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第一章 最果ての街キッパゲルラ

スキル「書記」の力

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「ふぇ、ふぇ、ふぇ・・・ふぇっくしょん!!!」

 最果ての街キッパゲルラの周囲に広がる広大な原生林、かつて存在した伝説の樹木から黄金樹の森と呼ばれるその森にくしゃみの音が響く。

「うぅ、冷えてきたのかな?」

 この黄金樹の森に万霊草の採取へとやってきたくしゃみの主、ユーリは両手を腕へとすり合わせ少しでも体温を上げようとしている。

「早めに切り上げて、今日はゆっくり休もう。でもなぁ・・・」

 森の日暮れは早い。
 まだまだ太陽は健在な筈なのに、既に陰り始めているように感じる景色にユーリは仕事を急ぐ。

「これで見つけるのって、無理じゃない?」

 仕事を急ぐユーリはしかし、手元の書類へと目を落としては首を傾げる。
 そこには、ギルドから渡された万霊草の見本が描かれていた。
 その見本と目の前の景色を見比べるユーリ、そこには数得きれないほどに生い茂った草花の姿があった。

「しょうがないなぁ、あれを使うか。えーっと、どこにしまったかな?」

 ギルドから渡された見本に描かれた万霊草の姿は、どこにでもある何の変哲もない草の姿をしていた。
 そんなものをこの雄大な大自然から見つけ出すのは不可能だと、ユーリは早々に諦めると他の手段を講じる。

「あれ、前に作ったのはどこいった?あー、どっかやっちゃったかぁ・・・仕方ない、また一からやるかぁ」

 背負っていた鞄を地面に下ろしてその中身を探っていたユーリは、そこから筆記用具一式を取り出していた。

「よし、やるか―――『自動筆記』、まずはこの黄金樹の森の地図を」

 ユーリのスキル『書記』、その一つ目の能力『自動筆記』を彼は発動させる。
 薄く開いた瞳にインクが滴る羽ペンを手にした彼は、まっさらな紙に迷いなくそれを落とす。
 彼がそこにこの黄金樹の森の地図を描くまでに、瞬きをする必要すらなかった。

「あれ、こんな所に湖なんてあったっけ?まぁいいや。これじゃ使い辛いから、そうだな・・・今俺のいるこの辺りを拡大して・・・」

 黄金樹の森の詳細な地図を書き出したユーリは、次に自分がいるエリアを拡大して書き出し始める。

「よし。それじゃこのエリアの植生を・・・おっと、ビンゴだ!いいね、幸先いいじゃん」

 さらに彼は、そのエリアの植生を書き出し始める。そこに書きだされる名前は膨大だ。
 そしてそこに、万霊草の名前も記されていた。

「もう少しエリアを狭めた方がいいな、後は同じことを繰り返して・・・ここにはないのか。じゃあ隣は?よし、あったぞ!早速移動しよう」

 万霊性が自生しているエリアを特定したユーリは、その範囲をさらに絞って同じ作業を繰り返す。
 その範囲はもはや、彼が今見渡せる広さとなっていた。

「ここら辺だよな?うーん、やっぱりこれを見てもよく分かんないな。よし、じゃあ・・・」

 万霊草が自生している、ユーリが見渡せる範囲の場所。
 そこへと移動した彼は、ギルドから渡された万霊草の見本を片手に森を探る。
 しかし始めと同じようにそれを早々に無理だと諦めた彼は、新たにまっさらな紙を取り出すと目の前の景色をスケッチし始める。

「・・・そうだな、じゃあ万霊草を分かりやすい色で塗ろう。赤でいいかな?」

 スケッチされた目の前の景色は、まるでそれをそのまま写し取ったかのように描かれている。
 しかしそれだけでは、万霊草がどこにあるか分からない。
 ユーリは呟き、再びペンを取る。
 そのペン先から赤のインクが滴り落ち、近くに置かれたインクの瓶から黒のそれが吸い取られていった。

「出来た。あれ?何だ、結構あるじゃないか。これなら思ったより早く帰れそうだな」

 完成に、ユーリが掲げる紙の上には所々が赤く塗られた景色が描かれている。
 その数は数得ればどれ位になるだろうか、少なくともこの作業を後数回繰り返せばギルドから貸し出された採取用の籠が満杯になるほどはありそうだった。

「ふんふんふ~ん、楽勝楽勝~」

 万霊草の生えている場所が分かったユーリは、鼻歌交じりにそれを採取しては小脇に抱えた籠へと放り込んでいく。

「ここら辺の奴は取りつくしたかな?それじゃ次にっと・・・」

 周囲一帯の万霊草を取りつくしたユーリは、次の採取場所を見つけようと再び筆記用具を手に取る。

「しかし、これって駆け出しようの依頼なんだよな?俺は能力を使ったから楽勝だけど・・・他の人はどうしてるんだ、これ?」

 ユーリは周囲を見渡しながら、そう呟く。
 「自動筆記」という能力を使ったユーリには楽勝なこの依頼も、それがない人間にとっては難しいように思える。
 それが駆け出し用の依頼として提示されている事実に、彼は不思議そうに首を傾げる。

「冒険者って、思ったより厳しい仕事なのかな・・・」

 彼はそう結論付けて、籠を抱えては再び採取の仕事へと戻っていく。
 その籠が一杯になるまで、そう長い時間は掛からなかった。
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