「おとーさん!!!」」

 そこに生み出されたのは、二人の少女。
 生まれたままの姿を晒し佇む、幼く美しい女の子。
 黒い髪に白い肌、猫のような耳を生やした「ネロ」。
 そして白い髪に褐色の肌、犬のような耳を垂らした「プティ」。
 彼女達は輝くような笑顔でユーリをおとーさんと呼ぶと、真っすぐに飛び込んでくる。

「うげぇ!?」

 その勢いは凄まじく、そしてベッドの上にはそれほどのスペースの余裕はなかった。
 受け止めた二人の少女の柔らかさよりもずっと硬質な感触が後頭部を強打し、ユーリの意識はそこで途切れていた。
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