【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

家族

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「ふふっ、ふふふっ・・・!」

 眩い日差しが照り付ける晴天に、昼時を回った通りには人通りが溢れている。
 そんな人通りが、綺麗に二つに別れていく。
 その理由は、その間を割って現れた気持ちの悪い笑い声を漏らしている男の姿を見れば明らかだ。

「何だか知らないけど、たっぷり報酬が出たぞ!これだけあればしばらく暮らしていけるな」

 その気持ちの悪い男ことユーリは、懐の辺りを大事そうに抱えながら歩いている。
 そこには服の上からでも分かるほどのはっきりとした膨らみが。
 その硬貨の量は、一人暮らしの男であれば数か月は十分に暮らせる額であった。

「それにしても結局何でこんなに報酬の量が増えたんだろう?何かキャンペーンとか、万霊草の価値が上がったとか言ってたけど・・・それで依頼の報酬が変わったりするものなのかな?」

 いつもと同じように依頼をこなしていただけなのに、急に報酬が上がり周りからも称賛されてしまう。
 そんな周囲の急激な変化にユーリは一人だけ取り残され、うまく事態を理解出来ていなかった。

「まぁいいや。とにかくこれだけお金があれば、ふふふっ・・・久しぶりにパーっとやっちゃいますか?」

 俯き、再び気持ち悪い笑い声を漏らし始めたユーリに、周囲の人波が引いていく。

「よーし、久々に筆記用具祭りの開催だ!!こっちに来てから全然買い足せてなかったからな!ユーク塗料に新製品が出たって聞いたし、バーゼルインキも外せないでしょ?そうだ!折角、こんな最果ての地まで来たんだ、この地ならではの素材で作った紙とかペンとか何かないかな!?うわー、何だこれ!?凄いワクワクしてきたぞ!!」

 久々の筆記用具の買い出しに夢中なユーリは、それに気付けない。
 それも無理はないだろう、事務仕事が大好きでその能力的にも筆記用具が必須となる彼にとって、それらは必需品とも呼べる品物だ。
 それがここにやって来てからの貧乏生活の中で、一つも補充で出来ていなかったともなれば、そのストレスも想像に難くない。

「おっ、兄さんまた来たね!どうだい今度は、一本やっとくかい?」
「おじさん。うーん、どうしよっかなぁ?確かに懐は暖かいけど、それは買い物にとっとき・・・」

 掛った声に振り返れば、そこにはいつか見かけた屋台のおじさんがその手に肉の刺さった串を掲げている。
 その美味しそうな匂いに食欲をそそられながらも、それ以上に大事な買い物があると断ろうとしたユーリは、お腹から鳴り響いた本能叫びにそれを最後まで口にする事はなかった。

「・・・おじさん、一串貰える?」
「はははっ、毎度!!」

 僅かに頬を染めながら、ユーリは指を一本立てておじさんに注文を告げる。
 それに笑って応えたおじさんは、何やら串に刺さった肉にたれを塗り、最後の仕上げに取り掛かっていた。
 それが完成するまでは僅かな間だろう、ユーリは手持無沙汰なその時間を空を見上げて過ごす。

「あははっ!にーにー、おっそーい!!」
「待ってよ、ユニカ!ちょっと休ませ・・・ユニカ、前!?」
「えっ?あぅ!!?」

 空を見上げ、物思いという名の空腹凌ぎにふけっていたユーリに、近くの路地から飛び出してきた少女がぶつかってくる。

「痛てて、何だ?あぁ、そういう・・・大丈夫、立てるかい?」
「う、うん。平気だよ!」

 突然の衝撃に足元へと目をやれば、そこには地面へと転がった少女の姿がある。
 その姿に事態を察したユーリは、優しい声色で彼女へと手を差し伸べていた。

「ユニカ!?す、すみませんうちの子が!!」
「いえいえ、全然平気ですから!!本当、大丈夫なんで!どちらかと言うと、こっちがボーっとしてたのが悪いというか!」

 その子の両親だろうか、飛び出してきた男女は二人の様子に慌てて頭を下げてくる。
 そんな二人に逆に悪い気がしてきたユーリは、彼ら以上に必死な様子でユニカと呼ばれた少女は悪くないと主張していた。

「そうですか?そのそう言ってもらえると助かります・・・ほら、ユニカ。お兄さんにお礼を」
「ありがとー、おじちゃん!」
「こらっ!お兄さんでしょ!!」

 両親と兄妹は、何度も頭を下げながら去っていく。
 彼らに手を振り返しながら、ユーリはここにはいない誰かの姿を思い出していた。

「家族、か・・・」

 ユーリは遠い空を見上げ、誰かの事を想う。
 その視線は、もはや戻る事のない故郷の方角を向いているだろうか。
 彼の背後では、注文の品が出来上がったことを知らせるおじさんの威勢のいい声が響いていた。
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